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弓と剣  作者: 淳A
零れ話 IV
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新年の抱負

新年明けましておめでとうございます。


作者の新年の抱負は「今年こそ完結」ですが、一年に一章や二章の亀更新では今年も抱負で終わるでしょう。(汗)

これではあまりにしょぼいので、主要登場人物にもっと派手な(?)新年の抱負を語ってもらいました。

** サダ **


 今年から日記を書き始める。

 おし。 (ヒャラの決めポーズ。) 決まったな。


 はい? どうせ三日坊主だあ?

 むうっ。 俺の本気を知らないだなんて、あなた、誰?

 そういう分かってない人の事、もぐりっていうの、知ってた?

 燃えてる栗は熱いから、誰にも触れてもらえなくていつの間にか世間知らずになるんだって。 気をつけた方がいいぜ。 世間て結構狭いから。


 俺はやるって言ったらやる。 俺がやるって言ったら、やらないで下さいとお願いされた事だってある。 それだけ見たって俺の本気を疑う奴はいない事が分かるだろ。 

 ほら、見てくれ。 日記用の帳面だって去年の内からちゃんと用意してあるんだ。 と言っても、用意してくれたのはアラウジョだけどさ。


 あ、最近は帳面の事、のーと、ていうんだってな。 書き損じの紙が結構溜まっちゃって、捨てるのが勿体ないから帳面作ってとアラウジョに頼んだら、帳面って何ですか、て聞き返されちゃった。

 帳面は帳面だろ。 ほんとにもう、若い奴らはすぐ流行語に飛びつくから困る。

 とにかく日記だ。 忘れない内に今日の分を書いておかなきゃ。 えーと。


 「きょうは、つかれた。」

 ふう。 ちゃんと書き終わってほっとしたぜ。


 え? 日付がない?

 それは、わ、ざ、と。 日付を付けたら使い回しが出来ないじゃないか。

 昨日も疲れたし、明日も疲れるだろう。 「つかれた」は俺の一日の全てを言い表している。 俺の人生が何年続こうと、この一言で言い尽くされるような気がするぜ。


 なら、わざわざ日記にするまでもないだろうって?

 ちっ、ちっ、ちっ。 分かんないかなー。

 こんな風に書き留めておくだけで侮れない効果があるんだ。

 長年生きていれば、思い出したくない事がどんどん溜まっていく。 俺の場合、あまりにあり過ぎて、その内忘れる事が多いけど、それでも昨日や今日言われたお叱りや嫌みを忘れるほど忘れっぽい訳じゃない。

 でもこんな風に理由を書かないでおけば、読み返した時、何で疲れたのか思い出せない日がきっと来る。 そう考えたら明るい気持ちになれるし、明日の疲れだってどんと来い、だ。 それに書いておくと、ほっとして早く忘れる事ができる感じ。


 日記を書いているっていうと、賢そうに見えるという利点だってある。 実は、小学校に上がる前、俺は日記を書くって事に密かに憧れていたんだよな。 兄上達が書いていたから。 兄上達の場合は賢そうじゃなくて、ほんとに賢いんだけどさ。

 それで俺も日記を書きたくなって、帳面が欲しいってサジ兄上にねだった。 俺が字を習ったのは小学校に上がってからだ。 帳面をもらったって何も書けない事は、賢いサジ兄上なら分かっていたと思うんだけど、がんばって勉強するんだよ、といって俺に立派な帳面とペンをくれた。

 それがすごく嬉しくてさ。 よーし、書くぞ、とページを開いてから字が書けない事に気付いたんだよな。

 かと言ってせっかくの帳面を字を習う事なんかに使いたくない。 でもまっさらのままにしておいたら何もしなかったみたいだろ。 それで母上の顔を描いた。

 自分では結構うまく描けたような気がしたんで、みんなに見せたら、上手な虫ですねとか、何の花ですかとか聞かれた。 結局誰も人の顔だと気付いてくれなかった。

 今思うと、あの時自分に絵の才能はないって気が付いたような気がする。


 それはまあ、どうでもいいが、小学校で字を習ったらちゃんと日記を書くつもりでいた。 いや、つもりだけじゃない。 毎年一月一日には日記を書いていたんだ。 ただ当時は日記ってその日にあった事を全部書くものだと思い込んでいてさ。

 貴族は皇王陛下へ新年の御挨拶に行かなきゃいけない。 それで一月一日は必ず皇都の別邸で迎える。 その関係で、いつもと違う行事がいろいろあった。 御飯も豪華だし、品数も多い。 起きた所から始まって、朝湯に浸かった、赤い服を着た、朝は何を食べた。 とまあ、全部書き留めようとしたものだから、書く事がいっぱいあり過ぎちゃって。 次の日になってもその次の日になっても、一月一日の分を書き終える事が出来なかったんだ。

 昼辺りまでは何とか辿り着けるんだが。 そこまで書き終えるのに四、五日かかっちゃってさ。 夕飯に何を食べたかどうしても思い出せない。 で、二日の分を書くのは諦める、の繰り返し。

 一週間前の夕飯なんて今だって思い出せないんだ。 子供の俺に思い出せる訳がない。

 改めて思い返してみると、一月一日はいつもよりずっと早く起きた所為で、夕飯を食べる前に寝こけていたような気がする。 食べていないんじゃ思い出せないよな。

 これが普通の日だったら変わった事なんて何もない。 夕飯だってちゃんと食べているから書き終えられたと思うんだけど。 一月一日以外の日から日記を書き始める気分にはなれなかったんだ。 日記というものは一月一日から書き始めるんじゃなきゃ日記とは呼べない、みたいな妙な思い込みがあったんだよな。 結局俺は今に至るまで一月一日以外の日記を書いた事はない。


 子供の頃は何も分かっていなかったが、年を取って俺も賢くなった。 日記を続けるぐらい、おやすい御用だ。 今年はもちろん、来年だってがんがん書くぜ。


「リネ! 俺、今年から日記を書く」

「まあ。 日記ですか。 さすがは旦那様。 すごいです!」

「いや、そこまで褒められるほどの事でも」

「あの、私も始めた方がいいでしょうか? 続けられる自信はないんですけど」

「簡単だよ。 続けられるコツがあるんだ。 ほら、俺の書いたやつを見てみな。 要するに日付を付けなきゃいいのさ」

「……あのう、旦那様。 日付が付いてないと、日記と呼べないんじゃないでしょうか?」


 俺的には日記だけど、日記を書いている事はリネ以外の誰にも言うつもりはない。



** 猛虎 **


 仕事だ。

 一に仕事、二に仕事。 三、四がなくて、五に仕事だ。

 何しろ俺の足を思いっきり引っ張る奴が側にいる。 普通にがんばったって間に合わん。

 すると側で俺の抱負を聞いていたサダが言った。

「え? 師範の足を引っ張るなんて、そんな命知らずな真似をする奴がいるんですか? どこに?」


 この臆面のなさ。 これ程面の皮が厚けりゃ何があったってさぞかし楽な人生だろうな。 道理でいつも楽しそうだ。 誰からどんなに怒られようと屁のカッパ。 一々腹を立てるのが馬鹿馬鹿しくなる。

 ここまで来れば、もう人外のレベルじゃないか? 人外からだって俺達と一緒にするな、と文句を言われるかもな。 いっそ見習いたい。 俺みたいな凡人がどう足掻いたって到達できる境地じゃないとは思うが。 出来る奴は出来る。 努力なんかしなくても。 こいつのように。


 ただ生まれつきにしては、サダの親兄弟に臆面のない人はいない。 貴族らしい礼儀と気遣いのある人ばかりだ。 て事は、親からもらった性質という訳じゃないらしい。

 平民だって家族で顔が似てないのはよくあるし、俺自身、親兄弟と似ている訳じゃないが、似てなくたって家族だと雰囲気で分かる。 その証拠に、俺の家族が第一駐屯地に来た時、誰も俺の家族の顔を知らないのに、どこに行っても誰と会っても、いつも師範にお世話になっております、とこちらから名乗る前に挨拶されたと言っていた。


 しかしサダの場合、顔が似ていないだけじゃない。 雰囲気が他の家族と比べてどこか違う。 両親の側に立っていたって息子どころか、通りすがりの他人、せいぜいで遠縁の親戚にしか見えない。 それが不思議でヴィジャヤン準公爵に聞いた事があった。

「サダは祖父母のどなたかと似ているのですか?」

 準公爵はちょっと考えてからおっしゃった。

「誰とも似ていないね。 少なくとも顔立ちは。 でもあの子を見ていると、不思議と私の義父母を思い出す。 但し、性格が似ているから、という理由ではない。 例えば人をまっすぐに見る視線。 あれは義母譲りだ。

 そしてあの運の良さ。 義父を彷彿させる。 危機一髪の所で思わぬ助けが現れたとか、そのような類の逸話が数え切れない程ある人だったのだよ」


 運が良い、か。 それは羨ましい。 だが自分にないものを羨んだ所で始まらん。 俺はあるもので勝負する。



** リネ **


 今年も節食にがんばるつもり。

 そりゃ何とか以前の服が着られる様にはなったけど、きっちきち。 こういうのって油断するとすぐだもん。

 何しろそっちこっちから美味しい戴き物があるし、フロロバさんの食事も美味しいし。 毎日気を付けてはいるんだけど、美味しい物にはつい手が伸びちゃうから。

 それに儀礼のお稽古には食事の食べ方もあってね。 順序とか。 お呼ばれした時のお菓子の食べ方や断り方もあるし。 お茶の飲み方やお礼の言い方、もう、いっぱい覚えなきゃいけない事があって大変。 緊張して味なんか分からない。 はっと気が付いたら、出された物全部食べたりしているんだもの。


 今でも毎日のごはんは野菜を中心にしてもらっている。 でも肉も食べないと筋肉が落ちます、てメイレさんに注意されたんだよね。 筋肉が落ちたら剣道の稽古をする時に困るでしょ。 夏の畑仕事に冬の雪かきと、力仕事はいくらでもあるし。

 そうそう、舞踏会とかお呼ばれって、案外体力が勝負なんだよ。 お城なんてすっごーく広いうえに、どこへ行くにも重たい服を着て歩かなきゃいけないから。 普段からちゃんと鍛えておかないと、いつまでたっても目的の部屋に辿り着けなかったりするんだよね。 下手にゆっくり歩いていたら話しかけられちゃうし。 お城の中で倒れたりしたら、迷惑かけるのは身内の人だけじゃないでしょ。


 あーあ。 どんなに食べても太らないといいんだけどなあ。

 ま、そんな事ここで言ったって始まらないよね。 旦那様に恥をかかせない妻になるにはがんばらなきゃ。



** ヨネ **


 本年は健康及び私生活の充実を目指したいと思っております。 夫に満足して戴ける妻になる為に。

 実を申しますと、無事リヨを出産したものの難産で。 出産後、未だに夜のお相手ができていないものですから。 なのに旦那様は愛人なんていらないとおっしゃる。 それがとても申し訳なくて。

 あら、私とした事が。 新年早々、なんという事でしょう。 このような内輪の話まで申し上げるつもりはありませんでしたのに。

 ごめんあそばせ。



** トビ **


 今年は主家の蓄財に本腰を入れる所存です。

 昨年は資材投資と叙爵関連の出費が大きく、資産の減少となりました。 覚悟していた事とはいえ、真に残念な結果と申さねばなりません。

 幸い今年は塩の増産の目処が立っており、春を待って皇都に販路を広げ、「瑞兆塩」と銘打ち、外国への輸出も考慮しております。

 また、叙爵は毎年ある事ではございませんが、毎年何かしらあるもの。 皇太子殿下の舞踏会に奥様が去年と同じ服で出席する訳にもまいりませんし、大審院関係の根回しの他に慶事もあると予想しております。 更に我が主の事、何か事を起こさずに済むはずもなく。

 私にとりましては執事としての真価が問われる年になりましょう。



** レイ・ヘルセス **


 年内に挙式の予定だが、遅筆な作者なだけに楽観はしていない。 こちらにも策の一つや二つ、ない訳でもないが。

 ダンホフとどちらが先か、だと?

 ふっ。 問うまでの事か?



** マッギニス **


 我が戦略にとって躍進の年となろう。

 私の究極の目的がヴィジャヤン大隊長の間違いを減らす事にあると誤解している者もいるようだが。 そのような瑣末事を気に掛けるのは無駄な労力というもの。 ヴィジャヤン大隊長の間違いは明日陽が昇るよりも確実な事であり、起こった間違いを有効活用する事こそが私の戦略の勝利に繋がる。

 今年は興味深い展開となるはずだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] サダに関わった人達に降る幸運に心が温まります。 人を幸せにするのに必要なのは知識や教養より思いやりなんだと、先進国の学歴社会に一石を投じるためにも是非書籍化して本屋に列べてほしい。 [一言…
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