第六十八話 奪われた命
「…………」
死にたくない。でも、この圧倒的なピンチを乗り越える術は、私にはない。だから、迫りくる死から目を逸らすために、咄嗟に目を瞑った。
それから、どれだけの時間が経ったのだろうか。いくら経っても、漆黒の棘が私を貫く感覚も、痛みも感じない。
もしかして、痛みなんて感じる前に、私は殺されてしまったのだろうか。とにかく、早く現状を確認しないと……そう思い、恐る恐る目を開けると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
「ぐっ……うっ……」
「あ、アルフレッド……?」
そう……そこには、元の大きさに戻ったアルフレッドが、その身を全て使って私を棘から庇い、体中を貫かれている姿があった。
「だ、大丈夫かい……?」
「私のことよりも、あなたの方が……!」
「ははっ、僕は大丈夫さ。君をいじめる彼への怒りで……体がほてっていたからね。風通しが良くなって、冷静になれるよ……」
絶対に、想像を絶する痛みに襲われているというのに、アルフレッドは私に変に心配をかけないように軽口を叩きながら、私の頭を少し乱暴に撫でた。
「それに、僕は嬉しいんだ……破滅の未来から……文字通り、君を守る盾になれたことが……未来は、変えることが出来るんだって……」
「あ、アルフレッド……あなたって人は……!」
「やはり協力者がいたか。セリアのような出来損ないに、あの部屋を見つけることも、帳簿の魔法を突破することも出来るはずがないからな。その協力者が、まさかアルフレッド王子とは……ふんっ、この場でソリアン国の王家を始末できるのも、ソリアン国を亡ぼす理由を得られたのも、大きな収穫だな。やはり、神は私の味方だったか」
「……勝ちを確信しているところに、申し訳ないが……僕には、とっておきの切り札があってね……今、それをお見せしよう」
そう言うと、アルフレッドはゆっくりと右手を天に掲げる。すると、私達の頭上に巨大な一つの魔法陣が出現し、たくさんの光を天に向かって飛ばした。
「貴様、何をした?」
「おや……先程までの余裕は、どこに行ったんだい? ご安心を、あなたへ攻撃したわけではありません。今の光は……僕達がせっせと集めた情報……あなたが、民を巻き込んで……戦争をしようとしているという証拠を……無造作に放出しただけですよ」
「なっ……!? 記録の放出だと……!?」
「あなたは、僕達が記録を大事に抱えて……来るべき時に使うと思っていたようですが……こういう使い方もあるのですよ。ここまでセリアを追い詰めて、油断しましたね? ああ……これは国内だけではなく、隣国にも飛ばしましたので……いくら民を洗脳したって、もうどうしようもありませんよ……!」
「お、おのれぇ……余計なことを!!」
先程までの余裕たっぷりな態度から一転して、焦りに満ちた表情を浮かべながら、先程の黒い魔法陣を使い、アルフレッドをさらに串刺しにする。
それだけにとどまらず、更にアルフレッドの体に風穴を開けるために、体内からも棘を出して、アルフレッドの命を刈り取ってきた。
「あ、アルフレッド!!」
「大丈夫だよ、セリア。こんなもの……君が長年受けた苦しみに比べれば、かすり傷にも満たない……だから、君は……安心して、ぼくの……うしろ、に……」
その言葉を最後に、アルフレッドはまるで操り人形の糸がプツリと切れたように、その場に倒れた。
「あ、アルフレッド……? どうしたのですか? へ、返事をしてくださいませ……」
アルフレッドの体を揺すっても、抱き上げても、アルフレッドは体をだらんとするだけで、返事をしてくれない。代わりに体中から、真っ赤な流血がアルフレッドの温もりと共に、とめどなく流れだしていく。
「アルフレッド! 起きてください! 一緒に必ず帰ると約束したではありませんか! 起きてください! 起きて……起きてよぉ!!」
何度呼びかけても、何度体を揺すっても、反応は返ってこない。それでも諦めずに呼び掛けていたら、ふいに私の手が、アルフレッドの胸を触ってしまった。
「……うそ……心臓が、動いて……い、ない……?」
私の手に感じなければいけない鼓動が、なにも伝わってこない。それは、アルフレッドが私の目の前で、確かにその一生に幕を下ろしたという、確かな証明だった。
「あ、あぁ……いや、うそ……」
私のせいで、愛する人が目の前で命を落としたショックで、目の前が真っ暗になっていく中、私の絶望を嘲笑う声が聞こえてきた。
「くくっ……ふはははははっ!! いいぞ、その表情! そうか、貴様がワシを陥れた時は、このような感情だったのか! ああ、この胸がスッとする感覚……憎い相手が絶望に沈む様は、なんて痛快なのだ!!」
「うるさい……うるさいうるさいうるさい!! 絶対に許さない……私の人生を滅茶苦茶にして、大切な人達を奪ったあなたを、絶対に許さない!! 殺してやる……!!」
「随分と威勢が良いのは結構だが、聖女の力以外になんの才能もないうえに、立っているのがやっとなくらいボロボロな貴様に、一体何ができるというのだ? ワシには全くわからんから、ぜひご教授をお願いしたいものだな?」
お父様は、笑いながら再び同じ魔法を使い、私の周りに魔法陣を展開する。
憎たらしい言動を今すぐに黙らせたいけど……悔しいことに、あの男の言う通りだ。無傷だったとしても、私では逆立ちをしたって、お父様に勝つことはできない。
悔しい……私に、もっと力があれば……大切な人を守れたのに! 大切な人を守れるのに! 私に……もっと力があれば……!
「そうだ、面白いことを教えてやろう。今ワシの中にある魔力をもってすれば、カルネシアラ国以外の国にだって、洗脳魔法を施せるのだよ! さすがに完全に洗脳することは不可能ではあるが……その男が放った記録を、全てなかったことにするくらいなら可能だ!」
「そ、そんな……」
「今の情報は、冥途の土産に持っていくがいい。では、愚かな娘よ……さらばだ!」
「うっ……うわぁぁぁぁぁ!!」
愛する人を奪っていった憎しみ、ソリアン国で待つ大切な人達や、両国の何の罪もない民を守りたいという気持ちが、咆哮となって辺りに響き渡ると同時に、私の体が真っ白な光に包まれた。
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