私の英雄
「はぁ…はぁ…!アイシクルランス…!ファイアブラスト…!」
氷槍が飛び交い、炎が広がる。ディネリンドがボロボロになりながら桁外れの魔力をほぼ使い、魔法を行使する。それでもまだ半分もオークの軍勢を削れていない。しかもその奥には10メートルほどの大きさのオークキングもいて…
「まだ…!」背後から迫っていたオークが、大きな棍棒を振り下ろしてきて…
「─しまっ…!」
……ディネリンドをギリギリで守る、白髪の剣士。身体も心も限界だと言うのに、ディネリンドは笑みを浮かべていて。「遅いよ…!リア!」
「間に合って、よかった…!」リアが復帰、オークを切り刻む。
「なんとか、援軍は呼べた…けど、少しだけ。ざっと20人くらい。」
騎士団長が渋りに渋って、まさかの王国の危機なのに20人だけ。その20人も怯えていて…
「─みんな、二人一組でオークと戦って!…わたしは、オークキングとやってくる…!」両足に力を込めると、大きく飛び出す。リアは一瞬でオークキングの目の前まで跳び…
「……私の親友に傷をつけた罪…償ってもらうよ
!!」
全身から怒りが溢れ出す。嫌な感じだけれど、今は気にしてられない。剣を引き抜いて、オークキングに振り抜く。頸を刎ねようとするも、硬すぎて刃が通らない。
「────!!」オークキングが咆哮と共に生えている木を引っこ抜き、棍棒のように扱ってくる。リアが吹き飛ばされ…
「……」あいつが、憎い。「……」あいつを、殺したい。
「……」あいつさえ、いなければ。「……」あいつを殺せる、力さえあれば。あいつを……
「…殺ス」オークキングの腕が、切り落とされる。オークキングの腕の上に立つのは…両目が紅く染まり、凄まじいオーラと威圧感を誇るリア。
「ココデ、殺ス」剣を投げ、オークキングの目を撃ち抜く。「ナイトホロウ」闇を纏わせた脚で、オークキングを蹴り殺す。オークキングの顔面が抉れ、消し飛び…その間、5秒。
『Lv UP 10→17』
「──かはっ…」オーラが消え、普段のリアに戻る。立つのもやっとなくらいのリアに…
「──リア…!」ディネリンドが、抱きついてくる。
「ちょ、危ない…っ…」「大丈夫!?あんな勢いでぶつかって、怪我とか…」
リアはなんとかディネリンドを引き離す。
「怪我してるのはディネリンドの方でしょ…一人でずっと戦わせてたし…」
オークの残党も討伐したようで、兵士たちが喜んでいるのが見える。
「…国を救った英雄、なんてならないかもだけど…それでも、多少過ごしやすくなればいいけど。ほら、ディネリンドも早く離れなよ。仲間と思われるよ?」「えっと…ね、そのことなんだけど…」
ディネリンドは気まずそうに、口を開いた。
──要約すると、リアを追いかけるために捕縛しようとしてくる衛兵を倒してしまったから、既に半魔の仲間扱いされている…と。
「じゃ、本当にお尋ね者じゃん。どうするの?」
「国が融通利かせてくれればいいんだけど、交渉も私たちじゃ無理だし…近くの国に行くしかないでしょ。」
王国に留まるのが難しい以上、さっさと逃亡するのがいいんだろう。
「あーあ、勇者とは程遠いな。」
リアがつぶやきながら進んでいく。国から狙われる勇者がどこにいるのか。そんなことを思って…
「……でも。」立ち止まっていたディネリンドは、心底嬉しそうに呟く。
(間に合って、よかった…!)
「……今も昔もリアは、私の英雄なんだよ。」
「…?ディネリンド、早く行こ?」
リアがこちらを振り返り、手招きする。
「あ…ごめん。今行くね!」