第七十三話 帰還
■アルフレッド視点■
すやすやと、気持ちよさそうなセリアの寝息を聞きながら、僕は故郷の大地に向かっていく。とはいっても、カルネシアラ国の馬車に乗せてもらっているだけだけどね。
「本当に、よく頑張ったね……ありがとう、セリア」
本来なら、ソリアン国の問題でもあるのだから、直系の王族である僕や父上が解決しなくてはいけないことを、セリアは進んでやってくれたどころか、最前線に赴き、問題を解決してくれた。
まったく、知り合って間もない頃は、復讐という面を持ちながらも、基本的にお淑やかな女性というイメージだったのだが、本当は誰よりも芯が強い女性だった。
「やはり、僕の見る目に狂いはなかったということだ。こんな素敵な女性なんて、他に見つけられる気がしないな」
今は、天使のような寝顔で眠っているセリアも、勇敢に立ち向かっていく姿も、憎い相手に嫌味を交えつつ話す姿も、とても絵になっていた。まあ……最後のに関しては、今回で最後になればいいのだが。
「お二人様。国境沿いに到着致しました。こちらでソリアン国の馬車にお乗り継ぎくださいませ」
「わかりました。ここまでありがとうございました」
「こちらこそ、改めてになりますが……助けていただいて、本当に、本当にありがとうございました……!」
きっと、彼にも色々と思うことがあったのだろう。終わったことを噛みしめるような声で涙を流すその姿を見てると、そう思ってしまうよ。
「我々は友好国ですから、困った時はお互い様です。では、本日はこれで失礼します」
僕は、セリアをひょいっとお姫様抱っこで持ち上げると、見知った顔の御者に出迎えられた。そう、僕達がカルネシアラ国に侵入する際に、送り届けてくれた人だ。
「あぁ……よくぞご無事で! 中々お戻りになられないから、心配で心配で……!」
「それは申し訳ないことをしてしまいましたわ、ですが、この通り……ちゃんと帰ってきました」
「セリア様は? 傷だらけではありませんか!」
「色々ありましてね……治療はしてるから大丈夫です。もっと再会を喜び合いたいところですが、とりあえず、帰ってセリアを休ませてあげたいから、出発してもらえますか?」
「はっ……失礼しました! すぐに出発します!」
「ははっ、肩の力を抜いて。安全運転でよろしくお願いしますね」
国境沿いから、我が家まではそれほど時間はかからない。現に、手を繋ぎながら、僕に寄り添って寝ているセリアの寝息を、心地よい音楽のように聴きながら外を見ていると、いつの間にか城門を潜り抜けていた。
「ふう、やはり我が家が一番落ち――」
「アルフレッド様ー!!」
「セリア様も、よくぞご無事でー!!」
ついた途端に、城の中から続々と使用人は兵士達が出てきて、僕達の帰りを喜んでくれた。中には号泣してしまっている者もいた。
そんな中、一際勢いよくこちらに来た、見覚えしかない女性が、僕に話しかけてきた!
「リズ嬢、ただいま」
「…………」
「リズ嬢?」
「じんばいじだんでひゅよ~!! じぇんじぇん、きゃえっれぇ……こにゃいかりゃあ! わだし……うえぇぇぇぇぇん!!」
あまりにも泣きすぎて、完全に呂律が回っていない。それほど、リズ嬢にも心配をかけてしまっていたのだろう。
「え……セリア様? これ、どうしたんですか!?」
「向こうで色々あってね。治療してあるから、しばらくすれば治るよ」
「こんなボロボロになって……あなたが近くにいたはずなのに、なにをしていたんですか!?」
「……返す言葉もないよ」
僕のしたことなんて、記録を取っておいたことと、身を挺して庇って死んだくらいだ。後は、全部セリアが頑張ったこと……こんなのでは、怒られても無理はないよね。
「……あっ……ごめんなさい。あたし、あなたを責めるつもりは……その……」
「わかってるよ。大切な人が傷つけられると、感情的になるものさ。僕も経験が……って、とりあえずセリアを部屋に運んでもいいかな?」
「もちろんです! あっ、あたしの方で、湯浴みとお召し物の準備をしておきますね!」
「それはとても助かる。湯浴みのお湯は火傷に対して効能があるものでお願いできるか?」
「お任せをっ!」
リズ嬢を筆頭に、使用人達はやる気満々といった様子で、準備に取り掛かり始めてくれた。その間に、僕はセリアをお姫様だっこをしたまま、自室まで運んで、ベッドにそっと寝かせた。
「これで、ようやく今回の仕事は終わりだね。お疲れ様、セリア。祖国を救ってくれて、ありがとう」
僕は、感謝の気持ちを込めて、セリアにそっと口づけをする。ぐっすり眠っているからか、反応はないけど、こういうのも良いと思う。
ああ、それとあれを忘れるわけにはいかないね。帰って来たらっていう約束を守るために、指のサイズを拝見して……これで良し。少し落ち着いたら、職人の元に持っていこう。
セリア、喜んでくれるだろうか? 少しでも、彼女の幸せって思えられる日々の一ページに加われていることを、切に願うよ。
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