第六十六話 お前は偽物だ!
■ジェシカ視点■
「ああもう、イライラしますわ……!」
以前のような生活を奪われたどころか、忌々しいセリアが本当の聖女と公表するとお父様が決めてから、私は毎日の様に苛立ちを抑えきれないでいた。
その苛立ちは想像を絶するものだった。耐えきれなくなると周りの物や人間を手当たり次第に傷つけ、それでも抑えきれない時は、苛立ちを少しでも紛らわせるために、自傷行為に走るようになっていった。
「ああ、あの輝いていた私の生活をまた送りたい……こんな生活、もう耐えきれませんわ……」
こうなったら、もう一度お父様に直談判をしにいこう。お母様を犠牲にしてまで、私達の生活を取り戻そうとする優しいお父様なら、お願いすれば考え直してくれるはず。
「そうですわ。以前私のお願いを断ったのは、たまたま機嫌が悪かったのでしょう。今度こそ、きっと……」
私はお父様がいると思われる私室に向かうと、ちょうどお父様が立ち上がるところだった。
「ジェシカか。ノックくらいちゃんとしろ。まあいい、お前に伝えておくべきことがあってな」
「まあ、そうでしたの? 私は、お父様にお願いがあって参りましたの」
「願い? 言っておくが、ワシの立てた計画は変えるつもりは無い。お前はワシの言う通りにしていればいいのだ」
私がお願いをする前に、完全に先手を打たれてしまったが、それでも私はめげずにお願いを伝える。だって、このままでは私が聖女でなくなってしまい、愚民共に崇拝されることがなくなってしまう。
「そこをなんとか! せめて、全てが落ち着いたら私が聖女なんだと、愚民共に思い込ませるようにしてくださいまし!」
「約束できんな。抽出した魔力量は確かに大きいが、この一件でどれだけ使うかは予想も出来ん」
私のよく知るお父様だったら、私がどんなお願いをしても、必ず叶えてくれたのに。何をお願いしても、笑って引き受けてくれたのに。こんなの、私が知っているお父様じゃない!
「ああ、やっとわかりましたわ! あなたは、お父様の偽物ですのね!」
「……はぁ、お前は何を言っている。ワシの娘は、そこまで愚かな考えを持つような人間ではないはずだが」
「黙れ黙れ! 偽物風情が、偉そうに私のことをバカにするな! 今すぐお父様の居場所を吐きなさい! さもなければ……ここで死ぬことになりますわ!」
「ストレスで錯乱したのか? それとも精神が壊れたのか? いずれにせよ……愛する娘でも、ワシに歯向かうと言うなら……」
「ごちゃごちゃうるさいですわ!!」
こんな偽物と、これ以上話す言葉なんて無い。さっさとお父様の居場所を吐かせて、私が幸せになるようにしてもらわないと。
そう思った私は、魔法で右手に灼熱の業火の剣を、左手に万物を引き裂く風の刃を作りながら、お父様に向かっていった。
「ワシに歯向かうだけでなく、刃まで向けるとは。もはや看過できんな」
「御託は不要! はぁぁぁぁぁ!!」
私の振り上げた風の刃は、お父様の偽物の胸を確かに貫いた。これでも私に逆らうというのなら、この業火の剣で体を消し炭にして、や……る……?
「ど、どうして……確かに貫いたはずなのに、血が出ておりませんの?」
私の風の刃が深々と突き刺さった胸から血が出ていない所か、お父様は一切痛がる素振りを見せない。
「よく見るがいい」
「え? あっ……どうして?」
確かに貫いたと思ったのに、よく確認してみたら、刃はお父様の体を貫く前に、影も形も無くなっていた。炎の剣も、同様に消えてしまっていた。
「お前はワシによく似ている。だから、自分に損が出る今回の一件で、いつかはワシに歯向かう日が来るのは、容易に想像できていた。想像ができた以上、対策を打たないバカはおるまい」
「一体何をしたというの!?」
「ワシに歯向かって魔法を使ったら、自然と己の手で魔法を消すように、事前に洗脳しておいたのだよ」
「洗脳ですって!? い、一体いつそんなことをされたというの!?」
「お前が母を見つけた時に、ワシは魔法で二つ洗脳をかけた。一つは、お前が母を犠牲にしても気にかけないように。もう一つが、今お前に言ったことだ」
あの時に、すでに私は魔法にかかっていた? 嘘よ、あの時はまだ、お父様は力を取り戻していないはずなのに!
「そんなに呆然としていていいのか?」
「きゃあ!? い、いや……離しなさい! こんなことをしたって、無駄なのだわ!」
「無駄ではない。もうお前は詰んでいるのだよ。ワシに触れられればどうなるかは、よくわかっているだろう?」
「あ、頭が割れる……! いやぁ、やめて……! お父様、許してぇ……!!」
「先に刃を向けたのは、お前の方だろう? これは親として、悪さをした子供に対する罰であり、教育なのだよ。さあ、もう二度とワシに逆らえないように、徹底的に教育してやろう」
「が、あぁぁぁぁ!! 痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!」
「子供というのは、痛い目を見て学ぶものだ。本来はワシの魔法を使う際に、痛みを与える必要は無いのだが、これも親心だ。感謝するがいい」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
あまりにも激痛すぎて、痛みから逃れるために気を失っても、強引に覚醒をさせられる。それがどれだけ続いたのか……ある時から、痛みが一切感じなくなり、力という力が体から抜けていくのを感じた。
……いや、違う。力だけではない。私という存在も、無くなっている。まるで真っ白な絵の具で、私の存在なんて無かったかのように、真っ白に塗られていくような感覚。
嫌だ。死にたくない。私は私を失いたくない。誰か、助けて……お義母様、セリア……助けて……。
助けて……。
たすけて……。
タ、ケテ……。
タ……。
「ふん、まったく手間取らせおって。ワシの娘なのだから、もっと賢い子かと思っていたが……やはり全ての人間は愚かで、ワシが導かなければならん存在ということか」
誰かの声が聞こえる。何を言っているのだろうか。私にはわからない。わからないけど……どうでもいい。私に必要なのは、今までのような生活と、私を崇め奉る民だけ。
「む? これは……帳簿にかけた魔力に反応? ふん、あの愚か者め……やはりワシに歯向かうために帰ってきておったのか。またしても、情報を探ってワシを追い詰めるつもりだろうが……そうはさせんぞ。ジェシカよ、我々の生活を脅かすものを排除しろ」
排除……私達の生活? わからないけど……なぜだろう。その言葉を聞くと、体を焼き尽くす勢いで、怒りの炎が沸き上がってくる。
そう、排除。排除。排除。邪魔をする者は……悉く排除しなければ。
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