102話 堕ちた太陽2
今回はほんの少し残酷描写有りです。
『PM 4:25 アウイン南部地区 路地裏』
お互いの名乗りの後、先に動いたのは黒騎士『マルク』だった。
黒騎士は、人の背丈ほどもある大剣を大上段に振りかぶる。
「まずは小手調べだ。これを避けれるか?――スラッシュ・エア!!」
『スラッシュ・エア』
斬撃を飛ばすことで離れた敵を攻撃する剣戦闘スキル。
「チッ!!」
そう頭で判断した瞬間に、黒騎士が振り下ろした剣の射線から身体をずらす。
その直後、見えない刃が通り過ぎ、路地裏の地面を削り取る。
何なんだよ。見えない刃って。
どうやったら剣を振ったらそんなものが出るんだ!!
物理法則はちゃんと仕事しろ!!
心の中で愚痴を吐きつつ、次の攻撃に備える。
フラグメント・ワールドにおいて『スラッシュ・エア』は、
剣士系のキャラクターが離れた敵に対して、間合いを詰めるまでの牽制で使うのが一般的だ。
であるならば、注意するのはその次だ。
事実、黒騎士はスラッシュ・エアを撃った瞬間に、既に動いていた。
大剣をまるで槍のように構え、こちらに向かって突っ込む。
「よろしい。では次だ。――スラッシュ・ボルト!!」
『スラッシュ・ボルト』
武器を前方に突き出しながら突進することで、移動と攻撃を同時に行う剣戦闘スキル。
突進のスピードと、全身鎧と大剣の重量が合わさったその攻撃は、まともに受ければこちらの防御を貫通するだろう。
「だが、来ることが分かっていれば!!」
その攻撃は読んでいた。
『スラッシュ・エア』からの『スラッシュ・ボルト』は、フラグメントワールドにおいても鉄板の組み合わせ。
さらに言えば、この路地裏は横への道幅がないので、必然、攻撃の基本は縦方向となる。
凄まじい速度で迫る黒騎士に対して、こちらも斜め前に飛び込み、すれ違いざまに胴に剣を叩き込む。
狙い通りのカウンター、しかし……
「ぬぅ!!だが、その程度の斬撃では、この鎧に傷ひとつ突かぬわ!!」
その言葉通り、自分の斬撃は黒騎士の鎧に阻まれ、碌にダメージを与えられなかった。
こちらも飛び込みざまの攻撃で、態勢は悪かったとはいえ、綺麗に決まったカウンターなのに。
お互いに突進系の攻撃を行ったことで、最初とは逆の立ち位置となる。
互いの距離は5メートル。剣を構え直し考える。
……この黒騎士、やはり自分の上位互換か。
最初の攻防で分かった事は、相手の技量も高いが、それ以上に厄介なのは、あの鎧と大剣だ。
全身を金属で覆うフルプレート・メイルは、フラグメントワールドにおいて、重量級の装備として扱われていたものだ。
その特徴は、単純明快『硬くて重い』。
重量が増すことで、攻撃のスピードは落ちるが、その防御力は生半可な攻撃は通さない。
同様に、黒騎士が装備している大剣『ブラック・サン』。
闇属性のレア大剣。特殊能力は攻撃力上昇という単純なものだが、単純であるが故に場所を選ばず腐らない。
また、剣の中でも大剣は、重量鎧と同様に、攻撃力は高いが重く、攻撃速度が遅いという特徴を持つ。
しかし、重いということは必ずしもデメリットではない。
軽い棒と重い棒で殴られた時、どちらが痛いかなんて、一目瞭然だ。
重いということは、イコール、パワーがあるということで、つまり強いのだ。
そうでなければ、多くの格闘技で体重別に階級が分かれたりしない。
それらを考えれば、全身鎧に大剣装備の黒騎士は、『硬い、重い、強い』で非常に厄介だ。
加えて、敵はここまで魔法は一切使っていない。
温存しているとも考えられるが、ここまで物理攻撃に傾倒した装備をしているのだ。
おそらく魔法よりも物理メイン。剣スキルによって正面から押しつぶす戦闘スタイルだろう。
対して自分はというと、動きやすさと防御力を兼ね備えた中量級の鎧に、
防御と攻撃のバランスが良い『片手剣』と『盾装備』。
こう言えば悪くないように聞こえるが、言ってしまえば中途半端な器用貧乏。
実際このソージは、『ソロで攻撃も防御も回復もそれなりに出来る』を目標にビルドしたキャラクターなのだ。
どんな敵ともそれなりに戦えるが、あくまで『それなり』だ。
特化型を相手に優位に立ち回れるような構成ではない。
そもそも、パーティーを組むこと前提のMMORPGにおいては、バランス型よりも特化型の方が強い。
特化型は強力な部分と弱い部分がはっきりしているが、弱い部分は別の誰かに補って貰えば良いのだ。
まあ、今回の戦いではお互いにタイマンで戦っており、サポートがないのは同じ。
そのためバランス型の強みを活かして、敵の弱い部分を突いたらどうだという話になるわけだが……
敵は重量装備であるため、スピード、つまり手数はこちらの方が上だ。
なので、手数で圧倒して攻撃を続ければ勝てる……なんて、そう都合良くいく訳がない。
一発でもまともに攻撃を食らえば終了なのに、敵の攻撃を全部避けてカウンターを取り続ける?
それは『暗殺者』などの回避系の戦闘職の領分だ。
自分がそれをやっても、相手が倒れるよりも先に自分のHPが尽きるだろう。
やはり、正面戦闘は分が悪い。やるならば隙を見て一気に畳み掛ける短期決戦しかない。
そのためには、まず突破口を見つけなくては。
頭の中で必死に作戦を練り直していると、黒騎士は楽しそうに笑う。
「ククク、良いぞ、良いぞ。うまく避けるではないか!!
強者との戦いは良い。胸が高鳴る。
さあ、次は貴様の番だ。貴様はどんな技を使う?」
奴は、心の底から楽しそうにそう言った。
くそが、バトルジャンキーめ!! 自分は必死に作戦を練っているのに!!
しかし、この展開はうまくない。
直接的な戦闘力で劣る自分にとって、先手よりもカウンター狙いの後手の方がやりやすい。
おそらく相手はそこまで考えていないのだろうが……
だからこそ、自然体でこちらの戦術を破壊しようとするこの男に怒りを覚える。
……そうか、怒りか。
相手を挑発することで、相手に攻撃をさせれば良いのだ。
「ふん、剣スキルなど花拳繍腿!!
剣スキルに頼っている内は、まだまだ二流だよ」
「言ったな。では、これを受けても同じことが言えるか――セブン・エッジ!!」
こちらの挑発が効いたらしい。
黒騎士は大剣を構え直すと、一瞬にして距離を詰める。
『セブン・エッジ』
剣による7連続攻撃を行う剣戦闘スキル。
その攻撃に、右手の片手剣と、左手の盾を構え待ち構える。
まず、1つ縦の突きを左手の盾でいなす。
攻撃は重いが、手数重視の1発だ。スラッシュ・ボルトを受けるよりはマシだ。
続いて左右からの斬撃。
ほぼ同時に迫る2連撃を、剣と盾を使って防ぐ。
さらに、左右の斜めからの斬撃。
これも同じように、剣と盾を使って防ぐ。
そして……最後の2連激、正面からの『振り上げ』と『振り下ろし』。
セブンエッジ最後の攻撃だけあって、この2つの攻撃は強力だが……
だからこそ、そこに勝機はある。
「……ここだ!!」
ショートカットから装備を、聖剣『フルムーン』から、『フェザー・カッター』に切り替える。
フェザー・カッターの特殊能力は『素早さの向上』。
その速度を生かして、一瞬にして黒騎士の側面に回りこむ。
「なに!!」
「言っただろう。剣スキルに頼っている内は二流だってな!!」
先程言った言葉は、ただの挑発ではない。
スキルを連発するのは、いかにも初心者的で、なってない。
実際、『セブンエッジ』は最後の2連撃を放つ瞬間に、ほんの一瞬ではあるが、割り込み可能な『タメ』の時間がある。
なぜ、そんな隙があるのかといえば、逆にこの隙がないと延々とセブン・エッジを使い続けることで、
敵を拘束し続けることが出来てしまうからだ。つまり、フラグメントワールドの仕様の問題だ。
だがら、このスキルを使うなら、そこを分かっていないといけない。
状態異常の『麻痺』を使うなど、確実に最後まで当てられる自信がないのなら、『セブン・エッジ』は使うべきではない。
加えて、スキルを使う上で注意点がもう1つある。
それはスキルは一度使うと、自分の意思でキャンセル出来ないということだ。
それはどういうことかといえば、自分は今、黒騎士の側面に回りこんだ。
黒騎士もそれは認識している。
だが、『セブン・エッジ』は七回連続の攻撃。
既にターゲットはそこにはいないと分かっていても、残りの2回の攻撃を行わなければならない。
黒騎士の大剣が盛大に空を切る。その隙を逃さない。
ショートカットから、武器を聖剣に持ち変える。
「喰らえ――シールド・ブレイク!!」
『シールド・ブレイク』
相手の防具による防御力や付加効果を無効化する剣戦闘スキル。
同時に、自分が使える数少ない戦闘系スキルでもある。
このスキルは強力な反面、使用時に大きな隙が出来る。
何も考えずに、シールドブレイクを使ったのなら、余裕で避けられていたであろう。
だから、確実に当てられるまで使わない。
それがスキルを使う上での鉄則だ。
スキルに従い、突き出された聖剣は黒騎士の右脇腹に当たり、その装甲に亀裂が走る。
「貴様ぁ!!!――スマッシュ!!」
黒騎士は激昂し、剣を振り下ろす。
『スマッシュ』
単純な振り下ろしによる攻撃だが、スキルはスキル。
その威力は、通常攻撃の2~4倍の攻撃力を誇る。
当たれば、ただではすまないが……自分のチートである『中量装備スキル』並びに『盾スキル』から即死はないと示される。
ならば、チートを信じてこの攻撃は受ける。
黒騎士の大剣が左肩からまっすぐに自分の身体に食い込んでいく。
「ガァアア!!」
それはそのまま、左の肺を押しつぶし、内臓を両断し、そして左半身を切断した。
だが、問題ない。こんなのは、ただの致命傷だ。
「貴様、何を!!」
そんなものは、決まっている。
「――シールドォ、ブレ、イグ!!」
相打ち覚悟のシールドブレイク。
そのスキルに従い振り下ろされた聖剣が、敵の右肩の装甲を吹き飛ばす。
先程も言ったはずだ。
スキルは一度撃つとキャンセルできない。
だから、相打ち覚悟なら隙の大きいシールドブレイクも決まるのだ。
「ザ、まァミろ――ガハッ!!」
瞬間、腹に大きな衝撃が走り、景色がものすごいスピードで流れる。
蹴られたのだと、判断した瞬間には、背中から壁にぶつかり、背中からミシミシと嫌な音がなる。
「ガァ!!……ぐ、あ……」
崩れ落ちた体は自分の意思ではまったく動かない。
そのくせ、手足は意思とは関係なしに、ビクビクと痙攣する。
「あ……ガ……ヒュ……ぅ……」
肺を潰され呼吸もうまく出来ず、自分の意思とは関係なくのた打ち回る身体は、まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。
切断された左半身からは、当然のように大量の血が流れ、それだけではなく内臓がこぼれ出る。
大腸を傷つけてしまったのだろうか、辺りには強烈な血のにおいに混じって、糞尿の臭いまで立ち込める。
「ひ……ぅ……ぁ……」
身体は動かない。呼吸も出来ない。
さらに、暗い底に落ちていくように、意識も落ちていく。
そこは熱くもなく、寒くもなく、何もない。
これが死なのだろうか?
自分というものがなくなっていく感覚、それは恐怖であり……同時に救いでもあった。
何もない代りに、痛みもない。
何もない代りに、苦しみもない。
まるで母親のお腹の中に居る胎児のようだ。
このまま目をつぶってしまえば、きっと今までにないぐらいに気持ちよく眠ることが出来るだろう。
そう思った途端に、すべてがどうでも良くなってくる。
何で自分はあんなに頑張っていたんだったか?
まあ、でも、もう動かなくても良いか。きっと誰かが何とかしてくれるだろう。
……
……
……
……本当に?
……その誰かって、誰だ?
……そんな都合の良い存在が居るとでも?
……今まで自分の代わりに、何かしてくれるような人なんて居たか?
……居なかっただろう?
消えかけた意思に火が灯る。
誰かが助けてくれるのを待っていても、そんな都合の良い存在は現れない。
だったら、自分で何とかするしかない。
結局、自分を助けることが出来るのは、自分だけなんだから。
「……こんな、ところで、まだ、死ねるかぁあ!!
――ヒィー、ル、Lv5!!!」
冗談ではない。
だいたい、リゼットも、アンナも、エルも、カグヤも、皆それぞれの仕事をしてるんだ。
自分だけリタイアとか許されない。せめて死ぬなら、あいつを道ずれにする。
それが最低条件だ。
「ハァ……ハァ……くそが!!」
死にかけた身体に鞭を入れ、起き上がろうとするが、身体が思うように動かない。
傷は間違いなく治った。だが、全身を覆う重い虚脱感が起き上がることを許さない。
これは……ステータスには現れない気力や精神力。
言ってしまえば、『気分』や『やる気』の問題なのだが、これが意外なほどに厄介だ。
それはステータスに現れないため、ヒールでも回復しない。
まあ、死に掛けたのだから当然か。
一瞬だけ味わった『死』の感触に、精神がショック状態を起こしているのだろう。
頭の冷静な部分では分かっているのだが、本能の部分が完全に萎えてしまっている。
「……くそ、騙された。
何がヒールを使えば、ゾンビアタックが出来る、だ……」
結論、ゾンビアタックは出来ない。
肉体はともかく、精神が持たないのだ。
気力が沸かず、立ち上がることすら出来ない。
正直言って、とても戦える状況ではないが、それでも目の前には黒騎士が居る。
黒騎士はまだ、あの場にいた。
自分にとっては長い時間のようであったが、実際にはそれほど時間はたっていなかったらしい。
黒騎士は無理やり自分を蹴り飛ばしたためか、体制を崩していた。
とは言え、その程度の隙など、すぐに無くなる。
敵に吹き飛ばされたせいで物理的な距離も開いているが、
こちらも今すぐ体制を立て直さなくてはならない。
「……出来れば使いたくなかったが、仕方がない」
ポーチの中から、エルに貰った戦闘薬を取り出し、飲み込む。
戦闘薬と名前がついているが、これは平たく言えば、ただの覚せい剤だ。
「ふぅー……これでもうしばらくは動けるか……」
今まで感じていた虚脱感はなくなり、頭がスッキリとする。身体の痛みもない。
とは言え、これは薬で誤魔化しているだけだ。
元々、長期戦はこちらに不利なのだ。
だが突破口はこじ開けた。ここからは短期決戦だ。
自分の近くに転がっていた自分の左腕から、新しく生えた左腕で盾と篭手を取り外し、装備する。
「この……化け物め……」
黒騎士は半身を切り飛ばされてなお、立ち上がる自分に対して、そんな事を言う。
「なんて笑えない冗談だ。化け物はお前だろうが、これでも喰らえ!!」
ポーチの中から、野球ボール程度の大きさの『玉』を取り出し、黒騎士に向けて投げる。
「そんなものは効かん!!」
黒騎士はその球を剣で切り裂くが、その瞬間、周囲に真っ白い粉が飛び散る。
「クッ、『煙幕』か、小賢しい!!」
そう、それはエル特性の煙幕弾。
これで奴の視界は奪った。
だが、視界を奪った程度で、こちらの攻撃が当たるとは考えない。
自分もブルード鉱山では、暗闇の中で『剣スキル』によって、殺気や気配を探知できたのだ。
だったら、当然相手も出来ると考える。
だからこそ攻撃を当てるなら、さらに一手、工夫が必要だ。
煙幕が晴れない内に敵の距離をつめ、そのまま速度を殺さずスライディングを行う。
敵の装備は小回りの効かない大剣。足元への攻撃は難しいはずだ。
盾を構えつつ突っ込む自分の頭上を、黒い剣が通り過ぎる。
ギリギリ、セーフ。かなり危ない。
だが、賭けには勝った。
そのまま敵の左太股に向けて、シールドブレイクを放つ。
「キサマァ!!」
黒騎士は足元に留まる自分に対して、思いっきり踏み付けを行う。
だが、それはこちらにとっても好都合だ。
グシャリと、金属で出来た具足で顔面を蹴られ、鼻がつぶれ歯が折れるが、薬が効いているのか痛みはない。
つまり、何の問題もない。
「ぐらえ――極光よ、ずべでを、飲みこめ、『バニシング・レイ』!!」
踏みつける黒騎士に対して、真下から真上に向かって、『バニシング・レイ』を放つ。
こうすれば周囲の街を巻き込むことはない。
後はこいつの光属性への耐性と、自分の魔法の威力勝負。
至近距離から全力で打ち出した最強の一撃は、黒騎士を吹き飛ばす。
「クッ!!浅いか!!」
吹き飛ばしたことで、逆にダメージは本体まで届かなかったようだ。
しかし、黒騎士の鎧の胴体部分が溶解しかかっている。
これは、あと一撃入れれば貫けるか?
「ぺッ!!くそ、この歳で入れ歯は、さずがに勘弁してほしい」
口の中にあった折れた歯を吐き出す。
吹き飛ばしたことで距離が出来たので、今のうちにMPとHPを回復しておく。
折れた鼻も歯も元通り、ほんとにチート様様だ。
「キサマァ、私の鎧をよくも!!!
もう許さん!!ここからは本気だ。これより先、貴様には指一本たりとも触れさせぬ!!」
「ハッ!!まるで本気を出せば勝てるとでも言いたげだな!!
でも無理だな。お前、本当は弱いだろ?」
挑発は続行。この敵に対して礼節など不要だ。
どんどん挑発して、怒らせろ。敵が冷静でない方が、こちらの勝率が上がるのだ。
ポーチの中から、最後の煙幕弾を取り出し、放物線を描くように放り投げる。
同時に、聖剣から光属性の刀『白光』に持ち換える。
「二度も同じ手を食うか、馬鹿め!!」
黒騎士は、今度は斬りつけずに避けるが……
「馬鹿はお前だ。馬鹿め!!」
手にした『白光』を振り下ろす。
白光の特殊能力は、光の刃を打ち出すこと。
それは狙い通りに、黒騎士の避けた煙幕弾を切り裂き、周囲は再び煙幕で満たされる。
避けたと思ったところに発動した煙幕弾だ。
敵は少なからず動揺しているはずだ。
煙幕が晴れない内に再度の突撃……と見せかけて、煙幕に突っ込む瞬間にバックステップ。
直後、自分がいた位置を黒い刃が通り過ぎた。
計算通り、敵の攻撃を空振りさせた。よし、次はこちらの番だ。
敵の姿は見えないが、予測位置に向けて、マジックガンを最大チャージでぶっ放す。
自分の持つマジックガン『MG-03S』は、ショットガンタイプの魔法銃。
この距離からなら、打ち出された散弾は全てヒットする。
「ぐぁあああ!!!」
煙幕が晴れると、黒騎士の鎧には無数の弾痕が刻まれていた。
特に『バニシング・レイ』で削れた部分は、所々貫通さえしていた。
……行ける。ここが勝負どころだ。
聖剣を構え、こちらから黒騎士に対して一気に距離を詰める。
「思い上がったな貴様!!これまで貴様が戦ってこれたのは、その小賢しい立ち回りがあればこそ!!
正面戦闘で私が負けるか!!――スマッシュ・インパクト!!」
『スマッシュ・インパクト』
先程のスマッシュの強化版。だが、先程とは違い、今度は自分が攻める側だ。
相打ち覚悟のシールドブレイクは使えない。
というか、もうあんな目に合うのは御免だ。
なので、この攻撃は何としても避ける。
左手に装備した盾を構え、精神を極限まで集中させる。
必要なのはタイミングの見極め。
薬で強化された集中力は、まるで世界が止まったかのように思える。これならいけるか。
「先程と同じようにいくと思うな!! その盾ごと貴様を両断してくれる!!」
黒騎士の『ブラック・サン』が猛烈な勢いをつけて振り下ろされる。
確かに、この攻撃をまともに受ければ、盾ごと両断されるだろう。
「……今だ!!」
剣と盾が衝突する……その瞬間、ショートカットを使って盾を『消した』。
本来なら、身を守る盾を捨てるそれは自殺行為……であるが、敵の剣は止まっていた。
「な、何だ?これは?」
「狙い通り――シールド・ブレイク!!」
動揺した敵に向けて、シールドブレイクを叩き込む。
自分がやったのは、『盾スキル』で敵の攻撃を受け止めた。言ってしまえばそれだけだ。
ただし、それだけでは両断されることはなくても、攻撃の威力までは殺すことは出来ない。
だから盾で受けた衝撃が身体に来る前に、その『衝撃を受けた盾』ごと、ショートカットで消したのだ。
結果として衝撃は盾ごと『アイテムフォルダ』の中に消え、動きを止めた剣だけが残る。
それは『エネルギー保存の法則』を無視するものではあるが、物理法則を超えるのが『チート』の力だ。
目論見どおり、技の威力は相殺され、ガラ空きの黒騎士に、シールドブレイクを叩き込めた。
黒騎士の左肩に叩き込んだ聖剣は、敵の装甲を吹き飛ばす。
「何だこれは!! 何なのだ!! 一体何が起きている!!
違う、これは!! こんなものは私の望む戦いではない!!」
訳も分からず、黒騎士は大剣を振り回す。
「そんな攻撃が効くか!!」
ショートカットから、『マテリアル・シールド』を発動させる。
不可視の障壁が黒騎士の剣を受け止め、砕ける。
だが、それで十分。
「貴様、いつの間に魔法を!!」
呪文詠唱なしの魔法発動。これもチートだ!!
「トドメだ!!――シールド・ブレイク!!」
「がぁああああ!!!」
全力で振り下ろした聖剣は、黒騎士の漆黒の鎧を砕き、そのまま敵を吹き飛ばした。
「ゼェ……ハァ……さすがに、やったか?」




