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第2話

私は無実です。

「——近い。とにかく近いんだって」



「ほら、信号赤だよ?」



「……分かってるよ」

隣を歩く白宮ひなたは、俺の手を当然のように握ったまま、トコトコと歩調を合わせてくる。



いや待て。



これ、端から見れば完全に恋人だよな?



俺たち、昨日までただのクラスメイトだったはずだよな?



「なあ、いつまで手、繋いでるつもりだよ」



「えー?」



ひなたはきょとんとした顔で俺を見上げる。



「だって危ないじゃん」



「もう倒れてねえよ」



「でも、またフラッてなるかもしれないし」



正論で殴るの、マジでやめてほしい。



しかもこいつ、握る力が地味に強い。



離そうとしても、するっと指を絡めてくる。いわゆる「恋人繋ぎ」ってやつだ。



意識しない方が無理だろ。



「仁くん、顔赤いよ?」



「うるせえ!」



ニヤニヤしながら言うな!



翌日。教室でもその「異常事態」は続いていた。



「おはよー、仁!」



「……おはよ」



席につこうとした瞬間、ひなたが俺の机に身を乗り出してきた。



距離、約30センチ。いや、もっと近い。肩と肩が触れ合っている。



「ちょ、離れろって」



「なんで?」



「なんでじゃねえよ……周りを見ろ」



クラスメイトたちの突き刺さるような視線が痛い。



教室中がざわついているのが、肌で伝わってきた。



「え、河西と白宮って付き合ってんの?」



「昨日一緒に帰ってたよね?」



違う、誤解だ! 誰か全力で否定してくれ!



「ねえ、仁」



ひなたは外野の声なんて1ミリも気にしていない様子で、俺の顔を覗き込んできた。



「昨日さ、帰ったあと大丈夫だった?」



その質問に、俺は少しだけ言葉を詰まらせた。



……正直、驚いていたんだ。



昨日、ひなたと別れて家に帰ったあと。



あんなに安定していた体調が、急激に崩れた。



胸の奥を締め付ける痛み、鉛のような倦怠感。



すべてが、執拗に舞い戻ってきた。



まるで、彼女から離れた途端に、砂時計の砂が勢いよく落ち始めたみたいに。



「……ああ、まあな」



「ほんとに?」



ごまかすように答える。



まだ確信はない。



ただの偶然かもしれない。



けれど、ひなたの笑顔を見た瞬間、また身体の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。



昼休み。俺は一人で屋上に来ていた。



さすがにあの距離感に当てられ続けるのは、精神的に疲れる。少し頭を整理したかった。



「……で、どうなんだよ」



自分自身の手を見つめる。



昨日、ひなたと繋いでいた手。



あの時、確かに身体は楽だった。



もし、これが彼女の「体質」か何かのせいだとしたら……。



「なにしてんの?」



「うわっ!?」



背後から突然声をかけられ、心臓が飛び跳ねる。振り返ると、そこにはやっぱり、ひなたが立っていた。



「……なんでいるんだよ」



「探したんだよ。いなくなったから」



「一人になりたかったんだよ」



「ふーん」



ひなたは少しだけ考えて、そして——。



俺の隣に、隙間なくぴったりと腰を下ろした。



「一人でいたいんでしょ? でも、私がいたら『一人』じゃないじゃん」



「……そうだけど! そういう問題じゃない!」



なんだその屁理屈。



「ねえ」



ひなたが俺の手に触れる。



指先が、そっと重なる。



「やっぱり、熱あるよね」



その瞬間だった。



——すうっ、と。



身体の重りが外れたみたいに、呼吸が深くなる。



肺の奥まで酸素が染み渡り、さっきまでの苦しさが嘘みたいに溶けていく。



「……っ」



「ほら、やっぱり。無理してたでしょ?」



ひなたは俺の手を包み込むようにギュッと握った。



違う。無理してたんじゃない。



これは、お前がいるからなんだ。



「なあ……なんでだと思う?」



「なにが?」



「俺が、楽になる理由。お前に触れてると、身体が動くんだ」



少しだけ、核心に触れてみる。



けれどひなたは、きょとんとした顔のまま、「えー? 知らないよ」とあっさりと笑った。



「でも、いいじゃん。私がいれば楽なんでしょ? なら、ずっと一緒にいればいいじゃん」



その言葉に、息が止まる。



ずっと一緒に。



それはつまり、俺が生きるためには、彼女が不可欠だということ。



「……好きにしろ」



「やった!」



ひなたは嬉しそうに笑って、今度は俺の腕に抱きついてきた。



だから近いって! 柔らかいおっぱいが当たってるから!



余命三ヶ月の心臓には、別の意味で負荷が強すぎる。



「顔、真っ赤だよ?」



「うるせえっ!!」



騒がしい帰り道。



けれど、一歩踏み出すたびに、世界が鮮やかになっていくのを感じていた。



あと三ヶ月のはずだった時間が、少しだけ、優しく延びた気がして。



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