表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
106/115

102話 堕ちた太陽2

今回はほんの少し残酷描写有りです。


『PM 4:25 アウイン南部地区 路地裏』




 お互いの名乗りの後、先に動いたのは黒騎士『マルク』だった。

黒騎士は、人の背丈ほどもある大剣を大上段に振りかぶる。


「まずは小手調べだ。これを避けれるか?――スラッシュ・エア!!」


『スラッシュ・エア』

斬撃を飛ばすことで離れた敵を攻撃する剣戦闘スキル。


「チッ!!」


 そう頭で判断した瞬間に、黒騎士が振り下ろした剣の射線から身体をずらす。

その直後、見えない刃が通り過ぎ、路地裏の地面を削り取る。


 何なんだよ。見えない刃って。

どうやったら剣を振ったらそんなものが出るんだ!!

物理法則はちゃんと仕事しろ!!


 心の中で愚痴を吐きつつ、次の攻撃に備える。

フラグメント・ワールドにおいて『スラッシュ・エア』は、

剣士系のキャラクターが離れた敵に対して、間合いを詰めるまでの牽制で使うのが一般的だ。

であるならば、注意するのはその次だ。


 事実、黒騎士はスラッシュ・エアを撃った瞬間に、既に動いていた。

大剣をまるで槍のように構え、こちらに向かって突っ込む。


「よろしい。では次だ。――スラッシュ・ボルト!!」


『スラッシュ・ボルト』

武器を前方に突き出しながら突進することで、移動と攻撃を同時に行う剣戦闘スキル。

突進のスピードと、全身鎧と大剣の重量が合わさったその攻撃は、まともに受ければこちらの防御を貫通するだろう。


「だが、来ることが分かっていれば!!」


 その攻撃は読んでいた。

『スラッシュ・エア』からの『スラッシュ・ボルト』は、フラグメントワールドにおいても鉄板の組み合わせ。

さらに言えば、この路地裏は横への道幅がないので、必然、攻撃の基本は縦方向となる。


凄まじい速度で迫る黒騎士に対して、こちらも斜め前に飛び込み、すれ違いざまに胴に剣を叩き込む。

狙い通りのカウンター、しかし……


「ぬぅ!!だが、その程度の斬撃では、この鎧に傷ひとつ突かぬわ!!」


 その言葉通り、自分の斬撃は黒騎士の鎧に阻まれ、碌にダメージを与えられなかった。

こちらも飛び込みざまの攻撃で、態勢は悪かったとはいえ、綺麗に決まったカウンターなのに。



 お互いに突進系の攻撃を行ったことで、最初とは逆の立ち位置となる。

互いの距離は5メートル。剣を構え直し考える。


……この黒騎士、やはり自分の上位互換か。


 最初の攻防で分かった事は、相手の技量も高いが、それ以上に厄介なのは、あの鎧と大剣だ。

全身を金属で覆うフルプレート・メイルは、フラグメントワールドにおいて、重量級の装備として扱われていたものだ。

その特徴は、単純明快『硬くて重い』。

重量が増すことで、攻撃のスピードは落ちるが、その防御力は生半可な攻撃は通さない。


 同様に、黒騎士が装備している大剣『ブラック・サン』。

闇属性のレア大剣。特殊能力は攻撃力上昇という単純なものだが、単純であるが故に場所を選ばず腐らない。

また、剣の中でも大剣は、重量鎧と同様に、攻撃力は高いが重く、攻撃速度が遅いという特徴を持つ。


 しかし、重いということは必ずしもデメリットではない。

軽い棒と重い棒で殴られた時、どちらが痛いかなんて、一目瞭然だ。

重いということは、イコール、パワーがあるということで、つまり強いのだ。

そうでなければ、多くの格闘技で体重別に階級が分かれたりしない。


 それらを考えれば、全身鎧に大剣装備の黒騎士は、『硬い、重い、強い』で非常に厄介だ。

加えて、敵はここまで魔法は一切使っていない。

温存しているとも考えられるが、ここまで物理攻撃に傾倒した装備をしているのだ。

おそらく魔法よりも物理メイン。剣スキルによって正面から押しつぶす戦闘スタイルだろう。



 対して自分はというと、動きやすさと防御力を兼ね備えた中量級の鎧に、

防御と攻撃のバランスが良い『片手剣』と『盾装備』。

こう言えば悪くないように聞こえるが、言ってしまえば中途半端な器用貧乏。


 実際このソージは、『ソロで攻撃も防御も回復もそれなりに出来る』を目標にビルドしたキャラクターなのだ。

どんな敵ともそれなりに戦えるが、あくまで『それなり』だ。

特化型を相手に優位に立ち回れるような構成ではない。


 そもそも、パーティーを組むこと前提のMMORPGにおいては、バランス型よりも特化型の方が強い。

特化型は強力な部分と弱い部分がはっきりしているが、弱い部分は別の誰かに補って貰えば良いのだ。


 まあ、今回の戦いではお互いにタイマンで戦っており、サポートがないのは同じ。

そのためバランス型の強みを活かして、敵の弱い部分を突いたらどうだという話になるわけだが……


 敵は重量装備であるため、スピード、つまり手数はこちらの方が上だ。

なので、手数で圧倒して攻撃を続ければ勝てる……なんて、そう都合良くいく訳がない。

一発でもまともに攻撃を食らえば終了なのに、敵の攻撃を全部避けてカウンターを取り続ける?


 それは『暗殺者アサシン』などの回避系の戦闘職の領分だ。

自分がそれをやっても、相手が倒れるよりも先に自分のHPが尽きるだろう。


 やはり、正面戦闘は分が悪い。やるならば隙を見て一気に畳み掛ける短期決戦しかない。

そのためには、まず突破口を見つけなくては。


頭の中で必死に作戦を練り直していると、黒騎士は楽しそうに笑う。


「ククク、良いぞ、良いぞ。うまく避けるではないか!!

強者との戦いは良い。胸が高鳴る。

さあ、次は貴様の番だ。貴様はどんなスキルを使う?」


 奴は、心の底から楽しそうにそう言った。

くそが、バトルジャンキーめ!! 自分は必死に作戦を練っているのに!!


 しかし、この展開はうまくない。

直接的な戦闘力で劣る自分にとって、先手よりもカウンター狙いの後手の方がやりやすい。

おそらく相手はそこまで考えていないのだろうが……

だからこそ、自然体でこちらの戦術を破壊しようとするこの男に怒りを覚える。


 ……そうか、怒りか。

相手を挑発することで、相手に攻撃をさせれば良いのだ。


「ふん、剣スキルなど花拳繍腿かけんしゅうたい!!

剣スキルに頼っている内は、まだまだ二流だよ」


「言ったな。では、これを受けても同じことが言えるか――セブン・エッジ!!」


 こちらの挑発が効いたらしい。

黒騎士は大剣を構え直すと、一瞬にして距離を詰める。


『セブン・エッジ』

剣による7連続攻撃を行う剣戦闘スキル。


 その攻撃に、右手の片手剣と、左手の盾を構え待ち構える。

まず、1つ縦の突きを左手の盾でいなす。

攻撃は重いが、手数重視の1発だ。スラッシュ・ボルトを受けるよりはマシだ。


 続いて左右からの斬撃。

ほぼ同時に迫る2連撃を、剣と盾を使って防ぐ。

さらに、左右の斜めからの斬撃。

これも同じように、剣と盾を使って防ぐ。


 そして……最後の2連激、正面からの『振り上げ』と『振り下ろし』。

セブンエッジ最後の攻撃だけあって、この2つの攻撃は強力だが……

だからこそ、そこに勝機はある。


「……ここだ!!」


 ショートカットから装備を、聖剣『フルムーン』から、『フェザー・カッター』に切り替える。

フェザー・カッターの特殊能力は『素早さの向上』。

その速度を生かして、一瞬にして黒騎士の側面に回りこむ。


「なに!!」


「言っただろう。剣スキルに頼っている内は二流だってな!!」


 先程言った言葉は、ただの挑発ではない。

スキルを連発するのは、いかにも初心者的で、なってない。


 実際、『セブンエッジ』は最後の2連撃を放つ瞬間に、ほんの一瞬ではあるが、割り込み可能な『タメ』の時間がある。

なぜ、そんな隙があるのかといえば、逆にこの隙がないと延々とセブン・エッジを使い続けることで、

敵を拘束し続けることが出来てしまうからだ。つまり、フラグメントワールドの仕様の問題だ。


 だがら、このスキルを使うなら、そこを分かっていないといけない。

状態異常の『麻痺』を使うなど、確実に最後まで当てられる自信がないのなら、『セブン・エッジ』は使うべきではない。



 加えて、スキルを使う上で注意点がもう1つある。

それはスキルは一度使うと、自分の意思でキャンセル出来ないということだ。


 それはどういうことかといえば、自分は今、黒騎士の側面に回りこんだ。

黒騎士もそれは認識している。

だが、『セブン・エッジ』は七回連続の攻撃。

既にターゲットはそこにはいないと分かっていても、残りの2回の攻撃を行わなければならない。

黒騎士の大剣が盛大に空を切る。その隙を逃さない。


ショートカットから、武器を聖剣に持ち変える。


「喰らえ――シールド・ブレイク!!」


『シールド・ブレイク』

相手の防具による防御力や付加効果を無効化する剣戦闘スキル。

同時に、自分が使える数少ない戦闘系スキルでもある。

このスキルは強力な反面、使用時に大きな隙が出来る。


 何も考えずに、シールドブレイクを使ったのなら、余裕で避けられていたであろう。

だから、確実に当てられるまで使わない。

それがスキルを使う上での鉄則だ。


スキルに従い、突き出された聖剣は黒騎士の右脇腹に当たり、その装甲に亀裂が走る。


「貴様ぁ!!!――スマッシュ!!」


黒騎士は激昂し、剣を振り下ろす。


『スマッシュ』

単純な振り下ろしによる攻撃だが、スキルはスキル。

その威力は、通常攻撃の2~4倍の攻撃力を誇る。


当たれば、ただではすまないが……自分のチートである『中量装備スキル』並びに『盾スキル』から即死はないと示される。

ならば、チートを信じてこの攻撃は受ける。


黒騎士の大剣が左肩からまっすぐに自分の身体に食い込んでいく。


「ガァアア!!」


 それはそのまま、左の肺を押しつぶし、内臓を両断し、そして左半身を切断した。

だが、問題ない。こんなのは、ただの致命傷だ。


「貴様、何を!!」


そんなものは、決まっている。


「――シールドォ、ブレ、イグ!!」

相打ち覚悟のシールドブレイク。

そのスキルに従い振り下ろされた聖剣が、敵の右肩の装甲を吹き飛ばす。


 先程も言ったはずだ。

スキルは一度撃つとキャンセルできない。

だから、相打ち覚悟なら隙の大きいシールドブレイクも決まるのだ。


「ザ、まァミろ――ガハッ!!」


 瞬間、腹に大きな衝撃が走り、景色がものすごいスピードで流れる。

蹴られたのだと、判断した瞬間には、背中から壁にぶつかり、背中からミシミシと嫌な音がなる。


「ガァ!!……ぐ、あ……」


 崩れ落ちた体は自分の意思ではまったく動かない。

そのくせ、手足は意思とは関係なしに、ビクビクと痙攣する。


「あ……ガ……ヒュ……ぅ……」


 肺を潰され呼吸もうまく出来ず、自分の意思とは関係なくのた打ち回る身体は、まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。

切断された左半身からは、当然のように大量の血が流れ、それだけではなく内臓がこぼれ出る。

大腸を傷つけてしまったのだろうか、辺りには強烈な血のにおいに混じって、糞尿の臭いまで立ち込める。


「ひ……ぅ……ぁ……」


 身体は動かない。呼吸も出来ない。

さらに、暗い底に落ちていくように、意識も落ちていく。


 そこは熱くもなく、寒くもなく、何もない。

これが死なのだろうか?

自分というものがなくなっていく感覚、それは恐怖であり……同時に救いでもあった。


 何もない代りに、痛みもない。

何もない代りに、苦しみもない。

まるで母親のお腹の中に居る胎児のようだ。


 このまま目をつぶってしまえば、きっと今までにないぐらいに気持ちよく眠ることが出来るだろう。

そう思った途端に、すべてがどうでも良くなってくる。


 何で自分はあんなに頑張っていたんだったか?

まあ、でも、もう動かなくても良いか。きっと誰かが何とかしてくれるだろう。


……


……


……


……本当に?


……その誰かって、誰だ?


……そんな都合の良い存在が居るとでも?


……今まで自分の代わりに、何かしてくれるような人なんて居たか?


……居なかっただろう?


消えかけた意思に火が灯る。


 誰かが助けてくれるのを待っていても、そんな都合の良い存在は現れない。

だったら、自分で何とかするしかない。

結局、自分を助けることが出来るのは、自分だけなんだから。


「……こんな、ところで、まだ、死ねるかぁあ!!

――ヒィー、ル、Lv5!!!」


 冗談ではない。

だいたい、リゼットも、アンナも、エルも、カグヤも、皆それぞれの仕事をしてるんだ。

自分だけリタイアとか許されない。せめて死ぬなら、あいつを道ずれにする。

それが最低条件だ。


「ハァ……ハァ……くそが!!」


 死にかけた身体に鞭を入れ、起き上がろうとするが、身体が思うように動かない。

傷は間違いなく治った。だが、全身を覆う重い虚脱感が起き上がることを許さない。


 これは……ステータスには現れない気力や精神力。

言ってしまえば、『気分』や『やる気』の問題なのだが、これが意外なほどに厄介だ。

それはステータスに現れないため、ヒールでも回復しない。


 まあ、死に掛けたのだから当然か。

一瞬だけ味わった『死』の感触に、精神がショック状態を起こしているのだろう。

頭の冷静な部分では分かっているのだが、本能の部分が完全に萎えてしまっている。


「……くそ、騙された。

何がヒールを使えば、ゾンビアタックが出来る、だ……」


 結論、ゾンビアタックは出来ない。

肉体はともかく、精神が持たないのだ。


 気力が沸かず、立ち上がることすら出来ない。

正直言って、とても戦える状況ではないが、それでも目の前には黒騎士が居る。


 黒騎士はまだ、あの場にいた。

自分にとっては長い時間のようであったが、実際にはそれほど時間はたっていなかったらしい。

黒騎士は無理やり自分を蹴り飛ばしたためか、体制を崩していた。


 とは言え、その程度の隙など、すぐに無くなる。

敵に吹き飛ばされたせいで物理的な距離も開いているが、

こちらも今すぐ体制を立て直さなくてはならない。


「……出来れば使いたくなかったが、仕方がない」


 ポーチの中から、エルに貰った戦闘薬コンバット・ドラッグを取り出し、飲み込む。

戦闘薬と名前がついているが、これは平たく言えば、ただの覚せい剤だ。


「ふぅー……これでもうしばらくは動けるか……」


 今まで感じていた虚脱感はなくなり、頭がスッキリとする。身体の痛みもない。

とは言え、これは薬で誤魔化しているだけだ。


 元々、長期戦はこちらに不利なのだ。

だが突破口はこじ開けた。ここからは短期決戦だ。


自分の近くに転がっていた自分の左腕から、新しく生えた左腕で盾と篭手を取り外し、装備する。


「この……化け物め……」


 黒騎士は半身を切り飛ばされてなお、立ち上がる自分に対して、そんな事を言う。


「なんて笑えない冗談だ。化け物はお前だろうが、これでも喰らえ!!」


ポーチの中から、野球ボール程度の大きさの『玉』を取り出し、黒騎士に向けて投げる。


「そんなものは効かん!!」


黒騎士はその球を剣で切り裂くが、その瞬間、周囲に真っ白い粉が飛び散る。


「クッ、『煙幕』か、小賢しい!!」


 そう、それはエル特性の煙幕弾。

これで奴の視界は奪った。

だが、視界を奪った程度で、こちらの攻撃が当たるとは考えない。

自分もブルード鉱山では、暗闇の中で『剣スキル』によって、殺気や気配を探知できたのだ。

だったら、当然相手も出来ると考える。


だからこそ攻撃を当てるなら、さらに一手、工夫が必要だ。


 煙幕が晴れない内に敵の距離をつめ、そのまま速度を殺さずスライディングを行う。

敵の装備は小回りの効かない大剣。足元への攻撃は難しいはずだ。


 盾を構えつつ突っ込む自分の頭上を、黒い剣が通り過ぎる。

ギリギリ、セーフ。かなり危ない。


 だが、賭けには勝った。

そのまま敵の左太股に向けて、シールドブレイクを放つ。


「キサマァ!!」


 黒騎士は足元に留まる自分に対して、思いっきり踏み付けを行う。

だが、それはこちらにとっても好都合だ。

グシャリと、金属で出来た具足で顔面を蹴られ、鼻がつぶれ歯が折れるが、薬が効いているのか痛みはない。

つまり、何の問題もない。


「ぐらえ――極光よ、ずべでを、飲みこめ、『バニシング・レイ』!!」


 踏みつける黒騎士に対して、真下から真上に向かって、『バニシング・レイ』を放つ。

こうすれば周囲の街を巻き込むことはない。


 後はこいつの光属性への耐性と、自分の魔法の威力勝負。

至近距離から全力で打ち出した最強の一撃は、黒騎士を吹き飛ばす。


「クッ!!浅いか!!」


 吹き飛ばしたことで、逆にダメージは本体まで届かなかったようだ。

しかし、黒騎士の鎧の胴体部分が溶解しかかっている。

これは、あと一撃入れれば貫けるか?


「ぺッ!!くそ、この歳で入れ歯は、さずがに勘弁してほしい」


 口の中にあった折れた歯を吐き出す。

吹き飛ばしたことで距離が出来たので、今のうちにMPとHPを回復しておく。

折れた鼻も歯も元通り、ほんとにチート様様だ。


「キサマァ、私の鎧をよくも!!!

もう許さん!!ここからは本気だ。これより先、貴様には指一本たりとも触れさせぬ!!」


「ハッ!!まるで本気を出せば勝てるとでも言いたげだな!!

でも無理だな。お前、本当は弱いだろ?」


 挑発は続行。この敵に対して礼節など不要だ。

どんどん挑発して、怒らせろ。敵が冷静でない方が、こちらの勝率が上がるのだ。


 ポーチの中から、最後の煙幕弾を取り出し、放物線を描くように放り投げる。

同時に、聖剣から光属性の刀『白光』に持ち換える。


「二度も同じ手を食うか、馬鹿め!!」


黒騎士は、今度は斬りつけずに避けるが……


「馬鹿はお前だ。馬鹿め!!」


 手にした『白光』を振り下ろす。

白光の特殊能力は、光の刃を打ち出すこと。

それは狙い通りに、黒騎士の避けた煙幕弾を切り裂き、周囲は再び煙幕で満たされる。


 避けたと思ったところに発動した煙幕弾だ。

敵は少なからず動揺しているはずだ。


煙幕が晴れない内に再度の突撃……と見せかけて、煙幕に突っ込む瞬間にバックステップ。

直後、自分がいた位置を黒い刃が通り過ぎた。


 計算通り、敵の攻撃を空振りさせた。よし、次はこちらの番だ。

敵の姿は見えないが、予測位置に向けて、マジックガンを最大チャージでぶっ放す。

自分の持つマジックガン『MG-03S』は、ショットガンタイプの魔法銃。

この距離からなら、打ち出された散弾は全てヒットする。


「ぐぁあああ!!!」


 煙幕が晴れると、黒騎士の鎧には無数の弾痕が刻まれていた。

特に『バニシング・レイ』で削れた部分は、所々貫通さえしていた。



 ……行ける。ここが勝負どころだ。

聖剣を構え、こちらから黒騎士に対して一気に距離を詰める。


「思い上がったな貴様!!これまで貴様が戦ってこれたのは、その小賢しい立ち回りがあればこそ!!

正面戦闘で私が負けるか!!――スマッシュ・インパクト!!」


『スマッシュ・インパクト』

先程のスマッシュの強化版。だが、先程とは違い、今度は自分が攻める側だ。

相打ち覚悟のシールドブレイクは使えない。

というか、もうあんな目に合うのは御免だ。


 なので、この攻撃は何としても避ける。

左手に装備した盾を構え、精神を極限まで集中させる。

必要なのはタイミングの見極め。

薬で強化された集中力は、まるで世界が止まったかのように思える。これならいけるか。


「先程と同じようにいくと思うな!! その盾ごと貴様を両断してくれる!!」


 黒騎士の『ブラック・サン』が猛烈な勢いをつけて振り下ろされる。

確かに、この攻撃をまともに受ければ、盾ごと両断されるだろう。


「……今だ!!」


 剣と盾が衝突する……その瞬間、ショートカットを使って盾を『消した』。

本来なら、身を守る盾を捨てるそれは自殺行為……であるが、敵の剣は止まっていた。


「な、何だ?これは?」


「狙い通り――シールド・ブレイク!!」


動揺した敵に向けて、シールドブレイクを叩き込む。


 自分がやったのは、『盾スキル』で敵の攻撃を受け止めた。言ってしまえばそれだけだ。

ただし、それだけでは両断されることはなくても、攻撃の威力までは殺すことは出来ない。

だから盾で受けた衝撃が身体に来る前に、その『衝撃を受けた盾』ごと、ショートカットで消したのだ。


 結果として衝撃は盾ごと『アイテムフォルダ』の中に消え、動きを止めた剣だけが残る。

それは『エネルギー保存の法則』を無視するものではあるが、物理法則を超えるのが『チート』の力だ。

目論見どおり、技の威力は相殺され、ガラ空きの黒騎士に、シールドブレイクを叩き込めた。


黒騎士の左肩に叩き込んだ聖剣は、敵の装甲を吹き飛ばす。


「何だこれは!! 何なのだ!! 一体何が起きている!!

違う、これは!! こんなものは私の望む戦いではない!!」


訳も分からず、黒騎士は大剣を振り回す。


「そんな攻撃が効くか!!」


 ショートカットから、『マテリアル・シールド』を発動させる。

不可視の障壁が黒騎士の剣を受け止め、砕ける。

だが、それで十分。


「貴様、いつの間に魔法を!!」


呪文詠唱なしの魔法発動。これもチートだ!!


「トドメだ!!――シールド・ブレイク!!」


「がぁああああ!!!」


全力で振り下ろした聖剣は、黒騎士の漆黒の鎧を砕き、そのまま敵を吹き飛ばした。


「ゼェ……ハァ……さすがに、やったか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ