――3.想う
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私の名は『美空夢希』だ。此処は学科は希望制で――おっと、知っているか。そして、私は天文学科……それから、まあ解っているとは思うが魔法学科に希望し、所属している。」
「……え……」
「どうした?」
「……いや、何でもない」
――俺には昔、大切な幼馴染が「居た」。
名前は「榊空音」……だったはず、だ。
外見は目の前に居る少女、そのものだ。――だが、彼女は別の名を言った。
――「美空夢希」、と。
他人の空似……にしてはおかしい。似すぎている。そして、何故か俺は彼女に対し「懐かしい」という想いがある。
絶対他人の筈がない……いや、ある訳が無い。
何故なら俺が……俺が、空音の事を想い続けていたからだ。
――そんな俺の思考を止めるようにして。
「実はこの名前は本名では無いんだ。此処へ来た時、名乗る際にいつの間にかこの名を出していた。自分でも何故そうしたかは、解らないがな。」
「……そう、なんだ……」
俺は危うく「本名は?」などと言いかけてしまった。此処に居る者の皆が何か事情があって居るのだ。知識を持つ時に此処へきたのならば本名は流石に辛いと想い、変えて名乗る者も少なからず居るだろう。学園長も把握している筈、だ。その為、本名を聞く行為はとても非常識だ。尚、知識を持たない頃に此処へと来た場合には、学園長や中学・高校に値する者達で考え、名付ける。
空音が居なくなったのは小学一年の頃の為、物心がついている。ならば、目の前の少女は空音本人なのか、否か……
「……俺の名前はさっき皆の前で言った通りで、ちなみに本名。俺も学科は希望しているよ。偶然にも、二つとも君と同じね」
「そうか……ならば、これからよく関わる事になるだろうな。宜しくな」
「うん、宜しくね」
両者の自己紹介が終わる頃、朝の集会も終わり、俺達は自分達の希望した学科の教室へと向かった。
*
俺達がまず向かったのは天文学科の教室だ。 魔法学科は基本的に、月明りが強い夜に開放される。勿論、昼でも使えるが魔力は弱くなる。魔法のパワーは主に、魔導者本人の持っている魔力・月明りの力で左右される。だから、月明りの下で魔法を使う方が効率が良いのだ。その為、昼間は魔法学科に通う者は限りなく少ない。
「我らが天文学科に新入りが来たぞー!!!」
「!?」
パン、パパン! とクラッカーの音が部屋中に鳴り響き、先程まで隣に居た夢希もいつの間にか、盛り上げ役(?)の中に入っていた。そしてニヤケている。なんなんだ、人がせっかく真面目な事を考えていたというのに。
「……これはまた派手な演出で」
ついさっきまで考えていた事を、すっかり忘れるほどに派手、だ。全て。――部屋・服等、本当の意味で全て、だ――
「いやいや~、新入りが来るとシャトル打ち上げ成功並みの喜びがだな、」
この人が天文学科のリーダーらしい。有り得ないと正直思った(ちなみに夢希に前もって聞いた)。
「せめてここはお世辞でも、ダークエネルギーの正体が解った時並みにしてくださいよ……」
「じゃあ……」
「いいです、必要ありません」
「う」
……う、なんていう間抜けな声を出したこの人が本当にリーダーかぁ? と思っている時だった。
「これはまたマニアックな会話で……」
ひょっこり口を挟んできたのは夢希だ。
「何も知らない人が聞いてたら訳解んないよ……この会話」
『はい』
――このほのぼのとした空気に俺はどんどん惹かれていった。
楽しそうな、そんな雰囲気が好きになれそうだった。