第五十八話 ご、ごはんがたべられない……
翌朝、久しぶりにとんでもない質素な食事を運ばれてきた私は、こんな食事でも食べられるだけ良いなんて思っていたなぁ……なんて感慨に浸りながら、ほとんど味のしないスープをすくった。
「すまない、セリア。まさか、自分で食事が出来ないとは思ってなかったよ」
「明らかに腕が短くて、届きませんものね……はい、あーん」
苦笑いをしつつ、スープをアルフレッドの口元にまで持っていく。
今のアルフレッドは、ぬいぐるみみたいな姿の影響で、自分で食事をすることが出来ない。恥も外聞も捨てて、犬のように食べれば、いけなくはないが……そんなことをさせるくらいなら、私が食べさせた方が良いに決まっている。
「セリアもちゃんと食べておいた方が良いよ。今回の作戦は、君の方が大変なのだから」
「私は大丈夫ですわ。ただ、こんな食事をあなたに食べさせることになってしまったのが、とても心苦しいですの」
「食べるものがこれしかないのだから、仕方がないさ。それよりも、君はここにいる時は、毎日このような食事だったのかい?」
「そうですわね。極稀に、パーティーに参加した時に提供される食事も、絶対に手を付けるなといいつけられていたので」
こんな食事しか摂っていなければ、当然成長なんてするはずもない。現に、私は同年代の女性と比べて、とても小柄だ。
そのうえ、最近はちゃんと食べているから、少しは改善されているが、ここにいた時は骨と皮しかないような体で、女性らしさは皆無だった。
「……ふぅ。彼らにも、同じ様な生活をさせてみたいものだね」
「それは無理な話ですわ。私の家族だったら、こんなの半日も持ちませんもの」
特にお姉様やお義母様がこんなことになったら、発狂する未来しか見えない。復讐の一環として、お姉様にそんな目に合わせるのも一興かもしれないわね。
「っと、せっかく二人きりの食事なのに、暗い話は良くないね。そうだ、僕もお礼に君に食べさせてあげよう」
「えっ? そんな、恥ずかしいですわ。それに、その体でどうやるおつもりですの?」
「ふふん、まあ見ててよ」
アルフレッドは、私の膝の上からピョンッと飛び降りると、一体いつ焼いたのか毎回疑問に思うような、硬いパンを器用に両手で挟んで持ち、スープに沢山浸して柔らかくした後、短い手を頑張って伸ばして私に差し出した。
やだ、なにこれ……一挙手一投足の全てに、可愛いが詰まっている! ぽてぽてした動き方も、一生懸命私のために食べやすいようにしているのも、パンを差し出しているのも、可愛すぎていつもとは違う意味でキュンキュンする!
「くっ、少し届かない……こうなったら、元の姿に……!」
「こんなことで、元の姿に戻ってはいけませんわよ!? ほら、こうすれば食べられますわ」
私は、アルフレッドを優しく抱き上げて、顔の近くまで持っていく。すると、アルフレッドが頑張って用意してくれたパンも一緒に顔の前までやってきた。
「うふふ、とってもおいしそう。もぐもぐ……アルフレッドが準備してくれると、こんなにおいしくなりますのね!」
アルフレッドに気を使って言った言葉ではない。本当に、自分で食べたパンやスープと比べて、アルフレッドが用意してくれたパンとスープの方が、何百倍もおいしく感じる。
もしかして、これって愛情の力だったりするのかしら? ほら、よく料理の隠し味は愛情なんて話も聞くでしょう?
「君が喜んでくれてよかった! よし、それじゃあもう一口――むっ?」
「アルフレッド?」
「足音が近づいている。誰か来たみたいだ」
「お父様の遣いかしら? アルフレッド、ジッとしていてくださいまし」
アルフレッドの警告からほどなく、部屋の中に二人の兵士がノックもせずにやってきた。
女性の部屋にノックもしないだなんてと思う方もいるかもしれないが、そんなことを気にしていたら、このお城で生活なんて出来ないわ。
「セリア様、国王様がお呼びです。至急、国王様の私室にお越しください」
「わかりました。すぐにお伺いいたします」
兵士達は、素直な私の受け答えに少し動揺しながらも、そのまま部屋を去っていった。
もしかしたら、あの方達は私が反抗的だった頃をご存じなのかもしれない。顔が見えれば知っている人かわかるのだが、この国の兵士は兜をかぶっていて、顔がわからないの。
「セリア、どんなことを要求されるかわからない。用心してね」
「もちろんですわ。気づかれないように下手に出ながら、上手くかわします」
「君のことだから大丈夫だとは思うが……待っているだけしか出来ないのが、歯がゆくて仕方がないよ」
「心配してくれてありがとうございます。アルフレッドの出番は、必ずこの先にあるでしょうから、その時になったら……私を、守ってくださいね」
部屋を出る直前に、私はアルフレッドを抱っこしてキスをしてから、部屋を出ていった。
一体何を言われるのか……幼い頃から傷つけられてきたからか、考えるだけで胸がキュッとして、足が止まりそうになる。知らないうちに、トラウマになっていたのかもしれない。
でも、こんなものに負けていられない。民のため、そして私の復讐の完遂のために、前に進み続けないと。
****
呼び出されたお父様の私室に到着すると、そこにはお父様のほかに、お姉様の姿があった。いつもなら、お父様といる時は愛想が良いのに、今日はそんな気配はない。
私を見た途端、苦虫を噛み潰したような顔になるのは、いつも通りみたいだ。逆にそこは変わらないんだと、安心する。
「嫌なことでも、逆に変わらない良さもあったりするのかしら?」
「何をブツブツ言っている?」
「失礼しました。それで、何のご用でしょうか?」
まるで私が予知を見た時よりも前の時みたいに、素直な態度をしているのが、まだ気味が悪いようで、お父様はやや不気味そうに私を見ながら、とある言葉を口にした。
「貴様が真の聖女として、この国に災厄が訪れようとしていることを民に話せ」
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