第六十三話 ついに見つけた!
有力な情報を手に入れてからさらに数日後。私はお城の地下室の掃除を命じられて嫌がっている使用人がいるという情報を手に入れて、その方から代わりに掃除をすると伝えることで、無事に怪しまれずに地下にやってくることが出来た。
地下室と言っても、その部屋の数はそれなりにあるが、予知に出てきた私が、お姉様の部屋と言っていたから、例のお姉様の部屋へとやってきた。
「な、なんだいこの部屋は? 悪趣味な道具が色々と置かれているが……」
「簡単にお伝えするなら、お姉様のスイートルームですわ」
「……ああ、なるほど。大体察した。人様の家族を悪く言う趣味はないけど……もう少し趣味は良いものにした方が良いと思うね」
お姉様のスイートルームを初めて見たアルフレッドは、眉間にシワを寄せていた。
大丈夫よ、アルフレッド。たぶんこの部屋を見た方で、大体はあなたと同じ様な感想を持つと思うもの。
……それにしても、随分と埃をかぶっているわね。さすがにあんなことがあった後では、お姉様もここで楽しむ余裕はなかったということかしら。ふふ、良い気味だわ。
「アルフレッド、この部屋から何か感じますか?」
「んー……特に何も感じないかな……」
「そうですか……予知に出てきた私が、地下室のお姉様の部屋のことを話していたので、ここに手がかりがあると思ったのですが……とりあえず、お掃除をしながら探しましょう」
私はこつこつとお掃除を進めていきながら、適宜アルフレッドに確認をするが、中々お目当ての部屋は見つけられずにいた。
ここにも手がかりはないのか。諦めと焦りが入り乱れていたその時、突然アルフレッドが、私の体をトントンと叩いた。
「どうかしましたか?」
「何か変なものを見つけたんだ」
「もしかして、探していた例の部屋ですか!?」
「いや、そうじゃない。わずかではあるが、魔力の残滓が残っているんだ」
魔力の残滓って、確か魔法を使ったり、魔力を帯びた何かが置かれたり通ったりすると、残るものだったわね。こんな人気がない場所で、残滓だけが残っているなんて……確かに変だ。
「その場所はどこですか?」
「この壁だよ」
私の服の中から出てきたアルフレッドの示す先にあるのは、お姉様の部屋の近くにある、ただの壁だった。
こんな場所に残滓があるなんて、やっぱり変だ。ここに、何かがあるに違いない!
「なにか……なにかきっとあるはず……」
薄暗い中、必死に壁を調べていると、うっすらとだけど他の部分と違う色の壁を発見した。
「もしかして、これが……!」
私は、急いで色が違う壁に触れてみるが、なにも起こらなかった。
おかしい、絶対にこれだと思ったのに……ただの早とちり? うぅ……自分が勝手に早とちりしただけとはいえ、これは精神的に来るものがあるわね……。
「何か見つけたのかい?」
「一部だけ、色が違う壁があったので、これだと思って触ってみたのですが、なにも起こらなくて……」
「僕も触っていいかな?」
「いいですけど、見た限りでは何もございませんわよ?」
「やってみないとわからないだろう?」
そうね、アルフレッドの言う通りだわ。もしかしたら、私が気づいていないだけで、アルフレッドなら気づける何かがあるかもしれない。
「これで届きますか?」
「ああ、十分だよ。どれどれ……確かに色が違うね……触っても反応は無し、と……それなら……!」
アルフレッドは、小さな両手の先に、手と同じくらいの小さな魔法陣を作り、壁に触れた。
すると、色が違う部分に全く違う魔法陣が出現するとほぼ同時に、壁の一部が無くなり、隠し通路が現れた。
「あっ……もしかして、これが……!?」
「きっとそうだ! 早く中に……の前に、一応調べておこう」
そう言うと、アルフレッドは再び魔法陣を展開して、せり上がった壁のすぐ側に手をついた。
「あの、一体なのをされているのでしょう?」
「この通路に、なにか罠が無いかの確認だよ。うん、とりあえずはなさそうだ」
「さすがですわ、アルフレッド。どんな時でも、冷静でいられるのは素晴らしいと思います」
「ありがとう。君のことになると周りが見えなくなるけど、それ以外なら余裕さ」
私が特別扱いをされて嬉しいような、恥ずかしいような……複雑な心境と一緒に、アルフレッドを抱えながら、隠し通路に入ると、さらに地下へと続く、螺旋状の階段を見つけた。
「セリア、足元が悪そうだから気をつけて」
「はい。アルフレッドも、落ちないようにしっかり捕まっててくださいね……あっ!」
少し進んだら、先程の壁が再び現れて、私達の退路を完全に絶ってしまった。
これでは、目的の物が見つけられたとしても、帰ることが出来ない……!
「落ち着いて。ここにも同じ色の壁と残滓がある。おそらく、誰かが通ると自動的に道を塞ぐ構造になっているのだろう」
「なるほど、安心しましたわ。では、改めて進みましょう」
お父様に見つからないうちに、早くこの先の部屋を確認したいのだけど、壁にかけられている松明の数が少ない影響で、とても薄暗くて、急いで行ける状態ではない。
こんなところで怪我をしてしまいました、なんて笑い話にもならないから、逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと進んで行こう。
「あっ、階段はここで終わりのようですわね」
「それに、扉もあるね。気をつけて進んでみよう」
重々しい鉄の扉を、体全体で押してみると、鈍い音を立てながら扉が開いた。すると、圧巻の光景と、形容しがたい異臭が鼻を容赦なく襲ってきた。
「うっ……なんて臭い……」
「確かに酷いね。し、しまった……は、鼻に手が届かない……!」
「大丈夫、私が塞いであげますわ」
アルフレッドを抱きかかえ、空いている手の指でアルフレッドの鼻を抑えながら、部屋の確認を行う。
壁や天井に描かれた、大小様々でものすごい数の魔法陣に、部屋の隅には小さなテーブルとに本棚。そして、一番大きな魔法陣の中心にある、目を背けたくなるもの……間違いない、ここが私が予知で見た場所だわ!
「アルフレッド、ここが私が予知で見た場所ですわ!」
「本当かい!? よかった、なんとか見つけることが出来たね!」
正直、もしかしたら間に合わないのではないか、見つけられないのではないかと、不安になっていたけど、無事に見つけられて本当に良かった。
とはいっても、これはあくまで目的を達成するための過程でしかない。過度に喜んでいる場合ではないわね。
「これは……どうやら、白骨化した人のようだね」
「このご遺体のものと思われる服や、たくさんのアクセサリー……やはり、このご遺体は、お義母様ですわ。本当に亡くなっていたのね……それと、この大量の魔法陣は……もしかして?」
「ああ。これが、魔力を摘出する魔法陣だよ。僕も現物を見るのは初めてだが、書物で読んだものと同じ魔法陣の回路だ」
「それでは、お義母様は魔力を吸われて……永遠に苦しみ続けるということですか?」
「おそらくは」
そう、そうなのね……いけないわ。散々私のことを虐げてきたお義母様が、愛するお父様の手で永遠に苦しむんだと思うと、思わずざまあみろ! と思ってしまい、顔がにやけてしまう。
いくら事情を知っているとはいえ、こんなのをアルフレッドに見られたら、愛想を尽かされてしまうかもしれない。頑張って耐えるのよ、私!
「魔力の摘出は、もう終わっているのでしょうか?」
「見た限りでは、終わりかけと言ったところだね。ギリギリのところで間に合ったみたいだ」
「なら、この魔法を解除できれば!」
「僕もそう思うが、こんな複雑な回路を解除するなんて芸当は、僕では全力を出しても不可能だ……なんとも不甲斐ない」
「そんな、元気を出してください。アルフレッドは何も悪くありませんわ」
解除できれば一番だったが、それが出来ないなら当初の予定通りに事を進めればいいだけだ。
「とにかく、この部屋の状態の記録を取りましょう。アルフレッド、お願いできますか?」
「任せてくれ」
アルフレッドは、お義母様のご遺体の近くに陣取ると、記録魔法を使ってこの部屋を記録し始める。
……ここで眺めていても仕方がない。私には私のやるべきことがある。
予知では、ここにいる間にお父様に見つかってしまう光景が見えた。それがどのように変わるかわからないが、多かれ少なかれ、不幸な目にあうのは避けられない。
それなら、お父様に見つかるという不幸を変えるために、少しでもこの部屋にいる時間を減らす行動や、万が一お父様が来ても気づかれないようにするための行動を取ろう。
「う~~~ん……! ふう、この扉は本当に重いですわね……これでよしっと。次は他に何か情報が無いかを、手早く調べましょう」
私は、部屋の扉を閉めてから、部屋に置かれていた本を確認すると、それはなんと新しい帳簿だった。
お父様、私に見つけられて面倒なことになったから、こんな場所に移動させていたのね。
「新しい記載は……軒並み戦争に関わるものばかりね」
武器や防具、魔道具の仕入れだったり、貯蔵庫の建築だったり、危なそうな組織と契約して人員の確保をしていたり……私が想像しているよりも、既に準備が進められているようだ。
「帳簿を見る限りでは、これだけでも十分に戦争が出来そうだけど……」
今のお父様がしたいことは戦争ではなく、あくまで自分達に反発している、カルネシアラ国の民を手中に収めること。つまり、戦争は目的達成の過程でしかない。武器を沢山手に入れて戦争を仕掛けても、なんの意味もないということだ。
「これも有効な情報になりそうですわね。アルフレッドにお願いして、これも記録を――」
アルフレッドに進捗を聞こうとした瞬間、とても真剣な表情のアルフレッドと、視線がぶつかった。
「どうかしましたか?」
「なにかが、ここに近付いてきている」
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