第六十一話 リスクを背負っても
「まけ、負けない……私は、絶対に……!!」
四肢をもがれ、灼熱の業火で焼かれ、全てを失った喪失感に苛まれ、頭がおかしくなりそうな怒りに襲われ……ありとあらゆる心身の苦痛に襲われたが、その苦痛はいつの間にか綺麗に収まった。
「っ……はぁ!? ぜえぇ……ぜー……ぜー……ひゅー……ひゅー……」
なんとか解放されたとはいえ、その余波は私の体に残っていて、体中の感覚が凄く変だ。いつものことではあるんだけどね。
「セリア、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫……と言いたいところではありますが、あまり本調子ではないですわね……とはいえ、自分の破滅の予知や、ソリアン国の破滅の予知に比べれば、全然平気ですわ」
今思うと、あの二つの予知の衝撃は、本当に凄まじいものだった。下手したら、その衝撃で精神がおかしくなっていても、なんら不思議ではないくらいだ。
良くも悪くも、幼い頃から虐げられてきた影響で、そういった痛みには強いのかもしれない。
「破滅の未来か……大丈夫だよ。予知で見た不幸は変えられないと言っていたが、前に話してくれた処刑の未来は来るとは思えない。だから、不幸なんて訪れないさ」
アルフレッドの言葉には一理ある。しかし、私の経験上、いくら予知で悪いことを回避した所で、不幸が軽くなることはあっても、無くなることは決して無い。
「油断は出来ませんわ。また前兆があるかもしれませんし、唐突に破滅が襲ってくる可能性も、否定しきれませんもの」
「まあ、それはそうだね。そうだ。その予知では、何が見えたんだい?」
私は深呼吸をして息を整えてから、予知で見えた光景をアルフレッドに話した。
「なるほど……その予知には、色々な手掛かりがあったようだね」
「はい。お義母様は、どこかの部屋で魔力を奪われ、命を落とすのではないかと。既に、手遅れかもしれませんが……」
その場所を見つけて行けば、絶対に情報があるはず。行けば不幸に見舞われるかもしれないが、恐れていては前には進めない。
「大丈夫。その予知には僕がなぜかいなかったようだが、現実では僕が必ず守るよ。とりあえず、少し休んだたら、情報集めに出発しよう」
「休憩は不要ですわ。ここで私が頑張らなかったら、いつ頑張るのって話ですもの」
「さすが僕の未来の妻は、正義感が溢れる勇敢な女性だね」
「み、未来の妻って……」
せっかく気合を入れていたというのに、突然変なことを言わないでほしい。気合よりも煩悩が一瞬で勝ってしまい、肩の力が抜けてしまった。
でも、まあいいか。変に高ぶり過ぎているよりも、少し肩の力を抜いた方が良い時だってある。
まさか、それを伝えるために、わざと……なーんて。アルフレッドのことだから、言いたかったから言っているだけだと思うわ。
――そんなことを考えながら、私は情報集めの旅に出た。
「とにかく、情報を集めないといけませんわね。お城のお手伝いと銘打って、色々と回ってみましょう」
私は、手当たり次第に声をかけて、何かお手伝いができることを無いか聞いて回ると、多くの方が、自分でやりたくないような雑務を押し付けてきた。
昔だったら、そんなことをしたくないと考えていたが、今は何かお仕事をしている方が都合が良い。何もしないでウロウロしていたら、怪しまれてしまうわ。
「よいしょ、よいしょ……こうやってお掃除をするのも、久しぶりですわね」
「この広い城の掃除を、君一人でやるのかい?」
「さすがに私一人では、何日あっても足りませんわ。だから、何人もの使用人が手分けをしてお掃除しておりますの」
「さすがに、そこはうちと一緒だね」
周りに誰もいないのを見計らって、私の服の中に隠れているアルフレッドと会話をしながら、掃除を進める。
あれだけ嫌だった掃除も、好きな人と会話をしながらやると、いつもよりも全然苦痛に感じない。これも、愛のなせる業なのかも……って、さすがにその表現は恥ずかしすぎる。
「窓拭きが終わったら、床の掃除もしませんと。さあ、張り切ってまいりますわよ!」
周りに怪しまれないように、お城のために精一杯頑張っている風を装って掃除をしながら、私は色々な人に声をかけて、情報を集めはじめた。
――ああ、確かに爆薬をたくさん買ったよ。やけに量が多いなと思ったら、鉱山で使いたいんだと言われたよ。
――うちでは薬を大量に。特に持ち運びがしやすく、応急処置がしやすいものを買っていったよ。どこかに遠征でもするのかねぇ?
――うちの剣をたくさん買ったんだ。数が多いからおかしいと思ってね。理由を聞いたら、兵士の武器を新調したいと言われたよ!
――この大砲、凄いでしょう!? これさえあれば、誰でもイチコロですよ! しかし、戦争は終わったのに、どうしてこんな準備をしているのですね?
このような話の他にも、いくつか有力な話を聞いて、それをアルフレッドがこっそり記録してくれた。やはりと言うべきか、どれもこれも戦争の準備としか思えないものばかりだった。
こんなに簡単に取引の話をして良いのかと、一瞬疑問に思ったが、私がここの王族であり、取引相手の娘ということで、教えてくれたのだと思う。
今日ほど、お父様の娘で良かったと思った日はないわね。同じことを思う日は、未来永劫こないでしょうけど。
「ふう、今日一日で色々な話を聞くことが出来ましたわね」
「そうだね。とても順調な滑り出しだと思うよ」
「記録の方は、上手くいっておりますか?」
「当然さ。君が頑張って集めてくれた情報を取り逃すようなヘマはしないさ」
ふふ、さすがはアルフレッド。とても頼りになりますわ。お礼に、夕食もたくさん食べさせてあげないと。
「いくつか情報は集まりましたが、個人的にはもっと情報がほしいですわね。それに、お義母様の居場所もまだ突き止められておりませんし……」
「そうだね。もう少し情報収集をしよう。僕も魔力探知を使って、怪しい場所が無いか探してみるよ」
「そんなことをしたら、気づかれてしまいませんか?」
「大々的にやれば気づかれてしまうだろうから、感知されない程度の規模でやることはできる。とはいえ、ぬいぐるみのハンデに加えて感知のことも考えると、ほとんど役に立たないと思う。見つかるリスクも考えると、やらない方が賢明な可能性もある」
……難しいところね。ただ、あの予知の中で、お父様がとても驚いていたのを考えると、普通に探しても見つからない気がする。
「君はどう思うか、聞きたいんだ」
「私は、やるべきかと。予知で見たお父様の様子は、見つかったことに驚いておりました。おそらく、お父様は誰にも見つからないと踏んでいたからこその、驚きだったのでしょう」
「なるほど、普通にやっては見つからないということだね。特殊な魔法で隠しているのだろうか? もしそうなら、魔法に対する警備もしていそうだが……」
「もしそうだとしても、このまま手をこまねいていたら、大変なことになってしまいますわ。多少のリスクは覚悟しないと」
必ず無事で帰ると約束した手前、危険なことをするのは皆様に申し訳ないが、私達の無事を祈る大切な皆様を助けるためには、行動をしないとならない。
「わかった。なるべく早くに見つけられるように、最善を尽くすよ」
「ありがとうございます。頼りにしておりますわ」
こうして今日も一日無事に終えた私は、明日は進展があるように願いながら、アルフレッドと一緒に汚い寝床に寝転んだ。
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