第十二話 魔法も使い方次第
「凄い数……輝きもさることながら、大きさが凄い……」
素人の私がそう思うくらいなのだから、きっともの凄い価値があるのだろう。
それに、この宝石って確か、何年か前に美術館から盗まれて、その後行方が分からなくなったと言われる、凄く価値のある宝石じゃないかしら?
「盗品にまで手を出すなんて……さすがに人としてどうなのかしら」
綺麗なのはわかるが、だからと言って悪いことをするのは……って、今は感想を考えている場合ではない。早く記録をして、この部屋を後にしないと。
「さすがに全部記録する時間は無さそうですわね。それに、まだ行くところがあるのに、そろそろ水晶の記録できる量も限界が近づいているようですし……」
とりあえず、ある程度の記録は取れた。次に記録をしたいものは、夜に行われるものだから、今は一旦戻って、この水晶が見つからないように隠さないと。
****
特に何事もなく迎えた同日の夜。私はお城の外をこっそり通って、とある部屋の窓の下へとやってきた。
その部屋とは、もちろんお姉様の部屋だ。今日の聖女のお仕事で、お姉様はとても好みの男性を見つけたと言っていたから、その連れ込みの現場を記録をするつもりだ。
「確か、相手はあまり裕福ではない、大人しそうな若い男性……お姉様のことだから、一度自室で遊んでみて、気に入ったら例の部屋に連れていくでしょうね。それまでの記録を取れれば……」
表向きのお姉様は、まさに聖女のような、気品あふれる素敵な女性な振る舞いをしている。そんなお姉様の醜い姿を晒し、今まで築き上げてきたものを、一気に瓦解させるのが目的だ。
「ここなら、見つからないかしら……集中、集中……」
一度大きく深呼吸をしてから、私は手に持った水晶を抱き抱える。すると、私の足元に緑色の魔法陣が描かれ……そして、水晶がフワッと宙に浮いた。
これは、風魔法の一種で、物を持ち上げる魔法だ。
凄い魔法使いなら、もっと大きくて重い物を持ち上げられるが、残念ながら私は魔法の才能があるわけではない。むしろ、平均よりも大きく下回っていると思う。
だから、水晶程度の物を浮かせるだけでも、とても集中しなければならない。そこを誰かに見つかったら大変だから、隠れているというわけだ。
「落ち着いて、意識を集中させるのです、私……」
宙に浮かんだ水晶は、フワフワと上昇していき、お姉様の部屋にあるバルコニーへと向かっていく。
よし、とりあえず無事にバルコニーまで浮かすことは出来た。弱い魔法でも、使い方によっては、役に立つものね。後はバルコニーを転がして、少しでも中の光景が記録できれば……。
「これでよし。後はしばらく経ってから、回収をしましょう」
本当なら、水晶がちゃんと記録できているか確認が出来ればいいのだけど、残念ながら、それを確認する術はない。今の私に出来ることは、きちんと記録出来ていることを祈りながら、見回りに見つからないことだけだ。
「…………」
はぁ、待っているだけというのは、何とももどかしいわね。いつも以上に、一分一秒が凄く長く感じる。
そんなことを考えていると、突然バルコニーから、誰かの声が聞こえてきた。
「あら、なにかあると思ったら、水晶玉? 誰かの忘れ物かしら……?」
「この声……! もしかして、見つかってしまいましたの……!?」
バルコニーから聞こえてきたお姉様の一言で、一瞬にして体中から冷たい汗が流れ始めた。
私としたことが、少しでも記録したくて、水晶の位置取りを間違えてしまった!? これで水晶が壊されてしまったら、せっかく集めた記録が……!
「まあいいですわ。こんなものよりも、早く彼をもっともっといたぶって差し上げませんと。ほら、いつまで休んでおりますの?」
「あっ……!」
完全に失敗してしまったと思っていたら、突然水晶が宙を舞い、そのまままっすぐ落ちてきた。
気づかれなかったのは不幸中の幸いとはいえ、このままでは水晶は地面に落ち、砕けてしまう。そうなれば、気づかれたのと何ら変わりない。
「くっ、一か八かですわ!」
私は咄嗟に先ほどと同じ魔法を使い、落ちてくる水晶を操って、落下を防ごうとする。
「い、勢いが止まりませんわ……!」
普通に動かすだけでも大変なのに、落ちてくる水晶を操るなんて、私にはあまりにも難題すぎた。水晶は、無情にも勢いをそのままに、落下していく。
……私には、無理? そんなの関係ない。私は復讐は絶対に復讐をする。そのためにも、絶対にあの水晶を無事に回収してみせる!
「止まるのです! 止まりなさい! 止まってぇぇ!」
必死の呼びかけも虚しく、水晶は落ちる。落ちる。落ちる。もう間もなく、地面に激突して、割れてしまう。
それでも諦めずに魔法をかけていると、ほんの少しだけ勢いが緩んでいた。
まさにこれは絶好の機会だ。私は、残りの魔力と集中を限界まで高めて、水晶のコントロールをすると、地面にあたる前に勢いが著しく落ち、ぽとんっ……という表現がピッタリなくらい、優しく落ちてきた。
「ああ、よかった……さすがに疲れましたわ……帰って、休みましょう……」
これでほしいものは大体揃った。後は、また開かれるであろう、婚約者を決める会議に参加をして、この記録を公表する。
ということで、このまま小屋に帰ろうとしたが、そこで重大な事件が起こってしまった。
「おい、なにかこっちから声が聞こえなかったか?」
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