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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第2章 聖者の条件
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45話 六重聖域


「よし、そうと決まれば、この魔法を完成させないとな。

ところで、作業に取り掛かる前に、聞いておきたいことがあるんだが?」


「うん、何?

アタシに答えられるなら何でも答えるよ」


「遺書には、この魔法はアウインの街全体を聖域で包むと書いてあるけど、

それは実際に可能なのか?」


 ここまでビクトル氏の魔法が遺書の通りに出来ると言う前提で話を進めていたが、

実際のところはどうなのか?

まず、ここをはっきりさせないと始められない。


自分の質問にアンナは一瞬固まるが、即座に突っ込みを入れる。


「今更!!!

って言うか書いてあるだろ、遺書に!!

分かって無かったのかよ!!」


「自分は魔法については得意じゃないと言っただろ。

悪いがその遺書の内容が理解できない。

アンナはこの魔法の事が分かってるんだよな。

じゃあ、説明してくれ」


「もちろん。いいぜ、説明してやるよ。

この魔法は通常の聖域の魔法を魔法陣とフラグメントで、

内包魔法コンノートマジックの形式を作ることで強化を行い、

その強化した聖域をさらに重奏魔法(アンサンブルマジック)の応用で6重に強化してる!

本来ならこの規模の魔法を6重強化なんてすれば、魔法同士が干渉し合って安定しないんだけど、

それを代用魔法(サブスティテュートマジック)を用いることで安定化しているんだよ!

さらに、この魔法は、アウインの魔力源マジックソースを利用することで、

一度発動しさえすれば後は、永続的に聖域を展開し続けることが出来るんだよ!!

やっぱり、爺さんはすごかったんだ!!!」


「お、おう……」


 アンナは説明をしている内に熱が入ったのか、テンションを上げて力説する。

その内容は確かに遺書に書かれていたが、良く分からない固有名詞が平然と並んでいるため、

まったく内容が頭の中に入らない。


「ふぅ……分かったか?」


 今の説明でアンナは説明できたと思っているらしい。

しかし、彼女が説明した内容は……


「……遺書の内容をそのまま読み上げても分かる訳がないだろ。

そうだな……

まず、『聖域の魔法を魔法陣とフラグメントで内包魔法コンノートマジックの形式を作ることで強化を行い』

の部分から分かりやすく解説してくれ。

そもそも、内包魔法って何だ?」


「えー……そこから?

知らないの?本当に?

レベル70以上の聖騎士なのに?」


 アンナはじとーとした目で、自分を見る。

その目は明らかに疑いを持っているが、自分の答えが変わることは無い。

知らないものは知らないのだ。


「だから、知らないと言ってるだろ。

ミレーユさんから自分は記憶喪失だって聞かなかったか?」


「いや、聞いたけどよー……

でも、ミレーユは嘘っぽいって言ってたよ」


 ……ああ、なるほど。ミレーユさんはやっぱり気付いてるんだな。

そりゃ、ミレーユさんと一緒に一ヶ月近い時間、同じ家に住んでいるのだ。

さずがに記憶喪失で誤魔化しきれるほど彼女は鈍くない。

まあ、それでも追求してこないのは彼女なりの打算か、優しさか。

どちらにせよ、何か新しい言い訳は考えておかなければならない。

さすがに異世界から来ましたじゃ、彼女は納得しないだろう。


「……記憶喪失だよ。

仮に記憶喪失でなかったとしても、魔法のことで知らない振りをする意味はないだろう?」


「うーん……それもそう、なのかなぁ?

まあ、いいか。内包魔法についてだよな。

ソージ、この魔法陣を見てよ」


 アンナは少し考えた末、考えることを諦めたらしい。

彼女は魔法の説明に戻る。

彼女は祭壇の中央に描かれた魔法陣に近づくと、

自分も近くで見るように手招きする。


「この魔法陣がどうしたんだ?」


「内包魔法っていうのは、主に魔法陣マジックスクエア魔法譜マジックスクロールで使われる魔法の方式の事で、

1つの魔法の中に別の効果を持つ魔法を内包させる技術の事だよ。

例えば、魔法陣って複数の記号の組み合わせで魔法を作るんだけど、その際にうまく記号を組み合わせることで、

複数の効果を持つ魔法陣を作ることが出来るんだよ」


「なるほど、パズルみたいだな。

じゃあ、水の壁を出す魔法陣と火の壁を出す魔法陣を組み合わせて、

水と火を同時に出す魔法陣も出来るのか?」


「うまく組み合わせる方法が見つかればね。

まあ、水と火のような対極にある属性は、魔法陣の記号も相反するから無理だと思うけど」


「ふむ、そう簡単にはいかないか。

……それで、この聖域の魔法陣はどんな魔法を内包しているんだ?」


 改めて、魔法陣を確認する。

目の前の魔法陣は外周に半径2メートル程の円が描かれており、その円にちょうど収まるように、

星型に直線が引かれている。

所謂、『五芒星』と呼ばれる形だ。

おそらく、この五芒星が聖域の魔法用の記号だと考えられる。

なぜなら、この記号は聖域の魔法を使用した時に浮かび上がるものと同じだからだ。


 魔法陣の中には五芒星の他にも、呪文や小さな記号が描かれており、

さらに、所々フラグメントが埋め込まれている。

これらのどれかが内包魔法用の記号なのだろう。


「この魔法陣で使われている内包魔法は、別の魔法を内包させている訳ではなくて、

聖域の魔法に聖域の魔法を内包してるんだよ。

ほら、円の中に五芒星が描かれているでしょ。

これが聖域の魔法陣の基本形。

その五芒星の中央に線が交わることで、五角形が出来てるでしょ。

その五角形の五点を使って、さらに小さい円と五芒星が描かれてる。

そして、その小さい五芒星の中央にも同じように、さらに小さい円と五芒星が描かれてる。

こんな感じで、1つの魔法陣に別の魔法陣を内包させるのが内包魔法だよ。

あとは、この魔法陣では、五芒星のそれぞれの頂点にフラグメントを埋め込んで、

魔法陣を強化してる」


「なるほど、内包魔法については分かった。

つまり、聖域の魔法陣の中に聖域の魔法陣を埋め込んで強化しているんだな。

では、次の『強化した聖域をさらに重奏魔法(アンサンブルマジック)の応用で6重に強化してる』、

の部分を解説してくれ」


「重奏魔法っていうのは、同じ魔法を同時に発動させることで効果を高める魔法の方式のことだよ。

ほら、大きな儀式をやるときに、皆で声を揃えて呪文を唱えるだろ?

あとは、賛美歌の合唱とかさ……あんなのだよ。

重奏魔法は同時に唱える数が多ければ多いほど効果は増していくけど、

難易度も上がっていく。

少しでもずれると、ただ同時に魔法を発動しただけになっちゃうからね」


「確か遺書によれば、この魔法陣と同じものがアウインに、あと5箇所あるんだったか。

ここを含めた6個の魔法陣で、魔法の効果を増幅しているんだな。

それに、魔法陣なら魔法の詠唱とは違って、同時に唱える必要はないから、

失敗も無いだろうし」


しかし、自分の言葉にアンナは首を振って否定する。


「いや、魔法陣でもただ並べただけだと、意味は無いよ。

魔法陣は記号の組み合わせで作る魔法だから、魔法陣の配置の仕方が悪いと、

魔法陣同士が干渉して、狙った通りにきちんと発動しないことも有り得るから」


「ああ、なるほど。

それが『本来ならこの規模の魔法を6重強化なんてすれば、

魔法同士が干渉し合って安定しないんだけど』に繋がるのか」


「そういうこと」


 アンナは、うんうんと頷く。

それにしても、なんとなく内包魔法と重奏魔法は似ているな。

内包魔法が魔法陣の中に、別の魔法陣を内包させて効果を上げる。

重奏魔法は同じ魔法を、同時に発動させることで効果を上げる。

この魔法の技術は覚えておこう。

時間が出来たときにでも、何か応用できないか考えてみよう。


「じゃあ、最後に『それを代用魔法(サブスティテュートマジック)を用いることで安定化しているんだよ!』

の部分を説明してくれ」


「あのさ……さっきから、さりげなくアタシのモノマネを入れるの止めろよ!」


「ああ、すまん。誤解が無いように一字一句再現しただけだったんだが……」


「ぜったい嘘だろ!

くそぅ、こいつ良い奴かと思ったけど、やっぱり嫌なやつぅ……」


 真似していたことに、実際、特に意味は無かったんだが……

アンナはいじいじといじけだす。


「おい、凹んでないで解説の続き」


鞘に入ったままの剣の先で、アンナをつつき、先を促す。


「うう……代用魔法は、魔法を使用する際に本来必要な手順や方法を、

別の何かで代用する魔法の方式だよ。

聖域の魔法は、本来は術者が聖域の中心にいないと発動できないけど、

聖印を術者の代わりとして置き換えるのが一般的な代用魔法だよ」


「ああ、それなら知ってる」


 ブルード鉱山でミレーユさんが見せた聖域の魔法だ。

自分が納得していると、アンナは魔法陣の中央に移動する。

この魔法陣の中央には、ビクトル氏の聖印と鎧が安置されている。

彼女は、それらを愛おしそうに撫でる。


「代用魔法で使用する品は、何でも良いわけじゃないんだよ。

新品だと魔力が馴染まないんだ。

十分な力を発揮させるためには、長年使い込んだものじゃないとだめなんだよ」


「ふむ……」


 だから、ビクトル氏自身の聖印と聖騎士の鎧を使わなければならなかった。

だが、その結果として、それらの品はアンナすら所在を知らないまま、

今まで行方不明となっていたのだ。


「……爺さんの代用魔法はそれだけじゃない。

ソージ、地図を見てみろよ。

アウインにある6つの魔法陣は、ここを中心として、

アウインの北、東、西、南東、南西に配置されている。

ソージはこの意味が分かるか?」


「ふむ……5点を結ぶと五芒星になるな。

これは内包魔法と重奏魔法の応用ってところか?」


「そう、だけどそれだけじゃない。

遺書によると、北の魔法陣には、聖騎士の兜を核にしている。

同様に、東は盾と左手の篭手、西には聖剣と右手の篭手、

南東には左足の鉄靴とすね当て、南西には右足の鉄靴とすね当てが核に使われている」


「……まるで、人間が大の字に仰向けになったみたいだな」


「うん。

代用魔法は本物に近ければ近いほど効果が上がる。

今では聖域の代用魔法で使われるのは聖印がほとんどだけど、

昔は術者そっくりの人形を使っていたんだよ。

まあ、手間が掛かるから廃れちゃったけどね。

たぶん、これはその応用だと思う」


「なるほどな、ビクトルさんの代用として、彼の聖騎士の装備一式を核に使用しているのか。

なんというか、彼は死んでからも、この街を守ろうとしているんだな……」


それは、子を守ろうとする親の執念が形になったようなものだ。


「うう……」


「ああ、もう泣くなよ。

とりあえず、この魔法の仕組みはだいたい分かった。

それで、結局この魔法はアウイン全体を包むほどの出力は出るのか?」


「うう……出るし……

絶対、絶対出来るし……」


 彼女は涙を拭きながら、そう答える。

アンナの説明からこの魔法陣がとても手の込んだものだと言うのは理解した。

しかし、それらを持ってしても、果たしてアウイン全域を包むほどの出力は出るのだろうか?

アンナは『出来るしー、絶対出来るしー』と騒いでいるが、

どうにも入れ込みすぎていて、客観性に欠ける。


出来れば冷静な第三者の意見が欲しい。


「……ミレーユさんとシモンを呼んで2人の意見を聞こう。

どの道、この魔法は未だに未完成らしいし、2人にも手伝って貰おう」


「えー、何であいつら呼ぶんだよ!」


自分の意見に、アンナは不満そうに異を唱えるが、

アンナの頭にチョップを叩き込む。


「いたぁ……」


「ミレーユさんにもシモンにも散々迷惑掛けといて、

『あいつら』は、無いだろ。

迷惑をを掛けた人には、謝るんじゃなかったのか?」


「うぐ!

うう……そうだけど。

今更、どんな顔をして会えば良いんだよ……」


「人間には顔は1つしかないからな。

その顔、以外にはないだろう。

とりあえず、2人をここにつれて来るから、

それまでにその情けない顔を、ちょっとはマシにしとけよ」


そのまま、アンナを地下の祭壇に残して、地上に出ると2人を呼びに行った。



 二人に会うことは出来たが、昼間の間は仕事が忙しいとのことで、

夜に落ち合うことになった。

自分とアンナは夜までの間に、ギンさんの案内で他の5箇所の祭壇を確認して回った。


 これが中々に重労働だった。

アウイン全体をぐるりと回るという距離的な問題もあるが、

アウインの地下水道内は場所によって、スライムや大型のネズミ、蝙蝠がいるため、

これらの相手をしなければならないのが面倒だった。


 モンスターのレベルは10以下だから、大した脅威ではないのだが、

これから地下水道で作業をするに当たって、邪魔になることは確実だ。

そのため、修道服から聖騎士の鎧に装備を変更して、

念入りにこれらのモンスターを倒して回った。



 そして、日は沈み、夜を迎える。


「アウインの地下に水道が走っているのは知っていたけど、

まさかこんな祭壇を作ってたとはね。

ソージもよく見つけたわね」


「ええ、ビクトル氏の遺産が地下にあると聞いたときには驚きましたが、

なるほど……本当に有ったんですね」


「あの……私は、ここにいても良いのでしょうか……」


 ミレーユさんとシモン、そしてリゼットが感想を述べる。

今回は神官ではないリゼットにも同行してもらっている。

彼女は場違いだと思っているようで、居心地が悪そうにしている。


「ああ、むしろ暗い地下水道では、夜目が利くリゼットが居てくれると助かる」

 

 ブルード鉱山の時と同じだ。

ライトの灯りがあるとは言っても、全てを照らしてくれるわけではない。

彼女の夜目があれば遠くに居るモンスターも先に察知できるし、

弓なら遠くから攻撃も出来る。

そう言って、リゼットを安心させる。

ミレーユさんとシモンにも挨拶をしていると、自分の後ろから声が聞こえる。


「……よ、よく来たな」


「お久しぶりです。アンナ」


「って、何でアンナは、ソージの後ろに隠れてんのよ。

随分なつかれてるみたいだけど、何があったの?」


「これは、なつかれてるのか……

まあ、色々あったんですよ、いろいろ。

それよりも、アンナ」


ミレーユさんの言葉に戸惑いつつ、

自分の後ろに居たアンナを、ミレーユさんとシモンの前に押し出す。


「う、うう……」


「ほら」


言い淀むアンナに先を促す。


「……たくさん迷惑掛けました、ごめんなさい」


アンナは深く頭を下げて謝罪する。


「もう、アンナったら良いのよ、気にしなくても。

私達の仲じゃない」


ミレーユさんは微笑みながらそう言うと、

頭を下げたままのアンナの肩を抱く。


「……その代わり、貸し1つね」


「……では、僕も貸し1つということで」


「ひぃ!!」


 二人は、ニィと黒い笑みを浮かべる。

タダよりも高いものは無いとは言うが、この二人への貸しは高くつきそうだ。

まぁ、アンナは自分にも何でもするって言ってるんだけどな。


「よし、とりあえず丸く収まったところで、

二人ともこれを見てくれ」


「ソージは知らないんだ……この二人に貸しを作ることの意味がどういうことか……」


そう呟くアンナを無視して、二人に遺書とビクトル氏が残した資料を見せる。

二人が読み終わるのを待ってから、質問する。


「実際にこの魔法は書かれてあるとおりに出来るのか?」


「出来るに決まってんだろ!!」


 アンナは大きな声を張り上げるが、

彼女の意見は散々聞いたので、スルーする。


「……いけると思います。

この魔法で一番問題になる魔力についても、この街の魔力源マジックソースを利用することで、

魔法陣に無理なく魔力を供給しています」


シモンは、遺書の通り魔法は発動すると断言する。

その言葉の中には、アンナに聞き忘れた用語が含まれていた。


「シモン、悪いが魔力源ってなんだ?」


自分の言葉に、シモンは頷き答える。


「ああ、ソージは記憶喪失でしたね。

魔力源とはその字の如く、自然の魔力が集まり、流れ出す場所の事です。

魔力源では、他よりも多くの魔力がありますので、その近くに居るとMPの回復が早いといった効果があります。

あとは、魔力の結晶であるフラグメントが生成されやすい。

と言っても、街中では人が持つ魔力と自然の魔力が混ざるので、純度の高いフラグメントは中々出来ないのですが」


「アウインにも、その魔力源があるのか?」


 アウインには、1ヶ月以上居るが、それらしいものは見たことが無い。

自分の質問にシモンは眼鏡をくいっと上げる。


「アウインには、と言うよりも魔力源の上に都市を作りますので、大きな都市にはありますね。

各街を結ぶトランスポーターの動力もこの魔力源ですから。

それに、魔力源の上に都市を立てることで、モンスターに魔力源を使用させなくすることも出来ます」


 ダンジョンの地下に魔力源があると、その魔力を求めてモンスターが住み着くらしい。

魔力を取り込んだモンスターは通常のものよりも強化されて、非常に厄介なのだそうだ。


「ふむ、なるほどな。

今回の魔法で、魔力源から魔力を吸い取りすぎて、

魔力が枯渇するとかは無いのか?」


「それはないですね。

魔力源からは膨大な魔力が常に溢れ出ているのですが、

何もしなければすぐに霧散してしまいます。

ですので、魔力源から僕達が使用できる魔力は実際には少なく、

そのほとんどは使われることなく消えてしまいます。

そのため、この魔法で魔力を使用したとしても、使い切れないでしょう」


 つまり、魔力源とは湧き水のようなものらしい。

湧き水そのものは人間とは関係なく溢れてきて、

使われないものは、そのまま流れていく。

人がその水を汲み取ったところで、その源には影響はないということらしい。


「なるほど、魔力の問題もクリアしていると。

ミレーユさんは、この魔法についてどう思いますか?」


「シモンとアンナが出来るって言うなら出来るんじゃないの?

悪いけど私は神学校を卒業した後、すぐに冒険者やってたから。

専門的な魔法の知識は無いのよね」


「あ、そうなんですか。

ちょっと意外だな」


「まぁ、基礎はきちんと学んでいるし。

それに、私の魔法は実戦での叩き上げだから、

大学で研究ばかりしている神官には負けないわよ」


 そう言うとミレーユさんは笑みを浮かべる。

とりあえず、二人に意見を聞いたが、

魔法は遺書の通りに発動できるらしい。


「シモン、これから自分達はどう行動するのが良いんだ?」


「このまま、大司教に持っていっても良いですが、

ビクトル氏を聖人として認めさせたいのなら、

完成した状態で持っていくのが良いでしょうね。

現状では、まだこの魔法は未完成ですから」


 確かに大司教との約束は、あくまで聖人に足る完璧な功績を見つける事だ。

現状では、この魔法陣は未完成。

『先代司教の功績』であるのなら、なるべく自分達で完成させておきたい。


 もちろん、自分達の手で完成させることにこだわって、

肝心の魔法が発動しなかったら本末転倒なので、

自分達で無理そうなら、その時は大司教の手を借りよう。


「アンナ、未完成部分はどれぐらいで完成できる?」


「ああ、この魔法陣自体はもう完成しているよ。

あと残っている作業は、魔力源に対して経路を開いて、魔法陣に魔力を馴染ませる作業だけだよ。

これは、あと3日程度あれば出来ると思う」


 課題の期限は、今日を含めて残り5日、

今日はもう夜なので、実質残り4日か。

元々の課題内容であるアンナの説得はもう済んでいるが、

出来れば一緒に、この魔法を完成させてしまいたい。

一応、残りの日数的には間に合いそうだ。


「あとは……そうだな。

シモン、この魔法、勝手に地下に作ってるけど大丈夫なのか?

魔力源から魔力を貰うことは魔力量的には問題ないとしても、

勝手に貰っていることには違いないだろう?」


 そう、ビクトル氏は勝手に街の地下に祭壇を作ってしまっているのだが、

これは良いのだろうか?

現実世界でも、詳しい法律は知らないが間違いなく違法だろう。

自分の質問に、シモンははっきりと答える。


「もちろん、駄目です。

魔力源にしても地下水道にしても、管理は国が行っています。

本来なら国、つまり王家の許可を一番最初に取らないといけません。

ですが……それについては、何とか交渉して、事後承諾を得るしかありません。

その場合、ここまでやってしまっている以上、中途半端な状態で交渉を行うよりは、

完成させて有用性を示した方が良い」


「つまり、完成させて既成事実を作ってしまおう、と言うことね」


ミレーユさんはシモンの言葉に頷くと、彼の言葉に補足を入れる。


「身も蓋も無い言い方すれば、そうです。

国としても、この魔法はあって困るものでは無いので、

最終的に許可は出ると思います……

でも……僕が交渉するんですよね……ああ、胃が痛い……」


シモンは、これからの苦労を想像してか、腹を押さえる。


「手伝えることがあれば言ってくれ、出来ることはやるぞ」


 さすがに、シモン一人に負担を背負わせる訳には行かないので、

自分も協力することを彼に伝える。


「ええ……その時は、本気で頼みます。

実際、レベル70以上であるソージの存在は、

うまく使えば良い交渉材料になり得ます」


 シモンは真剣な顔でそう言った。

彼に手伝いを申し込んだことに後悔は無いが、

また面倒臭いことになりそうだ。

まあ、矢面に立って交渉するシモンに比べれば、

それでもマシだろう。

今回の事件で実感したが、自分はあまり交渉事には向いてないからな。


「……よし、話しておくべきことはこんなところか。

では、ビクトル氏の遺産である『六重聖域』。

この魔法を課題の期限までに頑張って完成させよう。

シモン、ミレーユさんも協力をお願いします」


「はい、頑張りましょう」


「ええ、分かったわ」


自分の言葉に二人は力強く頷いてくれた。




 その後、期限までの間は、魔法陣の完成を目指して作業を行った。

昼間は、自分とアンナ、そしてリゼットで作業を行い。

夜はシモンとミレーユさんにも協力して貰う。


 また、残りの作業と平行して、自分の聖騎士の鎧と聖印を使用して、

ミニチュア版の六重聖域を試してみてが、想定通りの魔法が発動することも確認した。


 そして5日後。

自分とアンナは中央教会にやってきた。


 今日は、課題の期限日であり、ビクトル氏の命日でもある。

作業は既に終わっており、昨日は何度も確認を行った。

また、ビクトル氏の研究成果を書類にまとめ、提出する準備も出来ている。


「……よし、それでは行きますか」


 ビクトル氏は聖人か否か。

それが今日決まる。



ようやく、2章のイベントの7割を消化。

2章自体は終盤に入っているんですが、

内容的には、六重聖域を発動させてからが本番なので、

頑張って更新していきたいなぁ。

なお、作者は現在デスマーチ中……

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