第六十九話 溜まりに溜まった鬱憤を
「なにこれ……眩しくて、目が開けていられない……!」
絶体絶命のこの状況で、視界まで奪われてしまったら、本格的に成す術がないというのに、反射的に目を閉じてしまった。
今度こそ、本当に破滅の未来が訪れてしまったのか? そう思ってもおかしくない状況だというのに、またしても私の体には、一切の痛みが感じられない。
「……これは……どうなっているの……?」
再びゆっくりと目を開くと、そこでは私の体を貫く直前のところで、真っ黒な鋭い針が止まっていた。まるで、私の周りの時間が止まってしまったかのように、ピクリとも動かない。
「どうなっている? 貴様、何をした!?」
お父様の動揺している様子からして、自分で魔法を止めたわけではなさそうだ。アルフレッドが何か出来るとも思えないし……そうなると、私の先程の光が?
「よくわからないけど……ふふっ、形勢は逆転したようですわね! さあ、覚悟しなさい!」
「一度防いだからって、勝ったと思うのは早計ではないか?」
先程のとは比べ物にならないほどの魔法陣を描き、四方八方から私を攻撃してくるが、再び私の体から発せられた光が、針の動きが停止した。
やっぱり、私に何かの力が目覚めて、お父様の攻撃を止めているんだ。これなら、この絶体絶命の危機を乗り越えられるどころか、勝利を掴み取れるわ!
「ちっ……何の力に目覚めたかは知らんが、今度こそ終わりだ!」
「無駄ですわよ!」
何度やったって、結果は何も変わらない。ただ魔法が私に当たる直前に止まり、お父様の焦りを生み出しただけだった。
「どうしてワシの魔法が止められる!? その力は一体なんだ!?」
「自分のとっておきの切り札を、嬉々として相手に教える人間がどこにいると仰るの? 私のこの力を打ち破ることは出来ませんわ! 素直に投降しなさい!」
すでに無駄だとわかっているはずなのに、お父様は何度も魔法を使い、私に止められるを繰り返す。その表情から、既に余裕が無くなっているのが見て取れた。
「あらあら、随分と必死ですこと。お得意の洗脳魔法で、私を好きに操ればよろしいのではありませんか?」
「くっ……!」
散々言われたい放題だった仕返しと言わんばかりに、故郷を出る前の時のように、嫌味たっぷりな言葉を投げかけると、お父様は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「そうですわよね、出来ませんわよね。お父様が洗脳する時は、いつも対象の相手の頭に触っている……それが出来ない今、私を洗脳することは不可能でしょう?」
相手の魔法の手の内を知っているということが、私にとって大きすぎるアドバンテージになっている。仮に触らないで魔法をかけようとしても、その前に私の新しい力で、止めてしまえばいい。
「これでも、一応血の繋がりはありますゆえに、もう一度だけ通告いたします。投降なさい!」
「貴様の言うことなど、誰が聞くものか! この場では辛酸を舐めさせられても、次は必ず貴様に復讐をしてやる!」
「あら、いやですわお父様。次があるだなんて、本気で思っておりますの? もし本気だと仰るなら、お父様はとっても愉快な方ですわ」
私は、逃げようとするお父様に新しい力を使うと、お父様はまるで石の様にその場で固まり、無防備な状態となっていた。
「くそっ、この魔法は直接使うこともできるのか!?」
必死の形相で動こうとしても、魔法を使おうとしても、お父様の体はピクリとも反応しない。その間に、私は悠然とした歩みで、お父様の前までやってきた。
「お父様。私……あなた達に一度復讐をしましたが、あれでは満足できておりませんでした。それが、今ようやく果たされると思うと……体が高ぶって仕方ありませんの」
「や、やめろ……やめてくれ……ワシが悪かったから、命だけは……!」
「ふふ、ご安心なさって。この場で命なんて奪ったら、この先あなたにさらなる屈辱を与えられませんもの」
あら、とりあえずこの場は生きられるとわかった途端に、お父様の表情に少しだけ安堵が見えているわね。
確かに死ななければ、まだ逆転の一手が残るかもしれないが、そんな奇跡が、本当にあると思っているのだろうか。
「溜まりに溜まった鬱憤は、この場で晴らさないと気が済みませんわ」
私は、腕を大きく振り上げて……お父様の顔面に、ビンタをお見舞いした。
こんな暴力行為、淑女としてあるまじき行為なのは重々承知ではあるが、そんなのは関係ない。今まで散々やられた仕返しをしないと、私の全身を焦がす憤怒の炎は収まらない。
「は……はははっ! なんだ、そのひ弱な攻撃は? まるで虫に刺されたかのようだぞ? いや、それ以下であるな!」
つい数十秒前は、国王とは思えないくらい、情けない命乞いをしていたというのに、急に強気になってきたわね。落ち込んだり盛り上がったり、忙しい人間だこと。
「それは甚だ遺憾ですわね。では……一度でダメなら、何度でもお見舞いして差し上げますわ!!」
再び全力を込めたビンタを放つが、何度やってもお父様は眉一つ動かさない。
……でも、これでいい。これは、全て私の作戦なのだから。
「はぁ……はぁ……」
興奮して疲れや痛みをあまり感じなくなっているが、さすがに何度もすると疲れてくる。両手もビリビリしすぎて、感覚が無くなってきた。
「散々大口をたたいておいて、もう終わりか。その生意気な口を聞く前に、少しでも体を鍛えておくべきだったな」
「でしたら、お父様はもう少し状況判断能力を鍛えるべきでしたわね。私が、なんの意味もなく、ただ殴っているとお思いで?」
「何が言いたい?」
「お父様がどう思っているかは存じませんが、私のこの力は止める力。それを使い、あなたが感じるはずの痛みを、全て止めておりました」
「痛みを……止める?」
「まだわからないのですか? あくまで止めていただけであって、痛みは消えたわけではありませんわ。私のひ弱な攻撃でも、何十発も殴られた痛みが襲ってきたら……どうなるのかしら?」
「なっ……や、やめろ!!」
そこまで伝えてようやく理解したのか、お父様は目をカッと見開きながら、私へ制止を促すが、そんなことに耳を傾けるはずもなく――私は最後にかけた力を解除した。
「ぐおぉぉぉぉぉ!?!?」
何十発も殴った痛みが、一瞬にしてお父様に襲い掛かる。いくら一発の威力が貧弱でも、たくさん積み重ねれば、相当な衝撃になるみたいだ。
実際に、お父様は情けない悲鳴を上げながら、気を失ってしまっていた。
「ふふっ……ざまぁみなさい! やりましたわアルフレッド! ついにお父様……を……」
ついいつもの様に、アルフレッドに声をかけながら振り返ると、そこにあったのは、変わり果てたアルフレッドの姿だった。
「……ああ、そうだ……アルフレッドは、もう……」
お父様が倒れたからなのだろうか。それとも、改めて見たくない現実を突き付けられたからだろうか。私は、さっきまでの怒りなどすっかり忘れて、フラフラとした足取りで、アルフレッドの元に歩み寄った。
先程よりも冷たくなったアルフレッドを前にしたら、自然と涙が溢れ、言いようのない喪失感に襲われた。
確かに、私はお父様の悪事と食い止めて、多くの民を救った。でも……私は、この世界で一番愛する人を、目の前で失ってしまったんだ……。
「ぐすっ……アルフレッド……私、あなたがいなくなったら……生きていける自信がありませんわ……私、どうすればいいの……?」
私の目から零れた大粒の涙が、アルフレッドの顔にぽたりと落ちた。すると、アルフレッドの体を、私を包み込んでいたのと同じ光が包み込んだ――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ⭐︎による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




