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もしも世界が***  作者: 吉尾京
間違ったチートの使い方
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幼馴染かと思った?-天使#2-

 運営が所有しているという居住区で、アタシは弘太(こうた)の腕をしっかりと掴んでいた。

 これからのことが不安で仕方ない。

彩弥香(あやか)、胸、当たってるよ」

 弘太(こうた)は普段からは考えられないほどに落ち着いた様子でアタシをやんわり引き剥がした。

「う、うるさい。アンタは黙ってアタシを守ればいいのよ!」

 アタシがうらめしそうな顔で睨むと、弘太(こうた)はやれやれといった顔でため息をついた。

「あーあ、こんな時にデレられてもなぁ。これで記憶がないなんて信じられるか?」

 さっきからみんなわかってるような口きいて、アタシだけ仲間外れは悔しい。

「お前は始まりの朝から今まで何をやっていたんだ?」

 運営のうちのひとり――井上旭斗(あさと)弘太(こうた)にそう尋ねた。

 始まりの朝ってアバターを新しくしてから最初のログインのことかしら。

 随分と詩的な表現をするのね。

「ああ、すぐに彩弥香(あやか)を探し出して、それから毎日構って、幼馴染みごっこをして楽しんでた。一応お前らと接点を持てるように画策して、それでこうして普通に会話できる立場になったんだけど」

「ああ、うん。いきなり不具合報告にあんな情報を書き込むのは危ないからやめた方がいいよ。だからこそ僕達が早く動いたんだけどね」

「それを見越しての賭けだったんだよ」

 アタシの知ってる弘太(こうた)じゃない。

 アタシの知ってるコイツは、もっと落ち着きがなくて子供っぽくて、騒がしいやつだった。でも、目の前のやつは違う。

 誰よこれ。別人じゃない。

「もうそろそろ彩弥香(あやか)ちゃんに説明してあげよう。可哀想に不安がっている」

 そう言って彰人(あきひと)はアタシの固有端末を取り外した。

 コイツ、何する気? 

 アタシの睨むような視線の中で、彰人(あきひと)はその端末を運営専用に作り替えてしまった。

「おめでとう。今日から君は僕達の仲間だ。まだ記憶はないだろうけれど、これから運営としてガンガン仕事してもらうからね」

 確かに優勝者は運営になれるって約束だったけれど、まさか本当になれるなんて思ってもみなかった。

「ま、勝ち負けに関係なく最初からこうなる運命だったけどな」

「どういうこと……?」

 それから、アタシとこいつらの関係や、仕事の内容についてみっちり教えられた。

 未だにアタシが運営だなんて信じられないわ。


 両手首についた最新型の端末。

 これがアタシの昨日と今日を明確に分ける。

「はぁ、なんなのよいったい」

 考えたこともなかった。この世界以外の“普通”なんて。

 知らなかった。ここ以外の世界のことなんて。

 この世界がゲームだってことは誰でも知っている。

 でも、現実の世界なんてみんな知ろうともしない。

 知らなくても生きていけるから……だけじゃない。

 意図的に目を逸らしているんだ。

 それがなぜなのかはわからない。見たくないものが溢れている世界かもしれない。

 心が壊れるような世界のことをアレコレ想像しても気分が悪くなるだけだ。

 一般人はただ与えられたアバターを動かして、楽しくゲームをやって、アバターのレンタル期間が過ぎたらまた新しいアバターで同じことをする。それを繰り返すだけの生活だ。

 誰も疑問に思わないのは、記憶が消されるから。

 アバターの返却は、その身体の死を意味する。

 前世の記憶があるやつなんていないから、新しいアバターに変えてスタートしたら、今までのことをみんな忘れてしまう。

 メモリもそんなにないし、何十年もの情報を記憶させておくことはできない。

 ――でも、運営のやつらはみんな覚えていた。

 覚えているのか記憶だと錯覚しているのかは謎だけど、それでもリアルの世界を知っていた。

 アタシはどうだろう。

 覚えている? いいえ、アタシの頭のどこにもそんな記憶はない。

 運営のやつらはリアルのアタシを知っているらしいけれど、アタシは全く知らないのだ。

 悔しいし、怖い。

 アタシの知らないアタシがどんなやつなのか。

 知りたい。このままじゃずっとモヤモヤしたままだ。

 どうしたら知ることができるだろう。


 なんだかんだで運営の家に住むことになったアタシは、豪華な風呂、食事、ベッドに感動して朝を迎えた。

 知らないベッドなのに、自分でも驚くぐらいぐっすり眠れた。

 ステータス画面を確認してみると、あらゆるゲージが回復しているだけじゃなく、レベルアップまでしていた。

 一時的なバフかと思ったけれど、育て屋チートらしい。育て屋ってなんだろう。

 普段からここで寝ているやつらはレベルがカンストしていた。

 ちまちまモンスターを倒したりフルコンボを重ねたりしてレベルアップしているのが馬鹿らしく思えてくる。

 チュートリアル学校を出てからアタシはシューティングゲームの道を選んだ。

 なぜかジョブ名はつかなかったけれど、それでもちまちまレベル上げをしていた。

 ……これからはそれをしなくてよくなる。

 それが納得できないと言えば、運営は忙しいからと言われた。

 確かに仕事との両立は難しそうだ。

 運営の主な仕事はバクの修正。それから、定期的なアップデートだそうだ。

 具体的に何をすればそうなるのか、記憶がないアタシにはわからない。

 アタシが正直にそう言うと、彰人(あきひと)はしばらく弘太(こうた)旭斗(あさと)を連れてどこかに消えた。

 いきなりひとりになって不安になる。


 数分後、アタシの記憶は戻った。

 弘太(こうた)が言うには、上手くクラウドと繋がらなかったのが原因らしい。

「俺達の記憶や情報はアバターごとのメモリーじゃなくて世界のどこかにしまわれているんだよ。記憶がないってことは、それがなくなったり壊れたりしたか、そこに繋がらないかのどっちかだろ」

「ふーん。アンタよくそれに気づいたわね」

「前回ね。だから今回新しくやり直した時に最初から記憶があった。接続不良さえどうにかできれば記憶は戻るんだから、本人のアバターにさえ会えればここで色々やるだけでいい」

 つまり“あいつら”とリアルに戻るためにはまずあいつらのアバターをここに連れてきてここのでっかい機械を操作すればいいのね。


 ――なんか前途多難なんだか順風満帆なんだかわからない条件ね。

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