――2.出逢う
「初めまして、『開城星七』と言います。よろしくお願いします。」
よろしく、などの声と同時に拍手の音が聞こえた。
「えーと、此処の事は解ってるわね?」
「ええ、大丈夫です。」
少しハスキーな声の持ち主は星南学園の代表的な存在である。
普通の学校でいえば校長先生……といった所だろう。
だが、星南学園は普通じゃない。何故ならば……
孤児院に学科、それも「魔法学科」が存在するからだ。
元々此処は、孤児院である。それにも関わらず、学科が存在する――しかも殆どの学科が、である――。だが、「魔法学科」はまず普通の学校に存在しないだろう。それにまず、この世界で「魔法」なんてものは空想上のものでしかないというのが、一般的な認識である。
だが、何故存在し、使える者が居るのか、などは全く解明されていない。
只、使える者の共通点として、「辛い過去を持つ者」が有力とされている。勿論、「テストで赤点を取ってしまった」などという生半可なものではない。例えるならば……そう、
――此処に居る人達、などだ。
此処に集まっている者の九割が両親を亡くしたり、捨てられたりしている。
一番親しく、一番信頼出来るのが「親」と言う存在だ。
その存在が突如無くなるとしたら。
――どうなってしまうだろうか。
* * *
「開城星七」。
どこか聞き覚えのある名前。
どこか見た事のある顔。
どこか聴いた事のある声。
どこか……
……懐かしい。
……全てが。全部。何もかもが。
どこか懐かしい。
「……変なやつ。」
「え!? えっと、その、ごめん……」
「あ、いや、すまん。独り言だ。」
「それなら良かったんだけど……」
隣に居るやつは「開城星七」。
今日、この学園へと来たやつだ。
何故か私はこいつを見ると「懐かしい」と感じてしまう。
何故なのか……
――その刹那。
「――っ!!?」
ズキン、と激しく頭を打ったような感覚に襲われた。
まるで、思い出すのを脳が拒むような。
激しく痛む頭を抱えながら震える右手を動かし、人指し指で空中に円を描く。
そして、その指を頭へ当て……
――痛みが引いた。
いつからだろうか。こんな事が出来るようになったのは。
こんな事が――「魔法」が使えるようになったのは。
この世界では、魔法は架空の存在としか思われていない。
それもそうだ。魔法は魔力を持つ者にしか見えず、その上魔力を持つ者は限りなく少ない。
そして今、頭痛を治したのはその魔法を使ってだ。
とは言っても、右手――利き手設定によっては左手だが――の人指し指で空中に円を描き、魔法を使いたい所に当てる、などという魔法は基本中の基本である。
高度な魔法になると、動きがややこしくなったり、さらには呪文までも用いたりと、必要魔力数が増えるだけでなく、魔法を使う者本体の技術や知識を要する。
「人前であまり魔法は使わない方が良くない?」
「!? な、お、お前、一体!?」
唐突に耳元で囁かれた言葉に私は驚愕した。
こいつは……こいつは。
――魔力を持っている。
それだけでない。言葉から推測すると。
もしや。
「俺も一応魔法使えるよ?」
「……やはりか」
……こいつは、一体どんな過去をもって――
「どうしたの? 急に黙りこんで」
まさか驚いた? などと、笑いながら言ってきた。驚いた、というレベルじゃない。
「普通ありえんだろうがぁーーっっ!!!!」
そう叫んでしまった瞬間、ヤバイ、と心の中で思いつつ周りを見渡すと――
……案の定、周りからの視線が尋常ではなかった。
「……はぁ……」
隣からぷくく、と笑い声が聞こえたが、もう怒る気力すら残っていなかった。