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弓と剣  作者: 淳A
六頭殺しの若
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祝い酒  若の父とサハラン近衛将軍の会話

 どすどす音高く歩み寄る足音。 それを聞いただけでかんかんに怒っている事が感じられた。 気の置けない親友なだけに遠慮もない。 近衛将軍マルナ・サハランは挨拶抜きで怒鳴った。

「おい、サキ! 俺は、情けないぞ!! 親友と頼みにするお前が、あんな些細な事を根に持つ奴だったとは!」

「なんだ、マルナ。 何の話だ?」

「なんだ、じゃない!! しらばっくれるのもいい加減にしろ!」

「だから何の話か聞いている」

「六頭殺しの若だっ! 他に何がある?」

「ああ」

「ああ、じゃねえ! いくら前回将棋で俺に負けたからって! その腹いせにオークを射殺す程凄腕の息子を北に送るとは。

 お前は一体何を考えている? 陛下よりお言葉があったのだぞ。 これ程の弓の手練、何故近衛に入隊しないのか、と。 近衛将軍としての俺の立場というものを考えてくれたのか? ええ? くれてないよな?

 そもそも六頭殺しの若とはサダ君の事、と甲冑仲買人に聞かされた時の俺の驚きがお前に分かるか? 東西南にはともかく、なぜ俺にまで隠す必要がある!!」

「そのように唾を飛ばすものではない。 私とてそれを知ったのはつい昨日の事なのだぞ」

「なんだと?」

「傷なしのオークが獲れた場合、奏上する決まりだ。 知らせは早馬で陛下に届けられただろうが、馬鹿息子に付けた従者は普通の乗り合い馬車に乗って帰って来た。 つまり私とお前は同じ日に同じ情報で驚かされた、という訳だ。 下手をすると私の方が遅かったかもしれん」

「驚かされたって。 お前、自分の息子の弓の腕前を知らなかったのか?」

「よく兎や野鴨を獲ってくるとは聞いていたさ。 だからと言ってその獲物を全て弓で射落としていたとは普通思わんだろう? 森番が仕掛けた罠に掛かった動物を回収していたか、自分で罠を仕掛けたか、そのような事だろうと思っていた。

 私は弓を射った事などないし、あの子と一緒に狩りに行った事もないのだから弓の腕など知りようがない。 そもそもあの子に子供用の弓をあげたのはお前ではないか」

「俺?」

「覚えていないか? 私がサダの誕生日に何もあげた事がないと聞いて、三男だからと蔑ろにするのはけしからん、と私に散々意見しておいて。 あの子の部屋の壁にはサハラン公爵家の家紋が入った弓が飾ってあるぞ。

 まあ、そんな事はどうでもいいが。 ともかくあの子が旅立った後、食費がいきなり二倍になってな。 二人食い扶持が減ったのになぜ食費が倍になったのか、料理番に訊ねた。 そこで初めて夕飯の肉という肉は全てあの子が矢で射落としていた事を知ったという訳だ。 もっともそれを知っていた所で、兎や野鴨を射落とせる、ならオークも殺せるだろうと思うか?」

「ううむ。 確かに、矢でオークとは。 初めて聞いた時は俺も少々、いや、大分信じられなかったが」

「放任のつけというか灯台下暗しというか。 まさかあのぼやぼやの三男が、とほぞを噛んでも後の祭りという訳だ」

「おい。 そう言えば、サダ君の誕生日はまだ先じゃなかったか?」

「二十三日だ」

「おおっ! ではまだ正式入隊はしていないな。 俺が早馬を出す! な、近衛に呼んでもよいだろう?」

「いや、既に正式入隊した」

「なんだと?  満十八歳になるまでは仮入隊のはずだ」

「北軍将軍は見た目通りの男だが、補佐に目先の利く奴がいるらしい。 カルアと言ったか。 トビによると目が覚めたその日の内に現れ、入隊同意書に署名させたのだとか。 あの子の事だ。 宿泊費と食費が無料になるという言葉に釣られたのだろう」

「う、ううむ。 くそっ。 くそっ。 くそったれ!!」

「おいおい、仮にも近衛将軍を拝命する者が」

「はああ。 重ね重ね残念至極」

「お前という強力な伝手があればこそ、最初からそれを頼ってはコネで昇進したぼんくらと周りに思われて終わりだ、と遠慮したのがあだになった。 自分で自分の道を切り拓けと言って送り出しただけに、今更こちらに良い道があるから戻って来いとは言えん」

「し、しかし。 今からでも裏から手を回そうと思えば回せん訳でも、なあ?」

「止めておけ。 それでなくとも猛虎止めでは北軍の恨みを買っておろうが」

「あれは俺がした事ではない」

「北軍にとって何の違いがある?」

「ま、ないだろうな。 やれやれ。 六頭殺しが北軍に攫われたのは無念だが、お前にとってはサダ君がどこの軍に所属しようと皇国史上にヴィジャヤンの家名が燦然と輝く事には変わりがない。 祝杯だ!! 祝杯を上げようではないか!」

「何にだ。 父の無知蒙昧にか?」

「前人未到の偉業を成し遂げた息子の栄誉に杯を空にせんでどうする!!」

「はあ。 そんな事が出来るような子には全く見えなかった。 これでも結構人を見る目があると言われているのに」

「ぼやくな。 天才と思っていた息子がぼんくらと分かるより余程ましではないか。 ぼんくらと思っていたが、実は天才と知って文句を言う親がどこにいる」

「くくっ。 そう言われれば、まあ、そうだが」

「今日はお前にしこたま奢らせてやるつもりでいたが、サダ君への祝杯だ。 俺からの祝い酒にしてやる」

「持つべきものは」

「酒を奢る友、てか」

「その通り」


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