第六十四話 大失態
予知でわかっていたとはいえ、もしかしたら違う形で不幸が来る可能性があったのに、このままでは、そのまま予知通りになってしまいそうだ。
でも、予知で見た以上、対策は一応講じてある。単純かつ、魔法とか使わないから気づかれない、とっておきの隠れ場所があるの。
「アルフレッド、記録の方は?」
「あらかた完了しているよ」
「では、こちらに! 声は出さないように!」
私は、読んでいた帳簿を元の場所に戻してから、アルフレッドを抱きかかえると、そのままで入口の扉の横に待機する。
それから間もなく、扉がゆっくりと開き、お父様が静かに部屋に入ってきた。
「ふっ……愛しい我が妻よ。ワシのため、国のための準備は出来たかね」
何が愛しい妻よ。自分の欲望のために、自分で手にかけておいて! お義母様に同情する気は全く無い私でも、それはどうかと思うわ!
「おお、ほとんどお前の体から魔力を抽出出来たようだな。死んでもなお、抽出できる魔力があるとは、いやはや恐ろしいものだ。後は、これをワシの体になじむようにすれば、ワシは完全なる復活を果たせるというわけだ」
お父様は、私の存在に一切気づかずに、独り言を呑気にペラペラと話している。
ちなみに私とアルフレッドは、扉の裏に隠れている。内開きの扉だから、事前にここにいれば、お父様には気づかれない。相当重いから、わざわざ扉の裏を確認するとも思えないしね。
我ながら、良い隠れ場所を見つけたと思う。これも、予知が無ければ事前に考え付かなかったでしょうね。
「愛しの妻よ。我ら王家に反発する民達が、お前の力で全てワシの手中に納まるのだ。きっとお前も、ワシの力になれて、大いに喜んでいるだろう?」
くぐもった笑い声を漏らすお父様に反応するように、なにかがカタカタと震えるような音と共に、魔法陣が急に光り始めた。
隠れている私が見える場所の魔法陣の全てが光っているのだから、おそらく部屋中の魔法陣が光っていると思う。この目で確認できないから、何とも言えないところだけど。
『ア、アア……クル、シイ……アナタ……ド、シテ……コン……ナ……』
なにこれ、頭の中に声が響いている……それも、まるでこの世のものではないと思えるくらい、重くて嫌な気持ちになる声だ。きっと、物語に出てくる悪魔やオバケなんかは、こんな声なのだろう。
……待って、オバケ? それに、今苦しいって……あなたって……もしかしてこの声って!?
「ほう、体はとうに朽ちているが、この魔法の力で意識は残っているのだな。はははっ、事前にわかっていたこととはいえ、なんとも恐ろしい魔法であるな」
『イタイ……クルシイ……』
「それは可哀想に。確か、この魔法の対象にされた人間は、永遠の苦しみを味わうのだったな。なんて哀れなことだ。だが、偉大なワシのためならば、それは苦しみではなく、お前に永遠に刻みつけられる栄誉なのだよ」
『ユル、サナ……ゼッタイ、ユ……サ……コロ……』
「威勢が良い女は嫌いではないが、既に実態も持たないお前に、一体何ができる? 毎晩、ワシの枕元に化けて出てくるか? それともワシに毎晩悪夢を見せるか? 見た目と魔力しか取り柄が無いお前には、その程度がお似合いだろうな」
……最低ね。仮にも自分が愛していた女性に対して、そんな言い方ってある? もし私がやむを得ない状況で、同じ様なことをアルフレッドに言えってなったら、嫌すぎて舌を噛み切る自信があるわ。
そんなことを考えていたら、無意識にアルフレッドを抱き抱える手に力が入っていた。
「ククッ……予知ができる駒も、ワシの魔力も戻ってきた。戦争の準備も着々と進んでいる。戦争も、我々とソリアン国の友好の証でもあるセリアを深く傷つけたという免罪符もある以上、他国から攻め立てられる心配もない。ああ、全ては順調だ。あとは哀れで愚かなソリアン国の連中に滅びてもらうだけだ」
「っ……!!」
アルフレッドの怒りに満ちた小さな声が、我慢しきれずに漏れ出たのを、私は聞き逃さなかった。
自分が生まれた故郷、自分が愛する民が、あんな人間に滅ぼされようとしている。そんなの、誰だってアルフレッドみたいに怒るわ。私だって、自分の親に対してなのに、擁護をしようと思わないくらい怒っている。
そんな私の怒りを冷やす……いや、怒りどころか、体中が冷えるような出来事が、突然私の身に襲ってきた。厳密に言うと、私の鼻に。
「は……は……くちっ」
「む? 誰だ!?」
突然鼻がムズムズしてきてしまい、耐えきれなくなった私は、極力小さな声ではあったものの、それでもお父様に聞こえるくらいの音のくしゃみをしてしまった。
ま、マズい……気づかれた!? ど、どうしてこんなタイミングでくしゃみが出るの!? 私のバカバカバカ!! 早くなんとかしないと、予知で見た通りになってしまう! やっぱり、不幸は覆らないの!?
とにかく、このまま隠れていたって見つかるし、だからといって逃げだしたところで、簡単に捕まるのが関の山だ。
そうなると、アルフレッドに元の姿に戻ってもらって、なんとかしてもらう? いや、それも確実ではないし、もしお父様が無事にここを出てしまったら、ソリアン国がカルネシアラ国に侵入したとして、大事になってしまう。
「…………」
こうなったら、もう腹をくくるしかない。アルフレッドだけでも何とか逃がして、手に入れた情報を持ち帰ってもらおう。そうすれば、きっとアルフレッドやフェルト殿下たちがなんとかしてくれるだろうし、アルフレッドも傷つかずに済む。
捕まったら、一体何をされるのか……考えるだけで恐ろしいが、アルフレッドやソリアン国の方々が傷つく方が、もっと嫌だ。覚悟を決めなさい、私!
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