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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第2章 聖者の条件
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52話 アンデッドスライム戦3

「よし、改めて作戦を説明するぞ!!

冒険者側、教会側共に、兵力を4対6に別ける!!

4割は自分と共にここに残り、敵のHPを削りつつ、南部教会まで誘導する!

残り6割は南部教会に移動し、そこで包囲して待ち受ける!

誘導部隊が南部教会まで敵を引きつけたら、最大火力を持って、これを殲滅する!!」


 今回の作戦は、結局、罠に嵌めて大人数で囲んで殴るという簡単なものだ。

しかし、これは原始時代から続く、人類の伝統的な戦法である。

この単純な戦法が有効なのは、歴史が証明している。

ならば、あとは実行するだけだ。


「行くぞ!!

作戦開始だ!!」




 アルフレッドとエリックによる編成が終わり、包囲部隊の人間は南部教会に移動した。

ここに残っている誘導部隊の人数は25名。

冒険者は2パーティ、11名。

聖騎士団も2パーティ、12名。

そして、自分に対して、聖騎士団から神官が2名。



 配置はアンデッドスライムから15メートルの距離に自分、

同様にアンデッドスライムから30メートルの位置に残りの全員が陣取っている。

南部教会までは、ここから300メートル先。

そこまで、アンデッドスライムを誘導しなければならない。


「よし、配置についたな。

作戦は先程説明した通りだ。

我々の役目は、あくまで敵を南部教会に誘導することだ。

無理はしなくていい、やばいと思ったら各自の判断で離脱してくれ。

何か質問はあるか?」


自分の声に、冒険者の一人が手を上げる。


「へーい、誘導はいいんすけど。

もし、このアンデッドスライムを倒した場合、

俺ら誘導部隊にも追加報酬は出るんすよね?」


「ああ、もちろんだ」


「うっす。

それなら、オイラも頑張るっす」


「他はないな。

よし、ではやるぞ!」



――光が敵を吹き飛ばすイメージ。


「――癒しの光よ、闇を打ち払え!!ヒール!!」

同時に、『ヒールLv5』のショートカットを起動!!

アンデッドスライムに向けて、ヒール・デュオを放ち、ターゲットを取り直す。


 ダメージは890。

そして、ぞくりと不快感が全身を走る。

アンデッドスライムが自分をターゲットと認識した証。

敵意が自分に向いていると認識できるのは良いことだが、

はっきりと分かる分、そのプレッシャーが重く圧し掛かる。


「まったく……うんざりするよ」


 自分で言い出したことだが、気が重い。

南部教会までは、あと300メートル。

走ればすぐに辿り着ける距離だが、アンデッドスライムの動きはカメのように遅い。

自分達の役目が誘導である以上、こちらはアンデッドスライムの速度に合わせて移動しなければならない。


「っと!!」


アンデッドスライムの攻撃を回避しつつ、徐々に後ろに下がる。


「皆も5メートル後退だ!

後退後、敵が5メートル進むまで、その場で攻撃!」


 アンデッドスライムの攻撃がこないことを確認した後、

後ろの誘導部隊に対して指示を出す。


「おう、分かってる!」


「了解です!」


 自分の声に頷き、冒険者と聖騎士団も後ろに下がる。

彼らが下がったことを確認すると、自分は視線を敵に戻し、次の攻撃に備える。

敵の攻撃は、約30秒間隔で行われる。

僅かな時間ではあるが、こうして指示を出す時間はあるのだ。


「聖騎士団、移動完了!

これより、攻撃を開始する!

行くぞ、冒険者に遅れをとるな!!」


「おうおう、煽ってくるな神官様は!!

よっし、俺らもやんぞ。

教会に引き篭もってるエリートちゃんに、

俺らの根性みせてやるぞ!!」


 教会の神官と冒険者の魔術師による魔法攻撃が行われる。

ダメージはそれぞれ370、370。


「ぐぬぬ……冒険者の癖に!」


「ぐぬぬ……神官の癖に!」


 仲が良いなぁ……。

まぁ、それはそれとして、彼らの与えたダメージは、

自分が与えたダメージよりも低い。

自分の身体を包む不快感も依然として継続中であり、敵のターゲットは自分のまま。

敵の攻撃を自分に引き付け、周りがHPを削る。

その目論見は、今の所うまくいっている。


アンデッドスライムの身体が大きく波打つ。


「次の攻撃がくるぞ!

敵の攻撃は自分が引き受けるが、そちらも警戒を怠るな!!」


 身構えた瞬間、アンデッドスライムから9本の触手が発射される。

だが、今回は後ろに5メートル下がった分、余裕はある。

高速で発射される触手に対して、この5メートルの差は大きい。

先程よりも楽に回避が出来る。


 精神を集中し、触手を迎え撃つ。

触手の軌道は前回と同じ、自分に対して直撃コースの触手が1本、

そして、その触手を取り囲むように残りの8本が迫る。


 まるで、プログラムのルーチンだな。

同じ条件で、同じように動く。

ならば、こちらの対処も先程と同じだ。


左斜め前に一歩踏み出し、そこで静止する。


「っ!!!」


 前回と同様に自分の右側、左側、足元……

自分から50センチの位置を触手が通り過ぎていく。


「はぁ……はぁ……心臓に悪い。

少しは余裕が出来たが、厳しいことには変わらないか……」


 即死と言う程ではないが、当たればただでは済まない。

受け損なえば、大ダメージ。

そのプレッシャーによって、集中力が削られる。


「おお、すげぇ!

また回避したぞ!!」


「ソージ殿が敵の攻撃を引きつけているおかげで、

こちらは攻撃に専念できるが……

なぜ、ソージ殿はあれを避けることが出来るのだ?」


「……コツがあるんだよ」


 なぜ、当たらないのか?

それは、触手の軌道に秘密がある。


 アンデッドスライムの攻撃を観察していて分かったのだが、

あの触手攻撃、一度も触手同士がぶつかったことがない。

どうやら、あの敵は触手同士がぶつからない様な軌道を、

本能的に選択しているらしい。

確かに触手同士がぶつかってしまっては、効率が悪いのは納得できる。

だから、その動きはアンデッドスライムにとって最善の選択なのだろう。


 この『触手同士はぶつからない』という特性が、攻撃を回避できる秘密なのだ。

触手同士がぶつからないと言う事は、触手と触手の間には必ず隙間が出来るという事。

この特性によって、1本の触手を避ければ、自ずと他の触手にも当たらない。


 つまり、敵の触手攻撃は9本の同時攻撃だが、

実際に対処しなければならない触手は1本だけ。

危険な触手のすぐ隣は、実は安全地帯なのだ。


「……まるでシューティングゲームみたいだな」


 シューティング、特に弾幕シューティングでは、

画面上にたくさんの弾が飛び交うが、実際に対処するのは自機の周囲だけで良い。

それに、弾の起動をあらかじめ見切った上で、安全地帯に移動するのも似ている。


 まあ、そうは言っても、試行回数はまだ10回程度。

最低でも30回は見ておかないと、統計的に問題ないと判断できない。

それに、RPGにしろ、シューティングにしろボスというのは、

HPの減少で攻撃パターンが変化することもある。


 今は良いかもしれないが、これから先も大丈夫だという保証は無い。

このまま回避を続けるべきか、それとも、マテリアルシールドを使うべきか。

……いや、MPは節約したい。

マテリアルシールドはギリギリまで温存する。


 自分のMPは312。

ヒールLv5の消費はMPは30。

ヒール・デュオの消費MPは60。


 ヒール・デュオは2倍の消費MPで、ダメージは約3倍。

コストパフォーマンスが良いのは間違いないが、

それでも自分の少ないMPには大きな負担になる。

加えて、MPの消費以外にも詠唱式の魔法には、高い集中力と、

明確な魔法のイメージが必要だ。


 これは戦闘において、大変な負担になる。

たとえ一瞬だとしても、思考の全てが魔法のイメージに費やされるのだ。

その瞬間は、完全に無防備になってしまう。

神官や魔術師が盾役の戦士を用意する理由である。


 自分には、盾役はいない。

アンデッドスライムの攻撃サイクルに30秒の時間があると言っても、

精神にかかるプレッシャーは相当なものだ。


 ギリギリの位置で、攻撃を避けつつ、

ターゲットを取り続けるために、全力で魔法を使う必要もある。


「これは思った以上にしんどいぞ……」


 MPが50%を下回る。

魔力消費による頭痛と相まって、気が重くなる。


 それでも不幸中の幸いとして、MPの心配だけはしなくて良い。

自分はショートカットからアイテムを使用することによって、

MPを回復することができる。


 ……しかし、この方法では、人前でチートを使うことになる。

だが、仮に回復していくMPを見られたとしても、

彼らにはチートという概念は無い。


 ショートカットから使用するコマンドは、

自分の頭の中で考えるだけで実行できるので、外から見た場合は分からない。

不審に思われたとしても、いくらでも言いくるめることは出来る筈だ。


「……あれ?

ソージのMP回復してね?

さっき半分ぐらいまで、減ってたよな?」


「……本当だ。

まあ、そういうアーティファクトを持ってるんだろ。

なんと言ってもレベル74だぜ。

きっと俺らが見たことも無いような、お宝を持ってるに違いない」


「羨ましいよな。

こっちはMP回復ポーションで、チビチビ回復するしかないからな」


 そう言って、冒険者側の魔術師はポーションの栓を自分の歯で器用に引き抜くと、

ごくごくと中身を飲み干していく。


 自分もポーションを飲めば、MPを回復することは出来るが、

口から飲む場合は、効き目が薄い。

ポーションの数には限りがあるのだ。

怪しまれないパフォーマンスも重要だが、今回は効率重視でチートを使う。


 それはそれとして『アーティファクト』か……

所謂、レア装備の中でも、さらにレアなもの。

神が創ったとか、世界で数個しかないとか、そんな言葉で装飾されるアイテムだ。


 残念ながら自分は持っていないが、

今度からは、MP自動回復のアーティファクトを持っているということにしよう。



思考を打ち切り、再びアンデッドスライムに対して意識を集中する。


 次の攻撃は水の散弾。

自分の周囲全体に無数の水球がばらまかれる。


「ちっ!!

今回は運がない!!」


 散弾がないスペースはあったが、それは周りの住宅のすぐ横だ。

あの位置では、散弾を避けたとしても、

別の散弾によって崩れた瓦礫で押しつぶされる可能性がある。


「マテリアル・シールド!!」


 安全地帯への移動を諦め、少しでもダメージを減らすため弾幕の薄い位置に移動し、

マテリアルシールドを使用する。


「ぐぅうう!!」


 目の前に展開した光の障壁が散弾を防いでくれたが、障壁にはヒビが入る。

マテリアルシールドは直径1メートル程度の光の障壁を発生させる魔法だ。

一定量のダメージを防ぎ、それを超えると砕けて消える。

しかし、この特性がアダになった。


 散弾の大きさは直径30センチ程度。

自分に対して直撃コースにあったのは、3個だけだったが、

それ以外の散弾も盾に当たり、盾の耐久度を削っていく。


「駄目だ!!シールドがもたない!!」


光の障壁のヒビはさらに広がり、ついに砕け散る。


「くそ!!」


 左手の盾を構え、散弾を防御する。

散弾のほとんどは、光の障壁で弾くことが出来たので、

ダメージはそれほどでもないが……


「く…そ……毒か……

神官!!回復!!」


ぐらりと視界が歪み、足元がふら付く。


「――浄化せよ、解毒の光よ――キュア・ポイズン!!」


「――清浄なる神の光よ、傷を癒せ――ヒール!!」


後方に待機する神官二人の回復魔法で、毒とHPが回復する。


「大丈夫ですか!

追加の回復は必要ですか!」


「素の状態で戦うのは危険です!

強化魔法バフを使用しましょう!」


「いや、大丈夫だ。

何かあったときのためにMPは温存しておいてくれ。

皆も次の攻撃までに態勢を整えろ!!」



 その後も、じりじりと後退しつつ、

周りの冒険者と聖騎士団と共に敵のHPを削っていく。

作戦開始から30分。

たかが30分と言っても、全力戦闘での30分だ。

消耗は激しい。



「南部教会まであともう少しだ、気合入れろ!!」


 南部教会まで残り100メートル。

敵の残りのHPは約30万。

誘導部隊の攻撃と、発動した六重聖域。

これで、ようやく敵のHPを残り60%まで減らした。


「はぁ……はぁ……厳しいな……

せめて残り半分までHPを削りたかったが……」


 正直言って、自分の限界は近い。

MPポーションにはまだ余裕がある。

しかし、初めて詠唱式の魔法を戦闘に使用し、

敵の攻撃に身をさらし続けていたのだ。


 ステータスに現れない疲労というのは、確実に蓄積されている。

もちろん、南部教会までは死ぬ気で持たせるつもりだが、

そこから先の戦闘は厳しい。


「……本当に、うんざりする」


目の前に壁のように立ちはだかるアンデッドスライムに対して吐き捨てる。


 敵の攻撃は、プログラムされたかのように変わらない。

しかし、だからと言って手は抜けない。

こちらはギリギリで避けているのだ。

徐々に消耗し、動きのキレは落ちている。

それに対して、敵には一切の消耗が感じられず、攻撃に衰えはない。


 アンデッドスライムの身体が波打ち、これまでと同様に触手が発射される。

しかし、今回の触手は21本。


「まずい!」


 このタイミングで攻撃パターンが変わっただと!!

疲労による集中力の低下で、一瞬反応が遅れた。


 焦るな、びびるな、逃げるな!!

数が増えても、回避方法は同じはずだ。


 だが、触手の間隔は小さくなっていた。

触手同士の間隔は30センチ。

鎧を着込んだ成人男性では、身体を横にしても、この隙間には入らない。


 いや、それだけではない。

触手の太さは増し、その先端はまるでドリルのような螺旋状に変化する。

おそらく、この強化された触手はマテリアルシールドでは防げない。


「……避けられない!!」


 とっさに盾を構え、マテリアルシールドを起動し、全力で後ろに飛ぶ。

自分に対して直撃コースの触手は回避できたが、その後ろにある触手は避け切れない。

マテリアルシールドが触手の前に現れるが、

光の障壁は強化された触手によって砕かれる。


 だが、それ自体は折り込み済みだ。

盾を持つ左手に力を込め、衝撃に備える。


「ぐぅ!!」


 アンデッドスライムと自分との圧倒的な体重差はどうにもならない。

野球のボールのようにフルスイングされた自分は、後方に弾き飛ばされる。


 触手の攻撃は、盾を貫通することは無かったが、左腕に激痛が走る。

おそらく、骨が折れた。


 こうして敵の触手に吹き飛ばされるこの状況は、子供を助けたときと同じだ。

……だが、それでも今回は違う。


 今回は衝撃を逃がすために、敢えて自分から後方に飛んだのだ。

そして、自分の動きを制限するものもない。

空中で剣を抜き、地面に叩きつけることで、勢いを殺し無理やり着地する。


「くっ……ハァ……ハァ……。

直撃は何とか避けたが……

くそ……痛てぇ……左腕が……」


 直撃を避けたとは言え、こちらの被害は軽くない。

残りHPは70%。

さらに左腕の骨折と、毒のバッドステータス。


 だが、問題はそれだけではない。

今の攻防で、ギリギリで保っていた集中の糸が、ぷっつりと切れた。

これまでの戦いの疲労が一気に押し寄せ、身体が鉛のように重くなる。

一歩踏み出そうとした足がぐらりと揺れ、倒れそうになる身体を聖剣でなんとか支える。


 HPもMPも折れた腕も毒も、回復出来る。

だが、ステータスに現れない疲労。

こればかりは、チートでもどうしようもない。


「ここまで……か……」


目の前がまるで、闇に覆われたように真っ黒に染まっていく。



長くなってしまったので、一旦ここまで。

次話で決着です。


続きは、明日投稿します。

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