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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第2章 聖者の条件
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56話 72時間戦えますか? (シモン視点)


アンデッドスライムとの戦いから3日が過ぎた。


時刻は午後11時。

場所は、僕の執務室。


本来なら教会は午後9時に消灯となるのだけれど、

アンデッドスライム襲撃とアウイン内に潜んでいた裏切り者への対処で、

教会内は今も多くの神官が活動している。

僕自身もこうして執務室に残り、

机の上に山と詰まれた書類と睨めっこをしている。


 僕の役職は、大司教補佐官。

名前の通り、大司教の補佐を行うことが僕の役目であり、

今やっている書類の審査もそれに含まれる。


 というよりも、僕の仕事の大半は書類仕事だ。

下から上がってくる様々な書類に目を通し、内容に問題があれば修正を求め、

無ければ承認の判を押し、大司教の判断を必要とする場合は大司教に書類を回す。


 しかし、実際には大司教にまで判断を仰ぐことは稀で、

多くの事柄は僕の判断だけで裁定できる。

大司教補佐官とは、それだけの権限があり、

それ故に、この役職を羨む者も多い。


「いやはや、この書類の山を見ても、彼らは同じことが言えるだろうか?

それに、責任者として今回の事件の後始末もある」


 僕自身は直接現場に赴くことは無いため、

矢面に立つのは下の者たちだが、彼らのケツを持つのは僕の役目だ。


 こうして、書類に判を押すのは、ただの流れ作業ではない。

1つ1つの書類に目を通し、下の者達を信頼し責任を持つからこそ判を押すのだ。

僕が任せられないと判断した案件に対しては、絶対に許可は出さない。


 そういう意味では、彼らは充分過ぎるほどに良くやってくれている。

その中でも、特に目覚しい働きをしているのは、

やはりソージだった。



書類の中から、その1つを手に取る。


『アンデッドスライムとの戦いについて―ソージ―』


 ソージが記したアンデッドスライムとの戦闘記録。

街の中に突如として現れた体長50メートルを超えるアンデッドスライム。

そんな化け物をソージは、教会の聖騎士団と冒険者を指揮して倒して見せた。


 僕はあの戦いにおいて、聖騎士団の編成のため中央教会にいた。

そのため、僕自身はソージの戦いを直接目にしていない。

だから、あの戦いがどの様なものであったのかは、

こうした記録でしか知る術がないのだ。


 何度も読み返したページをパラパラとめくっていく。

ソージの戦闘記録を読んだ時、僕はぞっとした。

その記録には、ソージが戦った内容が虚栄も誇張も無く、

ただ、淡々と記されていた。


 報告書とは本来そういうものだが、

ソージは体長50メートルを超える巨大なモンスターと、

命を懸けて戦ったのだ。

多少の見栄は張りたいだろうし、それぐらいは僕も大目に見る。

だと言うのに、そんなものは一切無く、本人が書いた報告書であるのに、

まるで現場にいた第3者が書いたかのような内容だった。


 良く言えば客観的、悪く言えばまるで他人事の様なのである。

また、その内容も戦慄するものだった。


 あの戦いにおいてソージが取った作戦は、彼自身が敵の攻撃をすべて引き受け、

それ以外の者に攻撃を任せると言う物だった。


 前衛の戦士が敵の攻撃を引き付け、後衛の魔法使いが敵に攻撃する。

それ自体は、教本通りの基本の戦い方であり、おかしいところはない。

だが、あのアンデッドスライムの攻撃は一撃で建物を破壊し、

強化魔法を何重にもかけた熟練の聖騎士でさえ、

数発と喰らえば、ただではすまない攻撃力を持っていた。


 そんな相手に対して、たった一人で攻撃を避け続ける。

それも、最低限度の強化魔法しか使用していない状態で……


 ソージ曰く、何かあった時のために温存したと言うが、

ただでさえ危険な壁役を受け持っていたのだ。

普通は温存なんて考えない。

彼のレベルは70を超えるとはいえ、それはあまりにも無謀だった。


 ソージの戦闘記録には、そんな危険極まりない戦闘の様子が、

当然のように記されていた。

念のために、あの戦いに参加した神官達に話を聞いてみたが、

皆の証言は彼の戦闘記録の内容に一致した。


 確かに、聖騎士の役目はアンデッドの排除であり、

時には部下の命を捨石にしなければならないこともある。

しかし、だからと言って無闇に無謀な戦いはする必要は無い。

集団で戦う以上、負担は分担するべきであり、

ソージのように、一人が重い負担を負うべきではない。


少なくとも僕はそう思う。


「だが……もし負担を分担させる戦いをした場合……

つまり、『普通に』戦えば、どれだけの死者が出ただろうか?」


 今回のアンデッドスライム戦の被害は、

南部地区の住人に死者34名、

南部地区の住宅が全壊16棟、

そして、南部教会の聖堂の全壊。


 非常に小さな被害で済んでいる。

ここまで被害が抑えられた要因は、ソージが敵の攻撃を全て引き付けたからだ。

そのおかげで、人にも建物にもほとんど被害が出なかった。


 だが、真に驚異的なのは、あの戦闘に参加した聖騎士団も冒険者達も、

1人の死者も出していないことだった。

もしも普通に戦っていれば……仮に死者を10人出したとしても、御の字と言える。

この戦死者0というのは、それ程に驚異的な数字なのである。


 もちろん、これらの功績は全てソージの働きによるものではない。

アンデッドスライムが出現した場所が、街の中心ではなく南部地区であったこと。

僕や大司教などの教会上層部の人間がいて、早い段階で聖騎士団の編成が出来たこと。

荒事に慣れた高位の神官であるミレーユが適切に場を仕切り、治療に当たったこと。

様々な幸運が重なった結果である。


 だが、その幸運を引き寄せたのもまたソージである。

元々、僕達があの場にいたのは、彼がビクトル氏の遺産を見つけた結果なのだから。



 結局、1番大きは功績はソージの働きだったと言える。

ソージの行動は、傍から見ていると危なっかしいため、

僕としてはもう少し自愛を持ってもらいたいと思う。


 しかし、彼の行動とそれによって得られた結果は、

まさに英雄と言っても過言ではないものだった。


 本来なら彼の功績を称え、教会全体で祭典を上げたいところだが、

街も教会も未だに混乱の中にある。

ビクトル氏の聖人の認定と合わせて、正式な祭典はまた後になるだろう。


「とにかく、ソージはまた大きな借りが出来てしまったな……」


 教会は正式に、ソージを今回のアンデッドスライム討伐の1番の功労者と認め、英雄と称えた。

その結果、彼は教会が公認する『英雄』となり、

今までソージの事を不審に思っていた住民の多くも、彼を英雄と称えた。


しかし……教会が彼を英雄と公認したのは、

彼の成果を純粋に称えてと言う訳ではないのである。


 教会の役目とは、アンデッドを適切に対処し、人々の暮らしを守ることである。

それにもかかわらず、街中に巨大なアンデッドの出現を許してしまった。

つまり、今回の事件は教会にとって栄誉どころの話ではない、大失態なのである。


 だが、それでもどうにか教会が面子を失わなずに済んだのは、

ソージが一歩も引かずに敵に挑み、無事に討ち取ったからである。


つまり、教会の失態から矛先をそらすために、

ソージを英雄だと宣伝した面もあるのだ。



一応、これについてはソージも了承している。


『英雄ねぇ……

別に自分は、教会のためでも、南部地区の住民のためでもなく、

自分の為に戦っただけなんだが……

まあ、自分にも責任の一端はあるので、引き受けましょう。

ただし、ビクトル氏の聖人認定は忘れずにお願いします』


と言って了承した。


 ソージは、六重聖域を発動させたことで、

今回の事件の切欠になってしまったことを気にしていたが、

教会としては、彼の責任を元より追及するつもりはないし、

ビクトル氏についても聖人と認定するつもりである。


 ソージの中では今回の対処を交換条件のように思っているようだが、

実際には、また教会はソージに対して借りを作った事になる。


「何が1人に負担を負わせるべきではない……だ。

僕も結局は人の事を言えたものではない。

だけど……あれのこともある。

今は教会という組織を立て直さなければならない」



 あれというのは、教会が面子を失わずに済んだもう1つの理由……

その理由とは、この街の大貴族が邪教徒と繋がっていたことである。


 多くの国において、王族と神官は、あまり仲が良くない。

なぜなら、どちらが民を庇護しているのか、という部分で役割が被るからだ。


 一般的には、人の生と死に対して民の安寧を守るのが神官であり、

それ以外の部分を王族が担当するとなっている。

しかし、王族としては国は本来、自分達が治めるものだと思っているため、

王族ではどうにもならない部分で力を持つ神官は鬱陶しいのだろう。


 ただ、真っ向からの縄張り争いはお互いに不利益にしかならないので、

神官と王族はお互いに深い干渉はしないようにしているのだ。


そんな状況の中での、今回の事件である。

本来なら王族にとって教会を糾弾する格好の餌になるはずだった。

しかし、蓋を開けてみれば大貴族の中から裏切り者が出る始末。

貴族の爵位とは王族が与えたものであり、その責任は当然、王族にある。


 だから、今回の事件に対して王族は教会を攻撃することは出来ない。

もちろん、教会にとっても失態であることに変わりが無いので、

こちらも大きく糾弾することは出来ない。


 まあ、何にせよ。

教会は首の皮一枚でどうにか繋がっているような状態だ。

こちらも下手には動けないため、大貴族の裏切りについては、

異端審問官に任せるしかない。



「異端審問官と言えば……

彼らから提案された『身体検査』は明日からか……」


机の書類の山から、一冊の書類を取り出す。


『教会内の邪教徒の洗い出しについて―異端審問官エリック、南部教会 聖騎士ソージ――』


 エリックとソージの連名で出された提案書。

今までは異端審問官といえば教会の暗部であり、

異端審問官以外の神官と連名で意見を出すのは非常に珍しい。


「いや、書類上ではエリックの名前が最初で、ソージは協力者となってるけど……

言い出したのは間違いなくソージだよね……」


 はぁ……、口からため息が出る。

本当にソージの行動力はどこから出てくるのか?

教会がどうやってソージへの借りを返そうかと考えている間に、

彼はそんなことは関係ないと言うように色々と動き回っている。


 脱線しかけた意識を、頭を振って元に戻す。

彼らから提案された身体測定自体は、既に正式に承認されており、

明日から執り行われる予定となっている。


 一部の神官からは、『同胞を疑うのか』と、

不満の声が挙がったが……

今回の戦いの英雄であるソージが彼らを『説得』した。


「いや、あれは説得したと言うよりも……

押さえ込んだというか、喧嘩を売ったというか……」


 ソージは不満を示す神官に対して、

『え?何が不満なのですか?

今こそ神への忠誠を示す時ですよ?

もしや、何か後ろ暗いところがあるのでは?』

と相手を煽ったのだった。


 それを言われた神官達は、顔を真っ赤にして激怒したが、

しかし、あの様に言われて、尚反発できる者はいなかった。


この様に、一部の不満を強引に押し切って進めた身体検査ではあるが……

その成果はこの時点でもう出始めていた。


「まだ、確定ではない、けれど……」


 この身体検査を実施する通告を出した後から、

所在が分からなくなった神官が数名いる。

偶然、たまたま他の街に移動しただけかもしれない。

軽率な判断は出来ないが……


「……でも……そういうこと、なんだろうな……」


 胸の中に悔しさが滲む。

僕は出来る限り彼らを信じたいが、僕は大司教補佐官だ。

遠からず、彼らを異端認定することになるだろう。


 この通告によって、取り逃がしたという意見もあるが、

それは仕方がないと割り切るしかない。

ソージも言っていたが、手が足りないのだ。

最善の策ではない、次善の策だと言うのは分かっている。


……だが、それで終わらせるつもりは無い。


「……こうなった以上は、教会を裏切った落とし前は必ず付けさせる」


 今、教会はその屋台骨が揺らぐ苦境に直面している。

黙って裏切り者が逃げていくのを見ていることしか出来ない。

しかし、この危機を乗り切った暁には、何年かかっても裏切り者を見つけ出し、

1人残らず火炙りの刑に処してやる。


 決意を新たにしたところで、仕事に戻る。

目の前には、未だに片付かない書類の山。


「教会内の裏切り者の排除の前に、この目の前の書類の山を排除しないとなぁ……」


目の前の書類の束に目を落とす。


『南部地区の被害状況について――南部教会 聖騎士ソージ――』


『被害者の支援について――南部教会 聖騎士ソージ――』


『南部教会の建て直しについて ――南部教会 聖騎士ソージ――』


『アウイン下水道の修復について――南部教会 聖騎士ソージ――』


『六重聖域の今後の運用について――南部教会 聖騎士ソージ――』


『大貴族ゴーン家の調査について――南部教会 聖騎士ソージ――』



「……多い」


 これらは、ソージからの報告や提案等の書類なのだが……

1人で何冊の報告書を出しているのだろう?


 その内容も、アンデッドスライムの退治から被害者の支援、邪教徒の調査と多岐に渡る。

アンデッドスライムを打倒してから、今日でまだ3日である。

どうやってこれだけの書類を作ったのか?

今日、今回の事件に関った人間だけの報告会を行ったので、

ソージに聞いてみたが……その答えに僕は戦慄した。


『え?

時間が足りないなら、睡眠時間を削ればいいじゃないですか?』


 ソージは当然と言うように、ごく普通にそう答えた。

さらに、彼はアンデッドスライムを倒してからの3日間、

寝ていないのだと付け加えた。


僕はその時初めて、人間は不眠不休で3日も活動できるのだと知った。


『いや、さすがに普通は無理ですよ。

自分には、これがあるので』


そう言って、彼は首にかけた『目覚めの首飾り』を僕に見せた。

あのアイテムは本来、戦闘時に睡眠を防ぐものであり、

徹夜のために使うものではない。

というよりも、ステータス異常を防ぐ貴重なアイテムを何て使い方をしているのか。


『へぇ、珍しいアイテムですね。

ちょっと見せてもらっても?』


『ああ、構わないですよ。

あ、でも、これは一個しかないからシモンにも貸せないけど……』


そう言いながら、ソージは僕に見えるように首飾りを取り出し……


『隙あり!』


僕はソージの手から首飾りを取り上げた。


『あ!

な、に、を……すぴー……』


 そうして、首飾りを取られたソージは一瞬にして深い眠りへと堕ちていった。

会議は僕の判断で中止し、眠ったソージにはリゼットさんとアンナについて貰っている。

ちなみに、首飾りはリゼットさんに預かって貰うことにした。

ソージに持たせていると、また無茶をしかねないからだ。


「うん、本当に止めて……

街を救った英雄が過労で倒れるとか笑えないからさ……」


 何でソージはあんなにも捨て身なのだろうか?

何で僕の周りの人間は、ミレーユやアンナみたいに、

個性的な人間ばかりなのだろうか?


 ズキズキと痛み出すお腹をさすりながら考えるが、

その疑問に対する答えは、僕の中には無い。

ソージは今回の事件で友人となった人物であるが……

結局、僕は彼の事をよく理解できていない。


そう、結局ソージが何者なのか、という事は分からないままなのだ。


 今回の事件の大元は、不審なソージに対して、

教会から課題を出すことで、その忠誠を見ると言うものだった。


その課題とは、アンナを説得し職務放棄を止めさせる事であり、

ソージは見事、この課題を解決し、さらには街を襲った巨大なアンデッドまでも倒して見せた。

彼は忠誠を見せると言う事に対して、充分過ぎるほどの成果を出したのだ。


「でも……ソージはやり過ぎた」


 教会としては、一度の課題で彼の事を評価するつもりは無かった。

何度かの課題のやり取りの中で、彼の事を探るつもりだったのだ。

だが、ソージは一度の課題で充分に成果を出してしまった。


 そのため、ソージは有能な聖騎士であることは分かったが、

彼自身については何も分かっていない。


「ソージの事は友人として信用している。

だけど、大司教補佐官という立場上、疑惑は晴らさねばならない。

しかし、だからと言って、また課題を出すことは出来ない……」


 それは教会としての信用にかかわる。

成果を出した以上、教会は彼を受け入れる。

それが彼との約束だ。


 いや、そもそもソージはこの街を、教会を救った英雄である以上、

受け入れるしかないのだ。


「ソージが何者なのか、話してくれれば良いんだけど……」


 それについては、ソージは記憶喪失の一点張りだ。

はっきり言って、嘘くさいと思う。

しかし、実際にソージは色々なことを知らないのも事実……


考えれば考えるほど、分からない。


「せめて、ソージの装備品をどこで手に入れたかだけでも分かれば……」


 教会は、生まれがどこかは問わない。

アンナのように、親が分からない人間も教会内にはいる。

過去が分からなくても問題は無い。


 問題なのは、ソージが装備している聖騎士の鎧や聖剣、高司祭の聖印などのアイテムだ。

あれらは教会が管理をしており、その名簿の中にソージの名前はない。

教会は、アウインだけではなく、ラズライト王国の全ての教会を調べたが該当する名前はなかった。


 この結果から、ソージの出身は国外の可能性が高い。

実際、ソージの平たい顔や、肌の色、黒い髪はこの辺りでは見ないものだ。


「大陸の東端、海を渡った先にある『スイ』の国には、

ソージと同じような容姿をした人々がいると聞くけど、あの国はなぁ……」


 大陸の東端……山脈を超え、砂漠を越え、その先の平原を越え、

さらに海を越えた先にある島国『スイ』。

この国は独特の文化を持っており、僕達と同じ主神『マーヤ』を信仰しているが、

神官ではなく、『ミコ』という役職の者が祭事を取り仕切っているのだと言う。


 その他にも、サムライやニンジャと言った変わった役職があり、

こちらとは文化がまるで異なる。

一時期は、『彼らは異端ではないのか?』

という議論も真剣に行われた曰く付きの国だ。


その議論自体は、かなり特殊だが彼らも同じ神を崇拝する同胞であると、

一応、決着はついている。


 物理的に距離が離れていることもあり、ほとんど交流のない国である。

下手に手を出せば、外交問題にもなりかねないので、

正直手を出せない状態である。


「結局、分からない……」


 彼自身が悪人ではないことは分かっているので、

急いでいるわけではないが……


「……いつまでもソージをこのままにしておけない」


 ソージは今回の事件で大きな手柄を上げた。

それもこれ以上無いと言うぐらいにだ。

今後も同じようなことが起これば、

『英雄』としての役割を、今回以上に期待をされる。


 今まではレベルが高くとも、不審な行動を取るソージを遠巻きに見ていた人間も、

彼が実績を出した以上接触してくるだろう。

果たしてソージがそこまで考えているかと言えば、

たぶん考えていない。


 机の引き出しから、数冊の封筒を取り出す。

中に入っているのは、ソージへの見合いの申し込みだ。


「ソージが手柄を立てた途端に、これだよ。

でも、これをソージの所に持っていても、彼は断るだろうなぁ……

しかし、それでは相手の面子を潰すことになるし……ううむ……」


 手が早い人間は既に行動に出ている。

ソージへの誘いは、見合いだけではない。


『ソージの東部教会への転属を希望する ―東部教会 司教レオン―』


「ああ、くそ!

この忙しい時に!」


 頭を抱える。

兄弟だから分かる。

これは、兄さんが僕をおちょくるためにわざと出した依頼書だ。

実際は、転属なんて認められないことは兄さんも分かっている。

だけど、正式な手順を踏んで作られた書類であるため、無視することも出来ない。


「あああああ、あの馬鹿兄貴め!

来年の予算会議で、東部教会の予算を減らしてやる!」


 兄さんのことは置いておくにしても、ソージの取り合いは既に始まっている。

だけど、ソージは取り合わない可能性が高い。

いや、確実に断る。


 今までの経緯から、ソージは金でも名誉でも動かない人間なのは知っている。

ソージは、金でも名誉でもなく、彼の中の価値観に従って動く。

彼らの申し出はソージにとって何のメリットも感じないだろう。


 実際、ブルード鉱山の事件では、

ソージはリゼットさんを理由に、教会の申し出を断り、

邪教徒殺しと言う名誉を、簡単に捨て去った。


 そういう意味では、

東部教会の転属は無視するとしても、この見合いはまずい。


 ソージには、既にリゼットさんと言う結婚相手はいるが、

何も結婚相手は一人である必要も無い。

むしろ、ソージのような有能な人間が、一人しか嫁がいないと言うほうがおかしいだろう。

さらにソージの前では言えないが、リゼットさんはエルフだ。

エルフとヒューマンの間で子供を作ることは出来るが、

基本的に出生率はかなり低い。


「だからこそ、ヒューマンの嫁を娶るべき……

と、彼らが言ってくるのは間違いない」


 今の所、教会の混乱を理由に彼らの申し出は、僕が止めているが、

これらの理由でゴリ押しされれば、僕としても断り続けることは難しい。


「でも、ソージがこれを聞いた場合、どうなるか分かったものじゃない」


 ソージにとって、リゼットさんの価値は『邪教徒殺し』を上回る。

その結果として、以前ソージは教会の申し出を断ったわけだが、

あれとまた同じことが起きたらたまらない。


ソージを英雄と祭り上げた手前、こちら側で対処するべきだろう。


「……しかし……やはり、これしかないか……

ソージと……アンナには、怒られるだろうなぁ……」


ああ……胃が痛い。

とりあえず、まずはミレーユに相談してみよう。



2章はあと1話で終わりの予定です。


今回は、シモン視点での教会がソージの事をどう思っているのかと言う話。

冒険者ギルドも真っ黒なら、教会も真っ黒と言った感じです。


ちょっと今回は文章がまとまらなかったので、今回のまとめを3点で。

・教会はソージの事を高く評価してる。

・だけど、ソージが不審だと言う点に関しては未だに疑っているし、

教会を立て直すためには、ソージに負担をかけることも已む無しと考えている。

・今まで距離を置いていた人間も動き出した、具体的には見合いの申し込みが来ている。

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