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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第3章 無法者達の楽園
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62話 詐称

3章からは今まで曖昧にしていた暦を導入しています。

作中の現在の季節は11月。秋の終わりぐらいです。



 自分はアンデッドスライムを倒したことで、南部教会の司教になった。

まあ、現状では名ばかりの司教で、実際の仕事はアンナと一緒にやっている。

アンナはビクトル氏の死を切欠として職務放棄をしていたが、

元々、彼女は実力で司教の地位に上り詰めた人間である。

普段の態度は不真面目なのだが、仕事は意外にも真面目にやっている。


 現在の南部教会では、アンデッドスライムによって住処を破壊された人々の支援を行っている。

教会内の敷地を貸し出し、仮の住居を作り、炊き出しや怪我の治療を行う。

それが今の自分達の仕事である。


 アンデッドスライムとの戦いで失ったものは多いが、

唯一良かった点と言えば、アンデッドスライム戦に参加した人々のレベルが大きく上がったことだ。

レベルは高いほど上がり難くなるため個人差はあるが、

あの戦いに参加した人間は5~10程度レベルが上がったそうだ。


ちなみに、自分の現在のステータスは、このような感じだ。


---------------------------------------

Lv75

名前:ソージ

種族:ヒューマン

職業:聖騎士

メイン職業:戦士

サブ職業:神官


HP:702

MP:316

----------------------------------------



 アンデッドスライムを倒したことでレベルが1上がり、

それにより、ステータスは若干上昇、スキルポイントも新たに2ポイント手に入った。

ちなみに、リゼットは現在レベル38、アンナはレベル58である。


 一般人のレベルが1~10の世界なので、

リゼットはもう一般人のレベルを超えている。

レベルだけで見れば、中堅から上位の冒険者となったのだ。

しかし、それは彼女をそれだけ危険な戦闘に連れ回しているということでもある。


 出来るだけ危険な目に合わせたくないとは思っているのだが、

自分に遠距離攻撃の手段がないため、リゼットは戦力として外せない。

彼女を戦闘から遠ざけた結果、自分が死んでは元も子もないので、

結局、注意して戦うしかないのが現状だ。



 それはそれとして、ステータスである。

この世界では自分自身のステータスを表示することが出来るため、

それがそのまま身分証明となる。


 このステータスには職業も表示され、

自分の場合はメイン『戦士』、サブ『神官』。

所謂、『聖騎士』と呼ばれる組み合わせだ。


 この世界での教会に携わるものは、メインかサブのどちらかが『神官』となっており、

それがそのまま自身が神官であることの証明となる。

そのため、神官でない者が修道服やマーヤ教のシンボルである聖印を身に付けていたとしても、

ステータスを見れば、すぐにばれる。

もっとも、修道服や聖印等は職業『神官』でないと、

効果を発揮しないため、そこで見分けることも出来たりする。


 何にせよ、この世界にふらりと現れた自分が神官として紛れ込むことが出来たのは、

このステータスの影響が大きい。

まあ、逆に言えばこのステータスによって、

自分は神官として生きるしかなくなった、とも言えるのだが……


 実際、このステータスとは厄介なもので、良くも悪くも人の生き方を縛る。

例えば、王家の血を引く者には、職業『王族』が付加されるし、

盗みを働けば職業『盗賊』となる。


 一度付いた職業の表示は基本的に転職しなければ、変わることはない。

だが、この転職というのは現代ほど、簡単に出来るものではないのだ。

例えば、神官になるためには神学校を卒業するか、

教会の雑用として数年単位の奉仕活動をする必要がある。


 つまり、職業を変えようとするなら、

年単位の時間がかかることは覚悟しなければならない。


そう……本来ならば。




 11月の4日目。時刻は午前6時。

 アンデッドスライムを倒してから、3週間、

そして、自分がこの世界に来てから、いつの間にか4ヶ月の時間が過ぎた。

このアウインでの季節は日本と概ね変わらないようで、

昼間はまだそれほどでもないが、朝と夜はかなり寒くなってきた。


 アンデッドスライムに破壊された聖堂は、まだ工事中で、

最近になってようやく骨組みが完成したところだ。

隙間だらけの聖堂は外気にさらされており、この時間はとても寒い。

宿舎の中に入ってホットミルクでも飲みたいが、

今は大事な儀式の最中であるので我慢している。


 今ここにいるのは、自分とアンナ、リゼットのみ。

祭壇の前に立つ自分の横にアンナは控えており、

彼女の手には、真新しい聖印が握られている。

そして、自分の前にはマーヤ教の修道服を着て跪くリゼットの姿があった。


 今、自分達が行っているのは、リゼットの叙階の儀式。

つまり、彼女が神官になるための儀式である。


「……リゼットよ。

主神マーヤの使徒として神の教えに従い、その生を神に捧げることを誓うか?」


 頭の中のメモ帳からセリフを思い出しつつ、

なるべく威厳が出るように、1つ1つの言葉をゆっくりと宣言する。


「はい……主神マーヤの使徒として、この生命を捧げることを誓います……」


 自分の言葉にリゼットはしっかりと答える。

その言葉に頷くと、自分の横に立つアンナに目線を向ける。


「よろしい。……アンナ、聖印をリゼットへ」


 自分の言葉に従い、アンナはリゼットの元にゆっくりと移動すると、

彼女の首に聖印をかける。


「その聖印は、神の使徒であることの証である。

神は聖印を通し、常に我々を見守っておられる。

リゼットよ……我々は神に代わり、

迷える民の声を聞き、彼らを救済せねばならない。

……その聖印の輝きに恥じぬ働きを期待する」


「……はい」


「……ここに叙階の儀式は終了した」


 これでリゼットの職業は『神官』となっているはずである。

彼女のステータスを確認する。


---------------------------------------

Lv38

名前:リゼット

種族:エルフ

職業:ドルイド

メイン職業:狩人

サブ職業:神官


HP:154

MP:202

----------------------------------------


 リゼットのサブ職業が神官になっていることを確認。

儀式は成功だ。


「よし、叙階の儀式は終了!

いやー、終わった終わった。みんなおつかれ」


 元プログラマーで信仰心ゼロの自分には、このような儀式は非常に疲れる。

この世界の住人達は、真面目に神を信仰しているのに、司教の自分はこんな有様だ。

自分には相応しくないと思うが、南部教会の司教になった以上は仕方がない。


「おいー!!

茶番とは言っても、一応、大切な儀式なんだから最後まで真面目にやれよ!!

余韻が台無しだよ!!」


 儀式終了から、緊張感を1秒も維持できなかった自分に対して、

アンナは突っ込みを入れる。

彼女は普段は不真面目だが、こういうところでは真面目なのだ。


「そうは言うがなぁ……

実際、茶番だろう?」


 ここで言う茶番とは、

信仰心がない自分が司教をしている、ということではない。


 本来なら数年間の下積みをした上で、ようやくなれるはずの神官に、

リゼットが今日なった、ということに対してだ。

もちろん、リゼットは下積みなんて何もしていない。


 表向きは簡単に出来ない神官への転職であるが……

言ってしまえば、裏からはどうにでも出来る。

本来、厳格な神官の儀式を、お手軽にやってしまう。

それが南部教会の本来のお仕事なのだ。



 何故、教会がこんなことを始めたのか?

その始まりには諸説あるらしいのだが……

その1つの例として、王族の隠し子を穏便に処理するために始まった、

というのがある。


 隠し子でも王家の血を引く以上は王族だ。

そのため、その子のステータスには、職業『王族』が付加されてしまう。

これでは名を変えようが、経歴を詐称しようが、

ステータスを見られたら一発でばれる。


 そこで、この南部教会の出番である。

その子を神官とすることで、職業『王族』を職業『神官』で上書きしてしまうのだ。

さらに、教会の孤児院で育ったことにしてしまえば、

事情を知らない人間以外は分からないと言う訳だ。



 では、なぜリゼットを神官にしたのかといえば、

元々は自分の経歴詐称のついでである。


 自分はアンデッドスライムを倒して南部教会の司教となったが、

この世界での自分の経歴は未だに分かっていない。


 まあ、現代日本からこの世界に来たのだから、

経歴が分からないのは当然なのだが、教会としてはそれは問題なのである。

そこで、とりあえずの経歴として自分はこの南部教会の孤児院で育った、

と言うことになったのだ。


 ただ、これで自分の経歴への疑いが晴れた訳ではない。

自分がどこの誰であるかは、引き続き教会内で調査するそうだ。


 調査したところで見つかるとは思えないが、

もしかしたら自分がこの世界に来た手掛かりが掴めるかもしれないので、

自分の方からも調査をお願いした。


 さて、リゼットに話は戻るが、リゼットを神官にしたのは、

彼女の『奴隷』という経歴を消すためだ。

現状では、リゼットは自分の妻となることで、

一時的に奴隷の身分から外れているだけであり、

仮に自分が死んだり離婚したりした場合には、また元の奴隷に戻ってしまう。


 それを避けるため、リゼットの経歴を詐称した。

具体的には、ブルードの町の奴隷リゼットは、病気によって死亡。

それはそれとして、南部教会の孤児院で育った、たまたま顔と名前が一緒なリゼットが、

今日、神官として叙階を受けたという感じである。


ちなみに、南部教会に孤児院なんて書類上でしか存在しない。


 ……うん、これは酷い。

書類上では、自分とリゼットは同じ孤児院で育った幼馴染というわけだ。

これが茶番でなくて、何だと言うのか。


 まあ、信仰心はない自分であるが、神には敬意は持っているし、

南部教会の司教になった以上は、その義務は果たすつもりでいる。

だから、これからも使える権利は恥じることなく堂々と使わせて貰うつもりだ。


しかし、自分は良いのだが、リゼットはどうだろうか?


「……今更だが、リゼットは良かったのか?

書類上とはいえ、その……ご両親の子では無くなってしまった」


 書類上では、ブルードの町の奴隷リゼットと、

南部教会の孤児院で育ったリゼットは別人ということになっている。

当然、親子の関係も無くなってしまったことになる。


 

 自分の場合は、それで本当の意味での親子関係が崩れるわけではないから、

気にしないのだが、彼女がそうとは限らない。


 リゼットは立ち上がると、こちらを真っ直ぐに見つめる。

その瞳に、迷いはない。


「はい……トマの婚約者のリゼットは死にました。

今の私は、ソージさんの妻です」


「そうか……ならいいんだ。

改めて、よろしく頼むよ」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」



 差し出した手を、リゼットはしっかりと握り返す。

彼女は過去と決別し、新しい道を歩くことを選択した。


 正直に言えば、自分はまだトマの事を引きずったままでいる。

だが、本当に辛いはずのリゼットが自分と共に歩むことを選んだのだから、

自分もいつまでも引きずったままではいられない。


「……さて、この話はここまで。

それじゃあ、みんな。今日も1日、頑張ろう」



ぼちぼち投稿を再開しようと思います。


今回から3章。今回と次話はこれまでのおさらいで、

話が動き出すのは、その次からになります。

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