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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第2章 聖者の条件
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42話 ビクトルの遺産

「よう、ソージ殿。

そんなに急いで、どうしたんだい?」


 決意を決めた自分に対して声が掛けられる。

それは、貧民街の顔役ギンさんだった。


「ギンさん……そうか、もう一人居た!」


「お、おい、何だ一体?」


 南部教会 先代司教ビクトルを聖人として認めてもらうための功績。

その手がかりとして、彼の義娘のアンナに話を聞こうと思っていたが、ここにもう一人居た。

彼と友好のあった人間、貧民街の顔役であるギンさんだ。


「実は……」


ギンさんに先程の大司教と話した内容を、教会の内情を省いて説明する。


「……なるほど、爺さんを聖人に認めて貰うための功績ねぇ」


「はい、何でも良いです。

何か思い当たるものはありませんか?」


そう言うと、ギンさんはガリガリと頭をかく。


「あー、功績、功績ねぇ……まぁ、お前さんなら良いだろう。

当てが無いわけではないぜ」


「……あるんですか!!」


 正直言って、あまり期待はしていなかったが、

思わぬ言葉に彼に詰め寄る。


「お、おい、落ち着け!

……言っとくがただじゃねぇ、1つ条件を出す。

それに応じてくれれば、教えるよ」


 この貧民街で何かをして貰う時は、金を出せ。

ギンさんが始めに自分に言っていた言葉だ。

前回は金を払ったが、今回は金ではなく、条件だと言う。


「……とりあえず、言ってみて下さい。

可能な限り応じたいところですが、自分にも出来ることと出来ないことがあります」


「なに、そんなに難しい話でもないさ。

ソージ殿、『ブラックファング』ってギルドを知ってるかい?」


「……ブラックファング?

いえ、聞いたことは無いですね」


 ブラックファング、黒い牙か……

どこかで聞いたような気がするが、ぱっと思い出すことは出来ない。

ギルドとは、同業者が集まって作る組合だ。

そのため、このアウインには冒険者ギルドの他にも、

商人や武器職人、錬金術師等が、それぞれギルドを作っている。

ブラックファングも、そのようなギルドの1つなのだろうか?


「まぁ、知らないのも無理はないか。

ブラックファングってのは、この街の賭場や娼館、人身売買、あとは麻薬等を取り仕切ってる裏ギルドさ」


 その言葉に警戒感を強める。

つまり、ブラックファングとは、現実世界で言うところのヤクザやマフィアのような組織か。

個人的な意見では、賭場にしろ娼館にしろ需要があるからこそ、それを供給する組織が出来ると考えている。

だから個人的には好ましくないが、否定はしない。

とは言っても、出来れば関りたくないタイプの組織だ。


「……なるほど、彼らから何か依頼でもあるんですか?」


「察しが良くて助かるよ。

依頼の内容は、彼らの葬儀を引き受けることだ」


「それは……彼らの後始末を、自分にやれと言う事ですか?」


 映画や漫画で出てくる、表に出せないような遺体の処理をしろと言うことだろうか?

自分はこの世界で聖騎士として生きていくことを決めた以上、

目も当てられないような酷い遺体の葬儀でも引き受けるつもりではある。

しかし、さすがに悪事に加担するような真似はしたくない。


「ちょっと、待ってくれ!

説明が足りなかった、ソージ殿は誤解している。

彼らは堅気には手を出さない。

そりゃ、褒められた仕事じゃないが、彼らは裏でひっそりと生き、

汚れ仕事を引き受けてるだけだ」


自分の言葉に、ギンさんは慌てて説明を加える。


「ふむ……では、自分が行うのは誰の葬儀なんですか?」


「彼ら自身の葬儀だよ。

さっきも言ったが、彼らは堅気には手を出さないし、

表に出て活動をしているわけじゃない。

だがな、表の世界と完全に関係を絶つことは出来ない。

彼らも人間だ、何れは死ぬ。

死んだ人間に供養が必要なのは、お前さんがよく知っているだろう?」


「供養されない死体はいずれ、アンデッドとして蘇る」


「そうだ。

だが、彼らは裏の住人だ。大っぴらに教会に頼ることは出来ん」


「それで自分に葬儀の依頼と言うわけですか。

……それなら、構いません。

ただし、自分が行うのは葬儀のみです。

彼らの稼業に口出ししませんが、加担するつもりもありません」


 彼らの葬儀を引き受ける事自体は、貧民街の住人の葬儀を引き受けることと大差はない。

裏稼業の人間と関ることになるのに不安はあるが、

悪事に加担する訳ではないのなら、とりあえず問題ないだろう。

それに、放置してアンデッドになったら大変だしな。


「ああ、もちろん、それで構わない。

爺さんが死んでから、あちらにとっても貧民街にとっても頭の痛い問題だったからな。

お前さんが来てくれて、本当に良かった」


ギンさんは安心したように、ほっと胸を撫で下ろす。


「……それはそうと、彼らは今までどうしてたんですか?

まさか、また下水に遺体を流していた訳では無いですよね?」


自分の言葉に、ギンさんは首を振り否定する。


「貧民街の人間は金がないから下水に流すしかなかったが、彼らは違う。

どんな世界でも集団や秩序に馴染めなくて、はみ出す人間は居るだろう?

そんな落ちこぼれの神官を囲っているのさ。

でもな、あいつらは血の気が多いからレベルはそこそこ高いが、

教養ってもんがない」


 信じられるか、神官の癖にお祈りの言葉すらまともに覚えてないんだぜと、

ギンさんは呆れるように言う。


 ちなみに今まで自分がやってきたのは、野外や緊急時に行う簡易的な祈りである。

きちんとした葬儀の場合は、やらなければいけないことが色々とある。


 こちらの葬儀とは、死者の魂を死を司る女神ルニアに送る、魔術的な儀式だ。

そのため、真面目にやるならば、それなりに長い祈りの言葉があるし、

場を清めるための聖水の使い方や聖布の巻き方、その他儀式としての様々な手順があるため難しいのだ。


「今までは奴らを使って騙し騙しでやってるが、彼らが求めてるのは戦闘員ではなく、

きちんと儀式が出来る神官なんだ。

そんな理由でな、まともな神官はいつでも募集中なんだよ」


 まとも、ねぇ……

儀式についてはミレーユさんに一通り教えてもらったが、

自分はどちらかと言えば、彼らと同じでまともではない側の人間だ。


 まあ、聖騎士として生きていくことを決めたのだから、

やらなければならないなら、やるしかない。


「分かりました、その役目は引き受けましょう。

次はあなたの番です。ビクトル氏の功績について聞かせてください」


「ああ、そうだな。

これがお前さんの求めるものであればいいが……

言葉で説明するよりも見た方が速い、着いて来てくれ」


「はぁ……分かりました」


 自分の言葉に頷くと、ギンさんは貧民街の奥に向かって歩いていく。

貧民街の奥から、以前潜った地下道に入る。


「―光よ、道を照らせ―ライト!

……で、こんな所に何かあるんですか?」


暗い地下道に魔法の光が辺りを照らす。


「ああ、前着たところとは別のところだ。

少し距離があるが、着いて来てくれ」


 彼の言葉に従い、薄暗い地下道を歩いて行く。

地下道は適当に増改築をしたのだろうか、道は曲がりくねっている。

薄暗さと同じようなレンガ造りの道が続くため、道を記憶するのが大変だ。


 そろそろ、地下道に入ってから1時間はたっただろうか?

脳内マッピングが正しければ、南部地区から出て、アウインの中央に位置する所まで来ているはずだ。

地上を歩いて行けば、恐らく30分程度の位置だろう。


「……ここだ、ここに爺さんの遺産がある。

もっとも、それに価値があるのかは俺には分からんがね」


 そう言うとギンさんは壁の前で立ち止まる。


「ビクトル氏の遺産ですか?

何もないですけど?」


 ビクトル氏の遺産。

その響きは、現状を打破できそうな素敵な響きを含んでいる。

しかし、目の前にあるのは、周りと変わらないただのレンガ造りの壁だ。


「まあ、見てな」


 そう言うと、ギンさんは壁に手を当てる。

すると、その部分のレンガが奥に押し込まれる。


「っ!」


 土煙が上がり、ガリガリと地響きを立てて、

目の前の壁が左右に開く。


おお!

何かすごく、それっぽい!


「この中にビクトル氏の遺産が?」


「ああ、そうだ」


 壁を抜けた先にあったのは、祭壇だった。

壁をくり貫いたような5メートル四方の部屋の中央に、

一段高く石の床が置かれている。

その石の床には複雑な魔法陣が刻まれており、光のフラグメントが規則的にはめ込まれている。

さらに、魔法陣の中央には、聖騎士の鎧と聖印が安置されていた。


「これは……」


「爺さんの聖騎士の鎧と聖印だ」


「……!!

聖印や鎧は盗まれた筈ではなかったんですか?」


「……そんなこと言ったか?」


 自分の言葉にギンさんは不思議そうに尋ね返す。

いや確かに、見つかった遺体からは聖印も鎧も盗られたと聞いたはずだ。

記憶違いでもあっただろうかと、自分の記憶を思い返す。


「……あ、そうだ。

確かに、ギンさんは言ってない」


 ギンさんはビクトル氏が死んだ理由が、強盗に殺されたからとしか言っていない。

彼の遺体から聖印も鎧も見つからなかったと言っていたのは、シモンだ。

どうやら、いつの間にか混同していたらしい。


「それが、こんな所にあったなんて……いや、それは今は良い。

これがビクトル氏の遺産ですか?

これは何の魔法陣なんですか?」


今重要なのは、これが彼を聖人として認めさせることが出来る功績かと言うことだ。


「さてな。

俺は何かすごい魔法だとしか知らないが……

詳しいことは、これに書いてあるはずだ」


 そう言うと、ギンさんは祭壇の横に置かれていた机の引き出しから、

2つの封筒を取り出すと、1つを自分に渡す。


「……これは?」


「爺さんが自分に何かあったときに、後任の南部教会の神官に渡して欲しいと頼まれていた遺書だよ。

本当ならアンナに渡すはずだったんだがな。

あのお嬢は爺さんの死後、全てを投げ出して引きこもっちまったからな。

……貧民街の顔役としては、お嬢を後任とは認められなかった」


 残念そうにギンさんは語る。

この魔法陣の存在はアンナはもちろん、教会も知らないはずだ。

アンナがボイコットさえしなければ、これは既に表に出ていたはずだったのか。


 少なくとも教会で問題となっていた、これでビクトル氏が聖印や聖騎士の鎧を紛失していた問題は解決していたはずだ。

さらに言えば、この魔法陣に彼を聖人として認めさせる程の価値があれば……

今回の課題そのものが解決していたのかもしれない。


 ……いや、仮定の話に意味はないし、

肝心の魔法陣に価値がなければ、これもまた意味が無い。


 受け取った封筒の封を切る。

そこに書かれていたのは……


「――大規模結界セクステット 六重聖域サンクチュアリ――」


それは、フラグメントワールドがゲームだった時には存在していなかった魔法だった。



少し短いですが、きりが良いのでここまで。

GW中は実家に帰ったりするので、投稿出来るか未定。

ノートパソコンは持っていくから書き溜めは出来るので、

5月中には2章を終わらせたい。

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