第八話 非道なる姉
無事に聖女のお仕事が終わった後、私は教会を後にして自室へと向かっていた。
この後は、いつもなら使用人がやりたがらない、汚いお仕事や、力仕事をやらされる。もちろん、今の私はそんなものを引き受けるつもりはないし、そもそも今の使用人達が、私に押し付けるとは思えない。
「いざ自分の時間を得られたら、それはそれでなにをするか困ってしまいますわね」
復讐のために動けと言われるのは重々承知だが、変な行動を取ったせいで、警戒されては元も子もない。動くときは、勝算がある時じゃないと。
「せっかくだし、読書をして過ごそうかしら……あら、あれは……」
自室へと戻る道中で、応接室の前を通ろうとしたら、応接室からお父様とお義母様が出てきた。それも、予想もしていなかった人と一緒に。
「あ、あれは……ソリアン国の王家の方……!?」
目の前に広がっている光景が、すぐに信じられなくて、咄嗟に曲がり角に身を隠しながら、もう一度確認をする。
やっぱり、あれはソリアン国の国王、フェルト・ソリアン殿下に、一人息子のアルフレッド・ソリアン様だ。見間違えるはずもない。
戦争は終わったのだから、ソリアン国の人間がここにいてもおかしくない……のかもしれないが……やはり変な感じは拭えない。
「それにしても、王子のアルフレッド様の、あの雰囲気……」
私が予知で見たアルフレッド様は、私に対して激しい怒りを向けていた。それに、ソリアン国の方々は、誰もが野蛮で恐ろしい人間というのが、祖国では当たり前の認識だ。
しかし、今見ているアルフレッド様は、とても穏やかに笑っている。とてもではないが、私の知っている人物とは思えない。
「一体どういうことですの? もう少し近くで……あっ」
目の前の現実の真相を確かめるために、少しだけ身を晒してしまった瞬間、アルフレッド様とバッチリ目が合ってしまった。
すると、アルフレッド様は私に向けてニッコリと微笑みながら、小さく会釈をした。
それにつられて、私も頭を下げたのだけど……見つかってしまったことに焦ってしまっていたせいで、自分が隠れていることを忘れていた。結果、私は壁の角におでこを思い切り打ち付けてしまった。
「い、いったぁい……」
「そこのお方、大丈夫ですか?」
「あっ……!」
このままここにいたら不味い。そう思った私は、アルフレッド様の心配の声を背に、その場を駆け足で去った。
そして、少し遠回りをしながら自室に戻ってきた私は、その勢いのままベッドに倒れこんだ。
「は、恥ずかしいぃぃぃ……!」
わ、私ってば一体なにをしているの!? 復讐相手に見つかったどころか、あんな醜態まで晒して……ああ、自分が情けない……!
「……それにしても、あの人が本当に、ソリアン国の方なのかしら?」
私の中でのソリアン国の人間は、乱暴で教養がなく、何事も暴力で解決するような方が集まる国だと思っていた。そう思っているのは、私だけではなく、カルネシアラ国の人なら、当然の考え方のはず。
なのに、私が見たアルフレッド様の印象は、とても穏やかで笑顔が素敵で、優しい人というものだ。これは、一体どういうことなの?
「って、私は何を血迷っておりますの? かつて、ソリアン国が戦争を仕掛けてきたから、お母様は亡くなったんですのよ? それに、私の処刑にも、絶対に絡んでいるはず。そんな人が優しいだなんて、ありえませんわ」
そうよ、きっと遠めに見たから勘違いしただけだ。その勘違いのせいで、心配しているように聞こえたんだ。なんだ、わかってしまえば、なんてこともなかった。
「アルフレッド様も、フェルト陛下も、私の復讐対象だ。いつか必ず、復讐してさしあげますわ……!」
胸の奥に燃える、どす黒い復讐の炎を更に強くしていると、ノックも無しに部屋のドアが開かれた。
「あら、本当にここにおりましたのね」
「お姉様? 私に何かご用ですか?」
「いつものお仕事の時間なのにセリアがおりませんので、呼びに来てさしあげましたの。あなたが余計な予知をしたせいで、使用人達が困っておりますのよ?」
お姉様自らが、私の部屋に来た時点で、良い話ではないのは予想していた。案の定といったところね。
そもそも、使用人のお仕事なんて、私の知ったことではない。元々は使用人のお仕事なのだから、使用人が務めるのが筋だろう。
「あら、やはり反抗的な目をしますのね。昨晩も、ずっと私にその目を向けておりましたものね」
「反抗などしているつもりは、毛頭ございません」
「私の妹はおバカさんでいけませんわ。その言葉が出てる時点で、私に反抗しているのですよ」
そう言うと、お姉様は私の元へ、カツカツと音を立てながら近づくと、そのまま横を通り過ぎて……私のベッドに置かれているぬいぐるみを、一つ手に取った。
「こんな汚いぬいぐるみの、何が良いのか……私には未来永劫、理解出来そうもありませんわ」
「な、なにをするのですか!? 返してくださいませ!」
ベッドに置いてあるぬいぐるみ達は、私がなけなしのお小遣いをコツコツと貯めて、こっそり買い集めた、大切なものだ。
お友達が人生で一度もいない私にとって、ぬいぐるみがお友達であり、家族でもある。
特に、お姉様が持っている猫のぬいぐるみは、一番のお気に入りだ。
「おほほほっ、やっと良い顔になりましたわね。ああ、それ以上動かないほうがよろしくてよ?」
お姉様が、ぬいぐるみを手のひらに乗せると、ぬいぐるみを包み込むように、赤い魔法陣が描かれた。
赤い魔法陣は、炎の魔法を発動するのに必要なもの……まさか、私の大切なぬいぐるみを、燃やすつもり!?
「わ、わかりましたわ! お仕事をしますから、その子は返してください!」
「ふふっ、わかればよろしいんですの。ほら、早く支度なさいな。私、今日はあなたがボロ雑巾のように働いているところを見ながら、お茶を飲みたい気分ですの」
相変わらず、私のことを何だと思っているの? 予知を見て変わらなければ、こんなことを完全に受け入れて、傷つけられて、最後は処刑されると思うと、家族への憎しみが強まると同時に、受け入れてしまった自分の弱さに腹が立つ。
「お好きにして良いですから、早く!」
「わかりましたわよ。そんな急かさなくても、ちゃんと返しますわよ」
呆れながらも、僅かに上がった口角を見逃さなかった私は、むりやりぬいぐるみを取り戻そうとした瞬間、ぬいぐるみは炎に包まれ……一瞬で燃えカスになってしまった。
「あ……あ、あぁ……」
「そういえば、ちゃんとお伝えしていなかったかしら? 返すとはお伝えしましたが、そのままとは一言も申しておりませんわよ? おーっほっほっほっ!!」
お姉様は、高笑いで私のことを煽りながら、変わり果てたぬいぐるみを投げ捨てると、軽やかな足取りで部屋を去っていた。
「ぐっ……くぅ……!!」
変わり果てたぬいぐるみの燃えカスをすくい上げながら、声にならない声を漏らつ私は、怒りで身を震わせる。ギュッと握る手のひらからに爪が食い込んだのか、血が滴り落ちている。
「私は……何も悪いことなんてしていない。なのに、どうしてこんな理不尽な目に合わないといけないんですの?」
許せない。私を傷つけ、私の大切なものを容赦なく奪ったお姉様が。私のことを虐げ、利用し続ける両親が。お母様を奪った戦争の発端となったソリアン国の王家が。
許せない。許せない。許せない。絶対に、復讐してやる。最後に笑うのは、私なんだから……!!
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