第二話 私は変わる!
「私、たしか処刑されたはずじゃ……」
私は、汗でびっしょり濡れている体を何とか起こして、もう一度辺りを確かめる。
王族が使っているとは思えないような、ボロボロの家具。なけなしのお小遣いを貯めて買った、唯一のお友達であるぬいぐるみ。私を現実から逃がしてくれる、大好きな本。やはり、何度見ても、私の部屋だ。
「夢では……ありませんわよね……」
私の首には、先ほど感じた激痛が残ったままだ。その痛みのせいで、まともに体が動かないうえに、冷や汗も止まらない。
「もしかして、聖女の力が発動した?」
先程の光景でも出てきた、聖女の力。それが発動したと考えるのが、一番自然な流れだ。
――聖女というのは、王家に代々伝わる、特別な魔法が使える女性のことを指す。その魔法とは、予知の魔法だ。
予知の魔法とは、その名の通り未来を予知する魔法だ。一度でも出会ったことがある人の未来を予知できる凄い力ではあるが、自分で自由に発動することは出来ず、突発的に発動してしまう。
予知で見える未来は不幸しかなく、基本的にその不幸を変えることは出来なかったり、その不幸を知って対策をしたとしても、見えた不幸が来なくなることはあっても、不幸が起こるという未来は変えられないという特徴を持つ。
そんな不思議な魔法が使える先代の聖女が亡くなってから間もなく、私は聖女の力を宿しながら、この世に生まれた。
本当なら、私はこの力を使って、民の不幸を事前に知らせ、少しでも不幸を軽くするという役目があるのだが……その役目は、お姉様が担っている。
もちろん、お姉様は予知の魔法は使えない。だから、私が予知したものを、さもお姉様が予知したと見せかけている。そうすることで、お姉様が聖女だと民に思わせている。
これをすることで、お姉様は聖女として多くの民に愛されるだけでなく、国の財産である聖女が、率先して民を予知で救うことで、民の信頼を得たり、予知をしてもらうのに、莫大なお金を徴収して私腹を肥やしている。
そんなまどろっこしいことなんて、する必要は無いと思う方がいるかもしれない。実際問題、私はどちらかというと、その意見の人間だ。
お姉様を聖女に仕立て上げる他の理由は、もう一つある。それは至極単純なもので……お父様とお義母様が、お姉様のことを溺愛していて、聖女としてお姉様を民に愛される存在にしたいと思っているからだ。
聞いたところによると、お義母様は子供が出来にくい体質で、中々子宝に恵まれていなかった。
そんな中、先代の聖女が亡くなるとほぼ同時に、お義母様はようやく子供も授かれた。それを大いに喜び、きっとこの子は聖女の加護を受けて生まれてくると期待されていたが……お父様の一夜の過ちにより生まれた私が、その力を持っていた。
その結果、私が望んで手に入れた力ではないのに、私は家族に嫌われ、幼い頃から虐げられて生きてきた。
特にお義母様は、聖女の力が愛娘ではなく、私が持っているのが許せない、本当の聖女は私の娘だと主張し、力を奪った私と、お父様に色目を使ってたぶらかした元凶として、お母様を強く恨んでいる。もちろん、お母様はただの被害者だ。色目なんて使っていない。
虐げるだけでは満足がいかず、私が不幸を呼び寄せているという話まで広めた結果、お城の人の一部は、私が不幸を呼ぶ悪魔の子だと呼ぶ人もいるようになってしまった。
「それにしても、どうして私自身の未来が見えたのかしら……」
予知の特徴として、この力で自分の予知は出来ない。なのに、今回は自分の死ぬ未来を予知した。その理由はわからないけど、私はこのままでは処刑されてしまう。
私は、もう早く死んでしまって、お母様の元に行きたいと願っていた。早く死んで、解放されたかった。
でも、いざ自分の未来を予知した結果、やはり死ぬのは怖いし、こんな激痛を体験するのも嫌だと思うようになっていた。
「うぐっ……」
一旦水でも飲んで落ち着こうと思い、なんとか立ち上がったが、すぐによろけてしまい、ベッドの近くにあるサイドテーブルにぶつかってしまい、そこに置いてあった絵本が落ちてしまった。
「…………」
落ちてしまった本に、そっと手を伸ばす。もうボロボロになってしまっているが、これはまだお母様がご存命だった頃、私に良く読み聞かせをしてくれた、この世で一番好きな本だ。
意地悪な継母と義姉にいじめられている女の子が、白馬に乗った王子様と結婚して幸せになるという、あまりにもありふれた内容の絵本だけど、幼い頃の私にとって、これはある意味、希望でもあった。
私の元にも、いつか白馬に乗った王子様が来てくださって、このつらくて苦しい現実から助けてくれる。いつか、きっと良いことがある。そう思って生きてきたのだけど、そんなことは起こるわけもなく……いつの間にか、私は全てを諦め、受け入れて生きるようになっていた。
「王子様なんて、待ってても来てくれるはずがありませんわ。そんなものを待っていたら、私は処刑されてしまう。処刑されるなんて、まっぴら御免ですわ」
ありもしないものを待ってても、未来はない。ありもしないものが来なくて泣いていても、笑われるだけ。
幸せも、未来も……私が自分の手で、勝ち取らなくちゃいけない!
「私は、どうしてこんな簡単なことに、ずっと気が付けなかったのかしら」
本当、今までの私は情けない人間だ。でも、今この時を持って、私は弱い私とさよならをする。そして、望む未来を勝ち取ってみせる。それが、たとえ不幸が決まった未来だったとしても……少しくらいは、不幸が軽くなるかもしれない。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
前向きになったおかげか、さも当然の疑問が、胸の奥から沸き起こる。
私が生まれたのは、お父様がお母様に手を出したのが原因だ。聖女の力だって、好きで手に入れたものではない。そんな私が、虐げられる理由も、利用される謂れもない。
それに、どうして何も悪いことをしていない私が、不幸なまま処刑されて、家族はのうのうと生きているの? そんなの、あまりにも理不尽すぎる。
そう思ったら、家族に対する言いようのない怒りと、どす黒い感情……憎しみが沸々と湧いてきた。
「苦しいのは私だけじゃない。お母様は、ソリアン国との戦争のせいで……!」
祖国のカルネシアラ国は、蛮族が住むと言われる隣国のソリアン国と長年戦争をしていた。その戦争で、多くの人が戦い、そして戦場で散っていったのだが……お母様もその一人だ。お父様に送り込まれた戦場で、大爆発に巻き込まれて、そのまま……。
後から聞いた話だが、お母様はお父様とお義母様に脅されて、やむなく戦場に向かったという話を聞かされたことがある。
ちなみにその戦争は、突然ソリアン国から仕掛けてきたと言われている。最近、ようやく戦争が終わったとはいえ、ソリアン国が戦争なんてしかけてこなければ、私は処刑されなかったかもしれないし、お母様が亡くなることも無かった。
そう考えたら、ソリアン国の王族にも、憎しみが湧いてきた。家族だけじゃなく、戦争を起こしたソリアン国の王族にも、復讐してやる。
「あら、セリア様。もう起きてしまいましたのね」
復讐の炎を燃やしていると、このお城で働く使用人がやってきた。私が起きたことが面白くないのか、露骨に嫌な顔をしながら、舌打ちをしている。
これが、王家に仕える使用人なのか? と疑問に思う人もいるだろうが、私に対しての扱いなんて、こんなものだ。むしろ、これでもまだ優しい方とも言える。
「私、どれぐらい眠っておりましたの?」
「大体三日といったところです」
なるほど、だからこんなに喉はカラカラで、お腹もペコペコなわけだ。普段から、ろくなものは食べさせてもらっていないから、お腹が空いているのは、いつものことだけど。
「それで、何かご用かしら」
「お召し物をお持ちしました」
彼女の手には、いつも私が着させられている、ボロボロのエプロンドレスがあった。
それを、彼女は私に手渡さず、そのまま床に放り投げると、遠慮なく踏みつけてぐりぐりとしてきた。
「あら、ごめんなさい。手が滑って、間違えて踏みつけてしまいましたわ。でも、どうせボロボロですし、関係ありませんわよね」
下手糞な言い訳、悪びれもない様子。昔はこんなことをされても、黙って服を拾いに言っていたが、今の私は違う。
――調子に乗れるのも、今日限りですわよ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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