第三話 無様な姿
「拾いなさい」
「……は?」
「拾えと言っておりますの。その耳は飾りですの? 早く拾って、今汚したところを綺麗に洗ってきなさい」
まさか、私が黙って受け入れずに、反発して来るだなんて、微塵も思っていなかっただろう。彼女はポカンとした表情で、私のことを見つめること数秒……突然、お腹を抱えて笑い出した。
「あははははっ!! どうされたのですか? そんな急に勇ましくなってしまわれて! もしかして、変なものでも拾い食いでもして、おバカになってしまったのですか?」
「…………」
この、心の底から私を舐めたような態度……怒りと屈辱で頭がどうにかなりそう。私、今までよくこんなのに耐えていたわね。自分で自分を褒めてあげたい。
「もう一度だけ言ってさしあげますわ。拾って、洗ってきなさい。以上。早く動きなさい」
「あまり調子に乗らないでくださいます? 王族の血が流れているとはいえ、あなたの立場はこの城では一番下なのですよ?」
ええ、そうね。確かに私は、王族とか関係無しに、一人の人間として満足な生活が送れているとは言い難いし、散々尊厳を踏みにじられてきた。
今までは、それを受け入れてきたが……もう、そんなのはごめんなのよ。
「調子に乗っているのは、どちらかしら?」
「へ……?」
私は、彼女に向けてそっと手のひらを向ける。すると、手のひらの先に小さな緑色の魔法陣が描かれる。そこから、三日月の形をした刃が飛んでいき、彼女の長い髪の一部を切り落とした。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!?」
「私が抵抗しないからって、随分と良い気になっておられましたが……私がその気になれば、いつだってあなたの首を、その髪のように胴体とお別れさせられますのよ?」
先程まで、あれだけ私を馬鹿にしていた彼女は、ガタガタと震えながら、尻餅をついて動けなくなっていた。
それもそのはず。私が今使った魔法という力は、基本的に王族や貴族しか使えない、人智を超えた力だ。たまにではあるが、平民の方でも使える人はいるみたいだけど、彼女がそれに該当しないのは、既に知っている。
私が使える魔法なんて、はっきり申し上げると、予知以外はたかがしれている。魔法を使える方から見れば、子供騙しにもならない程度だが、彼女を驚かすくらいなら、十分過ぎるくらいだ。
「なんだ、なにごとだ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
どうやら、彼女の無様な叫び声を聞いて、他の使用人や兵士達が、集まってきてしまったようだ。
どいつもこいつも、今まで散々私を虐げてきた人ばかり。ちょうどいいし、この人達にも復讐をしよう。
「た、助けてぇぇぇぇ!! こここ、殺されるぅぅぅぅ!!」
「失礼ね。ちょっと驚かしただけですわ」
これでは、まるで私が殺人をしようとしたみたいだ。謂れのない罪で貶されるのは、あの予知だけで十分だ。
「嘘よ! 今、風の魔法で私の首を斬ろうとしたわ! 私が避けたから、髪で済んだだけです!」
「避けたですって? 間抜け面でただ立っていただけではありませんか」
「なんですか、あれ……? 本当に、セリア様なの?」
「まるで別人じゃないか。もしかして、ついに悪魔の子の力が、目覚めたのか!?」
随分と妄想力が豊かだこと。まあいいわ。どう思われていようが、私が復讐をすることには変わらないもの。
本当なら、もっと大人数を相手に、一気に復讐をしたかったが、仕方がない。とりあえず、始めましょう。
「もちろん、私はセリアです……うっ……!」
話している途中に、私はうめき声を上げながら、頭を抱えて座り込む。それから間もなく、息を荒げながら立ち上がる。
私が予知をする時は、激しい眩暈が起こる。それを、今目の前で起こったフリをしたの。
「今の予知は……お城に努める使用人や兵士達が、何ヶ月にも渡り、その痛みで苦しむ姿が……一体、どれだけの規模で……?」
「な、なんですって!?」
「確か、予知で見えた不幸って、変えられないんじゃ……!?」
突然言い渡された、避けられない不幸の通告に、全員が怯えている。その情けない姿は、私のことを見下し、虐げていた人間とは思えない。
なんて滑稽で、無様なのかしら。今の予知は、嘘だと言うのに……予知をしたフリと、適当な言葉を鵜呑みにして、ありもしない不幸にこんなに怯えるだなんてね。
「い、嫌よ! そんな苦しんで死にたくなんかない!」
「これも全部、悪魔の子が不幸を呼び寄せたからに違いない!」
「その予知は、どんな時に起こっていたの!?」
「わかりませんわ。ただ、その場には傷ついた私も居合わせていたので……恐らく、私に何かしている時かと……」
「なら、やっぱりお前のせいじゃないか! ふざけるなっ! 悪魔の子なんて死んでしまえばいい!」
さすがにそれは、責任転換すぎはしないかしら? 仮に今の予知が本当だったとしても、私のせいにはならない。だって、私はあくまで見るだけで、それを起こしているわけではない。
「私のことを貶すのは結構ですが、今も刻一刻と、不幸は近づいてきているのがお分かりで?」
「そうよ、こんなことをしている場合じゃないわ! 不幸は変えられなくても、軽くすることなら出来る!」
「仰る通りですわ。でも……あなた方が仰る通り、私が不幸を呼ぶというのが、もし本当なら……私と一緒にいたら、どうなるかしら?」
「う……うわぁぁぁぁ!!」
最後にもう一度脅してやったら、彼らはその場から、脱兎の如く逃げていった。中には、腰が抜けて這いつくばって逃げていく人もいた。
「……ふふっ……あはははははっ!!」
ダメだ、笑うのが止められない。だってそうでしょう? ずっと私を虐げていた人達が、私の嘘にまんまと騙されて、ありもしない不幸に心の底から怯えているのよ? なんて滑稽で、無様なのかしら! ああ、胸がスッとしたわ!
「はぁ、こんなに笑ったのって、いつぶりかしら? もしかしたら、生まれて初めてかもしれませんわ」
笑いすぎて、顔もお腹も痛くなってしまった。面白いのは良いことだが、面白過ぎるのも考え物ね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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