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radio high!!  作者: ミツ缶
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初めましてのアイソトープ

 

 頭も身体も泥のような疲労感にどっぷりと浸かりきっていて、指の一本すら上がらない。

 朦朧とした意識のまま倒れこんだ先に転がっていたラジオから、耳障りなノイズが聞こえてきたのが事の始まりだった。


 ――キュイン…ジッ…ジジジッジ…ジー…


『ハァイ!べスノーン&アトラの≪ご機嫌★鬼籍のヒト達≫の時間よ!良い子のみんな、人生の終わりに向かって突っ走ってるゥ!?ああんべスノーンは心配でたまんない!だらだら歩いてるとあっという間に時間切れ。ちょっと待ってよ、なあんて言う間もなく中途半端な幕引きしたら瞬く間に無念で未練の地縛霊!そんなのツマンナイよね?楽しくないよね!?だったらあたし達の言う事ちゃんと聞きな!!』


『さあ百年ぶりにやって参りました丑の刻名物ラジオ≪ご機嫌★鬼籍のヒト達≫。司会はキュートでデンジャラスなレディ・べスノーンと、平凡だけが取柄の私 ア ト ラ が勤めさせて頂きます。死ぬまでの短い間ですがどうぞお見知りおきを!さあ落ち着いてべスノーン、私達がどんなに心配しても何も始まりません。そう、人生はコレを聞いている貴方、貴方達次第なのですから…!』


『はっ!そうよねアトラ君!じゃあせめてべスノーン達にできる事って何かしらっ、何かしらぁ!?』


『それは勿論…決まっているでしょう?フフフフ!!この放送を聴いている幸運な貴方、そう、名指しで行きますよ~。S県常磐町三丁目に住む…ああ、同姓同名が近くにもう一人居ますね。えー、若干インポテンス気味な方の松田総司朗くん(♂19才)!!』


『まあっ若いのにタイヘンねっ!きゃはははははっ!』


『そしてもう一人は同じくS県沈丁市9丁目に住む三軒家イヅルくん(♂28才)!!サンゲンカですか、変わった苗字に救われましたね!もしコレで同姓同名が居りましたら、未だにお尻の青痣が消えない方の三軒家イヅルくん!と言わねばならない所でした。ふう、危ないところでしたねー。』


『まあっモンゴロイドってタイヘンねっ!青二才ってことかしら!』


『前回から百とんで三年目の今日の放送はこのお二方の為だけにお送り致します!たった二人の為の労働です!勿論私達はノーギャラですので、是非是非その分愉しませて頂きますぅー…と、ではまあ。べスノーン?重大発表をどうぞ!!』


『はぁーい、お・待・た・せ!耳かっぽじってよぉく聞きなァ…デッド オア アライブならずデッド オア ラブ!!そろそろ人生幕引き予定の可哀想な貴方にドキドキ救済措置≪無茶振りラブ育成≫企画!この世から消え行く者同士がドッキュンラブ!愛は何処から生まれるの?決して交わらない運命を絡げたならその先に生まれるものが見てみたい!永久に失われる筈の未来を存続できる奇跡の大チャンスよぉっ。殺伐とした俗世に心温まるこの企画…これはキミ達二人だけのもの!』


『そうですねー、前回は醜い老女と絶世の美少年のいささか無茶振り過ぎる組み合わせで大失敗でしたが今回は――ええ、まあ!平凡×平凡ですからきっとチョロイものでしょう!性別が同じなどという事は気にせずに!私達の溜りに溜った鬱憤が発散されるような素晴らしい愛を見せて下さい!その為ならば失われる予定のその命さえお救い致しましょう。純粋なる笑…ではなくラブ――それ以外は何も望みません!』


『この放送を聞いてもピンとこない鈍感なキミ!べスノーン達がキミのハートの導火線に火をつけちゃうっ。さあ、アトラ君も一緒に!』


『ええ、べスノーン!第561回≪ご機嫌★鬼籍のヒト達≫企画主演のお二人は頭の片隅に置いたら決して忘れないで頂きたいこの冷酷なる宣告!』



――ブツッ………ッジッジジジジ…ッ…



『 松田総ay司e s%朗、三?s軒家イ#ヅル両名の死因 3#そn&d執行日を告げ@る。


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 救わ /.るtfg ただ*//q一つ。ygb%'/ah456"#$%00** * ***


 さあ、それまでに足掻いてごらん。全て見せてごらんなさい。


 この空虚な心を満たすほどの決断を以って足掻いたのならば。

 爪を立てるような必死の愛を見せてくれたのならば。

 それは輝ける 大いなる恩恵の受け皿となる。


 この慈悲は神の心、御技の奇跡。

 選ばれし幸運に感謝すると良い。』





――――――――――

――――――




「どーも、初めましてー。ソージローってぇ言いますー。…まあ知ってるよな、じゃなきゃこんなトコ来ねぇだろうし。遠いところからわざわざすんませんねぇ。趣味はぁ、おっパブ巡りー、OLナンパぁ、あと巨乳AV鑑賞ー。おっぱいって良いっすよねー。」


「…インポテンス気味なのにか。」


 ガタ!!


 突然席を蹴り上げるように立ち上がった俺を、頭が金剛石張りの艶光りを見せているバーのマスターがカウンター越しに睨み付けた。

 ――わーってるよ、暴れたりしねえから。つかカウンターの照明落とせよ。相乗効果で眩し過ぎっつうの。

 地下独特の薄暗い店内に、年季の入った黒い木製のカウンターとテーブル。

 小さな地震でも起きたら一発で終わりだと誰もが思うような、様々な形と色の瓶が所狭しと立ち並ぶ古い酒棚は見るも無残な傷がそこら中に付いていて、元が何色だったか判らないような褪せた壁は塗り直す予定すら無い大雑把さだ。

 良く言えば味がある、悪く言えばひたすらにオンボロのこのバーが、酒瓶の種類の豊富さと主であるバーテンダーの腕を見れば納得の知る人ぞ知る名店だとは誰も思うまい。

 その店の片隅にある最も照明が届かない不人気席が、一目で素行不良と解る青白い青年のお気に入りの席だった。奔放に跳ねた金茶の髪はまだ落ち着いた色味ではあるが、幾つ開ければ気が済むのかと言うくらい出鱈目なピアスの数と、緩めの白いVネックシャツから仄見える薄い胸のタトゥーが、照明の届かない薄暗い中にあっても目を引く。

 ハン、と青年は目の前の人物を見据えながら小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 …気にくわねぇな。ねーよマジで。なんだコイツ。


「座りなさい。すまない、余計な事を言ったようだ。」


「死ねよ、おっさん…つーか殺す。」


「おっさん…か。確かに君から見れば十近くも年上などそう見えるに違いないが、いささか傷つくな。せめてお兄さんに改めてはどうだろうか。」


 ≪ウッゼェ…!≫

 啖呵失敗。凄む様にわざと低い声で放った言葉は、淡々とした感情の篭らない声であっさりと弾かれてしまった。人よりも鋭すぎる獣染みた目つきと、喧嘩っ早そうなチンピラ臭い風体をしている自覚は十二分にあるのだが、目の前の相手はその程度で物怖じするような腰抜けではないようだった。ひょっとしたら後先を考えない単なる阿呆の可能性もあるが、それにしては瞳の奥に理性的で頑として折れそうも無い鋼のような色が見て取れる。脳味噌が半分溶けているか花でも咲き乱れているような阿呆ではこうはならないだろう。

 …これは厄介な奴かもしれない。

 武装と言っても過言ではない数のシルバーリングを纏う指が、眉間に出来た皺を抑えた。

 面倒くさい。この様なタイプの人間と今迄にあまり接点はなかった。つかスーツ系で怯えたり媚びたりしねえで話す奴、初めてじゃねぇの?

 この身形を見ても近づいてくる人間は大抵同じような人種ばかりで、必然的に周囲は似たようなコミュニティで固められてしまう。

 体の何処かに余分な穴が十以上あるか、生涯消えない派手なお絵描きが其処かしこに施されているか――肝心な中身の方まで穴開きの使えない襤褸雑巾であったり、小汚い公衆便所の落書き程度のロクデナシであったりする場合も多いが、自身はそこまで堕ちているつもりはない。

 外見はあくまで趣味だ。馬鹿が近づこうと真っ当な奴(って何だ?何基準?)に蔑まれようが避けられようが気にしたことは無い。俺は俺。お前はお前。それで良いだろうよ。

 要らない奴は徹底的に弾く、要る奴は適当に繋ぎ留める。そのようにこれまでの19年間は生きてきたつもりだ。

 …つもりだった、のだが。

 一体自分は何をしでかしてしまったのだろうか?

 チッと一つ小さな舌打ちしたひょろりと細長い印象の青年――松田総司朗は乱暴に座りなおしつつ、その胸中に吹き荒ぶ困惑の嵐を表に出さないよう苦心していた。

 飄々とした猫科の肉食獣のような鋭い顔つきはいかにも気怠げで、傍から見れば到底そのように見えないが、実際には常では考えられないような酷い焦りを感じている――例えば自身の中にある最大のタブー、最も人に言われたくない言葉を面と向かって口に出すような人間に対し、黙って済ませる事は万が一でも無かった。

 男相手ならば怪我しない程度とはいえ必ず拳の一つや二つくれてやるのだが、今回に限っては腹が立つものの何故か殴る気が起きなかったのだ。相手はあっさりと自身最大のタブーを犯した、何よりも憎むべき存在だと言うのに。

 ――はっはぁ、ホント柄にもねえ事しでかしちまった…くっそ全部あのラジオのせいじゃねえか…。

 変にモヤモヤとする胸中を洗い流すつもりで、欠けたコルクコースターの上に幾つもの水滴を落とす細長い炭酸のグラスを一口呷った。

 …殴る気が起きない理由は実のところ解っている。妙に焦り、困惑している理由も見当が付いている。

 それらをまとめてみればこんなものだろうか。


 1、この気に食わないクソ野郎の連絡先を自らの手で調べ上げ、尚且つ自分からここへ呼び出した事。

 2、呼び出した理由が非現実的で曖昧である事。

 3、呼び出した相手が予想していたタイプと全く違っていた事。


(自業自得過ぎて怒れねぇ、と。死ね。死に晒せ俺。)

 カンッ!!と小気味良い音を立ててグラスを力任せにテーブルに置いた。

 黒いテーブルの向かいには、足を組んで姿勢良く座るなんら動じる様子の無いスーツを着た男の姿がある。

 所々ニスが剥げたラウンドテーブルの向かいに座る人物は、注文した蒼いノンアルコールドリンクに手をつけるでも無く淡々とこちらを眺めていた。

 ――なんつーか…こういう奴は苦手なんだよ。あんまし関わらない人種だからか知らんが。それともシチュエーションが悪いのか?

 ふー、と炭酸に添加された香料を感じながら一つ息を吐くと、背凭れに深く腰掛けて何気なく周りの様子を伺う。

 バーの本領発揮と言える深夜間近の時間帯だが、平日ではさすがに人の入りも悪く、店内は自分と目の前の男だけしか居なかった。そうなれば静かな店内に会話は必然的に自分達の物だけしかなく、あとは使い古されたジャズの旋律が小さく流れるばかりだ。

 これでもう少し人のざわめきがあれば、また雰囲気も違っただろうに。

 なんっか調子狂うわぁとぼやきつつ、拳が出ないならせめて口だけでも応戦しようと、あからさまに冷めた声で目の前のいけ好かない男に話しかけた。


「…つーか、いらねえ事覚えてるんスねー。リーマンって暇なんスか?尻の青い三軒家サン。つかマジで青いん?」


「さあな。君も随分無駄な事を覚えている様だから、お相子としよう。まさか連絡が来るとは思わなかった。君は…19だったか、学生なのか。」


「さあ?どーでも好きなように。…って、俺から勝手に調べて勝手に連絡しといてアレなんスけどー、プライベートの詮索止めねぇ?どうもあんたとは相容れないっつーか、何かもう魂レベルで受け付け無い気ィしてきたし。も、帰るわ。」


「魂の存在を信じるとは見た目に反して古風だな、君とは良い友達になれそうだと思うのだが。まあ待ちなさい。俺も君も、今お互いが一番言われたくない事を一つずつ言った。そして君は勝手に俺の身元を洗い出し、勝手に連絡を取ってきた。携帯に直に掛かってきた時はさすがに驚いたが――どうだろうか、俺には君に勝手な振る舞いを二つする権利が有ると思わないか。」


 唯一照明がはっきりと当たるテーブルの上で、綺麗な形の長い指が蒼いドリンクの入ったグラスをコースターの上で傾け揺らした。

 色白で細身だが男らしく節くれだった指の隠しきれない筋の張りを見る限り、ひょっとしたら何か武道の習いでもあるのかもしれない。殴り合いに発展するような事があれば上背のあるコイツの方が有利だな、とカーゴパンツのポケットに手を突っ込んで項垂れる。

 色々と更に面倒臭ぇよ、おっさん。


「…わーったよ。それでチャラな。んで?19ですがー、学生じゃあ有りませんがー何スかあ?ハイ一個オワリ。」


「答えてくれて有難う。しかしそれは君が自発的に答えてくれたので俺の『勝手な振る舞い』としては無効だ…そう怖い顔をするな。そうだな、振る舞いといっても直ぐには思い付かない。今週末、此処でまた会う時までに考えておこうか。」


「ははは、あんた冗談上手いな。つか次回なんてねえよ。あんたの面なんざ二度も拝みたか無いね。」


「では今週末、此処でまた会う事を一つ目の身勝手な振る舞いとする。この場所は常磐町に住んでいるらしい君には近い場所だろう。これで良いか?」


 近いって言うか、此処常磐町なんスけど。

 男が住んでいるのは沈丁市だ。此処は都合の良い事に常磐町の中で最も『沈丁市』寄りの場所にあるが、何の文句があるというのか。…実際には沈丁と常盤の間にもう一つ市が挟まれているのだが、その辺はまあ忘れた事にした。

 項垂れたままちらりと視線だけで盗み見れば、男はテーブルの上に両肘を付いて指を組んでいるようだった。薄暗くて細部までは判らないが、目の前の男が着ているスーツの質は日頃電車の中で見かける、草臥れたサラリーマンが着用しているものとは天と地の差があることが見て取れた。


「……ハッ。大人は譲ってあたりまえだろ、稼いでんだからさぁ。」


 たかだか往復三時間くらいでグダグダ言うんじゃねえよ。


「勿論譲っているし距離に文句は言って無いだろう。何せ大人だからな、子供に夜間の遠出はさせたくない。――君は俺が気に入らない様なので、今から話すことは答えたくない事は答えなくても良い。無理強いはしない。子供ではないと言うのならば、その拳を下ろして会話をしなさい…俺の身元を洗い出し、呼び出した労力分に見合うだけの話が、君もしたかったのだろう?」


 カラン、とグラスの中で溶けた氷が涼しげな音を立てた。

 相変わらず淡々と話す男の声は硬質だが突っ撥ねるような険は無く、だからといって下手に出るような柔和さも無い。僅かに優男な印象を受ける、耳に心地よい低音が淀みなく続けられた。

 ――わざとこちらを腹立たせるような言葉を選んで挑発したかと思えば、あっさりと宥めにかかる。

 確かにあのラジオの話がしたかったのもある。だからこそこの男の存在がはっきりと解った時、見なかった事にはせずにわざわざ呼び出したのだが。

 いかにも年寄りが使いそうな古めかしい話術だが、実際に使われるとその効果は覿面だった。ゆるゆると主導権を握られて、男のペースへと引き摺りこまれそうになってしまう。実に嫌らしいクソ野郎だ。

 …ここまでいけ好かない野郎だと解っていたら、やっぱ見なかった事にしただろうよ。


「…命令口調うぜえ。何、あんたひょっとしてリーマンじゃなくてセンコー?」


「教師は目指していたが止む無く方向転換した。…口調が気に障ったのならすまない。特に命令がしたいわけでもない、癖のようなものだと思って欲しい。…しかし俺の職業を知らないとなると、思ったよりも身元を調べたという訳ではないのだな。」


「あんたの名前と、年齢と、住んでる丁目まで解ってたら、あくせく動かなくともちょっとの伝手辿れば携番くらい簡単に割れんだよ。それで十分だろうが。つか普通公衆電話から繋がってんの取るかよ。防犯意識無いんスかあー?」


「見知らぬ人が非常時に間違って掛けて来た可能性も捨てきれないからな。確かに君の…松田君の声を聴いた瞬間ただの詐欺かとも考えたが…開口一番にふざけたラジオの件と言われたら、冷や水を浴びせられたような気分になったな。あれは夢ではなかった、と。」


 今迄なんら感情を表さなかった男が、薄暗い陰の中で少しだけ笑ったような気配がした。

 総司朗は苦々しい気分で、あの真夜中に鳴り響いたラジオの喧しい女と男の声を脳裏に思い起こした。

 三日前の深夜二時。完徹二日目でもう限界だとベッドに倒れこんだ直後の事だ。実家から唯一持ち出した叔父の古い小さなラジオが、突然耳障りなノイズを上げて電源が入ったのだ。

 旧式のそれにはもう随分前から乾電池など入っていない筈だというのに。


「……眠過ぎて頭イカレたのかって思ったんだよ。」


 カタリ、と出入り口のドアの方で音がした。

 カウンターに人が居ないところを見ると、どうもマスターが店内から出たらしい。客だけを残して出るなどといささか無用心過ぎるとも思わないでもないが、恐らく相手が良く知る馴染みの総司朗だからこそ暢気に外の空気を吸いに行ったのだろう。禁煙は結局無理だったか。

 だがまあ、気狂い染みた話をするのに部外者は要らない。丁度良いタイミングだ。

 水を打ったように静かな閉鎖空間で、ぼそりと総司朗は口火を切った。


「でも奴らの声は妙にはっきりと頭に残ったし、内容もくっだらねえけどリアルに感じた。時間が経てば経つ程腹が立つわ妙に気持ち悪ィわで、まあ八つ当たり半分遊び半分で本当にラジオの男がほざいてた≪三軒家イヅル≫ってーのが沈丁市に居るかどうか調べたんだよ。存在しなけりゃ寝不足で頭イカれてた、で済むしな。…そしたらビンゴだ、クソッタレ。あのラジオはあんたの携番割ったら直ぐに捨てた。もう二度と聞かねえよ。」


「成る程。…だがそれは意味が無いと思う。俺も確かに三日前の深夜二時――職場から帰宅して風呂に入って居たが…あのラジオ放送が流れてきたのは、風呂の給湯システムからだ。勿論そんな機能は付いていない。温度の調整やら風呂が沸いたと知らせてくれるだけの他愛も無いシステムだったのだが、いつの間に人の生き死にまで教えるような大層なものになったのかと可笑しくなった。」


「…マジ?じゃあ無駄だな。やっべラジオ何処捨てたかねぇ俺…つーかあれ最後締まんねぇよな。クソみたいな非常識ラジオの分際で一丁前に電波障害なのか知らんが、ノイズだらけで片言みたいになってやがった。――最後が一番肝心な部分だった。一応聞き取れたけどな。あれ、わざとっスかねぇー?」


「そうかもしれないな。あの二人…名前はなんだったか…何せストレス性の幻聴だと思っていたからな、曖昧だ。あの男女は愉快犯のような印象がある。愉しませてもらうだの鬱憤を発散だのと…随分と面白がっていたな。あんな馬鹿げた話、本来なら信じたくも無いが――」


 カタリ、と店のドアの音が再度鳴る。

 続けて緩慢なテンポで重苦しく続く、いかにもやる気のなさそうな足音が聞こえて、総司朗は面倒臭そうに息を吐いた。もう帰ってきたのか。あと5本くらい吸っとけよ。

 男は僅かにドアの方へ顔を向けマスターを確認すると、椅子を内に引いて身を幾らか明るいテーブル側に寄せた。どうでも良さそうに伏目がちだった総司朗の目が、ふと目の前の人物の顔に釘付けとなる。

 ――実のところ、男を待っている間テーブルに突っ伏して寝ていたせいもあり、はっきりと相手の姿を見ていない。更に言うと、総司朗の側はテーブルの次くらいには照明が届いているが男の座った席の側は殆ど陰となっていて、スーツ姿以外はアレが目で、これが口、という大体の程度の認識しか出来ていなかったのだが。

 ≪……げ。≫

 目元の辺りはまだ影となっていてはっきりとしないが、青みがかった艶やかな直毛の黒髪が、すっきりとして形の良い鼻にさらりとかかるのが見える。

 その下にある淡紅色の唇は薄く整っていて、肌はひげの剃り痕一つ見当たらない滑らかな白さ――それが自分のような陽が当たって無い故の青白さではない、元々の色味だと知れた。

 パーツの一つ一つが異様に整っている。そしてそれらが理想の位置に正しく張り付いている…という事は。

 ひょっとしたらこのおっさん、存外…つーかかなり面がイイんじゃねぇの?

 ≪益々嫌な野郎だ。殴りてぇ。≫

 椅子の背から滑り落ちそうな程深く凭れながら、憮然として暗い天井を見上げる。着ている物は高級で、容姿も上等。持ってる奴は何でも持ってるもんだとつまらない小話を聞いたことがあるが、まさか実物をお目にかかるとは思わなかった。

 …でもコイツ、ラジオの宣告通りならもう直ぐ死ぬぜ。太くて短い濃縮人生だったな。ざまぁ。俺も死ぬかもしれねぇけど取り合えずざまぁ。

 暗い笑みを浮かべる総司朗の心の内など欠片も知らず、マスターにこの馬鹿げた話を聞かれたくないらしい男は、若干声を潜めて話を続けた。


「あのラジオ放送の通り、君にとって『三軒家イヅル』が沈丁市に実在した事が、そして俺にとって『松田総司朗』が常磐町に実在した事が、これを『馬鹿げた話』で切り捨てられない要素になっている。」


「…あんたの携番なんざ割らなきゃ良かったーって、一応後悔してんだよ。ねーよマジで。色々とねーよ。」


「いや、知らないままの方が俺は嫌だった。アレが本当ならば…死ぬ日時をはっきりと宣告されながらむざむざ死ぬような真似は如何ともし難い。」


 …如何ともし難いって。あんたあのラジオちゃんと聞いたのかよ。聞いて考えたのかよ。

 総司朗は慌てて男が身をテーブルに乗り出した分だけ後ろに椅子を引いた。目の前から漂ってくる怪訝そうな雰囲気は敢て無視する。これ以上此処に居るのは止めた方が良さそうだ。話の雲行きが怪しくなる前に帰るのは、楽に人生を過ごす為の鉄則だろう。

 テーブルの上の蒼いノンアルコールドリンクはすっかり氷が溶けて、上澄みだけが透明な水の層になっていた。もう大分良い時間が経っている。


「死ぬ、ねー…まだ時間あんだろぉ。あんたは…今日は十月十一?十二?だからあと四週間くらいか、俺は三週間と少し。つーか全部が全部本当とは限んねぇよ…例えあんたがこうして実際に存在して、同じようにクソみたいな放送を聞いていたとしてもな。ハッ、マジでビビッてんのか、ダッセェおっさんだなァおい。――帰るわ。ダリィ。」


「松田君、君は――」


 男の硬質な低い声を終いまで聞かず、総司朗は席を立った。

 非現実的な事態に柄にも無く焦って動いてみたが、考えてみればラジオ内で提示された『命が救われる』条件がまず自身には到底無理な話だった。

 何故呼び出す前に気が付かなかったのだろうかと、ふと苦い笑いが浮かぶ。

 この男と会うのはとんだ無駄足だった。…いや、ある程度の事実確認としては成果があっただろう。だがこの後に話し合う事など、少なくとも自分には何一つ無い。

 愛用の白いビルケンシュトックサンダルが傷んだ床を鳴らしながら進んでいく。今はまだ日中の暑さが厳しいが三週間後には秋も終わりで、このサンダルを履くには冷たく感じるだろう。履き納めなのかもしれない。

 ――ラジオが全て真実だったなら、まあ運命ってそんなモンなんだろうよ。

 俺もあんたも勝手に一人で死んでいけ。


「マスター、会計!あー煙草臭ぇー、禁煙ってなんスかねぇえ?」


「ペリエだけか…次は飯くらい食って売り上げ貢献しろヒョロヒョロもやし。…お前、穴開けすぎて耳が悪くなったんじゃないか?誰が禁煙だって?」


「ハハッ、言うねぇー根性無し。」


 マスターから無言の一撃を頭に食らって傷だらけのカウンターに上半身を突っ伏していれば、ふと真横を黒っぽい腕が良い匂いをさせて通り過ぎたのが視界の端で見えた。この匂いはテーブル席に居た時から時折感じていたが…

 カツン、とプラスチックのような軽い音が響く。


「彼の分も。」


 何の感情も読み取れない声が上から降り注ぐ――のろのろとカウンターから頭を上げれば、カウンターの向こう側で恰幅の良いマスターが禿げ頭をてらてらと輝かせながら硬直していた。目を見開きながら呆然としている様はコメディ映画のワンシーンを切り取って貼ったようで、総司朗は≪何面白ぇ顔してんスかー≫と、遠慮なく噴出しつつマスターが呆然と見ている方へ顔を向けた。

 すぐ目の前に、ブラックのシャドーストライプスーツ。目線が胸にしか来ない高い上背。

 先程横を通り過ぎたのはこの腕か。チッと舌打ちしながら顔を上げた先を見て、総司朗の動きもまたマスターと同じように固まった。


「……っ…お、あ。」


「車でなければ飲んで帰りたいところだった。…松田君は未成年だろう。マスターと親しそうだが、まさか日頃から飲んでいないだろうな。」


 そう淡々と言って、男――三軒家イヅルは釣り置き台から一向に受け取る気配がないカードをマスターに向かって直に差し出した。

 暖色の照明の下で長い睫が頬に淡い影を落としている。

 黒曜石の瞳は何処か儚げな印象を一瞬だけ想わせたが、席で仄見えた時と同じように理性的で強烈な意思の色を秘めていてた。きつく結ばれた口元といい、相当頑固な性質に違いない。

 絹のようにさらさらと流れる青みがかった黒髪は白い肌に驚くほど良く映えて、そこらでは見かけないような切れ長の目は薄っすらと翳を孕んで物憂げ――まるで夜に降り注ぐ雨を思い起こさせる、しっとりとした艶を持ち合わせた中性的な美貌の男だった。

 ≪……雨の…風情ってぇのか、なんつーか………。≫

 その何気ない一挙一動からふわりと香る良い匂いは、どうもイヅルの付けていた香水のようだった。そう気が付いただけで、グラリと眩暈がする。

 緩いVネックのシャツが痩せた肩の片側だけ滑り落ちたが、直す気にもならない。胸のタトゥーを大っぴらに晒したまま黒いカウンターに両手をついて、ただ息を飲んだ。

 目が離せない――生まれて初めて見る正真正銘の『何でも持ってる』人間。


 最悪だ。このクソ野郎、化け物だった。


「…ま、まさか。店の信用に関わりますからね、このどうしようもない坊やには酒の一滴だって飲ませちゃおりませんよ。ああ、はい、カード確かに。いやあ、驚いた…あんた、美人だねえ!今まで長い事色んな客見てるがね…これは……や、美人って、気を悪くしないで欲しいんだが、なあ総司朗!お前も思わんか?」


「おっ…俺にフるんじゃねえよ!つーかクソ野郎、あんたに奢られる覚えがねえんだよ。気持ち悪ィ真似すんじゃねえ!」


 深夜の空気に満ちた店内に、若い怒号が木霊する。

 焦れば焦るほど急速に顔が沸騰して手に負えない。マスターも突然ひょっこりと現れた化け物(尻が青い)に焦っているのか、茹で上がった蛸の様に真っ赤な頭には脂汗がたっぷりと滲んで輝きが増していた。人の良さそうな目元に深い皺を刻んで照れ隠しのように顎髭を撫でている。

 ≪まさか俺とした事が、このクソ野郎の顔に見惚れてたわけじゃねえだろうな…≫

 それと解らない様僅かに俯いて、横に垂れ下がる金茶の跳ね髪を簾代わりにほんのりと赤くなった頬を隠した。

 居心地の悪い雰囲気が流れる二人の男を余所に、イヅルはただ一人涼しげにカウンターに軽く凭れて革の財布にカードを戻していた。


「……?美人云々は解りませんが、有難う御座います。松田君、俺も君にクソ野郎と罵られる覚えがない。これもまたお相子で相殺だ。」


「てめ…っ!!」


「総、もうカード払いしちゃった。わしカード会計の取り消し方よく解らんのだ。諦めろ。」


 ≪そんなんで良く商売やってんな…!!≫

 項垂れた格好で憤然としてカウンターを指輪だらけの拳で叩きつければ、イヅルとマスターは顔を見合わせてニヤリと笑った。たった数分の間でこの三人の間での立ち位置が決まってしまったような気配がして、どうにも怒りが治まらない。


「ご馳走様です。次はきちんと飲みにきますよ。――行こう、松田君。」


「何仕切ってんだよテメェ…一人で帰りやがれ…!」


「ああ、是非そうしてくれ。ノンアルドリンクだけじゃあこっちも張り合いがないんでね。楽しみに待ってるよ。総、お前明日締め切りじゃないのか。いいのかこんな所で油売ってて。」


「…締め切り?松――…」


「ぅうるせ!!とっとと外出ろクソッタレ!」


 スーツの背中を思い切り力任せにドアの方へ押して、ニヤニヤと笑っているマスターへ『この野郎に余計な事いうんじゃねぇよ!』と早口で釘を刺せば、『なんだ、友達に隠し事してんのかお前は。馬鹿だねえ。』と笑いながら手を振られた。嫁に逃げられちまえ。つーか禁煙出来てねえ事バラす。

 力任せにドアを閉めて地上に続く細長いコンクリートの階段を踏み抜くように一歩足を差し出せば、中腹で小汚い地下階段に全く相応しくないブラックスーツ姿が腕を組んでじっとこちらを見下ろしながら待っていた。

 無駄に長い足の終着点は黒革のシューズが薄暗い蛍光灯を反射して光っている。打ちっ放しの壁寄りにすらりと背筋を伸ばして立つ姿は、モデルが廃墟で撮影でも行っているかのような光景で総司朗は何度目かの舌打ちをした。

 マスターが掃除を怠っているのか、サンダルで一歩踏み出すたびに細かな砂のザリザリとした音がする。カーゴパンツのポケットに手を突っ込んで前屈みのまま睨み殺すように視線をぶつければ、イヅルは何処吹く風の涼しさでコツリと踵の音を響かせる。


「…とっとと帰れっつーの。邪魔だデカブツ。」


「駅に行くのなら送ろう。…それにしても酷い口の悪さだ。松田君、俺の名前はクソッタレでもデカブツでもないのだが?正しく改めて欲しい。」


「つーか松田クンって呼ぶの止めろってえの!ダッセエんだよ!!何なんだよあんたは……疲れた。マジでねーよ…何なんだ一体…。」


「ああそうか、では総司朗と呼ぼう。意外とフレンドリーだな、総司朗。」


「老衰で死ねおっさん!!呼ぶな!!しかも呼び捨てかよ!!」


「無論、お互いに老衰で死ねる事を祈ろうじゃないか。行く末まで案じてくれるとは優しいな総司朗。さて、行くか総司朗。」


「てっめ…ここぞとばかりに連呼すんじゃねえ…!!…あーもういい…何かもう良い。マジ疲れた。勝手にやってろよ。あと死ね。」


 叫び過ぎて火照る顔を怒りで歪ませて、総司朗は猛然と駆け足で男の隣を通り抜けようとした。打ちっ放しの薄汚れたコンクリートの壁に挟まれた階段は幅が無く、大人の男が二人並ぶのは厳しい狭さだったが、それでも構わずに駆け抜けた。

 ≪とことん馬鹿にしやがって!!≫

 通りすがりに突き出した腕で思い切りイヅルの体を壁側に押し退けて駆ける。その姿を視界の端にすら映さないよう前だけ見据えていれば、香水の香りだけがふわりと肩口から漂ってきた。姿を見なくとも自己主張とは恐れ入ったものだ。

 されるがままに押し退けられた体から物言いたげな気配が流れてきたが、それでも総司朗の気性の荒さを象ったような獣を思わせる瞳は揺らぐ事がない。

 シャリリと擦れ合うウォレットチェーンの涼やかな音と、踏み抜かんばかりに階段を蹴る音が夜の空気で満たされた地下階段に反響する。


「総司朗。」


 ≪だぁから、呼ぶんじゃねーよ…クソッタレ。マジ付き合いきれねぇし。≫

 外の風が頭上から流れてきて、金茶の髪を掠める。つい先日まで蒸し暑い日が続いたと言うのに、夜風が随分と冷たくなったものだ。緩く開いた胸元にまで入り込んできて、すっかり体が冷えてしまっている。

 今日はもう帰ったら熱いシャワーを浴びてさっさと寝てしまおう。コイツの事をさっぱり忘れるくらい深い眠りにつけば、ラジオの事もすっかり気にならなくなるに違いない。

 ――怒鳴り過ぎて何だか頭ん中がぐちゃぐちゃだ。変な胸騒ぎもしやがるし、どうにも落ち着かねぇ。

 それもこれもこの男に会ったのが原因だろう。鬱陶しい野郎が何やら一人で騒いでいる、といつもの様な感覚で受け流していれば良かったものを、今日の自分は一体どうしてしまったのか。

 男の静かな低い声が、落ち着いた視線が妙に心を引っ掻いて余分な苛立ちを募らさせた。


「待ちなさい。」


 イヅルの感情を含まない硬質な声が背後から投げ掛けられる。

 その落ち着き払った様子に、総司朗の頑なに閉じられた唇に自嘲気味な笑みが刷かれた。

 妙に苛立つのは、自身の中にある劣等感がこの男のせいで刺激されるからかもしれない。

 何を言われても物怖じしない余裕、冷静さに自制心の強さ。身に着けた上等の服とを飲む美貌は勿論の事、それら全て一目で人生の勝者たる貫禄と解る。

 ――未だに全ては信じきれない自分と違って、恐らくイヅルは本当にラジオの宣告を真に受けているのだろう。それ故にこうしてひつこく絡んでくるのかもしれない。そうでなくては意味が解らない。

 ≪あー、やっぱ死ね。≫

 この男、俺を助かる手段として利用する為に、扱い易い様懐柔しておこうという魂胆なのだろう。

 ふと、胸の辺りが締め付けるように苦しくなる。こういうのは、気分が悪い。


「…………。」


 コツ、コツ、と性格がそのまま反映されているような規則的な足音が、のしのしと粗野な足音の後ろに続く。腹の立つ事にぴったりと真後ろをキープする足音は、忙しなく動かされるサンダルの音に比べて随分のんびりとした足取りだった。外の街路樹がさわさわと風で揺れる音が耳を掠めて、あと少しでこの狭い空間から抜け出せれると安堵する。

 全く不快な気分だ。体の何処かがそわそわと微かに揺さ振られる様に、波立つ感覚が一向に止まない。怒りと苦渋が滲む青白い顔に整髪料の野暮ったい香料が纏わりついて、惨めささえ湧いてくる始末だ。

 ≪…何だか本格的に気分が悪くなってきやがった。≫

 頭の中に、幾つもの顔が浮かんでは消える。服が皺になるのも構わず、胸のタトゥーがある部分を掻き毟った。

 馴れ馴れしく纏わり付いてきて、好き勝手されるのには反吐が出る。


「…困ったものだな。」


 駆けながら知らず片手で口元を押さえれば、唐突に空いたほうの手を後ろから強引に引っ張られた。


「――っな!!」


 バランスを崩して倒れこみそうになる所を、弾力のある硬い何かの上に収まる。それがイヅルの胸に倒れ込んだのだと理解するよりも早く、鮮やかな動きで壁側に押し出された。

 バタバタとコンクリートに反響していた足音が唐突に途切れ、代わりにドサリと壁に鈍い音が響く。

 隙の無い動きで体を反転させると、抵抗する間もなく両腕を片手で纏められる――冷たくざらざらした感触のコンクリート壁に挟まれる様に押さえつけられて、総司朗は荒く息を吐いて暫く面食らった後、掠れた声で笑った。

 上背はあるが筋骨隆々という訳ではないと侮ったのが間違いだったか。こういうのは力の問題じゃない、技の問題だ。

 手を見た時の読み通り、やはりこの男はなんらかの武道の心得があるようだった。


「…あんだよ、もう本性のお披露目かよ…堪え性ないねぇ下衆野郎。」


 イヅルは相変わらず淡々とした表情で、ゆっくりと総司朗の目線に顔を合わせた。香水の香りがイヅルの体温を纏って総司朗の肌をじわりと弄る――日中は暑くとも夜になると冷え込む外気を弾いて、なおもその温もりは伝わってくる。

 それほど間近にイヅルは詰め寄った。

 目の前にある真剣な瞳は、僅かに怒っているようにも見えて嫌な汗が浮かぶ。


「猜疑心と警戒心の塊…君を見ていると、何かを思い出すと思ったら……。」


「ワケ解んねーっつーの。放せよ…!!」


「いや、君がとても怖がりだという事が良く解った。」


「あぁ!?…っうわ、待てテメ――」


 さらり、と黒い絹の髪が金茶の髪の中に混ざり合う。

 不思議な気配を秘めた黒曜石の瞳が益々近づいてくる――後頭部を壁にじりじりと限界まで擦り付けながら、このシチュエーションは一体何なんだと胸中で絶叫した。

 鼻と鼻の先が少しだけ触れ合って、理由も無く息が上がる。

 止めろ、これ以上近づいてくるな。つーか野郎同士でコレはねえだろ。

 そっと片頬を包み込んでくるイヅルの手があまりに温かくて、触れた途端に頭の芯が痺れたようにぼんやりとする――総司朗は切先を思わせる鋭い瞳を細め、やがて見たくないものから視線を逸らすように眉を顰めて瞑った。頬がじんわりと熱くなってくるのは気のせいだと思いたい。

 顔面が破格に良いというのは、例え同性であったとしても多少気分を昂揚とさせるという知りたくも無い事実を知ってしまったが、この男にとって今の状態は如何なものなのだろうか?少なくとも自分は破格に顔が良いわけでも無く、また女のような愛らしさなど欠片も無い(有ってたまるか)というのに。

 考えたくは無いが、まさか…


「………あんた、ひょっとしてガチか。ガチなのかよ…。」


「……がち…?……」


 ふむ、と考え込むようにややあってから、眼前の男は少しだけ笑った。

 先程注文していたノンアルコールカクテルの匂いだろうか、触れた吐息は少しだけ甘い香りがした。


「ああ、嗜好は当然女性だ。最近の子供の言葉は主語が掴み辛いな。…成る程、だから俺がテーブルに寄った時に避けたわけか。」


「ガキ扱いしてんじゃねーよクソッタレ…怖がりとかもう突っ込むのも面倒臭ぇし、聞かなかったことにしてやるからいい加減放せよ。ホモじゃねえならあんたも苦痛だろうがこの状態はよ…!」


「実は思ったよりも特に苦痛ではない。」


「紛う事無きガチじゃねえか!!」


 ひっと息を飲んであからさまに顔を顰めれば、何故だかイヅルは我慢しきれないといった感じで突然小さく吹き出した。


「その嫌そうな顔がまた良く似ている――……いや、何でもない。」


「あぁ?口に出した事を途中で遮んじゃねーよ。」


「言うと怒るだろうから、言わないでおこうと思ったまでなのだが?」


「うっぜ。ンな事で怒るかよ!!」


「………、…そうか。君は、ここ最近会社の駐輪場に住み着き始めた野良猫に実によく似ているな、と。」


「……はっ!!?」


 ≪――の……野良猫だぁ!!?≫

 一瞬ポカンと相手を眺めた後で、瞬間湯沸かし器の如く首筋から真っ赤に沸騰する。

 イヅルの山のようにどっしりと動じない雰囲気とは裏腹に、口調は何処か春先に花でも眺めているようなほのぼのとした響きを含んでいて、それが更に総司朗の腹の底に沸き立つ炎を煽った。

 駐輪場の、野良猫。俺が?俺がか!!

 あまりの言い草に怒りで顔が引き攣る。目を見開いて殴りかかろうと腕をあらん限りの力で振り解こうとするが、そう太くも無い腕にどのような力が働いているのか、びくともしなかった。存外着痩せしているだけの可能性もあるが、そんな事はまあどうでもいい。今はただ、目の前の男を一発ぶん殴らなくてはいよいよ気が済まなくなってきたのだ。

 淡々とした顔に少しだけ面白がるような感情を滲ませて、頬にかかっていた手が耳元へと伸びる。

 それと同時に、少しだけ笑みを刷いた薄い口元が手とは反対の耳に寄せられた。


「ほら怒った。言わん事ではない。」


「ブッコロスッッ!!ナメてんのかクソ野郎!!!」


「今更だが、手荒な真似をしてすまない。…このままだときっと君はもう会ってはくれないだろう?俺は君ともっと話がしたい。不可解なラジオが切っ掛けの、それも短い時間とはいえ、こうして出会った君は何故だかとても面白い。」


 耳元に直接、イヅルの幾分か笑いを含んだ穏やかな声が吹き込まれる。

 吐息がピアスで埋め尽くされた穴だらけの耳朶を掠めてゾクリと肌が粟立ったが、それが不快故なのかは定かではなかった。


「…話す事なんざこっちはねえんだよ…!おま、ぜってーガチだろ…!!何やってんだ人の耳、に、っ…」


「ラジオ放送もひょっとしたら一回では済まないかもしれない。そうであった時、得た情報を話し合うのは君にとっても有益な筈だと思うのだが、どうだろうか?」


「有益かどうかは俺が決めんだよ!!…マジ、やめ、っ…おいコラざけんな…!!」


「総司朗、君をもっと知りたい。」


 カチリ…


 声が吹き込まれる耳元とは反対の耳の方で、小さな金属音が響く。

 ≪…あ?≫

 イヅルが拍子抜けする程あっさりと身を引いて顔を離す。

 叫び過ぎたのと変に煽られて興奮気味なのとで真っ赤に染まった顔を顰めれば、掴まれていた両腕も直ぐに解放された。冷たい腕に温かい湯がじわりと流れ込んでくるような心地よい感覚に、腕が痺れるほど強く押さえ込まれていたことが知れる。怒りに囚われて苦痛に気が付かなかったが、ずり下がった袖から覗く腕は赤く染まっていた。

 何が…したいんだこの野郎は…。

 コンクリートに背を預けたまま、肩で息をしながら呆然と二、三歩後ろに離れた男の端正な顔を眺めていれば、イヅルはニヤリと薄く意地の悪い笑みを浮かべた。目の前に掲げられた指には何か光る物が摘まれている。

 指の間のどこか見覚えの有る形状に、触れられていた温もりの残る耳元へ知らず冷えた指先が辿った。


「なかなか格好の良いピアスを付けているな。だがこういう物は一つ二つ程度にしておかなければ、その良さも埋もれてしまう。」


「……余計だ。他人の趣味に口出しすんな……つーか、それ……。」


「君の耳につけられている沢山のピアスの内、他は全てシルバー…もしくはチタン製の様だが、この一つだけはプラチナだな。細工といい、他のとは比較にならないほど随分良い品だ。値が張っただろうに。」


 プラチナ…!!

 感心したようなイヅルの口振りなど其方退けで、反射的に自分の耳を探ってみるものの時既に遅し。

 滅多矢鱈に空いた穴を埋める鈍い銀色のピアスの内、一番大切にしている左耳のインナーコンクに嵌められていた筈の物が忽然と無くなっていた。

 信じられない面持ちで何度もその部分を探れど、何も無い指先の空しい感触に愕然としながら、摘んだピアスを興味深げに眺めながら悠々と立つイヅルの方へ今にも襲い掛からんばかりの低い姿勢で一歩踏み出した。


「どんな目利きだよ…っ…じゃねえ!返せ!今なら通報しないでおいてやる。マジ返せ。」


「今週土曜日、午前十一時にこのバーで。それまでこのピアスは預かっておく。傷をつけない様大切に保管しておくから安心しなさい。」


「……ッ…卑怯臭ぇ真似しやがって…!!わーったよ!!けどこの店は午前はやってねえ。今日と同じ二十一時、それ以上は譲らねえよ。」


 誰が好き好んでこんな野郎と昼間っから顔を合わせるか。

 気持ちを切り替えるよう大仰に息を吐き、猫背でカーゴパンツのポケットに手を突っ込むと、冷めた男の顔を下から覗き込むように睨み付けた。

 こいつ…澄ました顔してとんでもない食わせ者だ。

 大切な人質ならぬモノ質と取られては不利だろうと憤懣やる方ない気持ちを抑えつつ、適当に出任せを吐いて様子を伺えば、イヅルは一瞬形の良い眉を顰めた後、最早見慣れつつある無表情でポケットからネイビーのハンカチを取り出しピアスを包んだ。


「いいや、カウンターに有ったボードには午前十一時からオープンと書いてあった。昼は普通のカフェのようだな。――十一時に待っている。敢えて遅く来るような事があれば、待ち疲れて些細なミスを犯してしまうかもしれない。例えば…君と間違えてこのピアスを駐輪場の野良に与えたりな。」


「恐喝と窃盗でサツに訴える。決まりだ。」


「公的機関に頼るのは良い事だが、あまり取り合って貰えないのも常だとアドバイスしておこう。こと、その風体では不利だろうな。」


 生真面目に暮らしていても相手にして貰えない事があるぐらいだからな…と、イヅルは神妙な顔で囁くように言って、憮然として二の句が告げられなくなっている総司朗の前からゆったりとした足取りで去っていく。

 ピアスの包まれたハンカチがスーツの内ポケットに消えていく様を恨み眼で見送って、最終手段たる脅しが失敗した事にひっそりと落胆した。

 言う事為すこと一々癇に障る。つーか、さり気なく突かれたくない部分ピンポイントで狙ってくるとか、マジねーよこのおっさん。

 実のところ、イヅルの言った事は既に身を持って体験済みであった。

 気に入りのアクセサリーの類を出入りしているクラブで盗まれた事が過去にあったが、男の言うように警察は総司朗を一目見るなり全く相手にしなかった。それどころか『それは本当に君の物だったのか?』と全く別の疑いをかけられる破目に陥り、以来鬼門となっている機関だ。

 訴えるなどと脅しの為に言うだけ言ってみたものの、胸が悪くなる警察に頼るくらいならばあのピアスを諦める方を選んだ方が幾分かマシだった。

 ≪けど、そう簡単に諦める謂れはねえ。≫

 あのピアスは特別な物だった。金額は勿論だが、それ以上に色々なモノが詰まっている。

 階上へ見る間に進んでいく片手をポケットに入れたスーツの後ろ姿を睨みながら、総司朗は拳を握り締めて堪えた。今の状態では腕力でも相手の方が有利だと判明しているのだから、一旦引くしかない。

 ピアスを乱雑に扱われたりしないかと不安に駆られもするが、言動といいスーツの着こなしといい寸分の隙も無い男だ。人から預かった物に対しても恐らく几帳面に扱うだろう。だが――まだ心許無い。

 コツン、コツンと響く硬質な足音が最上へと辿り付いた時、総司朗は舌打ちを一つして叫んだ。


「――イヅル!!」


 階上の男は一瞬ピクリとどこかぎこちなく止まった後、夜の風に髪を遊ばせながら振り向いた。

 そよぐ前髪でよく見えないが、仄見える顔は驚いたように薄い唇を僅かに開いていた。


「そのピアスに傷一つでも付けやがったら、テメェの耳殻ピンバイス三ミリ刃で片っ端からぶち抜いてやるからな!!」


「……ピンバイス、とは…?」


 何やら小声で呟いているのか、口を動かしているのが見えるものの聞き取れなかった。

 それよりもなんだあの間抜面は。総司朗は怒鳴りながら怪訝に眉を顰めた。

 振り向いたままの姿勢でこちらを見下ろす夜闇を纏ったイヅルは、切れ長の瞳を見開いて不意打ちを食らったように呆然としていた。所謂≪鳩が豆鉄砲食らった≫顔、というものだろうか。鳩が豆鉄砲ならこの男は一体何を食らったと言うのか、別段驚くような事を言った覚えも無いが、淡々とした美貌を乱す事に成功したのは少しだけ胸が空く。

 風に靡く髪を掻き上げる男を、はっ、と鼻先で一つ笑ってから見上げた。


「聞いてんのかイヅル!!クソッタレ!!」


「……聞いている。先程も言ったと思うが傷は決して付けない。約束する。」


 ふわりと階上から月明かりが降りてくる。

 真っ暗な室内でランプの小さな明かりを灯した時の様な淡い光に、そういえば今日は雲が多かったかと頭の片隅でぼんやりと思った。暗い夜の帳に支配されていた階上が俄かに明るくなって、煌々と輝く月を隠す雲の切れ目に差し掛かった事が知れる。

 ややあってから、低く穏やかな声がコンクリート壁に響く。


 その意外な柔和さを含んだ声に総司朗は目を瞠った。


「やはり君は、とても面白い…総司朗。」


 月影さやかな叢雲の狭間。

 それは何の前触れも無く、露に濡れた花弁が開くように、音も無く。


 どれだけ罵倒しても控えめにしか感情を露にしなかったイヅルが、怒鳴り散らす総司朗を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。

 何が男の琴線に触れたのかは定かではない。さっきの間抜面といい、全く訳の解らない男だ。…だが……

 総司朗は瞬きも忘れて、微笑む男の姿を眺め見た。

 ――…卑怯だろうよ、こういうの。

 ゾクリと悪寒のように肌が粟立って、奇妙な熱が瞬時に体中を駆け巡る。微笑む男を前に呆然と立ち尽くしたままの体を撫で付ける冷えた夜風が、異様に擽ったく感じた。

 艶やかな黒髪が月の光を映して漆黒の中に青白く光彩を放つその下。新緑に降り注ぐ雨が暖かく優しい様に、白皙の肌に浮かべられたひっそりとした微笑は穏やかで何処までも透き通った水面のようだった。

 濁り無く、触れる事すら躊躇する底無しの清い真水。

 ≪何なんだよ…マジで…≫

 ただ笑った、それだけの事だろうが。

 そう自分に言い聞かすものの、目線を逸らす事すらままならない。一層酷くなった胸騒ぎが不整脈のように鼓動を混乱させて、胸苦しさにシャツを掻き毟って小さく息を吐いた。


 人はこんなにも穏やかに微笑む事が出来るのか。

 少なくとも、俺はこんな笑い方は知らない。


「…また、土曜日に。お休み。」


 男は静かな声を階下に落とし、踵を返した。

 コツリ、と小気味良い足音が外へと向かうのを聞いて、呪縛のように固まった体が弛緩する。

 総司朗はそのまま覚束ない足取りで後退して、先程まで押さえつけられていたコンクリート壁に背を付けると、ズリズリと引き摺るように頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 …尻が青い分際で。

 尻が青い野郎だぞ?二十八でまだ尻が青い!!

 蒙古斑とかマジねーよ。ダセェ。三軒家イヅルダセェ!!

 奴にとって最大のタブーであろう言葉をふんだんに使用して胸中で罵倒するものの、頭に纏わり付く奇妙な疼きの靄は晴れない。奔放に跳ねる髪をくしゃくしゃと掻き毟り、しゃがんだ膝頭の上に肘を置いて項垂れる。

 階上から耳元を掠めるイヅルの足音は最早遠く、やがて余韻も残さず完全に消え去っていった。しつこく絡んできた割に、驚くほど呆気ない去り方だ。

 どこまでも人を翻弄するのが上手い奴だと思う。……否。単に思うままに行動しているだけなのかもしれないが。空虚な感触の左耳のインナーコンク部を撫でながら、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 腹の立つクソ野郎、油断なら無い食わせ者に続いて突拍子の無い奴、という評価が一連の行動からして一番しっくりくるだろう。


 …色々と規格外にぶっ飛んだクソ野郎と絡んじまった。


 後悔しか残らない出会いに自ら近寄ってしまったとは。元凶は呆れるほど非常識なラジオだが、総司朗は自らの大失態に陰鬱な気分になった。好奇心は猫をも殺すという、まさにそれだ。

 赤さの残る腕がふと目の端に入れば、屈辱と羞恥が入り混じった苦さが胸を這い登ってきて、腹立ち紛れに冷たいコンクリート壁を殴る。


 ≪…あのクソラジオ、次鳴り出したらぶっ壊してやる。≫


 月明かりに照らされた街道を涼しげに闊歩し、夜闇の中へ去っていくであろう男の姿を想像し、総司朗は壁に寄り掛かりながら忌々しげに舌打ちをした。





 ――キュイン…ジッジジジジッ……


『 松田総司朗、三軒家イヅル 両名の死因とその執行日を告げる。


 松田総司朗 二〇××年十一月五日 享年十九歳。死因 失血死

 三軒家イヅル 二〇××年十一月九日 享年二十八歳。死因 衰弱死


 愛を以って交わしなさい。

 瑞々しい生命の木から断ち切られた枝は、どれ程青き葉を付けていようとも二度と甦る事は無い。

 大地に根ざす事能わず、風雨に晒され芥塵と化せばまた新たな世を巡る。

 是こそが全ての理。

 覆される事無き不変の真理。古より神々の定めし律。

 愛を以って交わりなさい。

 其に輝く水を与えよう。

 断ち切られた枝に肥沃な土を。あるいは腐食せしものに白金の鋏を。

 弱き枝は支えなくば倒れよう。立ち上がれなくば根ざす事は出来ぬ。

 異なる木から断ち切られた、二つの異なる枝。

 其に輝く水を与えよう。


 交わるはずの無かった二つの異なる枝。

 これより愛を以って交わし、交わり、育みし実を示せ。

 救われるはただこの一つ。永劫の彼方より続く律は神々の手でのみ覆される。



 さあ、それまでに足掻いてごらん。全て見せてごらんなさい。


 この空虚な心を満たすほどの決断を以って足掻いたのならば。

 爪を立てるような必死の愛を見せてくれたのならば。

 それは輝ける 大いなる恩恵の受け皿となる。


 この慈悲は神の心、御技の奇跡。

 選ばれし幸運に感謝すると良い。』




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