『嫉妬』
「……ここが、わたしの精神世界?」
目の前に広がるのは白黒の世界。これがわたしの精神だと言うなら酷い話だ。馬鹿にされてるのだろうか。
「──あれ?ディネリンド?」あたりを見回すがどこにもいない。
変わりに目の前にはリアよりも少し小さい幼女が立っていて。髪色は白色、右手には蛇の巻きついた杖のようなものを持っている。
「なんだ、ニンゲン。また来たのか。今度はオレ様を調伏するつもりで来たのか?…いや、オレ様ではなく、メインはこっちか。」
幼女が杖を振るうと、そこに大きな白蛇の口が現れて。そこから吐き出されたのは1人の少女。黒髪に黒い剣、紅色の目に、額に生えた1本の角。リアにそっくりな顔つき。
「ッ…!アナタ!2度目、後からやって来たくせにワタシを喰らおうとするなど─」
「喧しい。」大蛇の口が彼女を…偽リアを喰らう。
「オレ様に魔物風情が逆らうな。まったく…先にいたからなんだというのだ。短絡的思考しかできないその脳が妬ましくて仕方がない。」心底妬ましそうにしている幼女。その異質さに少し怖気づいていて。
「ん?…あぁ、まだいたのか。見ての通りだ。ニンゲンが調伏しようとしていた魔物は我が喰らった。用はないだろう。さっさと帰れ。」シッシッと手で追いやってくる幼女に向かい、恐怖ですくんだ喉を動かして…
「わたしは、力が欲しいんだよ…!誰だか知らないけど、ハイそうですかって帰れない…!」
「…何を言って…いや、オレ様が記憶を消したんだったな。…ホラ、さっさと思い出せ。」
瞬間、脳に激痛が走る。ほんの少しだけの時間の記憶が流れ込む…それだけと言えばそれだけだが、数分間の事象を一瞬で脳に叩き込まれる感覚に悶え苦しんで。
「っ、あ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」
リアは地面に倒れ込む。叫び、悶え、転げ回る。脳が事象を整理するまで。整理する時間はたったの数秒。なのに、まるで数時間経ったような苦しみを味わって。
「五月蝿いぞ、ニンゲン。こんなことでギャースカ喚くな。」
床をのたうち回って悶えるリアを掴み、座り込ませる幼女…レヴィアタン。
「はぁっ…はぁっ…!思い、出した…!」呼吸を整えるリア。それを見下ろすレヴィアタン。レヴィアタンは無数の白蛇を集め、小さな丘のようなものを形成して。その上に白蛇で作った椅子に座り込み、見下している。
「漸くか、ニンゲン。オレ様を待たせるんじゃない。」
「記憶を消した、本人が…何、言うかと思えば…」剣を杖代わりにして立ち上がるリア。しかし調伏対象の魔族の血であろう、偽リアは消えてしまっていて…
「…あぁ、調伏か。生憎、もうオレ様が喰った。…気分がいい、特別にオレ様の正体を教えてやる。オレ様は『嫉妬の悪魔』レヴィアタン。オレ様達『七大罪の悪魔』はな、七大罪に対応する感情の高まりに応じて現れる。…ニンゲン、オレ様はニンゲンの嫉妬心に応じてやったんだ。自覚はあるだろう?」
「わたしの、嫉妬心…」記憶を巡らせる。わたしが嫉妬したタイミング。エクスカリバーを抜こうとした時が浮かぶ。が、そこで嫉妬をしていないはずだ。なのになぜ浮かぶのだろうか。もう一つ浮かんだのが…レヴィアタンが体を操っていたタイミング。そう。
「…黒鴉との、戦闘中…」
ぱちぱちと、やる気のない拍手が鳴り響く。
「そう。オレ様が『体を操った』のはそこだ。…じゃあ、オレ様がニンゲンの精神世界に現れたタイミングは?……わかるわけないだろうな。現にオレ様もさっきまでわかってなかった。この程度の嫉妬なら、他にもゴロゴロいるもんでな。」手を2回鳴らすと、足場になっていた蛇が去っていって。
「妬ましいことにその記憶はな、オレ様が喰ったニンゲンの魔物の血に詰まってる。まぁオレ様が喰ったんだが。思い出したけりゃ─」レヴィアタンが言い終わる前に、レヴィアタンの喉元へ剣を突き出す。
「おっと。」
「─思い出したければ、お前を調伏すればいい…でしょ?」構えを取る。一回戦った身だ。何が起こったかは当然分かって─
「まぁいい。ニンゲンが満足するまで相手してやろう。自由に動き回れるニンゲンが妬ましくてしょうがないところだ。」
もう一度…あの時と同じように、腹を、蛇が貫いて。




