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親しい子となんやかんや

親しくない子となんやかんやあって親しくなる話。

作者: ほな

 大雨はいつも、予告をしてから現れるものではなかったみたいだ。

「あー……」

 いろいろあって他の子たちより遅めに家に帰る事になった私は突然と空から降る、前が見えないくらいの大雨についため息をこぼしてしまった。

 これも梅雨なのかな。夏雨とも言われていた気もする。

「………」

 ただの雨だったらちょっと無理して走って行ったりしたかも知れないけど、流石に前も見えないし音も部室の中まで響くくらいの雨は無理だ。

 でも、体育系の子たちは問題ないのかな。走ってる。

 水滴たちの合間からちょっただけ見える外からはこんな大雨にも関わらず走っている陸上部の……違うか。中に走って逃げるみたい。

 流石にこんな雨に外でいるのは無理か。

 まぁそうだろうねぇ。どれだけ雨が好きな人だったとしてもこんな時に外に出たりはしないんだよね。これ外出たら一秒でずぶ濡れになるよきっと。

「ぅひゃっ!!?」

 突然、ぱんって音がするくらい勢いよく部室の扉が開かれた。

「ふーぅ……」

 同時に聞こえる、誰かの息を吐く音が聞こえる。

「ぁん…?あら、こんばんは。」

 そっと扉の方を見ると、髪の毛や服や、全てのとこが雨によって濡れそぼってて、後ろに束ねた髪の毛の先っぽから水がぽたぽたと落ちていた同じ部活の子がいた。

 前髪を目が半分見えないくらいに伸ばしといて、敢えて片方はヘアピンで固定していて、右目がとても頭に残っていた。今は髪が張り付いて左目が全然見えない。

 スカートの丈は長めなのに、シャツのボタンは開けっ放しで、不良にも見えて真面目っ子にも見えて、それがずぶ濡れになってて、なんだか不思議だ。

 でもあんな状態なのに挨拶は忘れない。

「うん……こんばんは」

 今の濡れた姿と、挨拶する姿が相まって、なんだか物語の中に出て来るギャルっぽく見えるな。いつもとちょっと違う。

「………」

 なんて事を思っても、そもそも親しい関係でもないので。

 会話は挨拶だけで途切れてしまう。

「小泉さん。」

「ぅ、うん?なに…?」

 このまま気まずい空気になると思ったらなんか声掛けられた。

「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな。」

 私の目をじっと、はっきり、力強い眼差しで眺めながら言った。

「な…んでもいいよ?」

 人の目にはいろんな感情が現れるとか、どこかで聞いた事がある。

 つまりこの子は自分の全てを曝け出して私に助けを求める――

「隣座ってもいい?」

「ぅえ?」

「濡れてるけどいいのかなって。」

「いいよ……?」

 んじゃなかった。

「ありがと。濡らしたらごめんね。」

「………うん」

 なんだか、礼儀正しい子だな。

 見た目は漫画とかに出るギャルとそっくりなんだけどさ、スカートは長いけど、とにかく見た目からすりゃ隣座るねーとか言って無理矢理座りそうなのに全然違う。

「ふぅ……」

 私の隣に、ちょうど椅子一つくらい入るくらい離れたところに座ったところをじーっと眺めて見る。

 束ねた髪の毛を解いて鞄から取り出したタオルで体を拭いている。

 つねにタオルを持ち歩いてるのかな。

 なんか不思議だね。普段は関りも一切ない子をこんなに近くでじろじろと眺めるの。観察してるみたい。昆虫の観察みたいな……

「ねね、チョコ食べる?」

「あー…?」

「チョコレート。黒くて甘いの。」

「いや流石に知ってるけど…」

「食べる?冷めた体にはいいんだって、チョコレート。」

 そう言って鞄からチョコを二個取り出して、一個は自分の口の中に。もう一個は私の手が濡れないようにハンカチで包んで渡してくれた。

 鞄の中にいろいろ、多いなこの子。

「んん、甘いねやっぱり。私甘いのはあまり好きじゃないんだ。」

 あまりって言う割には、チョコを食べて顔がにやにやしてる。

「小泉さんはどう?好き?甘いの。」

「好きか嫌いかで決めたら、嫌いかな」

 なんだか、普通だね。

 遠くから見た時はなんだか見た目も性格もキラキラしてるイメージがあったのに、こうして近くで見ると普通だ。

 違う種族の人間なんだろうなって思ってたのに。

「じゃあ何が好き?塩の味とかが好みなのかな。」

「うん、しょっぱめのが好きかも」

「ほぇー。ポテチも塩味が一番好き?」

「そういう感じかな」

 それに会話が出来てる。不思議。

 とっくに気まずい空気になってスマホだけ弄るんだろうって思ってたけど。

 ギャルってこういうのかな。

「実はね、ひひ…私も塩味が好きなんだ。」

 へらへら笑っても軽薄には見えないから不思議。

「ふぅん」

 なにかすごい秘密でも教えたかのように、どこか自慢げな顔にもなってる。

 ちょっと可愛いな。

「だからいつもポテチ持ち歩いてるの。」

「へ?」

「私が一番好きな塩味はこれだよ。安くて美味しくて、五日に一回は食べてる。」

 鞄からポテチを取り出した。

 本当、鞄の中にいろいろ多いな。

「好きなのに五日に一回食べるの?」

「食い過ぎると太るからねぇ。出来れば一日一回は食べたいよ。」

 ポテチを一個摘まんで、私の口元に押しつけて来た。

「食べない?」

 私がそれをじっと見つめてたら、不思議そうな顔でこっちを眺めてくる。

 ギャルってこういうのなのかな。そもそもこの子ってギャルって言っていいのかな。その前にギャルってなんだろうね。元気な子の事なのかな。

 よくわかんなくなってきた。

 取り敢えず食べてみよう。

「どうどう?」

「うまい」

「ふふふ、そうなんだ。実はね、これみんなしょっぱいから嫌がるんだよね。口の中が嫌になって食べたくないとか言って。まぁその分私が多く食べれるのはいいけど、やっぱりお菓子って一緒に食べたくない?」

「なるね」

「でしょう?」

 にこにこ、よく笑うね。赤ちゃんみたい。

「ねね小泉さん。」

「どうしたの」

 喋り方とか、見た目とか、どこか年下感があって可愛いな。

「私ちょっと寒くなって来た。それでね、ちょっと思ったんだけど……ここの服着てみない?二人で」

 ぱっと私の前に立って、腕を広げてぐるりと回る。

 水滴が顔に飛んで来た。

 周りの服もちょっと濡れた。

「いやいや、部活の備品を勝手に使おうって意味じゃないよ?演技の練習をしようって事。私も小泉さんもいつかやるかも知れないじゃん演技。その時の為に、練習。予習するの。」

「私は台本を書く側だよ?」

「ならもっと着るべきだと思うよ私。やってみなきゃわからない痛みとか、幸せとかがあるんでしょう?」

 あんま関係なさそうだけど、肩が震えるのが寒さのせいだとしたら断るのもあれだな。服くらいは着てもいいんだろう。

「ま、いいよ」

「じゃあじゃあ小泉さんこれ着て?似合うと思うよ。」

「いや流石にドレスは……」

「まぁまぁ、似合うんだって。私を信じて?」

 こんなひらひらするドレスなんて一度も着た事ないから、流石に抵抗感ある。

 でも、勧められたから……着てみようかな。

 もしかしたら似合うかも?

「ふんふん、これもよさそうだなぁ。それ着たらこれも着よ?」

「まだ着替える前だけど…?」

「いいじゃんいいじゃん。服くらい」

 そう言われて結局、服を何着か押しつけられてしまった。

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