第七十話 聖女の力の正体
「……えっ……?」
突然アルフレッドの体を光が包み込んだことに驚いていると、それ以上に驚くべきことが起きた。
なんと、お父様の魔法でボロボロになったアルフレッドの体が、みるみると元通りになっていき、冷たくなっていた体に、熱が戻っていったのだ。
「あ、アルフレッド!! 起きてくださいませ!!」
「……うぅ……」
一抹の希望にすがるように、アルフレッドに大きな声で呼びかけると、人生を終えたはずのアルフレッドの目が、ゆっくりと開いていった。
「……セリア……? あれ、僕は……そうだ! 君の父親はどうした!? それに、君は無事――」
「アルフレッド!!」
奇跡的に息を吹き返したことが嬉しすぎて、まだ話している途中だというのに、私は勢いよく抱きついた。
ああ、暖かい。固くなりだしていた体が柔らかい。アルフレッドの呼吸も鼓動も聞こえる。本当に助かったんだ……ああ、嬉しすぎて何を言えばいいかわからないわ……!
「ぐすっ……うぇぇぇぇん!! アルフレッドぉぉぉ!! よがっ……よがっだぁぁぁ!!」
「セリア……」
まるで子供のように泣きじゃくる私のことを、アルフレッドは泣き止むまでずっと抱きしめ、優しく背中をさすってくれた。それが、とても嬉しくて……余計に涙が流れてしまった。
――それから、どれだけの時間泣いていただろうか。ようやく落ち着いた私は、真っ赤になっているであろう目をこすりながら、改めてしっかりアルフレッドの無事を確認した。
「本当に、無事ですのね……よかった……私、あなたがいない人生なんて、考えられませんわ」
「それは僕もだよ。しかし、一体何がどうなっているんだい? どう考えても、致命傷と思われる傷が、綺麗さっぱり治っているんだ。いや、治っているというよりは……これは、傷自体がなかったことになっているような感じだよ」
「えっと、私もよくわからないのですが……先程、急によくわからない力が使えるようになったのですわ」
事情を何も知らないアルフレッドに、倒れてからのことを説明をした。
説明をしておいてなんではあるが、この力って一体何なのかしら? 対象を止める力というのはわかるのだけど、それは物体の動きだけでなく、痛みを止めることも出来る。咄嗟に使った力とはいえ、謎が多すぎる。
「なるほど……これは、あくまで仮説だけど……君のその力は、止める力ではなくて、時間を操る力なんじゃないかな?」
「じ、時間??」
「あくまで仮説だけどね。時間を操る魔法なんて、聞いたことがない。でも、僕が倒れていた時の話を聞くと、ありえる話だ」
お父様の魔法を止めたのも、動けなくなったのも、痛みを止めていたのも、時間を操っていたから……? アルフレッドが治ったのも、治癒ではなくて、傷つく前の体に戻したから?
……そんな無茶苦茶な魔法なんて、本当にあり得るの? 魔法自体が、人知を超えた力なのはわかっているが、限度というものがある。
「よく考えてごらん。君は、最初からその素質を持っていたじゃないか」
「素質……まさか!」
「ああ。君の予知の魔法は、この時間を操る魔法の一環なんじゃないかな? 時間を操って未来を見ていた……そう考えると、しっくりくるよ」
言われてみると、それがもし正しいとするなら、今まで私が未来を予知ができていたのか、説明がつくわ。
「とはいっても、これは仮説だからね。あまりにも未知な魔法すぎて、真実はわからない。とにかくわかることは、君のその力のおかげで、僕は助かったということだ。本当にありがとう」
「私の方こそ、お礼をお伝えしなくてはなりませんわ。あなたが記録をたくさんの場所に拡散してくれたおかげで、お父様はどう足掻いても戻れない状況に追い込まれましたわ」
アルフレッドにお礼を伝えてから、何度も浴びせた拳とビンタの衝撃で気を失っているお父様を見つめる。口から泡を吹いて倒れているその姿は、あまりにも情けない。
「とにかく、無事に終わってよかった。さて、これからどうするか……」
「国王様ー!! 大変ですー!!」
倒れたお父様をどうすればいいか考えていると、一人の兵士が声を荒げながら走ってきた。
ま、まずい……この状況を見られたら、なんて言い訳をすればいいかわからない。適当に話を逸らして、この場を乗り切らないと。
「なっ……こ、これはいったい……!?」
「えっと……その、何かあったのですか? 随分と焦っているようですが……」
「実は、突然ものすごい数の民達が、一斉に城に押し寄せてきているのです! 今は何とか兵士が止めておりますが、いつ城門を突破されるかわかりません!」
あまりにもタイミングが良すぎる。おそらく、アルフレッドが飛ばした記録を見て、我慢の限界に達した民達が攻め込んできたのね。
このままでは、大きな騒ぎになってしまい、犠牲者が出てしまうかもしれない。それに、もう全てが終わったのだから、何の罪もない民が怒る必要もない。
「このままでは、大騒動になってしまう……なんとかして、彼らを止めませんと! 私、行ってきます!」
「いや、君が出ていくのは危険すぎる。怒りで熱くなった民達が、どんな暴挙をするかわからないんだよ? 彼らに気づかれないうちに、城を離れた方が良い」
「それはそうかもしれませんが、膨れに膨れ上がった感情を静めるには、普通の人では荷が重すぎると思いますの。それに……これでも私は、カルネシアラ国の王女であり、聖女ですから。その責任を果たさなければなりません」
私は既に、国を出てソリアン国の人間になった。だからカルネシアラ国のことなんてどうでもいい……そんな言い訳をすることも出来るかもしれないが、私の中にある正義感が、それを絶対に許さなかった。
「まったく、僕の未来の妻は、本当に強い人だ。わかった、僕も一緒に行って、陰から見守っているよ。もし何かあったとしても、また君のことを全力で守るから、安心して行くといい」
「とっても心強いですが、また体を張るような無茶はしないでくださいませ」
「あれは、なんていうか……セリアを守らなくちゃって思って、魔法よりも体が先に動いちゃってね……とにかく、次は気をつけるよ」
「申し訳ございませんが、案内していただけますか? ああ、一緒にお父様も連れて来てもらえますと、とても助かりますわ」
「その、国王様に、一体何が……? それに、セリア様のその傷や、そちらの男性は……??」
「それも後程。今は、目の前の問題を解決しなければなりませんわ」
「しかし、あなた様も国王様も、お怪我をされているご様子。急ぎ、治療を受けた方がよろしいかと……」
「ご心配痛み入りますわ。ですが、彼らを止めるためには、私もお父様も必要不可欠なのです」
「は、はぁ……わかりました。こちらです」
状況を飲み込めていなさそうな彼は、私を騒ぎの場所に案内してくれた。
この城門の向こうで、多くの人が怒りの炎で身を焦がし、王家を滅茶苦茶にしようとしているのね。
「…………」
私、震えている? 何を弱気になっているのよ。このまま逃げだしたら、誰が彼らに真実を伝えるの? 王族として、聖女として、説明と謝罪という責任から、逃げてはいけないわ。
「セリア」
「アルフレッド……」
小刻みに震える手を、アルフレッドの手がそっと握ってくれた。それだけで、私の不安は一気にやわらぎ、手の温もりや、柔らかさを堪能する余裕まで生まれた。
「ありがとうございます、アルフレッド。では……行ってまいります!」
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