最終話 運命がくれた“今度こそ”の恋。
すれ違い、涙して、それでも――心は、彼を探し続けていた。
チートでも、美貌でもない私を、
ただ“わたし”として見てほしかった。
伝えたかった。怖かった。けど、逃げたくなかった。
ずっと憧れていた、「誰かを好きになる」こと。
ようやくたどり着いた、その本当の意味。
あの日、命をかけて守った少年が、
時を越えて、愛しい人になっていたなんて。
これは奇跡じゃない。
ただの運命でもない。
これは、私たちが選んで、歩いてきた恋の結末。
――さあ、“今度こそ”本当の恋を手に入れよう。
セイに拒まれたあの日から、美琴は人目を避けるようになっていた。ギルドにも顔を出さず、依頼も断り、自室にこもる日々。
何もかも、輝いていた世界が色あせて見えた。
(……これが、私の本当の姿なんだ)
スキルも、美貌も、セイの心をつかめなかった。じゃあ私は――何者だったんだろう。
ベッドに横になったまま、枕元の懐中時計をぼんやりと見つめる。時がただ、過ぎていく。
だがある日、部屋の扉がノックされた。
「……ミコト、いるか?」
その声に、美琴の心臓が跳ねた。
ゆっくりと扉を開けると、そこには、少しやつれた顔をしたセイが立っていた。
「話、できるか」
美琴はただ、こくんと頷いた。
広場の隅、誰もいないベンチに並んで座る。
しばらくの沈黙の後、セイが口を開いた。
「……俺さ、ずっと怖かったんだ」
「怖い?」
「うん。大切な誰かを信じるってことが。……裏切られるのが、怖くて」
それはきっと、彼が背負ってきた過去の痛みなのだと、美琴は直感で理解した。
「だから、最初から疑って……本当にバカだった」
セイはポケットから、小さな木彫りの飾りを取り出した。
「これ……昔、命を助けてくれた“誰か”にもらったんだ。ずっと忘れてたのに、最近、夢で思い出して……」
美琴の手が、震えた。
「……それ、私があげたの。あのとき……車に轢かれた子を、庇って……」
セイの目が大きく見開かれる。
「……あれが、君だったのか?」
こくり、と頷く。
沈黙。けれど、それは苦しいものではなかった。
やがて、セイはそっと美琴の手を取った。
「命をもらったんだ、あのとき。だから、今度は俺が君を守りたい」
その言葉が、美琴の心に静かに染み込んでいく。
「……私、全部を捨ててもいいと思ってた。チートも、美貌も、スキルも」
美琴は、涙をこらえながら言った。
「私として、あなたに会いたかった」
セイは微笑んだ。その笑みは、初めて見せてくれた優しさだった。
「君として、俺はもう……十分惹かれてるよ」
自然と、ふたりの距離が近づいていく。そっと、指先が触れ合い、唇が重なる。
それは、能力でも運命でもなく、ふたりが“選び取った”恋の証だった。
夜空には星が瞬き、街灯の下、ふたりは手を繋いで歩き出した。
もう、美琴は怖くなかった。
たとえスキルがなくても、美貌がなくても、自分はここにいて、セイが隣にいる。
「ねえセイ、これからも、たくさん喧嘩するかもよ?」
「いいさ。そのぶん、たくさん仲直りすれば」
「……へへ、ずるいこと言う」
笑いながら歩くふたりの背中を、月明かりが優しく照らしていた。
一度目の人生が無駄じゃなかったって、今なら胸を張って言える。
この恋は、誰の力でもない。私が選んで、選ばれたものだから。
――最終話 完
ここまで読んでくださったあなたへ――本当にありがとうございます。
美琴は、“魅了スキル”と“絶世の美貌”というチートを授かりましたが、本当に欲しかったのは「ただの自分」を見てくれる誰かでした。
人に好かれることと、愛されることの違い。自信と自己肯定の狭間で揺れながら、それでも前に進もうとする彼女の姿が、少しでもあなたの心に残ってくれたら嬉しいです。
ちなみにこの作品、最初に女神のキャラが暴走しすぎて、下書きが一度ギャグファンタジーになりました。途中で「これ恋愛ものだよね⁉」と我に返り、慌てて軌道修正したのは秘密です(笑)
最後に。
過去に苦しんだ人も、今まさに何かに悩んでいる人も、「自分なんて」と思ってしまう瞬間があるかもしれません。
それでも――きっと、誰かは見ていてくれる。誰かの心に、ちゃんと届いている。
この物語が、そんな“希望”をそっと灯せたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
また別の物語で、あなたと再会できますように。
心からの感謝をこめて。
一ノ瀬和葉