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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第1章 ゾンビより悍ましいもの
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10話 冒険者ギルドへ

ここから1章が始まります。


水場へのモンスター襲撃事件から2日が経過した。


 本当は昨日のうちに冒険者ギルドに顔を出したかったが、

思った以上に精神面での疲労が深く、外に出る気にはならなかった。

しかし、一日部屋の中でじっとしているのも、それはそれで暇だったため、

昨日の出来事や異世界に着てからの情報をノートに整理して過ごした。


 改めて現状の目標を確認する。

第1目標は現実世界への帰還である。


 以前までは現実世界へ戻りたい理由は、元の世界への未練であった。

しかし、2日前のモンスターの襲撃を経験した今、その理由は変化していた。


 単純にこの世界で生きていくのがつらい、

それが今の理由だった。


 今の自分の身体はこの世界では破格のレベル73であるため、

自分自身は余程危険なことをしなければ命の危険は無い。

しかし、自分の周りはそうではないのだ。

モンスターが闊歩するこの世界において人間の命は余りにも容易く失われていく。

見知らぬ人であっても彼らが死んでいくところは見たくない。


 弱者が死んでいくのは仕方が無い、

自分が彼らと同じ弱者であれば、そう割り切ることも出来ただろう。

だが、困ったことに自分には力があるのだ。

自分が力を出し惜しみしたせいで人が死ぬ、

そういう状況は本当に勘弁して欲しい。


 しかし、この世界で活動を続けるのなら、

その状況は常に付き纏うことになるだろう。

……心労で倒れる未来しか見えない。


 だから、そうなる前にこの世界から、さよならしよう。

そう決意を固め、今日の活動を開始する。


 現在の時刻は朝の9時30分。

ステータスメニューの左下には時刻が表示されている。

文明が中世レベルの異世界であるにもかかわらず、

正確な時刻が知れるのはいいことだ。

まあ、この世界の住人たちもステータス画面は表示させられるため、

自分だけの特権ではないのだが。


 宿屋で朝食を済ませ、装備メニューから聖騎士の鎧を選択。

一瞬で鎧を着込むと宿屋を出る。


今日は冒険者ギルドに行く予定だ。


 異世界に来て一ヶ月が経過したが、未だ原因は分からず、

早期に現実世界に帰還することは出来ないと判断した。

いくら自分がチートで身体能力を強化していたとしても、

衣食住が足りていなければ生きていけない。

そのため、この世界で活動を続けるために生活基盤を築く必要がある。


 冒険者ギルドに行くのもその一環だ。

一応、今の自分は冒険者ギルドに所属している聖騎士と言う事になっている。


 本来、聖騎士や神官は教会の所属であるのだが、

修行として一時的に冒険者ギルドに所属し、

冒険者として活動を行うことがあるらしい。

自分もそのような聖騎士の一人と言う事にしているのだ。


「おっと、その前に道具屋に行かないとな」


 冒険者ギルドに行く前に道具屋に行き、回復アイテムの補充を行う。

この前のモンスターの襲撃の際には、回復アイテムの補充を怠ったために、

酷い目にあった。

この世界では1つのミスで人が死にかねない。

同じミスを繰り返すわけには行かないのだ。


道具屋に寄り道をしつつ、冒険者ギルドに到着する。


 冒険者ギルドは、ここら一帯にある建物の中で一際大きく、

すぐに見つけることが出来た。

冒険者ギルドの扉に手をかけ、中に入る。


 この冒険者ギルドは不思議な構成をしている。

入り口から右手には市役所のように窓口があり、そこには受付のギルド員が座り、冒険者の相手をしている。

壁に目を向けると、備え付けの掲示板に、メモ書きが所狭しと並んでいた。

次にその反対側、入り口の左手を見ると、そこにはいくつかのテーブルが並んでおり、奥には厨房が見え、棚の上には酒瓶がいくつも並んでいた。


要は酒場と市役所を足したような感じである。


 朝食は済ませてきたばかりだ。

酒場から視線を戻し、冒険者として依頼を請けるため、

右手にある窓口に向かう。

窓口には既に30人程度の人間がいたが、

彼らは一瞬こちらを向くがすぐに目をそらした。


「……」

この世界に来て1ヶ月が経過した現在、自分の評価は変人である。


 それは情報収集のために冒険者に根掘り葉掘り質問をしまくり、

レベル73という高レベルであるにも関わらず、

冒険者が当然のように知っていることは全く知らない。

さらに、街中や初心者用の狩場をウロチョロしているくせに、

ギルドの依頼はまったく受けない。


これでは変人として思われても仕方がないというよりも、

正に変人である。


 これらは脇目も振らず異世界の調査を優先させたことが原因だが、

一般の冒険者ならまだ良かったが、自分のレベルが73であったため、

余計に不審を与えることになったのだ。


ちなみにレベルの目安は以下のような感じだ。

1~10:一般人

10~20以下:見習い冒険者

20~40以下:中堅

40~60以下:上級者

70~80以下:達人

それ以上:人外、神の領域


 完全にこの数字で区切りがあるわけではないが、

この世界で色々な人に意見を聞いた結果なので、

大雑把に相手を把握するにはこれで問題は無いはずだ。


 これから考えると、レベル73はこの世界では十分に上位者だ。

現実世界で言えばオリンピック選手レベル。

間違いなく全人類の中でも上位レベルではあるのだが、

このレベルの人間が意味不明な行動をしているのだ。

誰だってかかわりたく無いのは当然である。


「はぁ……やってしまったことは仕方ない。

大事なのはこれからだ。」


 気を取り直してギルドの窓口に向かう。

複数ある窓口の1つにいるのは、

不幸にも自分の担当となったギルド員の女性だ。


 この世界では、冒険者にはそれぞれ担当のギルド員がつく。

基本的に、ギルドの依頼は担当のギルド員を通して行う形になる。


 なぜこのような形を取るかと言えば、

実力の無い冒険者が依頼を請けて失敗することを防ぐためだ。

ギルド員は担当する冒険者の実力を把握し、

冒険者が不相応な依頼を請けないようにする。


 そのため、冒険者は自由に依頼を請けることが出来るわけではなく、

ギルド員の了承したものしか請けることが出来ない。


 仮に、ギルド員に許可を取らずに依頼をこなしたとしても、

ギルドから報奨は得られない。

例外としては指名手配犯、つまり賞金首があるが、

今回は普通に依頼を請けようと思う。


 まずは、採集あたりの軽い依頼からやっていきたいが……

さて、どうなるか。


「ようやく来ましたか、ソージ様。

今日は依頼を請けるまで、帰えることは出来ないと考えてください。」


 目の前にいるのは自分の担当のギルド員であるソフィーさん。

淡い水色の髪で青い瞳を持つヒューマンの女性。

皺ひとつ無い青を基調としたギルドの制服に身を包み、

髪は肩の辺りできっちりと切りそろえられている。

おまけに眼鏡まで装備しており、できるキャリアウーマンな雰囲気だ。


 彼女の対応は言葉こそ丁寧であるが、

顔は笑顔の形をしているだけで、目は笑っていなかった。


まあ、当然か……


 ギルドでの話を聞く限り、彼女はかなり有能なギルド員で、

愛想はあまり良くないが、依頼に対する調査やアドバイスは高い精度を誇る。

依頼の失敗率も冒険者を死傷させた確率も低い。

冒険者ギルドにおける幹部候補の一人、それが彼女だ。


 彼女がどういう経緯で自分の担当となったかは分からないが、

おそらく自分の高いレベルが考慮されていたことは容易に想像できる。

有能なギルド員の下には有能な冒険者をつけた方が良いのは、

ギルドと言う組織を回す上で考えるならば、至極真っ当な考えだからだ。


 だが、蓋を開けてみれば自分はレベルが高いだけの一般人。

彼女がどれだけ落胆したかは想像に難くない。


 彼女に対する心象は最悪だ。

だが、これから生活基盤を整える上で関係修復は絶対に必要だ。


「……ええ、今日は依頼を請けるつもりで来ましたので、

すみませんが、良さそうな依頼はありませんか?」


「それは良い返事ですね。

……それでは少々お待ち下さい。」


 そういうと彼女はクリップで止められた紙の束を取り出し、

その中から3枚の紙を即座に取り出し、こちらに提示した。


 あらかじめ自分用の依頼を考えていたのであろう。

なるほど、確かに優秀そうだ。


「1つ目は…モンスター討伐の依頼です。

依頼主はカント商会。

この商会は王都でも広く商売をしており、後ろ暗い噂もない健全な商会です。

依頼に裏は無いでしょう。


依頼の内容についてですが、ゴーストの討伐を行ってもらいます。

この商会が支援している開拓村への輸送路の近辺にて、

ゴーストの集団が目撃されています。

現状ではまだ被害が出ていませんが、あなたにはこれを発見し、

討伐してもらいます。

これは、あなたのレベルと冒険者としての経験を考えての差配です。

依頼内容はモンスターを発見し、討伐するシンプルなものです。

面倒な手続きはすべて私が行いますので、

依頼を請けたことの無いあなたでも問題は無いでしょう。


 討伐対象のゴーストについても、あなたであれば問題はありません。

レベルは10から20程度の低級アンデッドですが、物理攻撃を無効化し、

魔法か属性付きの武器エンチャントでなければ倒せない厄介なモンスターです。

このため、低レベルであるからと低レベルの冒険者を向かわせることは出来ません。

ですが、聖騎士であるあなたならば余裕でしょう。

以上の理由から、私はこの依頼をお勧めします。


さらに言えば、この依頼はカント商会にあなたの顔を覚えてもらう絶好の機会です。

あなたにとっても悪い話では無いでしょう?」

ここまでの内容を淀みなく、すらすらと話す。


「お、おう……」

これがギルド員か……なんと言うか、すごいな。


 しかし、カント商会か。

確かこの前のモンスターの襲撃の際に自分が助けた商人がダニエル・カント。

つまり、彼の商会だ。


 意外なところで縁があるものである。

まあ、これを請けても良さそうだが……


「あの……採集の依頼とかありませんかね。」


 そう言うと、ソフィーさんは何言ってんだこいつはと言う顔で、

眼鏡をくいっと押し上げる。


「採集?……レベルを考えてください。

採集依頼は基本的に低レベル冒険者の重要な食い扶持です。

あなたはレベル73の冒険者、許可できません。」


「……ですよね。」


 だめだったか。

採集が低レベル冒険者の食い扶持だというのは、

前情報収集したときに知っていたのだが、

まさかギルド員に断られるとは思わなかった。

レア素材の採集依頼等があれば、また違うのだろうが……

今回はそういうのは無さそうだ。



 その時、冒険者ギルドの扉が大きな音を立て、乱暴に開かれた。

自分を含めたギルドにいた人々は何事かと、扉のほうを向く。


 そこには一人の男が立っていた。

その男は荒い息をなんとか押さえ込み、

搾り出すように言い放った。


「き、緊急の依頼だ!!

 助けてくれ!!ブルード鉱山からゾンビ共があふれ出てきやがった!!」


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