44話 遺産の行方
困惑しているギンさんを地下の祭壇に残し、南部教会に移動する。
南部教会
建物がごちゃごちゃと立ち並ぶ貧民街の中、
ここだけは周りに建物は無く、広い敷地が広がっている。
聖堂の扉を開ける。
ここは、いつも静かだ。
初めて南部教会に来て以来、毎日、朝と夕方に教会に来ているが、
この教会でアンナ以外の人を見たことはない。
もともと一般に向けての教会ではないとは言え、これでは随分と寂しい。
まあ、この教会の司教であるアンナ自身の姿も、初日以来見ていないのだが……
聖堂に誰も居ないことを確認すると、隣に立つ宿舎に移動する。
歩く度に軋む床を早足で移動し、アンナの部屋の前に立つ。
ドアの下には今朝自分が書いた報告書が置いてある。
その報告書には、今日自分が大司教と面会する予定だと書いておいた。
その書類は朝置いておいた時と微妙に位置がずれているため、読んではいるらしい。
しかし、アンナから特にコメントは無い。
「……」
そのことに対して、ため息が出る。
大司教との面会とビクトル氏の遺書で、彼らの事情はだいたい把握した。
その上での結果論ではあるが……アンナは結局、何がしたかったのだろうか?
ただ閉じこもっているだけでは何も進展がないどころか、
時間の経過は事態の解決をより困難にする。
「……それは、自分にも言えることだけどな」
初日にやられた仕打ちから、アンナとまともにコミュニケーションを取ることを放棄し、
周りの人から事情を聞くことにした。
思えば随分と回りくどいことをしていたが……
その結果として事態の把握は出来たのだから、それ自体は無駄ではなかった。
だが、やはり直接会って、話をするのが一番なのだろう。
回り回って、自分はここに戻ってきた。
今日は何があろうと彼女をここから引っ張り出し、ビクトル氏の遺産である地下の祭壇に連れて行く。
そして、彼の遺書を見せて、彼女のこれからを問う。
深く息を吸い、気合を入れる。
既に剣スキルにより、部屋の中に彼女が居ることは確認済みだ。
「すみません、アンナ様!
ビクトル氏について大事な話がありますので、出てきてください!」
まずはいつも通りにドアをノックし、中に聞こえるように大きな声で語りかける。
……だが、反応は無い。
「うん、知ってた」
このやり取りは、毎日やっている。
いつもは諦めて帰っていたが、今日はそれで済ませるつもりは無い。
「仕方ない……今回は本当に大事な用件がありますので、入りますね」
ドアノブを捻り、手前に引く。
しかし、ガチっという金属音。
当然、鍵は掛かっている。
「……ふん!!」
だが、構わずにそのまま力を入れて、全力で引く。
バキンっという金属が割れるような音と共に、ドアノブごとドアが外れる。
「……では、お邪魔します」
捻じ切れたドアノブを放り捨て、部屋の中に入る。
「どうも、アンナさん、お久しぶりです。
突然の訪問、申し訳ありません。
ビクトル氏について、至急お知らせしたいことがあり、参上致しました」
「へ……え、え?」
部屋の中のアンナはシーツを頭から被り、耳を塞ぐようなポーズのまま固まっていた。
顔は呆気にとられ、目は見開かれ、口をパクパクと動かし、声にならない声を上げる。
「ちょ、お、お、おま!
な、何勝手に入ってきてんだよ!!」
アンナは再起動するなり、絶叫する。
自分はアンナの声に耳を塞ぎつつ、彼女の部屋を見回す。
彼女の部屋は、意外にもきれいに整理整頓されていた。
いや……正確に言うなら私物と呼べるようなものがなかった。
部屋の中にあるのは、壁に立てかけられてた槍とベッド、机、本棚、クローゼットのみ。
本棚には魔法書や聖書がぎっしりと詰め込まれているが、
一切の乱れなく整頓されたその様は、部屋の本棚と言うより資料室を連想させる。
大司教の本棚にも魔法書が並んでいたが、あそこには大司教の生活の匂いがあった。
本棚に戻されていないまま積み上げられた本、
黒板に書き殴られた魔法陣、
机に山のように積まれた書類。
それらは大司教が悩み、試行錯誤した跡が感じられた。
しかし、この部屋にはその様な匂いが無かった。
埃一つ無く整頓されたこの部屋は、まるで舞台のセットのようで、
生活感と言うものが欠落している。
どうやればこんな部屋になるのだろうか?
自分の部屋ではないホテルに泊まった時だって、一泊もすれば痕跡が残るものなのに。
視線をアンナに戻すと、彼女は被っていたシーツを右手で掴み、
ちょうど立ち上がったところだった。
「なに人の部屋をジロジロ見てんだ!!
出ていけ!!」
アンナは立ち上がると同時に、右手に掴んだシーツをこちらに放り投げる。
投げられたシーツは自分の視界を白く埋め尽くすように広がるが、
その瞬間、彼女が壁に立てかけられていた槍に手を伸ばす姿が見えた。
槍を取られると面倒だ。
今のアンナは初めて戦った時とは異なり、魔法による強化は無い。
しかし、それでも彼女の戦闘能力は決して侮って良いものではないだろう。
「仕方が無い。いくぞ」
無理やり部屋に押し入った時点で、穏便に行くとは思っていない。
目の前を覆うシーツにかまわず、アンナに突進する。
「ぐ……!!」
突進した直後にアンナの身体にぶつかる。
不意を付かれた彼女は反応出来なかったようだ。
そのままアンナの身体を右腕で掴むと、壁に押さえつける。
「あぐっ!」
「よっと!」
さらに彼女の身体持ち上げると、そのまま右肩に担ぐ。
「くそ、離せ!離せぇ!」
頭に被ったシーツを左手で捲る。
そこには足をバタつかせ、必死にもがくアンナの姿が見えた。
彼女の足は自分の胸を蹴りつけるが、
魔法で強化しているわけでもないただの蹴りは、
自分に対して、まったくダメージを与えられない。
「手荒な真似をして申し訳ありません。
アンナ様、ビクトル氏についてお話がありますので、
自分と一緒に来て頂けませんか?」
「くそ、ふざけるな!
爺さんがどうしたってんだよ!」
「ビクトル氏の遺産が見つかりましたので、
アンナ様にも見て頂きた……」
「はぁ!遺産だと?
嘘をつくな!騙されないぞ!
爺さんにはそんなものはなかったんだよ!
聖印も、聖騎士の鎧も!
何も無かった!」
「いえ、ビクトル氏は地下に祭壇を……」
「うるさい、放せ!
放せ、この!」
アンナに説明しようと語りかけるが、
彼女は顔を怒りで真っ赤にして、自分の言葉を遮る。
「……そりゃ、信じられないよな。
百聞は一見にしかずと言いますし、見た方が早いですね。
揺れますので、舌を噛まない様に気をつけて下さい」
自分で言うのも何だが、さすがにこの様な状況で、説明も何もあったもんじゃないだろう。
当初の予定通り、力尽くで連れて行くことにする。
なおも暴れるアンナの身体を無理やり押さえつけると、
先程投げつけられたシーツをアンナの身体に巻き付け、そのまま教会を出る。
「この!放せ!
どこに連れて行くつもりだ!」
アンナはバタバタと暴れるが、身体に巻きついたシーツが動きを阻害し、
ほとんど抵抗の意味が無い。
「こうなったら……
――眠れる力を解き放……」
「……先程も言いましたが、舌を噛まないように注意して下さい」
魔法を唱えようとしたアンナに対して、
足に力を入れ、全力で地面を踏み、加速する。
レベル74の本気の脚力は、もはや人間とは言えない。
一瞬にして風を切り裂き、弾丸の様に加速する。
「あっ、ぐ!!」
魔法は高い集中力が必要であり、さらに発動には呪文を唱える必要がある。
今のアンナは例えるならジェットコースターに乗っているようなものだ。
はたして、そんな状態で魔法を完成出来るかといえば、まあ無理だろう。
「く……」
アンナは何度か魔法を試そうとしたが、結局、魔法を発動させることは出来なかった。
最終的に彼女は無駄と悟ったようで、抵抗も止めて沈黙した。
前回アンナと戦ったときは敢えて彼女に魔法を使わせていたが、
それがなければ、こうなる。
魔法使いは接近さえしてしまえば、如何にでも対処できる。
そのことを実感しつつ、そのまま地下道を走り抜ける。
「到着っと」
ビクトル氏の地下祭壇に戻ると、右肩に担いだアンナを降ろす。
「ひぅ!」
尻餅をつき、悲鳴を上げると、
シーツに包まったまま、後ろに後ずさる。
「ひぃ!」
そのまま壁にぶつかると、シーツを身体に巻きつける。
「さっきから何やってんだ?」
「こ、こんな所に連れ込んで……
や、やるならやれよ!
あ、アタシは何をされようと……お、お前なんかに屈しないからな!!」
アンナは涙目で、身体をガタガタと震えながら、搾り出すように叫ぶ。
「……?」
一瞬、彼女が何を言っているのかが分からなかったが……
「ああ、そういうこと……」
少し考えてようやく理解した。
どうやらアンナは自分が乱暴するためにここに連れ込んだと、勘違いしているようだった。
確かに無理やり連れて来たけど……納得行かない。
初日で見せた自分に対する、あの舐めた態度はどこに行ったんだ。
「あの、アンナさん……」
「ひぃ、来るな、来るなぁ!!」
アンナは手足をバタつかせ、必死に暴れる。
その姿は誰がどう見ても、完全に屈していた。
「はぁー……もういいや。
あの鎧に見覚えはありますか?」
アンナの頭を鷲掴みにすると、無理やり頭を魔法陣の方に向ける。
「い、痛い、やめ、って、え……?
これ……爺さんの鎧だ!
何でこんなところに……
って言うか、この魔法陣は何だよ!」
「だから、ビクトル氏の遺産だって言ってるだろ」
「本当に……?」
「そうだと言ってる」
「な、何だよ!
まったく、そう言う事は先に言えよな!」
アンナはそう言いながら立ち上がると、
シーツを投げ捨て、癖のある白い長髪をかき上げる。
その様はまるで、羽織ったマントを投げ捨てるように決まっていた。
実際、すらりとした手足に、大きな胸と尻を持つ彼女のそのポーズは、
まるでモデルのようだった。
まあ、彼女の顔だけでなく、尖った耳まで真っ赤になっていたことに目を瞑れば、であるが……
「今更取り繕っても遅いぞ……」
「うるさい!うるさい!うるさい!
さっきのは忘れろ!」
「……アタシは絶対に、屈したりしない……」
「ぬぁー!やめろー!」
「あー、お二人さん。
じゃれ合いはその辺で止めないか、話が先に進まん」
痛いところを突かれ飛び掛ってきたアンナを、ギンさんが制止する。
「おっさん! 何で此処に!!」
「今気が付いたのかよ、この駄目神官め。
そんなだから、お前は爺さんの遺産を受け継げなかったんだ。
お前がそんなんじゃ、爺さんは安心してルニア様の所に行けないだろ」
「遺産? 受け継ぐ?」
事態を飲み込めていないアンナは、怪訝な声で首をかしげる。
「おう、ソージ殿。
お嬢にアレを見せてやんな」
困惑しているアンナに2つの封筒を渡す。
「アンナさん、ビクトル氏からあなたへの遺書です。
ちょっと色々あって、破れてますが……
それと、こちらも読んで下さい。
ビクトル氏から自分への遺書です」
「アタシへの遺書……」
アンナに遺書を渡すと少し離れたところに移動する。
「これ、間違いない。爺さんの字だ……」
そうして、アンナは遺書を黙って読み始める。
その顔は最初は遺書の存在による驚きから、
次第に遺書の内容を一字も見逃さないように、食い入るように見詰める。
彼女はそのまま遺書を読み進め、ついに遺書の最後の部分。
つまり、ビクトル氏から彼女へ宛てたメッセージに至る。
彼女は目に涙を溜め、崩れ落ちる。
「ごめんなさい……アタシはそんな良い子じゃ……ないよ……
アタシは親の顔も知らない……
物心付いたときにはあそこに居た……
食べ物を得るために、犬のようにゴミを漁って……
着る物もなくて、ボロ衣を纏って……
地獄だった……神を呪った……
そんな中で、爺さんはアタシを救い出してくれた……
厳しい修行も、昔に比べれば天国だった……
アタシは神様なんてどうでも良かった……
ただ、爺さんの期待に答えたかった……
それだけだったんだ……
でも、爺さんが死んで、分からなくなった……
アタシは何をしたら良いのか、分からなかったんだ……
……爺さんに愛してもらう資格なんて、アタシにはないよ……」
アンナは涙をボロボロと零し、遺書を握り締める。
ギンさんと自分は、彼女が泣き止むまで黙って待った。
しばらく、蹲り涙を流していた彼女だったが、
身に纏った修道服の袖で、ゴシゴシと涙を強引に拭う。
「アンナ……」
「はは……ソージ、笑えよ。
ほんと、アタシって馬鹿だよなぁ……」
アンナは、涙で赤くなった目でこちらを見ながら、自嘲的な笑みを浮かべる。
「……意味の無い自虐はしなくていい。
笑って、それで何がどうなる?
その遺書を読んだ感想はそんなものか?」
自虐には意味が無い。
ビクトル氏が残したかったものは、そんなものだったのか?
あの遺書を読んだ感想がそれだけなら、期待外れも良いところだ。
「なに……」
「大事なのはこれからどうするか、だ。
その遺書を読んだ上で、アンナはこれからどうする?どうしたい?
まだ職務放棄を続けるのか?」
厳しい口調で、アンナに追求する。
「どうって……アタシはどうなってもいい、だけど、爺さんのこの魔法は完成させたい、けど……
けど、アタシにこの魔法を扱う資格は無いよ……
アタシは爺さんの想いに答えられなかった……この魔法はソージのものだよ……」
一度止まった涙が、また溢れ出す。
唇を噛み千切れるほどに咥える。
目に見えるほどの押さえ切れない感情。
しかし、彼女はそれを押さえつけてしまっていた。
「……随分と潔いな。
それでアンナは諦めるのか?
自分が本当に好きにしていいのか?
ビクトル氏の娘として、この魔法をどこの馬の骨とも分からない他人に任せるのか?」
正直言って、自分にビクトル氏の遺産は荷が重い。
それに、受け継ぐべきなのはアンナだと思っている。
だが、ビクトル氏の意志を曲げて彼女に受け継がせる以上、
彼女に情けない姿を見せてもらっては困る。
だから、アンナに対して敢えて挑発するように語りかける。
「くっ!
じゃあ、どうしろってんだよ!!」
「アンナは資格が無いと言ったが、だったら有ればどうする?
現状ではこの魔法は未完成だ。
自分は剣を振ることは出来ても、魔法は得意じゃない。
だから、完成させるためには魔法が得意な奴の助けが居るんだが……」
「あ……アタシにやらせて下さい!
アタシに出来ることなら何でもする!
だから、お願いします!」
そう言うと、アンナは地面に頭がつきそうなほど、深く頭を下げる。
「何でもって言ったな……その言葉忘れるなよ。
では、アンナはこれからどうするんだ?
これからって言うのは、この魔法が完成した後のことな」
「魔法が完成した後……?」
アンナは頭を上げると、きょとんとした顔で問い返す。
「そうだ。
アンナは自分はどうなってもいいと言ったけど、どうするつもりなんだ?
君は教会に、散々迷惑をかけただろ。
教会だけじゃない、貧民街の住人達にもだ」
アンナは一度目を閉じ、考える。
そして、再び目を開けると、静かに決意を固めた表情で語る。
「……謝って、罪を償うよ。
教会がアタシをどうするかは分からないけど、
もしも許されるなら……もう一度やり直したい。
もう一度……今度は爺さんの娘だと胸を張って言えるように……
だから、ソージごめんな。
ソージの事情は知ってるけど、南部教会の司教の地位は辞するよ」
彼女の表情は、先程までの自嘲の表情からは、随分マシになった。
まぁ……これなら大丈夫だろう。
ギンさんに視線を送ると、彼は静かに頷く。
その目は、自分の好きにしろと、言っているように感じた。
「よし、ではアンナは南部教会の司教を続けろ」
「え、いや……さすがに今まで散々やらかしてきた以上、無理って言うか……」
自分の言葉にアンナは驚き、慌てる。
「何でもするって言っただろ。
別に役職を辞さなくても、罪は償える。
と言うよりも、自分の事情を知っているなら分かるだろ。
教会は自分にアンナを職務復帰させるように説得の課題を出した。
ならば今ならペナルティ無しで、職務復帰できるはずだ」
課題の条件はビクトル氏の命日までにアンナの職務復帰が出来ない場合は、
アンナを南部教会の司教から解任する、だからな。
期限内に職務復帰すれば、少なくとも辞めさせられることは無いだろう。
「ええー……そうかもしれないけどさ……
いや、そもそも何でソージはアタシを辞めさせたくないんだ?」
彼女は職を辞する覚悟を決めたのに、肩透かしを食らったようで、
納得が行かないのだろう。
自分にその理由を問いかける。
「何でって、辞められると自分の課題が果たせなくなるからな」
「はぁ!課題のためかよ!」
「うん、ここまで苦労したんだから、これぐらいはな。
でも良いだろ。アンナが職務復帰をしてくれるなら、自分はビクトル氏の遺産を全部アンナに譲渡するよ。
まぁ、等価交換ってやつだな。
……微妙に価値が釣り合ってないけど」
「いや、全然釣り合ってないよ!
って言うか譲渡する?
あれ?
アタシは爺さんの遺産を受け継ぐ資格が無いから手伝いをするはずだったのに、
爺さんの遺産がアタシの物になる??
うう……頭が混乱してきた。意味分かんないよ……」
アンナは鋭い突込みを入れた後、頭を抱えて唸る。
泣いたり怒ったり、忙しい奴だな。
「まぁ、いいだろ。細かいことは」
「細かくないよ!!
ソージは分かってない!
あんたは教会の信用を得るために課題をこなしてんだろ!
この魔法が完成すればな。そんなチャチな課題なんて意味が無くなる。
この魔法があれば、教会に逆に貸しを作る事だって出来るんだよ!
それだけの価値があるんだ!」
「うーん、別に自分は別に教会に貸しを作りたい訳ではないしなぁ……
とりあえず、信用を得られればそれで十分だ。
それに、ビクトル氏の遺産は、アンナが受け継ぐべきだと思ってる。
だから、自分はビクトル氏の遺産はいらない」
「うう……ソージがそう言うなら……アタシが受け継ぐけど……
なんか、騙されてる気がする……」
「いやいや、騙されてないよ。
自分が受け継いで、アンナに譲渡しただけだから、何も問題は無い」
アンナはまだ何か言いたそうにしているが、
これ以上、誰が遺産を継ぐのか言い合っても仕方がないので、話を進める。
「よし、そうと決まれば、この魔法を完成させないとな。
ところで、作業に取り掛かる前に、聞いておきたいことがあるんだが?」
「うん、何?
アタシに答えられるなら何でも答えるよ」
「では、アンナ。
この魔法は、アウインの街全体を聖域で包むと遺書に書いてあるけど、
それは実際に可能なのか?」
「今更!!!
って言うか書いてあるだろ、遺書に!!
分かって無かったのかよ!!」
そう言われてもなぁ……
遺書は読んだけど、魔法の事は良く分からないんだから、仕方が無いだろう。