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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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100話 アローレイン(リゼット視点)


『PM 4:10 アウイン西部地区城壁』



 ソージさんは一通りの指示を出すと黒騎士の元に向かって、一直線に駆け出した。

その姿を私をはじめ、多くの人々が声援と共に見送る。


 今この街は滅亡の危機に瀕していた。

街の外からは体長50メートルをこえる特大の巨人が迫り、

街の上空にはアンデッド・ドラゴンが我が物顔で飛んでいる。

さらにドラゴンから降り立った正体不明の黒騎士はめちゃくちゃに暴れまわり……


 そして、ドラゴンからばら撒かれ地上に落ちたモンスタークリスタル。

それによって召還されたアンデッドの戦士達、その数ざっと1000体。

それが逃げ遅れた街の住人を襲っている。


 酷い光景であった。

それでも皆は諦めずに動いている。


 ここが自分達の街で、逃げ場なんてないというのもあるが、

一番大きな理由は、この戦いの総大将であるソージさんが諦めていないからだ。


 中央通に下りた黒騎士は、この街の歴戦の聖騎士や守備兵を次々に斬り捨てる。

黒騎士が強敵であることは誰の目にも明らかであった。

それでもソージさんは総大将として、真っ先にあの黒騎士を相手にすると動いた。

そこに逃げるだとか諦めるだとか、そんな気配は微塵もない。


 その姿は、2ヶ月前のアンデッドスライムとの戦いの再現であった。

この街を守った英雄が、まだ諦めていない。

ならば、きっと今回も何とかなるはずだ。


崩れかけた士気が崩れないのは、これが原因なのだろう。



 私もその背にアンデッドスライムとの戦いを思い出していた。

でも、その思いは街の人々とは少し違う。


 状況は確かにあの時と似ている。

突然のモンスターの襲撃。逃げ惑う人々……

その中にあって、当然のように戦場に赴くソージさん。


あの時もそうで、今回もそうだ。また無茶をしようとしている。


 初めて会った時も、ソージさんだけがトマの遺体を捜すためにダンジョンに入ってくれた。

トマの身体を乗っ取ったソウルイーターを倒すため、ボロボロになりながらも戦ってくれた。


 それからもソージさんはずっと無茶をしている。

皆はソージさんを、『変人だがやる時はやる奴だ』と思っている。

それは私も否定はしない。


 でも、周りの人は知っているのだろうか?

ソウルイーターとの戦いでも、アンデッドスライムとの戦いでも、

第5開拓村での戦いでも、ソージさんはその全ての戦いで死に掛けている。


 ソージさんは確かにやる。

一度やると決めたら、絶対に諦めないし、曲がらない。

私が止めたってやめないだろう。


 でも、ソージさんが今ここにいるのは、ただ単に運が良かっただけだと思う。

こんなことを続けていれば、いつ死んでもおかしくない。


 それでも、私から止めてくれなんて言えるわけがなかった。

私はソージさんの無茶によって救われた。

そんな私が無茶をするなと言うのは違うと思うし、むしろ私だけはソージさんを否定してはいけない。

彼がやりたいというのなら、それを全力で支援する。それが私の役目だ。


だから、私は戦う。



 私に与えられた役目は、街中で暴れるアンデッドの戦士たちを排除すること。

西部地区の城壁からなら、この街全体の様子を見ることが出来る。


 この街は本当に大きな街だと思う。

東西南北の一区画でさえ、ブルードの町よりも大きい。


その中から守備兵が居ない場所で、モンスターに襲われている住民がいないか探す。

この街の貴族や王族が住む北部地区はさすがに警備が厳重だ。

あとは主戦場である西部地区も十分な兵士がいる。

なので、それ以外の所から敵を倒していけば良さそうだ。


 こうして見ると、私はまだ行ったことがない場所が多いことに気づく。

普段は南部地区の教会にいて、たまに買い物に行くのに、街の中央にある市場に行くぐらいであろうか。


 弓を構えながら思う。

この街のことについて、私は知らないことが多い。

それでも、この街は良い街だと思う。

何が良いかといえば、この街に来てからまだ一度も殴られたことも怒鳴られたこともない。

数は少ないがエルフやドワーフ等の異種族も普通に暮らしている。


 エルフは別に『不幸の元凶』ではなかった。

それを知ることが出来ただけでも、この街に来て良かったと思う。

だから、仮にソージさんの指示がなくても、私はこの街を守りたい。



 ソージさんの指示の通り、守備兵がいない箇所を狙って弓を射る。

その数、一呼吸のうちに10射。

それは狙い通り、住民を襲おうとしたアンデッドの頭を射抜き、死に至らしめる。

しかし、そうしている間に別の場所で10の命が消えていく。


「……アンデッドの数が……多すぎる……」



 戦場は街のいたる所に広がっている。

多くの住民は家の中に避難しているが、それでも街の住民全ての避難が間に合っているわけではない。

一人、また一人と被害は拡大していく。


 私は殺されていった人達のことを知らない。

同じ街にいても、顔も合わせたこともない人達だ。

もちろん、彼らも私のことなんて知らないだろう。


 ただ分かるのは、もう彼らと話をすることは永遠に出来なくなったということだ。

妻を殺された者、夫を殺された者、子を殺された者、親を殺された者、友を殺された者……

彼らには一生消えない傷がつく。

もしこの戦いが無事に終わったとしても、もう元通りになることはあり得ない。


「……もっと見て回れば良かった」


 でも、嘆いていてもどうにもならない。

悲しむ暇があるなら、手を動かすべきだ。


 さらに10の矢を放ち、10のアンデッドを倒した。

それでも、まだまだ900以上のアンデッドが暴れまわっている。


 やはり、どうしようもなく手が足りない。

第5開拓村でのアンデッドの集団を相手をしていた時を思い出す。

一体一体は私の弓でも倒せる相手なのに、それがたくさん集まると、もうどうにもならない。

10を倒す間に、残りの990が前進してくる。再度10の矢を放ったところで、980のアンデッドが前進してくる。


なんて無力だ。ギリッと奥歯が軋む。



 こんな時にどうすれば良いのか?

頼みのソージさんはここには居ない。


 何が彼の役に立ちたいだ。

ソージさんが、大変な時に私まで彼に頼ろうとしている。

それは甘えだ。


『良いんじゃないかしら?

甘えたっていいし、泣いたって良いじゃない。

どうしようもなくなったら、男にすがれるのは女の子の特権ね』


以前、ミレーユ様と何気なく会話したことを思い出す。


『その点、男の子は辛いわよね。

泣き喚くなんて許されない。特にソージはそうよね。

あいつは協力を依頼することはあっても、本当の意味で『助けて』なんて、ぜっっったいに言わないでしょ。

眉間にしわ寄せて、口をへの字に曲げて、止めておけばよいのに泥臭くもがいている』


 そう、それは今回も同じ。

ソージさんは物語に出てくるような勇者じゃない。

特に勇敢というわけでもなく、いつもボロボロで、余裕がない。


 それでも『納得がいかない』、その一言だけは絶対に曲げない。

それがソージさんなのである。


 だから、私はやはり甘える存在では駄目なのだと思う。

でも私一人ではどうにもならないのも、また事実。

そんな状況でもソージさんは、今まで何とかして来た。

もしも彼なら、この状況をどうやって乗り越えるのだろうか?



 ソージさんを見る。

ソージさんは西部地区を抜け、中央通に進んでいた。

黒騎士まであと10秒もせずに辿り着くだろう。


その黒騎士の方を見て、私は驚愕した。


「なんで……ミレーユ様が!!」


 中央通で黒騎士と相対していたのは、ミレーユ様だった。

なぜ彼女が? その理由はすぐに分かった。


彼女の後ろには、逃げ遅れた住民や負傷して動けなくなった兵士達がいた。


 でもだからと言って、なんであんな無茶を。

私に戦いは分からないが、それでもミレーユ様が後衛職で、補助魔法が専門であることぐらいは分かる。

それに対する黒騎士は、全身を金属の鎧で覆い、両手に大剣を持った分かりやすいほどの前衛職。


 相性は最悪だ。

事実、ミレーユ様は全身から血を流し、彼女の白のローブは真っ赤に染まっていた。


 黒騎士は大剣を担ぎ、ゆっくりと近づいていく。

対するミレーユ様は杖を握り締め、倒れないように踏ん張っているが、

もうそれ以上は何も出来ないのだろう。


 逃げることも、攻撃することも出来ず、ただ倒れないように立っているだけ。

その彼女に対して、黒騎士は剣を振り上げる。


ソージさんは止めようと全力で走っているが、このままでは間に合わない。


 ここでミレーユ様を殺してはならない。

私自身も何だかんだでお世話になったというのはあるが、

それ以上に、彼女に死なれたらソージさんが立ち直れない。


だったら、私がどうにかするしかない。



 だが、間に合うか。

悠長に弓を引いてる場合ではない。しかし、生半可な一撃では黒騎士を止めるだけの威力は出ない。

威力もあり、速い一撃。

そんな都合のいい一撃。


『出来る出来ないじゃない、やるんだよ』


 それはソージさんの言葉だ。

ソージさんらしい無茶苦茶な言葉。

でも実際、ソージさんはそうしてきたので、私もそうするのだ。


「ソージさんなら……きっと、こうする!!」


『威力もあり、速い一撃?

いつもよりも速く矢を番えて、速く狙いをつけて、速く弦を引いて、速く射れば良いんじゃないか、たぶん』


 だから、私もそうした。

いつもよりも速く矢を番えて、速く狙いをつけて、速く弦を引いた。


「いけ!!――クイック・ドロウ=スナイプ・ショット!!」


その矢は、まっすぐに黒騎士に向けて飛んでいった。


 状況は悪かった。

今までやったことがないことをぶっつけ本番でやった。

それにもかかわらず、あの一撃は私のこれまでの中でも最速の一撃だった。


 だが、その一撃を黒騎士は難なく弾き返した。

でもそれで十分。

その隙にソージ様が黒騎士とミレーユ様の間に割り込んだのだから。


「間に合った……」


 ほっと安堵の息をはく。

ソージさんが間に合ったのなら、後はどうにかなるだろう。


 気がつくと腕が震えていた。

今までやったことがないことを、やったのだ。

自分では気がつかなかったが、普段以上に緊張していたのだろう。

だけど、今の一撃には確かな手ごたえがあった。


 ブルードの町に居た時はレベル12だっただろうか。

それから、ソージさんと行動を共にして現在のレベルは48。

実感はまったくわかないけれど、それでも私は以前と比べ物にならないほどの力を得た。


昔は出来なかったことも、今は出来る。



 ……これならいけるかもしれない。

手を何度か開いたり、閉じたりして具合を見る。

万全とは言えないけど、十分に動く。


 あとは先程得た感覚を忘れないうちに形にするだけ。

西部地区の城壁に立つ。


「……」


ゆっくりと息を吐き、逸る心を落ち着ける――精神集中。

狙うのは、近くに守備兵がいないアンデッド――ターゲッティング

それを街全体に、見落としがないように広げる――ホーク・アイ

1射では間に合わない。矢筒から10本の矢を取り出す――束ね撃ち(+10連)。

その10本の矢をいつもよりも速く構え――クイック・ドロウ

一撃で首を落とす。――スナイプ・ショット

それらを重ねて2倍。――ダブル・アクション

さらに重ねて6倍。 ――トリプル・アクション



……それは既に人の領域を超えている。

それでもやるのだ。


 ガチンと頭の中で音が鳴る。

それはまるで頑丈に施錠ロックされた鍵が砕けるような。

それは新しい可能性スキル



「行け――アローレイン!!」


 一瞬に打ち出された60の矢は、まるで雨のように降り注ぐ。

だが、それは雨のような不規則なものではない。

60本すべてに狙いをつけて打ち出した。

そして、その矢はすべて狙い通りにアンデッドの戦士の頭を打ち抜いた。


「やった!これなら……」



 ちらりと、ソージさんの方を見る。

ソージさんはアウインの中央通から南部地区の裏通りに戦場を移していた。

アンデッドスライムの時と同様に、人が少ない場所に誘導したのだろう。


手助けをしたいが、おそらくソージさんなら『自分よりも他を優先しろ』と言うだろう。


「でも……これぐらいは、いいよね……

――アローレイン!!」


 狙ったのは南部地区に居るアンデッドの戦士達。

ソージさんの戦場に近く、邪魔になりそうなアンデッドに矢の雨を降らせる。

これで、ソージさんの戦闘を邪魔するものはいなくなったはずだ。


 私は、私が託された仕事をしよう。

さらに矢を放とうと、矢筒に手を入れるが空になっていた。

確か、200本近い矢を入れていたはずなのに。

でも、1矢で1殺なら、200体のアンデッドを殺せたということ。


なら、あとは今のを5回繰り返せば良い。


「あの……私のところに、ありったけの矢を……お願いします。

街のアンデッドを、全部……殺しますので」


 城壁の兵士に矢を取ってきて貰う。

私なんかの使い走りなんて彼も嫌だろうが、そこは非常時と思って我慢してらおう。


受け取った矢を矢筒に入れ、弓を構える。


ソージさんが戦っているように、私もソージさんに託された戦いをしよう。

それがこの戦いの一助になると信じて。


「だから……ソージさんも御武運を……」



リゼットのターン終了。

次はソージのターンです。

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