超局地的・異常・はじまり(プロローグ)
あとから聞いた話なのだが、僕が気を失っていた「あの時間」、つまり実質丸一日ものあいだ、音羅洲町は過去前例のないきわめて〈異様な〉事態に見舞われたらしい。
はじまりは、大爆発が起こったかと錯覚させるような黒雲。
大渦潮のような雲の流れが空を満たし、雷が間断なく鳴り響いたという。
その後、闇と閃光に支配された音羅洲町では、コマのような竜巻の大群が、そこかしこを踊り狂ったように走り抜けた。竜巻は、ときおり思いついたかのようにゴルフボール大の雹雨を呼び寄せ、町の人々を恐怖に陥れた。
さらに信じられないことに、局地的な気温変動が音羅洲町だけで確認された。
町の気温は九月としては過去例のない摂氏四十度まで、わずか数十分で到達し、その後〈ありえない〉速度で、十度未満にまで急降下してみせた。しかもこの尋常ならざる気候変動は、メトロノームのように幾度も上昇と下降を繰り返した。
僕と同じ三丁目に住む、浪人生の山仲青年は、地元ニュースのインタビューで「この〈ピー音〉れた異常気象」とわめきたて、「庭で混乱したセミが地中から這い出して羽化したところを見た」とこたえた。
山仲さんの右隣に住む永倉商店の主人は、熱中症で病院に担ぎ込まれた。彼の妻は怯えながらも、雲の中に〈光る飛行物体〉がいたとまくしたてたそうだが、これは放送でカットされた。
ともかく、確実に言えることは、この奇妙な現象の数々が〈僕の住む音羅洲町だけ〉、〈あの時間にだけ〉起きたということだ。天気予報士や気象の専門家の多くは、今でも観測機の故障を疑っているのだという。
もっともその異常気象が〈今の僕〉に関連しているのか、断定することはできない。
けれどもし注意深く調べたなら、わかるだろう。
これら異常気象の及んだ範囲が、僕の住むマンションを中心にして――厳密には僕の部屋を中心として――綺麗な円形を描いていることに。