第七十四話 復讐の終わり
祖国での大騒動が起きてから三ヶ月後。思った以上に重傷で、なかなか回復しなかったが、ようやくまともに動けるようになった私は、再び祖国へと足を踏み入れていた。
この日は、カルネシアラ国にとって、とても大きな出来事がある。それを行うために、私は必要不可欠な立場のため、こうして出向いた次第だ。
「セリア様、長旅ご苦労様でした。まだ時間がございますので、お部屋でごゆっくりおくつろぎください」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、その前に彼の元へ案内していただけるでしょうか?」
「もちろんでございます」
私を出迎えてくれた、新しく宰相の座についた女性に連れられて、地下牢のとある一室に向かうと、そこには魔法を封じ込める結界に閉じ込められた、お父様の姿があった。
「お久しぶりですわね、お父様」
「セリア、貴様……この期に及んで、まだその不快な姿をワシに見せるとは……!」
「嫌ですわ、お父様。今のあなたのみすぼらしい姿の方が、よほど不快ですわよ?」
まるで、私がまだここに住んでいた時のように、汚らしい姿をお父様がするだなんて、それだけでも気分がいい。
「ここの生活は気に入っていただけましたか?」
「ふん……貴様のような、汚い女には最適な環境だろうが、ワシのような高貴な身分の人間には、地獄のような環境だ。それに、毎日の様に愚かな民が来ては、ワシに暴言を吐いたり暴力を振るってくる始末だ……!」
「それにしては、随分と元気ですわね?」
「当然だ。この程度のことでへこたれていては、愚かな民を導く王になどなれるものか」
その言い方だと、崇高な信念をもって王を務めているように聞こえるのだけど。所詮、お父様は自分の欲のために、自分の力を悪用した、卑怯者だというのに。
「ぐぬぬぬ……悪人の癖に、偉そうに! あんたのせいで、セリア様がどれだけつらい思いをしたと思っているのよ!」
私と一緒に地下牢にやってきたリズが、ビシッと指をさしながら声を荒げた。
「なんだ貴様、偉そうに……いや、その姿……そういえば、新人の使用人で反抗するバカがいると、ドリアーヌが報告していた使用人と特徴が一緒だな。いつからか消えていたと聞いていたが……そうか、セリアについていったのか。仕える主を間違えるほどの愚か者だとはな。奴も休暇を出して以来、音沙汰がないときた……ふん、どいつもこいつも使えん無能ばかりだ」
ドリアーヌ? ああ、そんな方もいたわね。色々な意味で濃厚な日々を過ごしていたから、すっかり忘れていたわ。
彼女、今も素敵なバカンスを楽しんでいるのかしら。さすがに飽きて、帰りたくなっているころかしら?
「冗談は、その汚い性根と顔だけにして頂戴! わたしは、セリア様についていったことが、人生で一番賢い選択をしたと思っているのだから!」
「リズ、あなた……」
私のために怒ってくれているリズの姿に、思わず嬉しくて抱きしめそうになったのを、グッと我慢する。お父様の前で、そんな姿を見せたくないもの。
「話を戻しましょう。今日は何の日か、お父様はご存じですか?」
「興味がないな。そもそも、今日は何日なのだ? ここにいると、日時の概念が無くなる。それと、いつになったらワシをここから出すのだ?」
「お喜びくださいませ。今日をもって、お父様はここから出られますわ。なにせ、今日は……お父様が、処刑される日ですの」
「な、なん……しょ、処刑……!? 国王でありワシを処刑だと!?」
随分と調子に乗っていたのに、処刑と聞いた瞬間、お父様の顔から血の気が引いていくのが見て取れた。
そう――今日行われるのは、お父様の処刑。それも、民の前で行われる公開処刑だ。
私が療養している間に、この国の権力者達が何度も話し合いを行った結果、とんとん拍子で話が進んでいったそうだ。私は、その話し合いには参加できなかったが、何度も書面でやり取りをして、話を進めたの。
国民からも、お父様を擁護する声は一切あらず、処刑を望む声が大多数を占めていた為、晴れて処刑が行われるというわけだ。
ちなみに、処刑といっても私の未来を見た時のように、ギロチンで首を刎ねて終わりというわけではない。この三ヶ月の間に、この国の人達によって溜めに溜められた、お父様への痛みを私の魔法によって開放し、散々苦しめて処刑するということだ。
……さすがにこんな陰湿な方法は、アルフレッドに知られたくないから、今回はソリアン国でお留守番をしてもらっている。それと、権力者の方々にも、口外しないようにお願いしている。
まあ、アルフレッドのことだから、何となく察しているような気はしている。あの方、私のことになると、驚くほど鋭いもの。
その代わりと言ってはなんだが、今回はリズが私に同行してくれている。
『セリア様を一人で行かせるなんてさせられないし、少しでもあの男にガツンと言わないと気が済まないんです!』
そう言って、リズはやや強引にではあったが、私についてきたの。
あまりリズを巻き込みたくはなかったのだけど、いくら言っても一歩も引かないし、私も知っている人がいてくれると心強いと思ってしまい、同行を許した次第だ。
「まだ国王を名乗るだなんて、勘違いも甚だしいよ!」
「リズ、そんなことを言ってはいけませんわ。お父様は、自覚が出来ないくらい頭の方がアレなのですわ」
「アレってなんですか?」
リズ、さすがにそこはわかってほしい場面なのだけど……頭に血が上りすぎて、冷静な判断が出来ないのでしょうね。
「アレというのは……ごにょごにょ……」
「ああ、なるほど……そういうことですね! なら……バーカバーカ! セリア様をいじめるから、バチが当たったんですよーだ!」
「何を子供みたいなことを言っているのですか……」
「だって、ずっとセリア様をいじめていた人なんですよ!? 少しでもお返しをしないと、気が済みませんよ!」
普段から優しい子だからか、その後も出てくる言葉は、子供が口喧嘩をしているようなものばかりだった。
リズには、これからも子供のように、純粋で優しい子であってほしいわね。私のように、陰湿な考えなんて思いつかないくらいに……ね。
****
お父様を連れて、私は城下町の広場へとやってきた。ここには、今日の処刑で使われる、とどめ用のギロチンと、お父様の最後を見るために集まった民達で溢れかえっている。
この光景……まるで、私が予知で見た、自分の破滅の未来とそっくりだ。それが、まさか自分がする側に回り、お父様がされる側になるとは、これっぽっちも思っていなかったわ。
「皆様、ごきげんよう。セリア・カルネシアラですわ。本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。これより、元カルネシアラ国の国王である、モーリス・カルネシアラの処刑を執り行わせていただきます」
ギロチン台の上に立ち、深々と頭を下げて挨拶をすると、観衆から大きな声が上がった。
私の登場を喜ぶ声、早くお父様を殺せと怒り狂う声、お父様のせいで起こった戦争で失った家族を返せと泣きわめく声……沢山の声が入り交じり、まさに混沌と化していた。
「既に、皆様もご存知でしょう。父は民を魔法で操り、隣国であるソリアン国と再び戦争を起こそうとしました。それだけではありません。父は計画の成功のために、王妃と王女を殺害しました。過去には魔法を使い、罪もないソリアン国を蛮族が住む恐ろしい国という、誤った認識を民に植え付け、その恐怖心を利用して民を操っておりました。そして、長年に渡る戦争に繋がってしまった……まさに、全ての諸悪の根源なのです!」
「大悪党め! 俺達を何だと思っているんだ!」
「バーカバーカ!」
「なんておぞましいの……! 同じ人間とは思えないわ!」
……飛び交う罵詈雑言の中に、知っている声が混じっていたような気がするけど、気にしないようにしておこう。
「父の犯した罪は、あまりにも大きすぎます。よって、この処刑は免れることが出来ない、定めと言えるでしょう。しかし、それで本当によろしいのでしょうか? 散々多くの人間を苦しめた人間が、ほんの一瞬の痛みだけで解放されるのは、おかしいと思いませんか?」
「そうだそうだ! 徹底的に苦しめてやれー!」
「私達の家族を奪った極悪人に、最大限の痛みを!」
「ぐっ……ぐぅ……!!」
私の煽り文句に応えるように、民達から次々と賛同の声が上がる中、一緒にギロチン台に上がってきた兵士達が、お父様をギロチン台にセッティングし、猿ぐつわを外してあげた。
あとは、刃を落とせばお父様を殺せる……が、もちろんそんなことはまだしない。しっかりと、私の最後の復讐をしてあげるまで、殺してなんてあげないのだから。
「皆様、ご安心くださいませ。私の方で、とある裁きをご用意いたしました。きっと皆様に気に入っていただけるかと存じますわ」
「なにが裁きだ! こんなことをして、タダで済むと――」
猿ぐつわを外されて喋れるようになったとたん、憎まれ口を叩くお父様に、事前にかけた魔法の一部を解除すると、お父様は急激に苦しみ始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!? な、なんだこれはぁぁぁぁ!?」
「えっ……なんだ? 急に苦しみ始めたぞ?」
「処刑を見逃してもらう演技とか……?」
「皆様。実は私には、対象の時を止める魔法が使えますの。この魔法を用いて、父の身柄が拘束されてから今日まで、父が本来感じるはずだった痛みや精神的ストレスを止めておりました。つまり……皆様が父の元に赴き、怒りと悲しみを発散させた痛みを、まとめてこの場で与えるということです」
一つ一つの痛みはそれほどではなくても、休む暇もなくずっと与えられれば、それは大きな苦痛となる。特に精神的ストレスにいたっては、プライドの塊であるお父様にとって、耐えがたい苦痛だろう。
「わ、ワシが悪かった!! 謝るから!! もう二度とこんなことはしないと誓うから、や……やめてくれぇぇぇぇ!!」
「随分と弱気ですこと。仕方ありませんわね、止めて差し上げますわ」
私は、聖女の力でお父様の痛みを止めてあげると、お父様は目を見開きながら、少しでも空気を体内に入れようと、必死に呼吸をしていた。
「はい、休憩は終わりですわ」
「なっ……がああぁぁぁぁぁ!?」
一瞬の開放に安堵した所に、あっさりと終わりを告げた時のお父様の表情、何とも間抜けで、無様としか言いようがない。
「痛いですか? 苦しいですか? その程度の痛み、私がずっと受けてきた痛みや、民が戦争で受けた痛み、お母様が受けた痛み、そしてアルフレッドが受けた痛みの、足元にも及びませんわよ。そうだ、一つ面白いことを教えて差し上げますわ。実は、私の魔法は完全に解除したわけではないのですよ」
「な、なにが言いたいぃぃぃ!?」
「簡単に申し上げますと……これから、もっと苦しむことになるということです。ふふっ、どこまで耐えられるでしょうか?」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?!? やめろぉぉぉぉぉ!!」
「やめろ? あははっ! 随分と笑わせてくれますわね! 私を散々虐げていた時に、私が泣きながらやめてといっても、許してと願っても、一度も許してくれなかった分際で、自分の立場になったら懇願するのですか!?」
どれだけ私が痛がっても、苦しんでも、お父様は絶対に私を助けることはしなかった。それどころか、私が苦しむ姿を、笑って見ていた。そんな人間のお願いなんて、誰が聞いてあげると思っているの?
「絶対に止めてなんてあげないんだから……! 散々苦しめてきた方々の痛みを、そして私の身を焦がす復讐の炎を味わいながら、この世を去りなさい!」
「が……あっ……し、しにたく……ない……だれ、か……たすけ……」
この三ヶ月に蓄積された苦痛で顔は歪み、あらゆるところから色々なものを出して汚れ切ったお父様は、意識を失ってぐったりしてしまった。
これだけでは終わらせない。私は、事前に用意していた水をお父様にかけて無理やり起こし、再び苦痛を味合わせる。それを、何度も何度も繰り返した。
そして、ついにお父様が目を覚まさなくなるくらいボロボロになったタイミングで、私が合図を出すと……意識の無いお父様に向かって、鋭い刃が襲い掛かった。
「…………」
お父様の最後なんて、これっぽっちも見る価値が無いと思った私は、刃が命を刈り取る前にお父様に背を向けながら、天を仰いだ。
……ああ、今日は良いお天気だ。今の私の心境のように、晴れやかなこの空なら……お母様も、きっと見ていてくれただろう。
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