第十五話 お・こ・と・わ・り
「ははっ、あはははははっ! これが笑わずにいられるかしら!? だって、あの蛆虫よりも汚くて醜い女が、私の可愛いジェシカの人生をめちゃくちゃにした! 絶対に許せませんわ!! そのふざけた水晶ごと、粉々にしてやる!!」
悪魔のような形相を浮かべるお義母様は、手のひらを私に向けると、そこから炎の球体を飛ばしてきた。
お姉様を誰よりも溺愛しているお義母様なら、激昂して手荒なことをしてくるのは、容易に想像できていた。だから、突然の攻撃にも、冷静に避けることが出来た。
……ただ、代わりに私の後ろにいた兵士達に、流れ弾が当たってしまい……何人もの兵士が吹き飛ばされてしまった。
「きゃああぁぁ!? こ、殺されますわー!」
「本当のことを晒されたからって、なんてことをするんだ!?」
「よさんか大馬鹿者め! 貴様のその愚かな行動で、より一層我々の立場が悪くなることが、なぜわからんのだ!」
お父様は、なんとお義母様の胸ぐらを掴み、グーで顔を殴りつけた。
……さすがに、グーで顔は驚いた。お父様はお義母様のことを愛していて、基本的にどんなことでも許していたのに……それほど余裕が無くなっているのだろう。
「ご安心ください、国王陛下。もう何をされたところで、あなた方への言及は免れないでしょう」
お父様に声をかけたのは、口元に蓄えたおひげと、真っ白に染まった髪をオールバックにしている紳士……この国の宰相様だ。
宰相様は、カルネシアラ国をよくするために、王家に忠誠を誓っている、仕事一筋の方だ。私になにかするわけでもなかったが、助けてくれるわけでもなく、中立を保っていた。
彼にとって、王家がしてきた愚かな行為は、宰相様にとっては裏切りのように見えるのではないかと、私は考えている。
「くそっ、全て貴様のせいだ! このままで済むと思うな、愚女め……!」
「あらあら、嫌ですわ。悪いことをしていたのは自分達なのに、それを私のせいにされましても。今後は、もう少し態度を改めることをお勧めいたしますわ。まあ、これからも王族が続けられればの話ですが。では、私は忙しいので、失礼しますわ」
「お、お待ちなさい! あなた、本当にソリアン国に行くおつもりなのですか!? 今回のことは水に流してさしあげますし、満足いくまで謝罪いたしますから、私達の元から離れないでください!」
「お姉様……」
お姉様の悲痛な叫びは、とても演技をしているようには見えない。本当に、心の底からの願いなのね。
そうよね。私がいなくなれば、聖女のお仕事が出来なくなる。そうすれば、聖女として民にチヤホヤされなくなるし、好みの男性を食い荒らせなくなるわね。
……そう、そうなのよ。お姉様が私と離れたくないのって、結局自分に利益があるから、そんな人に、私は……。
「お姉様のお気持ちは、とてもよく伝わってきましたわ」
「それじゃあ……!」
「ええ、お姉様。お・こ・と・わ・り……です。では、ごきげんよう」
「せ、セリアぁぁ……!!」
まるで地獄から這い出たバケモノのような、汚いお姉様の声を背に受けながら、私は会議室を後にした。
会議室の外には、先程の宰相様が待っていた。お姉様と話している間に、部屋を出ていたようね。私に何か用かしら?
「セリア様。あの陛下たちの様子では、何をするかわからないため、しばらくは私の部屋をお使いください。私めが結界魔法を張りますので、誰も入れないでしょう」
なるほど、それは確かに必要だ。あの調子だと、いつ刺されてもおかしくない。
でも、すぐにお願いしますとは言えない。なにせ、この方が私を利用しないとは断言できないからだ。
「そこに閉じ込めようという魂胆なのでは?」
「いえ。隣国に出発するまでに、あなた様に危害が加わらないように、お守りいたす所存です。もしあなた様の身に何かあった際に、ソリアン国の王家が激昂して、再び戦争になるのは避けなければなりません」
あくまで、国を守るためにする行動ということね。嘘をついているようには見えないし、お願いしても大丈夫そうだ。
「では、一度荷物を取りにいきますわ」
「ご同行いたしましょう」
私は宰相様と一緒に小屋に向かい、荷物を回収する。その間に、彼は驚いた顔をしていた。
「最近は、ここにお住みなのですか?」
「はい。なぜか、急にここへ移動になってしまって。思ってよりも居心地良いんですよ」
「…………」
いや、それはないだろ……って感じで見られてしまった。住んでみれば、案外良いところなんだけどね。隣の部屋とか気にしなくていいのは、とても素敵なことだ。
「荷物はこれでよしっと。宰相様、行きましょう」
「かしこまりました」
宰相様の後に続いて城の中に入ると、王家の横領や違法売買、お姉様の淫行で、中は大騒ぎだ。
「巻き込まれたら面倒ですね。走れそうですか?」
「はい、これでも足には自信あるんです!」
「それは頼もしい。では、部屋がある三階まで駆け抜けましょう」
掛け声を合図に走りだすと、思った以上に宰相様が速く、はぐれないようにするのに必死になってしまった。
「部屋はこちらを使ってください」
「ありがとうございます」
「私はしばらく忙しくて、ご一緒できないかと存じます、この部屋の結界の中なら安全です。私が不在の際も、私の腹心があなたをお守りしますので、ご安心を」
「わかりました。そうだ、実は事前に、婚約の立候補をする旨を書いておいた手紙がありまして。これを届けてほしいのですが……」
「それは丁度良い。今回の件について、私が代表としてソリアン国に赴く予定ですので、その際に責任をもって届けましょう」
よかった。これで、向こうが了承してくれれば、私はこの地獄とおさらばできる。
なんだかんだで、復讐は出来た。満足度で言うなら五十五点くらいだから、国を出てからも、新しい方法を考えないと。やること盛りだくさん!
そのやることをしっかりやるためにも、今のうちに休んでおこう。慣れないことをしたせいで、もう眠くて仕方がない……。
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