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もしも世界が***  作者: 吉尾京
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ツンデレガンナー-天使#2-

天使#2、松本彩弥香(まつもとあやか)

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 GAME CLEAR

 いつも通りの表示を確認するまでもなく、アタシは背を向けた。

 相棒とも呼べる拳銃型のコントローラーを道具ボックスに片づけて、装備した服をいつものセットに戻す。

「相変わらずスゲー腕」

 慣れた称賛に眉をひそめて振り返ると、腐れ縁の男と目が合った。

「アンタ程でもないけどね」

「いえいえ、彩弥香(あやか)程では……なんちゃって」

 目の前の男――黒木弘太(こうた)はぺろっと舌を出してウインクするという、古典的なポーズで誤魔化した。

「――この調子なら明日の世界大会も危なげなく勝てるんじゃない?」

「……まあね。でも、なんでいきなりこんな破格の賞金が出るんだろ」

 アタシは端末を操作して大会の概要を見なおした。

 全世界同時開催。参加条件はなし。世界一に輝いたら、賞金一億と運営になれる権利。

 怪しい。運営は何を考えているのか。

 でもアタシみたいな小市民に世界のトップの御意向は計れない。

「――あー、それは……運営にもいろいろあるんだよ。――バグとかデータ損失とか……」

 弘太(こうた)は知ったような口をきいた。

 なんでアンタがそんなことわかるのよ。

 アタシが胡乱な目で見ると慌てて目をそらした。

 口笛まで吹いている。

 ……うっ、わかりやすい誤魔化し。

「えっと、まあまあ、俺達はただ大会に出て勝ち続けることだけを考えればいいんだしさ、気楽に行こうぜ」

 そう、この大会はアタシの得意とするシューティングゲームのものではない。

 リズムゲーム、パズルゲーム、恋愛ゲーム、シューティングゲーム、スポーツゲーム、推理ゲーム、弾幕ゲーム、狩猟ゲーム、ボードゲーム、格闘ゲーム、ウォーゲーム、ロールプレイングゲームの十二種類の部門がある。

 アタシはシューティングゲーム、弘太(こうた)はスポーツゲームの部門に参加する予定だ。

 弘太(こうた)はスポーツに関するゲームならどんなものでも簡単にやってのける、スポーツゲームの天才だ。

 今回どんなスポーツで勝負するにしても、優勝は確実だと思う。

 ……コイツはこの世界に入る前、どんだけゲーマーだったんだろう。

 ま、アタシも言えたクチじゃないけど。

 この身体を手に入れたら、その前のことを忘れるようにできているから、真相はやぶの中だ。

 でも、なんとなくだけど、弘太(こうた)はなんでも知ってるんじゃないかと思う。


『優勝、松本彩弥香(あやか)選手! 誰もこの強気な美少女の猛攻を止められないっ! 』

 テンションの高い実況がキンキンと会場内に響く。

 それに合わせて生放送の視聴者が次々とコメントを流した。

 弾幕と呼ばれる文字の大群に辟易する。

『うおー、強ぇー! 』

『何なんだあの女はっ! 』

『強い強い強い』

『ぅゎっょぃ』

『こいつ……できるぞ! 』

『つよい(確信)』

『おねーたまと呼ばせてくれえええっ』

 ……ネットスラングには慣れているはずなのに、自分に言われていると思うと謎の不快感がある。

 次の選手が戦っている間に弘太(こうた)の試合も見ておいてあげよう。

 まあ、どうせ圧勝だろうけど。

『黒木選手圧勝です! 誰も寄せ付けません! 果たして彼と同じ次元で戦える選手はいるのでしょうか!?』

 黄色い歓声を一身に浴びてコートの真ん中にやつが立っていた。

 アタシの我儘かもしれないけれど、女からキャーキャー言われて何とも思っていなさそうなのがなんかムカツク。

 そんな弘太(こうた)がアタシを見つけるなり破顔してぶんぶんと手を振るから、ますますイライラした。

彩弥香(あやか)!」

弘太(こうた)、いいの? 試合は?」

「今終わったとこ。次の試合までちょっと休憩。彩弥香(あやか)も?」

 アタシは頷いて弘太(こうた)にスタミナ回復ドリンクを渡した。まあコイツには無駄だろうけど。

「はあ、わかってはいたけど、やっぱみんな簡単に勝ち進んでるなぁ……」

「えっ!? どういうことよ」

「ん、まあ、こっちの話」

 弘太(こうた)は変なことを言ってドリンクを口に含んだ。

 ……コイツ、結構喉仏あるんだ。

 アタシは今まで意識していなかったことに急に目がいくようになって困惑した。

 弘太(こうた)はこの身体になって一番最初にアタシに話しかけてきた男で、やたらべたべたとくっついてくるからそのままついてこさせているだけだ。

 どれだけ追い払ってもずっとついてくるもんだから、アタシは途中で何も言わなくなった。

 でも、何年もそうやってすごしていたら、このなんとも言えない関係が心地よく思えてきた。

 幼馴染でも恋人でも家族でもない、特別な存在。

 アタシが弘太(こうた)にそう言うと、コイツにしては珍しく少し複雑な顔をされた。


 アタシと弘太(こうた)は地区予選突破して、中央都市の決勝戦に行くことになった。

 この世界はかなり広いから、地区代表はかなりの人数になる。更にゲームの種類の数だけ優勝者はいる。

「人多いなあ。彩弥香(あやか)、手ぇ繋ごう」

「えっ!? ちょ、ま、待ちなさいよ!」

 弘太(こうた)はアタシの許可を得る前にがっしりと私の手を掴んだ。

 グイグイ引っ張るのかと思いきやちゃんとアタシの歩幅に合わせて歩いてくれるから頬が熱くなった。

彩弥香(あやか)、ちょっとじっとしてて」

 大人しくついていくと、人気のない路地裏に連れていかれた。

「目ぇつぶって。すぐ終わるから」

「えっ!? な、何する気!?」

 弘太(こうた)はアタシの顔を掌で覆うと、怖くないからと私の耳元で囁いた。

 自分の心臓の音が大きく聞こえて、頬に熱が集中する。

 こ、これってもしかしたら、もしかするかも……! 

「よし、ついた。もう目ぇあけていいぞ」

 弘太(こうた)に言われるままに目を開くと、そこは目的地だった。

「て、転移魔法?」

「慣れてないと目を回すと思って。人が多い中わざわざ歩くのも面倒だし、他の人を巻き込んじゃいけないから、人がいないところでワープを使わせてもらった。――何か期待に応えられなくてごめんな」

「なっ、アタシがそんな期待とか……する訳ないでしょ!? ば、馬っ鹿じゃないの!?」

 アタシが慌てて否定しても、弘太(こうた)はニコニコ笑うだけだった。

 なんかアタシだけ必死みたいでムカツク。


 世界大会の決勝戦は流石に曲者揃いだった。

 そりゃあ世界中から予選を勝ち抜いてきたんだから、ある程度強くて当たり前なんだけど、アタシでもこれは……と思うような人達ばかりで、正直勝ち残れるか心配だった。

 でも、勝ってしまった。弘太(こうた)もアタシも。

「勝ててよかったな……ま、予定調和だけど」

 アタシがその言葉の真意をはかりかねていると、本人はまあ気にするなと笑って誤魔化した。

『おめでとうございます! 優勝者の松本彩弥香(あやか)さんには賞金と権利が贈られます』

 アタシはずっと巨大スクリーンに映されているのが堪えられなかったから、早々にステージを降りた。

 表彰はゲームジャンル別に行われるから、弘太(こうた)はアタシとは別の場所にいた。

 待ち合わせ場所は一応決めておいたけど、そこに弘太(こうた)の姿はない。

「アイツどこ行ったのかしら。どうせ都会が珍しくてふらふらキョロキョロしてるんだろうけど」

 などと失礼なことを考えながら、アタシは大人しく彼を待った。

 あと五分待ってこなかったら勝手に帰ってやるとムカムカしだした頃、弘太(こうた)は意外な人物を連れてこちらへ向かってきた。

「おーい、彩弥香(あやか)! 彰人(あきひと)達連れてきたぞ」

「えっ!? はっ!? ちょっ、ちょっと、いったいどういう……」

 この世界の運営……ファンタジーな言い方をすれば神様に、弘太(こうた)はフレンドリーに接していた。

 運営の人達も慣れた様子で、まるでずっと前から知り合いだったみたいだ。

「やあ、久しぶりだね彩弥香(あやか)ちゃん。君ならきっと優勝してくれるはずだって信じていたよ。弘太(こうた)も、アシストをありがとう」

「しかし、まさか弘太(こうた)も記憶があるなんてな……。前回ではなかった現象だ」

 アタシに対しても知り合いのように接する彼らに、アタシは強い既視感を覚えた。

 なんか、これ知ってる。

 遠い昔だか、つい最近だかもわからないけれど、アタシは確実にこいつらとこういう関係になったことがある。

 ――もしかして、前世? 

「そーそー、俺思い出しちゃった。多分いっこ前のアレで接続不良がどうにかなったんじゃね?」

「そうか、データのバグじゃなく接続のバグならすぐに思い出せるのも納得だな」

 アタシが酷い頭痛に悩まされている間にも、弘太(こうた)は運営と会話を続けていた。

「とりあえず立ち話もなんだからうちに帰ろう」

 彰人(あきひと)はそういって会話をぶち切ると転移魔法陣を出した。

 視界がぐらりと歪んでアタシも巻き込まれたんだと知った。

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