第四話 助けてくれる人がいただなんて
ようやく落ち着いてきた私は、乾いた喉を潤すために、裏庭にある井戸へと向かって歩きながら、考え事をしていた。
「お父様は、どうして私を処刑したのかしら?」
私がいなくなれば、予知が出来る人間がいなくなる。そうなれば、お姉様を聖女として仕立て上げられなくなり、聖女の務め自体が出来なくなってしまう。
時間が経てば、新しい聖女は生まれるだろうけど……それでも、私を大犯罪者にする意味って、一体何なのだろう? そもそも、どうしてまた戦争が起こったの? 前回の戦争同様、ソリアン国が悪いのかしら?
まあ、蛮族が住んでいるソリアン国なら、和平条約を破棄して攻め込んできても、なんらおかしくない気はするけど……それをソリアン国じゃなく、私の責任にする理由は?
「考えても、全くわかりませんわね。とにかく、このまま何もしなければ、私は破滅するのは確かですわ」
復讐をすることは大事だが、死んでしまっては元も子もない。最低でも、死ぬ未来だけは回避しなくてはいけない。
「あれは……」
裏庭に向かう途中、一人の少女が怒鳴られている現場を目撃してしまった。
あの使用人、見た覚えがない。赤髪と小柄が特徴的な女性だ。見た目が幼いのも相待って、あの特徴的な姿なら、印象に残ると思うのだけど……今までの私なら、気づかないのも当然かもしれない。
ちなみに怒鳴っているのは、このお城で長年働いている、使用人の長のドリアーヌだ。
使用人としての能力は高いが、自分が気に入らない使用人は、徹底的に虐げる人物として有名だ。
ただ、気に入ってもらえれば、とても良くしてもらえるようで、すりよる使用人も多いと聞いたことがある。それが彼女を良い気になるのに拍車をかけてしまっている。
もちろん、彼女も私のことを虐げている。むしろ、率先して執拗に絡んでくるため、家族を除けば、一番恨んでいると言っても過言ではない。
「リズ! 今言ったことを、もう一度言ってごらん!」
「で、ですから……セリア様のお食事を、もう少し増やした方が良いと思うんです! あんな貧相で栄養の無いごはんでは、病気になってしまいます! それに、三日ぶりに起きたんですから、きっとお腹が空いてると思います!」
「なにも知らない新人の分際で、偉そうに意見してるんじゃないよ! あんな女には、勿体ないくらいの食事を与えているの!」
話の内容からして、私のこと? それも、私の心配をした結果、あんなに怒鳴られているの?
まさか、使用人の中に、私のことを考えてくれる方がいただなんて、知らなかった。少しでも傷つかないように、見たり聞いたりしないようにしていたとはいえ、なんて失礼なことをしていたのだろう。
……それにしても、普通に人が通るような場所で、公開処刑のように怒鳴る必要なんてないじゃない。その場を通る人達も、クスクスと笑ったり、見て見ぬふりをして、本当に最低だ。
「はっ、どんくさくて仕事も出来ないクソガキトマトが意見するなんて、百年早いんだよ。わかったら、さっさと仕事にお行き!」
ドリアーヌは、リズと呼ばれた少女の頬を思い切り叩いてから、吐き捨てるようにその場を去っていく。
自分のこととか抜きにして、他人のことを心配してくれる優しい人が、どうしてあんな理不尽な目に合わないといけないのだろう。そう思うと、悔しくて体に力が入った。
「はぁ……どうしてみんな、セリア様のことをいじめるんだろう……あの人が悪いことをしてるのなんて、見たことないのに……こんなの、絶対におかしいよ……」
あっ、このままでは彼女がどこかに行ってしまう。今の私に、すぐに何とかできる手立てはないけれど、感謝の気持ちだけでも伝えないと!
「そこのあなた! お待ちになって!」
「えっ……えぇ!? セ、セリア様!? あ、えっと……本日もご機嫌麗しゅう!」
突然声をかけてしまったせいで、彼女を怯えさせてしまったようだ。申し訳ないことをしてしまったわ。
「って、もう歩いて大丈夫なのですか!? まだ無理をされない方が!」
「心配してくれて、ありがとうございます。私は大丈夫ですわ。えっと……リズと呼ばれておりましたわね。リズ、驚かせてしまって、申し訳ございません。あなたに、少々お話がございますの」
「ひぃ!? ま、またなにか失敗をしてしまいましたか!? ごめんなさい、ごめんなさい! 罰なら何でも受けますから、クビだけは……!」
「そんなお話ではありません!」
困ったわね……怯えきってて、まともに話せそうもない。それに、こんな廊下で話しているのを誰かに聞かれたら、この子がまた叱られてしまうかもしれない。
「場所を変えましょうか。ついてきてくださる?」
「は、はいぃ……!」
かわいそうになるくらい怯える彼女と一緒に、私は自室にやってくると、ボロボロのソファに座らせた。
「もっと素敵なおもてなしが出来ればよかったのだけど……」
「い、いえ! わたしは大丈夫ですので! それで、お話というのは……?」
「先程、使用人の長を務める彼女とお話をしているのを見かけましたの。あなた、私のために食事量を増やそうと意見しておりましたわよね?」
「は、はい。わたし、家が貧乏で……お腹がすくつらさが、よくわかるんです。だから、セリア様に同じ思いをしてほしくないなって思って。それに、セリア様はなにも悪いことなんてしていないのに、酷いことをされるのはおかしいと思ってて……え、偉そうですよね!」
「そんなことはありません。私、とっても嬉しかったのです」
私のボロボロの手と違って、艶があるけど傷だらけの手をギュッと包み込みながら、感謝の気持ちを伝えると、リズはぽかんとした表情をしていた。
「私、今までずっと、自分がこれ以上傷つかないように、極力周りのことを見ないようにしておりましたの。だから、あなたのようなお優しい方がいらっしゃるだなんて、知りもしませんでした。本当に、ありがとうございます。それと、気づいて差し上げられなくて、申し訳ございませんでした」
「そ、そんな! セリア様がどうして謝るんですか! むしろ、わたしの方が謝らないといけないんです!」
リズが? 私、謝られるようなことをされた覚えなんて、これっぽっちも思いつかない。
「わたし、ここに努めるようになってから、すぐにセリア様の置かれている状況を知りました。だから、すぐにでもみんなに止めるように説得したかったのですが……聞いてもらえないどころか、生意気だといじめられて……今日も、勇気を振り絞って、ドリアーヌさんにお願いしたのですが……結果は見ての通り。本当に情けないです!」
「あなたは情けなくなんてありません。このお城の方で、一番勇気がある素敵なお方ですわ」
お世辞のようにも聞こえるかもしれないが、他の使用人の醜さや愚かさを知っている私には、リズという存在はとても輝いて見える。
そんなリズを見ていたら、突然予知の前触れが襲って来て、その場に膝をついてしまった。
眩暈が収まると、そこに広がっていたのは、リズが小さな墓標の前で、お母さん……と呟きながら、深い悲しみに暮れている光景だった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白い! 応援してもいいと思っていただけましたら、ぜひ⭐︎による評価、ブクマ、レビューをよろしくお願いします。
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




