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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第1章 ゾンビより悍ましいもの
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17話 ダンジョン探索に向けて

時刻は午後10時、

2時間後にはダンジョンだ。

それまでにしっかり回復しておかなければ……

回復の体制を取り、目を閉じる。



……ゆっくりと目を開ける。

現在、時刻午後11時30分。

ダンジョン探索の30分前だ。


自分自身の状態を確認する。

HP・MP共に全快。

今日の探索の疲れ、眠気も無い。


「コンディションは問題なし。

アウインの水場では戦闘後にぶっ倒れていたが……

慣れてきたな。」


元の世界に居た時にはまるで縁の無かった戦闘に慣れることは、

いいことなのか、それは分からない。


「……だが、少なくとも今は必要だ。」


思考を切り替え、ダンジョン探索の準備を始める。

自分がいるのはブルード町長宅のゲストルームであり、

自分以外に人はいない。


目の前にメニュー画面を展開する。


回復中にダンジョン探索の作戦を考えていた。

まず前提として今回は未確認のダンジョンを探索しなければならないため、

メタ知識を使った対策は使えない。


その為、前もって出来る準備は一般的なダンジョン攻略用の準備以外にできることが無い。


スキルメニューを展開する。



-------------------------------------------

残りスキルポイント:4

-------------------------------------------



スキルポイントを使用したスキルの習得は才能や経験、知識といったものを無視して技能を修得できる。


例えば、剣戦闘:Lv5、中量装備:Lv5等のスキル。

前者は剣の扱いや戦闘の方法を、後者は鎧を着た状態での身体捌きを身につけることが出来る。

ただのプログラマーに過ぎない自分が戦えるのはこのスキルがあるためである。


このように、ただの素人を一瞬にしてプロフェッショナルに変えるスキルポイントによる技能の習得は、

自分のもつチートの中でも重要度の高いものだ。


今回、そのスキルポイントを使用する。

スキルメニューから共通魔法(コモンマジック)の項目を選択する。

ずらりとスキルが並ぶその中にお目当てのスキルを見つける。


そのスキルは『ライト』だ。


ダンジョンは坑道の奥にあるため、坑道内同様に光源は期待できない。

さらに、今回のダンジョン探索はミレーユさんに黙ってやる以上、

ミレーユさんからの支援は無い。

だから、光源の確保は絶対に必要なのだ。


「必要なのは間違いないが……」

まさかライトのような地味な魔法に、

大事なスキルポイントを使用することになるとは……


「いや、重要なのは間違いないんだ。

それに、これからもダンジョンに入るのなら無駄にはならないはずだ。」


覚悟を決めてスキル習得のボタンを押す。

スキルポイントは4から3に減り、

変わりにライトLv1を習得する。


「……次だ、次」

気持ちを切り替えてアイテムメニューを開く。


アイテムメニュー内に格納されているアイテムリストを確認する。

まず、重要なのはなんと言っても聖水だ。

ゾンビを一撃で倒せる聖水は今回の探索において鍵になるアイテムだ。

残りの本数は76本。

馬車の中にはまだ聖水があったはずだ、50本ぐらい貰っていこう。


元々馬車に積んである聖水は自分の報酬から出ているのだ、

問題は無いだろう。


後は、装備の確認だ。


今自分がが装備しているのはムーンライトセイバーだ。

光属性の片手剣。特にアンデッドに対しては追加ダメージを発揮する聖剣だ。


今回のダンジョンは未探索であるため、ミレーユさんも言っていたが、

何が出てくるのかは分からない。


だが、現状ではダンジョンから出てきたモンスターがゾンビだけだったことから、

やはりゾンビ等のアンデッドが主体であると自分は予想している。

そのためアンデッドに強い聖騎士の装備を主力として使用していく。


ただ、今までは聖騎士らしさを演出するため、

こちらの世界の聖騎士の標準装備であるムーンライトセイバーを装備していたが、

本来は状況に合わせて装備を変えるべきなのだ。


特に今回はミレーユさんの目もなく、何よりも自分の命がかかっているため、

聖剣縛りを解禁する。



実は今回、冒険者ギルド内のアイテム倉庫からいくつか武器を持ってきていたのだ。

アイテムメニューから装備の項目を選択する。


武器を選ぶ上で重要な項目は三つある。

それは攻撃力、属性、特殊効果だ。


『攻撃力』はそのまま武器の攻撃力だ。

高いと大きなダメージを与えることが出来る。


『属性』は武器の持つ属性だ。

フラグメントワールドは、

火、水、風、土、光、闇の6属性がある。

敵の弱点となる属性の武器を装備していれば高いダメージを与えることが出来る。


『特殊効果』は、武器が持つ様々な効果だ。

追加ダメージや状態異常の付与、HP,MPの吸収等、様々な効果があり、

うまく効果を引き出せば敵をはめ殺すことも出来る。


このように、武器には特色があり、

状況によって、使い分けることで戦闘を有利に進めることが出来る。

ただし、複数の武器を持ち込むとその武器の重量分の負荷がかかり、

それにより、素早さにのステータスにペナルティがかかる。


今回持ってきた分では、速度ペナルティがかかるギリギリなので、

聖水を多めに持ち込む分、重量調整をする必要がある。


アイテムメニューの装備の項目から今回持ち込んだ武器を選択する。

『白光』

光属性の刀であり、特殊能力として攻撃の際に光の刃が飛び出し、

離れた相手にも攻撃できる。

その分攻撃力は低めだが、遠距離攻撃ができるというのは魅力的だ。

これは持って行こう。


そしてもう1つ

『フェザーカッター』

風属性のナイフ。特殊能力は素早さのステータスを大幅に上昇させる。

ただし、ナイフというだけあって攻撃力は低い。

完全に効果頼みの武器だが、攻撃時だけでなく装備しているだけで素早さを上げることが出来る。


今回は探索に時間制限がある以上、迅速に動く必要がある。

これも使えるだろう。


その他に自分が持っているレア武器として、

火属性の片手剣と土属性のマチェットがあるが、

今回は必要ないので置いていくことにする。


その他の不要な装備を鍵付きのクローゼットに押し込み、

これで準備は完了だ。


最後に目的を確認する。


目的はダンジョン内に残されたトマの遺体を回収すること。

ダンジョンの制覇や、レアアイテムの回収、ボスモンスターの撃破と言ったものは、

今回の探索には不要な要素だ。


だからダンジョン内で宝箱を見つけても無視するし、

モンスターも倒さなくて良い敵は倒さない。

ダンジョンの途中でもトマの遺体を見つけたらすぐに引き返す。


次に、撤退の条件を確認する。

トマの遺体を見つけた時は、もちろん撤退するが、

それは今回の目的を達成したための撤退であるため、特に考える必要はない。


考えないといけないのは、探索失敗による撤退だ。

まず、明日の午前9時にはダンジョンの入口を物理的に塞ぐ予定であるため、

それまでには地上に戻らなければならない。

これは時間的な制約によるものだ。


次に、ダンジョン内で罠や敵等によって自分の命が危ないと判断したら撤退する。

これは自分が許容できるリスクがどこまでか、というものだ。


自分は聖人では無い。

もし見つからなかった場合、下手に期待させた分、

リゼットさんを深い絶望に叩き落とすことになるし、

最悪の場合は自殺をしてしまうかもしれない。


ただ、それでもこれが自分にできるギリギリの精一杯だ。

さすがに自分の命は惜しい。


「…こんなところか」

目的と撤退条件を確認し、とれる準備は終了した。


時刻は午前0時。

ダンジョン探索の時間だ。



ゲストルームを出た後、途中馬車によって聖水を補充し、

ブルードの鉱山に向かう。


ブルードの町の人々はそれぞれ家族との最後の別れの時をすごしているのだろう。

深夜だというのに人の気配はするが、家の外には誰もいない。


無人の夜の町を一人歩き、ブルード鉱山に移動する。

鉱山に向かう際にミレーユさんに見つからないか不安だったが大丈夫そうだ。


自分なりに正しいと思った事をしているので、こそこそとする必要は無いのだが、

それでもミレーユさんの言葉を無視しようとしているだ。

そこには多少の罪悪感はある。

しかし、自分は納得できなかった。

だから行くと決めたのだ。


そうして、ブルードの鉱山に到着する。


鉱山の入り口には今日の探索後と同様にかがり火が焚かれており、

そこには二人の人影が見えた。


その影はリゼットさんとミレーユさんだった。



リゼットさんは手に弓を持っており、矢が入った矢筒を肩にかけている。

また、昼間見たときはボロボロの服を纏っていたが、

今は厚手の皮の服を身に着け、手には同じく皮の篭手、足には皮のブーツを履いてた。

それは明らかに戦闘を想定した装備であり、ダンジョンに潜るつもりなのだろう。


それとは対照的なのが、ミレーユさんの服装だ。

腰につけたベルトに杖を挿してはいるが、

普段身に着けている修道服ではなく、白いブラウスと黒いスカートを身につけている。

その姿はとても戦闘に耐えれるようなものではなく、完全に普段着だ。

リゼットさんとは反対にダンジョンに潜る気など無いということだろう。


……しかし、リゼットさんは分かるが、なぜミレーユさんがいるんだ?

まあ、このまま黙っている訳にも行かないのでミレーユさんに話しかける。


「……こんばんは、ミレーユさん。

こんな夜更けに女性が外に居るのは感心しませんね。

町長の家まで送りますよ。」


「よくこの状況でそんな白々しい言葉が吐けるわね。

あなたこそ、今日はもう寝るんじゃなかったの?」


「ええ、寝てきましたよ。ほんの一時間程度ですが。」


「……ふぅん、まあいいわ。

ソージ、冒険者ギルドの依頼はもう終わったの。

あなたがダンジョンに潜る必要は無いわ。」


「ええ、ですので自分は冒険者としてではなく、

ただのソージとしてここにいます。

プライベートな時間に自分が何をしようと自分の勝手です。」


「私はそんな言葉遊びをしに来たんじゃない!!」

「……」

「……ひぅ!」


ミレーユさんの怒号が響き、隣に居たリゼットさんが小さく悲鳴を漏らす。

当たり前のことであるが、ミレーユさんは激怒していた。

視線だけでも人が殺せそうな勢いだ。


しかし、こちらも引く気は無いのだ。

真っ直ぐにミレーユさんを睨み返す。


「あ、あのう……

ミレーユ様はソージ様とダンジョンに入るんですよね……」

おずおずとリゼットさんが質問する。


「……」

ミレーユさんの服装を考えれば、それは無い。


「ああ、ごめんなさいね。あれ嘘なのよ。」

「え……そ、そんな!」


「ああ、なるほど。そうやって聞き出したのか……

自分が言うのも何ですが、人の弱みに付け込むやり方は気に入らないですね。」


「仕方が無いでしょう。

あなたがまだ諦めてないのは分かっていたけど、私に話す気が無いんだから。

……ソージ、あなたはブルード鉱山を出てからずっとリゼットを探してたでしょう?

私には話して無くても彼女には何をするつもりか話をしているはずだと思ったからね。

だから彼女に聞いたのよ。」


「……口止めをするべきだったか」

とは言え、そんなことをすれば、

ミレーユさんと足並みが揃っていないことがばれる。

それでリゼットさんに余計な心配をかけないように、

余計な事は言わなかったが、裏目に出たか……


しかし、ミレーユさんは彼女の事情を自分と一緒に聞いていたにもかかわらず、

彼女を騙す形で情報を抜いてきた。

先にミレーユさんを騙そうとしたのは自分であり、

彼女を非難出来る立場ではないが、それでも敢えて言わせてもらえば手段がえげつない。


短い付き合いではあるが、

自分の知っている範囲での彼女はそこまで強引な手段を取るような人物には思えない。


何が彼女をそうさせる?


「……なぜそうまでしてダンジョン探索に反対なのですか?

ミレーユさん自身が言っていたでしょう。

ギルドとしての依頼は既に終了していますし、明日の合同葬儀に自分は必要ありません。

仮に自分がダンジョン探索で死んだとしてもミレーユさんには関係無いはずです。」


「……このバカ!」

思いっきり殴られた。


「あなたはそれで良いでしょうよ。自分で納得して死んでいくんだから。

でもね、それで残された人間がどんな気持ちになるか分かる!

私がそこから立ち直るのにどれだけ時間がかかったか、あなに分かるの!」


ミレーユさんの怒声が響く。

目に涙を浮かべたミレーユさんは、

普段の余裕のある態度から考えられないぐらいに、

切迫した顔をしており、尋常じゃない事態であることが分かる。



「……以前にもこのようなことが?」

「……っ!

……ええ、そうよ。

私はね、今でこそ冒険者ギルドの専属神官をやっているけど、

昔は普通に冒険者をやっていたのよ。」


ミレーユさんにとっては、もともと話すつもりが無いことだったのだろう。

口を滑らせた、そんな顔をしている。

しかし、逆にそれにより覚悟を決めたのだろう。

「……まあ、いいわ。

あなたはダンジョンを甘く見すぎてる。

……少し昔話をして上げる。」


ミレーユさんの口から彼女の過去が語られた。


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