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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第1章 ゾンビより悍ましいもの
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13話 ブルードの事情

そうして、この場にはミレーユさんと自分、そしてエルフの少女が残された。


「ソージの馬鹿!

なにやってんのよ! 町の住人と殺し合いでもする気?」

ミレーユさんが突っかかってくるが、こちらにも言い分がある。


「いや、ミレーユさんも見てたんでしょう?

 いくら何でもあれは酷すぎだ。」

「……まあ、見ていて気持ちの良いものでは無いけどね。

このラズライト王国はヒューマンの国よ。

そして、ヒューマンの両親からエルフが生まれたんでしょ?

それなら、こうなるわよ。」

「ヒューマンからエルフが生まれることは何か問題なんですか?」


ゲームや漫画では人間ヒューマンとエルフの混血であるハーフエルフは、

よくある設定だ。

まあ、彼女の場合は両方ともヒューマンらしいが……

それがあの虐待の理由なのか?


「両親共にヒューマンでエルフの子が生まれるのは珍しいけど、

問題はそこではないわ。

仮に彼女がドワーフだったとしても同じことが起きていたと思うわ。」


「それはヒューマンでは無いことが問題ということか?

……つまり人種差別ということですか?」

「まあ、そういうことね。」

「いや、それはおかしい。アウインにもエルフやドワーフは普通に居たはずだ。」


フラグメントワールドではプレイヤーキャラクターとして、

ヒューマン、

エルフ、

ドワーフ、

フェアリー、

ワーウルフ、

オーガ、

オートマトンの7種族。

そして、プレイヤーキャラクターとしては選択できない人類の敵対種のデーモン、

つまり魔族がいる。


それはこの異世界となったフラグメントワールドでも同じだ。

ヒューマンの都市であるアウインにもヒューマン以外の種族はいた。

今回の依頼を請けた冒険者ギルドにもいたし、

冒険者以外にも武器屋、道具屋、宿屋等……


確かにヒューマンに比べて数は少ないが他種族の者達は確かにいた。

そして、彼らが差別や虐待を受けている姿は見たことがない。


「そりゃ、魔族を除いた他の種族間で戦争をしているわけではないし、

鎖国をしているわけでもないからね。

そして、アウインはラズライト王国の第2都市。

仕事の都合とか色々あるでしょう?

昔から一定数の他種族はいるのよ。」


「だったらなぜ?」

「ここブルードの町は鉱山の町。

ここの鉱山自体は規模も小さいから、産出量も大した事は無いけど

それでも国の重要な資源地であることに変わりはないわ。

だから、この町はヒューマン以外の種族の立ち入りを制限しているのよ」

「つまり、この町には外から他種族が入る余地は無いと言うことですか?」


「そう、それに知ってる?

この町の住人の9割以上が鉱山奴隷なのよ。

奴隷身分には財産の所有権はあるけど、移住の権限は無い。

いえ、そもそも町の外に自由に出ることすら出来ないわ。

だからこの町の住人は死ぬまでこの町の外に出ることはないし、

この町の外から他種族の人間が来ることもない。

ここはね、とっても閉鎖された場所なのよ。」


異世界になったブルードの町がそんなことになっているとは……

これでは、陸の孤島だ。

彼らにしてみれば他種族というのは、言葉以上に異質なモノなのだろう。

なるほど、この町が差別を助長しやすい環境にあることは分かった。


しかし、まだ疑問は晴れない。その疑問は彼らの言動にある。

彼らはこの町に起こる不幸をすべて彼女のせいであると言っていた。

それは少なくとも自分には本気でそう考えているように見えた。


ただそこに居るだけで周りを不幸にする……

本当にそんなことは有り得るだろうか?


元の世界でならば迷信だと即答するが、

今自分がいるのは神や魔法が普通に存在する異世界だ。

そのような存在が居ないとは限らない。


もしかしたら町の住人のほうが正しいのかもしれないのだ。


だめだ、考えてみても結論は出ない。

今日彼女と出会った自分には客観的に判断するには、

判断材料が少なすぎる。


そうなると主観でどう思うのかということになるが……

自分はやはり迷信だと思う。

もちろん根拠がある訳ではない。



まあ、とにかく今は後ろに居る少女だ。

振り返ると少女は頭を抱えしゃがみ込んでいた。

「大丈夫ですか?」

なるべく怖がらせないように気を使い話しかける。

「私は、違う……

私は……何も、していない……

違う……私は……」


涙声でうわごとの様に繰り返す。

その様子はとても見ていられるものでは無かった。

何と声をかけて良いのか分からない程だが、

殴られた傷は回復させるべきだろう。


頭の中にメニュー画面を展開し、

そこからショートカットに登録してあるヒールを選択する。


淡い光が彼女を包み込む。

「あ……」

ようやく、彼女は顔を上げてこちらを見る。

顔には目立った外傷は無く、ヒールがうまく効いたようでそっと胸をなでおろす。

ここに来てから魔法は幾度も使っているのだが未だに慣れない。


「自分は聖騎士のソージです。……立てますか?」

「すみませんでした……聖騎士様……

私は、リゼット……です……」

こちらの差し出した手を、震える手で掴む。

手を引いて立ち上がらせようとするが、その重さは驚くほどに軽い。


「おっと!」

強化された身体能力がまずかったのか、

リゼットさんはバランスを崩し再び倒れそうになるが、慌てて身体を支える。


「えっと、すみません。」

「あ、う……

わ、私……ご、ごめんなさい……

ごめん、なさい……」


思わず抱き止めてしまった身体を離す。

リゼットさんは、こちらが悪いにもかかわらず、

謝罪の言葉を繰り返す。

それは、ほとんど条件反射のようなものだった。

どちらが悪いのかを考える前にとにかく謝罪する。

彼女のこの町での立場がどうなっているのかがよく分かる。


「いや、悪いのは自分のほうだから……」

「……」

なんとか宥めようと言葉をかけ続け、落ち着かせることはできたが、

リゼットさんは顔を伏せて黙ってしまった。

沈黙が心に痛い。


「まったく、何やってんのよ。

……ここに来た理由忘れてない?

そろそろ時間よ、ソージ。」

自分達を黙ってみていたミレーユさんから声が掛かる。


確かに自分は遺体の回収のためにこの町に来たが、

この状態の彼女を一人残して行くのは、どうにも不安だ。


せめて彼女にして上げられることはないだろうか?


「……そうだ。

リゼットさん、あなたの婚約者の特徴を教えて下さい。

最優先で探しますよ。」


そう、リゼットさんの婚約者も鉱山に取り残されてしまっていた。

ほぼ死は確定とはいえ自分に出来ることはある。

自分の言葉にリゼットさんは途切れ途切れではあるが、

彼女の婚約者の特徴を述べる。


「ト、トマの……お、おでこには、大きな傷跡があるから……」

「額に傷跡……ね。

 分かりました。絶対に探し出します!」

自信を持って言い切った。

見つけられる確証は当然無いが、それでも絶対に見つけなければならないだろう。

そうでなければ、余りにも彼女が憐れではないか。


「あ、ありがとう、ございます……」

その言葉にはまだ暗い影が落ちている。


仮に彼を見つけられたとしても、おそらく死体だ。

生きてはいない。


彼女はこのまま、一人で生きていくのか……

別に自分が彼女を救わなければならない義理も義務も無いが、

それでも何も出来ない自分に腹が立つ。


それでもまずは約束を果たそう。

そうしてリゼットさんと別れ、鉱山の入り口に向かう。



ブルードの町の北、そこに鉱山の入り口はある。

その鉱山の入り口はゾンビが町にあふれ出ることを防ぐために爆破され、

土と岩で塞がっていた。


鉱山の入り口前には自分とミレーユさん、

そしてジョゼフさんと無事だった鉱夫達が集まっていた。

鉱夫達には鉱山の道案内と遺体の回収作業をしてもらう。


鉱夫達の顔からは不安と緊張が見て取れたが、だがそれだけではない。

彼らの顔には一様に決意を固めた意思が感じられる。

自分達が仲間の遺体を回収する、そういう決意だ。


彼らの顔を見ていると彼らは紛れも無く被害者であり、

それでも最善を尽くそうとする善意ある人間のように見える。

とても、リゼットさんにあのような行いをする人間には見えない。


何が悪くてそうなったのか、自分には分からないし、

どうすれば良いのかも分からない。


だから、今は目の前の事に集中しよう。


「……よし!ミレーユさんこちらは準備できました。

いつでもいいですよ。」

鉱夫に借りた大型のスコップとツルハシを手にミレーユさんに合図を送る。


「じゃ、やりましょうか。

眠れる力を解き放て――ブレイブ!!」

ミレーユさんの魔法により、体の中から力があふれ出す。


ミレーユさんがバックアップにつき、

自分は借りたスコップとツルハシを用いて『採掘』スキルと人外の筋力で掘り返す。

人間削岩機と化した自分にとって、土の壁は大した障害ではなく、

30分程度で大方の岩と土を取り除くことが出来た。

貫通まであとひと堀りと行ったところだろう。


だが、ここでそのまま掘り進めてしまうと、

ゾンビが入り口近くにいた場合に出てきてしまう。

そこでミレーユさんの出番というわけだ。


「そろそろか……ミレーユさんお願いします。」


「ええ、任せなさい。」

ミレーユさんは普段首から下げている聖印を外しながら、

鉱山の入り口に立つ。

「――主神マーヤよ、我に力を貸したまえ……

我が聖域は不浄なる者、その一切の進入を禁ず――サンクチュアリ!!」


ミレーユさんが手に持っていた聖印が浮き上がり輝き出す。

光は聖印を中心に広がり、半径20メートル程の円を描く。

それは鉱山の入り口も範囲に含まれる。

光はそのまま固定化し、ミレーユさんの聖印はそのまま宙に浮き続ける。


「ふぅ……

久々の範囲拡大付きの高レベル魔法は疲れるわ……」

「大丈夫ですか?」


「ええ、一度発動してしまえば負担はそこまできつい訳ではないわ。

さて、これで準備は整ったわね。

本来サンクチュアリの魔法は発動した者を中心として展開されるものだけど、

今回は私の聖印を要に使っているから、私がこの場を離れても結界は維持されるわ。

ただし、私は聖印の守りを失うし、聖印の補助があるとはいえ、

結界を維持するための魔力は私が負担することになるから、私は出来る限り戦いたく無いわ。

そういうわけで、戦闘はよろしく。」


「元々そういう分担ですし、問題ないですよ。

それでは、皆さん準備はよろしいですか?」

振り返り、鉱夫達を一通り見回す。

彼らは緊張に顔を硬くしているが、逃げ出すものはいない。


「では、行きますよ……」

空気を肺いっぱいに吸い込み……

「おらぁあああ!!」

鉱山の入り口を塞ぐ最後の土の壁を蹴り飛ばした。


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