確認
目が覚めたらそこには見慣れたトビの顔。 何はともあれ、ほっとした。
辺りを見回すと上品な家具が置いてある。 俺は一目で高貴な佇まいと分かる部屋で寝ていた。 おそらく離宮の一室だろう。
「若、御気分は如何でしょうか?」
またトビに心配かけちゃったな。 お前がそうやって俺の目を覗き込む時はえらく正直に自分の気持ちをもろに見せているって分かってないだろ。
「あ、うん。 大丈夫。 ね、タマラ小隊長を呼んできてくれる?」
そう言ってから俺はのろのろ起き上がった。 日差しがまだ夕方で夜にはなっていない事を告げている。 コオ兄はたぶん寝ていない。
俺ってば、あんな所でぶっ倒れちゃって。 誰が運んでくれたんだか分からないけど迷惑かけちゃった。 それも聞いとかなきゃな。 でもそれより大切な事を聞いておかないと。
畏まりました、と言ってトビが部屋を出て行った。 どうやらコオ兄は隣か近くの部屋にいたようで、部屋の外で待っていたかのようにすぐ来てくれた。
「コオ、あ、いや、タマラ小隊長、あの、わざわざ、すみま」
「若。 コオ兄でいいです」
そしてやさしく俺の手をさする。
「さすがは若。 本当によくやりました」
コオ兄がきゅっと優しく手の甲を掴んでくれた時、俺の涙腺はもうだばだば。 喉が詰まって言葉がうまく出てこない。 でもこれだけは、どうしても今聞いておかないと安心出来ないからさ。
いや、トビに同じ事聞いたっていいんだよ? だけどちょっと、ほら、あいつって主贔屓入っちゃっているから。 正直なとこ、教えてくれる人に聞かないと、まずいって思っただけ。
「あ、あの。 ひくっ。
お、俺、ちゃ、ちゃんと、数、数えられていたかな?
ほら、俺って。 おっちょこちょいなとこ、あ、ああ、る、か、ら。 うっく、うっ」
俺は兵士だ。 戦うのが仕事なのに、戦ったからって泣いたらおかしいだろ?
分かっちゃいるんだけど。 涙は止まってくれない。 勝手に次から次へと流れてくる。
「ええ。 きちんと数えられておりました。 お見事なものです」
コオ兄は泣きじゃくり始めた俺の背中を優しくさすってくれた。 そして囁き続ける。
「もう大丈夫です。 若は見事にやりぬきました」
幾度も幾度も。 俺はもう堪らなくなって、わんわん大泣きしだした。
なんだよー。 これじゃいくら隠したくたってトビにも師範にも、まるっと聞こえるじゃないか。 とは思ったけど。 は、恥ずいけど。 でも胸が、とても痛くて。 どこも怪我なんかしていないのに。
そういえばコオ兄は昔、俺が転んだ時とか木から落っこちた時、こんな風にとんとん背中をたたいて慰めてくれたっけ。 そんな不思議に安らかな思い出がよぎった。
いくら何でも、もう子供じゃないのに。 べそべそ泣いたりしたらばかだろ。 呆れるよな、普通。
上官なのに、コオ兄はなっさけねー俺を叱りも咎めもしない。 ただ、若はえらい、と囁いてくれた。 しゃんとしなくちゃ、とは思う。 だけど。
あ、コウ兄のシャツ、びしゃびしゃ。 で、でも、涙、止まってくれないし。
そんな風にいつまでもコオ兄の腕の中で泣いたあげく、疲れ切って眠り込んでしまった。




