第十四話 復讐の日
堂々と胸を張り、まっすぐな視線で宣言すると、会場は静寂に包まれる。それから間もなく、貴族達から惜しみない拍手が、雨のように降ってきた。
きっと、ソリアン国に嫁ぎたくない彼らにとって、私は突然現れた、救世主のように映っているに違いない。
「ふざけるな! そんなこと、私は認めた覚えはないぞ!」
「そうですわ! あんな野蛮な国に、大事な妹を行かせるだなんて、考えただけで胸が張り裂けそうです!」
ふふっ、やっぱり邪魔してくるわよね。いくら私のことを嫌っているとはいえ、私がいなくなられるのは、あなた達にとっては大迷惑だものね。
「まあまあ、国王陛下。娘様がああ仰っておりますし、ここは一つ寛大なお心で認めましょう」
「そうザマス。セリア様の門出を、皆で祝うザマス!」
「ならん! 絶対にならんぞ! セリアを失うだなんて、断じてワシが許さん!」
「どうしてですの? お父様も、お義母様も、お姉様も……いいえ、このお城の関係者の皆様は、揃って私のことを嫌い、虐げてきたではありませんか。この服と、体の傷がその証拠です」
私のボロボロの服、そして長年に渡って傷つけられてきた体を見せつけると、再び会議中が異様な空気に包まれる。そして、家族の顔色が、一気に悪くなるのが見て取れた。
うふふ、良い顔じゃない。そうよね、ずっと言いなりだった私が、こんな告発をするなんて、夢にも思わなかったでしょうね。
でも安心して。これからもっと凄いものを見せて、もっともっと素敵な顔にしてあげるから。
「それに、お父様達はどうしてそんなに偉そうに出来るのか、私にはさっぱり理解出来ませんわ。散々悪事を働いてきてというのに」
「悪事だと? ふん、何をバカなことを!」
「バカかどうか、これを見ていただけばわかりますわ」
持ってきた水晶の魔法を起動させると、水晶から一筋の光が壁に向かって伸びていく。そして、壁には私が記録してきたものが、順番にうつされた。
「これは、お父様の部屋にあった帳簿です。実は、お父様は前々からとあるお方と結託し、国のお金を横領しておりました。そして、そのお金はお義母様の宝石やアクセサリーを購入する資金に充てられておりました。そうでしょう? お父様と一緒に横領をしていた……兵士長様?」
「っ……!」
突然話を振られた、この国の兵士長は、顔を青ざめさせながら立ち上がると、首を小刻みに横に震わせ始めた。
「ち、違う! 私は、国王陛下に脅されたんだ! 不倫を妻にバラされたくなければ、言うことに従えと脅されて、仕方なく……!」
「ということは、横領は本当ということザマスか!?」
「一体どういうことですかね、国王陛下! 説明を所望する!」
あらやだ、思った以上に早く自白してくれたわね。お父様を庇うようなら、もう少し詰めてあげるつもりだったのだけど、手間が省けて助かる。
「ああ、今流れ始めた領収証が、お買い物の証拠ですわ。ご覧ください、こちらの領収証の名前、どこかで見覚えがございませんか?」
「これは、確か一昔前に活動していた、詐欺集団の頭領の名前ではないか? 戦争をきっかけに滅亡していたと言われていたが、まだ活動していたとは……!」
「それにあの宝石、確か美術館から盗まれた、ダイヤモンドではないか!?」
「横領に、盗品の売買……完全に違法取引じゃない! 王族だからって、何をしても許されると思っているの!? ふざけないで!」
段々と、貴族達から怒りの声と、家族達を蔑む声が聞こえてくる。確実に、家族達が王家として築き上げてきたものが、瓦解していっているのを感じる。
「ええい、黙れ黙れ! 全てその小娘が、我々を陥れるための罠だというのが、何故わからん! 兵士達、なにをしている! その反逆者を早く捕らえよ!」
「し、しかし……」
騒ぎを聞きつけて駆けつけた兵士達は、互いに顔を見合わせるだけで、動こうとはしない。
元々、私を虐げたら不幸になるという嘘で、私に手を出しにくくなっているうえに、自分達が仕えていた王家の悪事が加わった結果、素直に命令に従えなくなってしまったのね。
「皆様! お父様もお母様も、何も悪いことはしておりませんわ! お願いします、信じてくださいませ!」
「お姉様も、本性を晒したらいかがですか? 本来のあなたは、そんなお淑やかな女性ではありませんわよね?」
「本性? セリア、あなたが何を言っているのか、理解出来ませんわ」
「当事者が理解出来ないなんて、とんだお笑い種ですこと。あくまで惚ける気なら、証拠を見せて差し上げますわ。ああ、皆様に先にお断りいたしますが、これから流れるものは、あまり気分がいいものではございませんので、ご自身で目を閉じるなり、耳を塞ぐなりして、ご対処をお願いいたします」
お義母様の部屋の様子が流れた後に、お姉様が楽しんでいるものが流れ始める。さすがに位置取りを感覚でやったため、綺麗に記録は出来ていないものの、今までのお姉様のイメージを完全に壊すには、十分なものだ。
「な、ななな、なんですのこれは!? あの水晶は、これを記録するための物だったんですの……!?」
「うわぁ……しゅ、趣味が悪すぎる……これが、聖女様の本当のお姿……」
あまりにも酷いお姉様の夜のお姿に、貴族達からは嫌悪の言葉や、溜息が聞こえてくる。中には、頭を抱えてる方までいる始末だ。
「あ、あぁ……そんな、こんなこと……あまりにも酷すぎますわ……!」
「あらあら、どうして泣いておられるのですか、お姉様? この程度、私が物心ついた時から散々されてきたことに比べれば、足元にも及びませんわ。だから、そんなに傷つく必要はございません」
性格の悪いお姉様のことだ。泣いているのだって、少しでも同情を誘うための芝居としか思えない。
そんなことをしたところで、この空気をどうにかすることなんて、不可能だというのに。
「私の知る限り、本日参加している方々の中にも、お姉様の毒牙にかかった方はいらっしゃいます。この場で発表してもよろしいですか?」
クスクスと笑いながら、貴族達の様子を確認すると、明らかに動揺している男性が、何人も確認できた。
このまま言及して、彼らを追い詰めることも可能だろうが、私の目的は彼らではない。それに、ここで黙っておけば、彼らは話をそらすために、家族への言及を熱心にしてくれるはず。ここはうまく利用してやろう。
……ああ、そうだ。ついでだから、本当は私が聖女だったことも、公表しても……いえ、さすがにそれはやめておこう。後になって、聖女だからとまた誰かに利用されるのは、御免だもの。
「皆様、おわかりいただけましたか? 私の家族達が、いかに愚かで醜い人物ということが。そんな彼らに、私が自分で決めたことを止める資格が、本当にあるとお思いで?」
「ありませんわ!」
「あんな連中のために、我々の誰かが犠牲にされるところだったのか!?」
「なんて卑劣ザマス! 上に立つ者として、全ての説明責任と謝罪が必要ザマス!」
ここにいる全ての貴族達の罵詈雑言が、家族達に容赦なく降り注ぐ。
彼らがどれだけお父様達を許せないと思っているのかは、定かではないが、少なくとも今まで築き上げてきた王家の信頼も、聖女としてのお姉様の信頼も地に落ちたのは間違いないだろう。
うふふふ……今まで自分達が一番で、なんでも思い通りになるのが当たり前だと思っていたのに、散々虐げてきた私に、突然叩き落とされる気分というのは、どんなものなのかしら? きっと、この世で最も屈辱でしょうね! ああ、なんて良い気分なのかしら!
「静まれ、静まらんか愚か者共!」
いくらお父様が必死に言っても、燃え上がった疑念と怒りの炎、そしてこれを機に三人を黙らせて、私の婚約をスムーズにさせたい貴族達の声は、収まる気配はない。
そんな収拾がつかない状態の中、お義母様は突然顔を抑えながら、高笑いしはじめた。
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