異世界婚活
娘ばかり五人もいる男が苦悩していた。
この国では女の子は家を継ぐことが出来ず、他家に嫁がなくてはならない。
嫁ぐ際には持参金が必要になる。
どんなに貧しい庶民でも、いくばくかの持参金またはその代わりになる品物を娘に持たせる。
そうしないと男性側が受け入れてくれないのだ。
男は結婚に費用を出す必要がなく、貰う一方なので、男の子が生まれた家は豊かになっていく。
女の子しか生まれなかった家は傾いていく……。
そんな国で、五人の娘を持つ父親は苦悩していた。
娘それぞれに持参金を持たせて嫁がせねばならない。
この国の独身女性は法的な権利をほとんど持たない。
必然的に、結婚できない女性の人生は極めて危ういものになる。
具体的には、銀行口座も作れず、不動産も所有できず、庇護してくれる男性親族(主に父親)が死去すれば、犯罪被害にあっても訴え出る権利すらない……という『人間未満』の扱いになってしまう。
娘の身の安全のためには、なんとしても五人全員を嫁がせねばならない。
それも、望みうる限り優秀な男性へ。
幸いにして、彼にはそれなりの資産があった。
近年開始された異世界との交易で、多少の恩恵にあずかっていたのだ。
五人全員にまとまった持参金を持たせても、家が潰れないくらいの余裕はある。
彼は伝手をたどり、一流企業に勤める優秀な男性と長女の縁談にこぎつけた。
長女は容姿も美しく、性格は控えめで慎ましい。
双方にとって申し分のない良縁と思われた。
だがしかし。
「持参金に、指定の物品を追加だと……!?」
男性側から持参金の上積みを要求された。
それもただ金額を増やすのではない、伝手がなければ入手が難しい異世界産の物品を要求されたのだ。
携帯端末の最新機種とその付属品一式、型番指定で。
一流企業のエリート社員でも、誰もが持っているわけではないレアアイテムだ。
異世界との交易に一枚噛んでいるおまえなら入手できるだろう、ということか。
足元を見られている、と彼は嫌な気持ちになった。
これを断れば縁談は白紙になるだろう。
あちらは男性で将来有望なエリート、引く手あまたなのだから。
長女のためだ、仕方がない。
彼は自分を宥めて、異世界の知り合いに連絡を取った。
『ああ、それなら在庫がありますから、すぐにお届けできますよ』
「ありがとうございます、タカタさん。面倒をおかけして申し訳ない。こちらの個人的な事情なのに」
『いえいえ、私もなかなか結婚できない子どもに頭を痛めていますからね。親の気持ちはわかりますよ』
「わかっていただけますか……」
世界が違っても、子を持つ親の悩みは共通であるらしい。
『それにしても大変ですねえ。女の子の方がお金を払うんですか。うちの国とは逆ですね』
「もしかしたら、そちらでは結婚の時に男の方がお金を払うのですか?」
『ええ、そうですよ。結納金と言って、結婚前に男性側が女性側にお金を払うしきたりがあります。昨今では形骸化していますけどね』
「なんと……。わが国とは正反対ではありませんか」
『ところ変われば品変わると言いますね。こちらのしきたりに従ったら、娘さんが五人もいれば結納金でウハウハでしょうね、アッハッハ』
驚きを隠せない彼に、タカタ氏は陽気な冗談を言って通話を切った。
持参金の目録に携帯端末とその付属品一式が書き加えられてから数日後。
また新たな要求が突き付けられた。
「タカタさん、度々のお願いで申し訳ない……」
『かまいませんよ。今度は全自動洗濯機と自動掃除機ですか。便利家電の代表格ですね』
「結婚後の家事が楽になるのだから娘にも都合がいいだろう、と言われてしまいまして」
『はあ、それなら結婚してから旦那さんが買ってあげればいいのにね。エリートで給料いいんでしょ?』
「本当に私もそう思います。正規のルートで買えない品物じゃないんですよ。予約でいっぱいだから二年待ち三年待ちになるというだけで」
『お嫁さんの親に無理を言えば、待たずに済むし、自分の懐も痛まない、と。お婿さん、計算してますねえ』
「この縁談で娘が幸せになれるのか、疑問が湧いてきそうですよ」
『親心子知らずってね。この場合は舅の心婿知らずですか。アッハッハ』
タカタ氏は今日も陽気な冗談を飛ばした。
前向きな提案を幾つか挟んで、用件は終わった。
彼は痛む胃の辺りを押さえて通話を切った。
持参金目録に全自動洗濯機と自動掃除機を付け加えた数日後。
彼はまたしてもタカタ氏に連絡を取っていた。
「もう私は自分を抑えられそうにありません! 怒りを通り越して呆れです! 呆れを通り越して……呆れの先って何でしょう? 言葉を思いつきませんが、何かの境地です!」
『まあまあ、抑えて抑えて。で、何ですって、今度はEV車を充電ステーション付きで、ですって? 婚約者殿、大きく出ましたねえ』
「前々からそちらの世界の自動車を寄こせとねだられていたのです。自動車はガソリンで動くから、ガソリンが普及していないこちらの世界では使えないと突っぱねていたのですが……」
『電気で動く車、EV車に目を付けた、と。考えましたねえ。魔石と電力の交換装置を使えば、家電品と同じく、そちらでも動くだろうと、そういうことですね。さすがエリート、着想は悪くない』
「頭は切れても強欲すぎます。電気で動く自動車に充電ステーションも付けて、となると値段がいくらになるか想像もつきません」
『そうですよねえ。私もEV車は手配できても、充電ステーションまで手配する自信はないですよ。仮に手配できたとしても、輸出できるかどうか。これ、自動車メーカーが動く案件ですよ』
「まったくです。私個人の手に負える範囲を超えています。タカタさん」
『はい?』
「娘の婚約者に愛想が尽きました。この縁談は解消します。つきましては、先日のお話、進めていただいてよろしいでしょうか?」
『もちろんですとも。その言葉を待ってましたよ』
※
後日、ネットニュースで以下のような記事が流れた。
『日本の商社「国際次元開発」の代表取締役:高田敏明氏の長男、高田湊さん(26歳)と、異世界ハルマーン王国のラヴィンドラナート・ハルチャンド氏の長女、ラクシュミーさん(20歳)との婚約が決まった。
ラクシュミーさんはエルフの特徴を持つ聡明な美女。(写真)
四人の妹と共に日本に留学し、地球の暮らしについて学ぶ予定。
地球と異世界との交易が始まって以来初めてのカップル誕生に、両世界の財界が沸いている。
湊さん、ラクシュミーさん、おめでとう!末永くお幸せに!』
<完>




