人か魔物か、蛇か鴉か
視界が揺らぐ。斬られたことに気付くより先に、わたしの視界に黒鴉の仮面が映り…その顔に、仮面の奥に、わたしを憐れむような顔をしているように感じて。
「──」ディネリンドとアミニスがこちらに駆けてくるのが見える。ディネリンドは何かを叫んでいるようだ。アミニスは落ちている剣で斬りかかっている。
…いや。
そんなことはどうでもいい。
わたしを憐れむのはいい。
「─貴様ら2人も、半魔に巻き込まれて大変だっただろう。」
信頼してくれたディネリンドを。
「今楽にしてやる。」
ついてきてくれると約束してくれたアミニスを。
「お前如キガ、皆ヲ語ルな…!」
影が蠢き、実体を持って動き出す。切り裂かれたわたしの肉体を包み込み、楕円の形に覆って。
「…それが貴様の魔族の血か?」
黒鴉が刀を構え、影のドームに振るう。刃は驚くほどすんなりと影を裂き──
「──ァ」
小さく、か細い声だった。小鳥のさえずりのような小さい音。…それでも不思議なほどに耳に入り込む声。…それだけで、そこにいる存在の異質さには十分だった。
小さな小さな声も物音も、それの奏でた音なら捨て置けないという本能に黒鴉の身体が従っただけの話。
黒く穢れた影の卵から、彼女が君臨した。
それだけのことだった。
「ァハ ヒヒ フハ」
大蛇を思わせるほどの威圧感、ディネリンドとアミニスの全身の筋肉が竦んでいる。アミニスはディネリンドを連れて遠くへ離れたようで…
「──なんですかあれ!眼鏡魔法使いさんならわかるんじゃないです!?」
「わ、分かんない…あんなの…見たことないから…」
目の色は黒く濁っている緑色の目に変わり、髪の色も白色から毛先にかけて緑色に変化していて。肌のところどころに緑色の鱗が貼り付いており、ローブの下からは鱗に覆われた尻尾が生えている。おおよそ人間とは思えない笑みを浮かべ、黒鴉に向けて右手を振るい──
「──っ!さっきまでとは違う…魔力も溢れている、圧も強い…なのに、殺気を感じな──」
後ろに引いて、頬を掠めるだけで回避した黒鴉。魔族の力を解放しながらも目を離さずにいて、いつでも反応できるように──
「ァ アソ ボ ?」
気配を全く感じさせずに、尻尾で攻撃を打ち込む。鱗が棘のように変質して食い込み、黒鴉を吹き飛ばして…
「チッ…仲間の理解者面をされたのが気にでも触れたか…?くだらない、ちっぽけなものだ。」
吹き飛ばされたものの、魔族の血を解放した+両腕でガードしたので軽傷で済んだそれはもちろんこの力に慣れてきたこともあるだろうがリアが魔族の力を使いこなせていないことが問題であり
「リカ ィ?」
リアの顔から狂ったような笑みが消え、顔が憎しみに…嫉妬に染まっていく。
「チ ガウ チガ ウ チガウ チガウチガ チガウチガウ」
リアの身体がミシミシと音を立て、変化し…
「ヤ マカ ガ シ」
黒鴉の背後、リアは右腕を振るう。鱗の生えそろった腕で脳天を打ち砕こうという動きに加え、手首から先は蛇に変化していて。
「──っ…!」
黒鴉が反応するより先に、リアの腕が脳天へ直撃する。蛇となった手は黒鴉へ噛みつき、吹き飛ばす。
「…躱せなかった…?なぜ…奴の速度は増しているわけではない…なら──」魔族の力を使い強化しガードした黒鴉。吹き飛ばされた先で思考。その思考力が途端に落ちて…
「っ…思考阻害…なんらかの方法で…」黒鴉の中で無数の可能性が駆け巡る。時間、空間、タイミング、武器、攻撃、防御、能力、見た目、蛇、牙、かすり傷、腕、脳…
「毒か…!」
普段なら数手、時間にして0.1秒にも満たずに結論に向かう思考。それを引き延ばし、およそ1秒にまで…10倍の時間を要するまでの毒を脳に打ち込まれた。かすり傷をつけてしまった腕にも同じ毒を打ち込まれたとすると、毒の回りが早まっただけかもしれないが。
「ユル サナ」
追撃、左腕を蛇に変えて振り回すリア。黒鴉は見てから反応では脳への伝達、及び脳からの指示が間に合わないと身体が理解、無意識に魔族の野生の勘と経験をフルに使用。
「魔族の力は血の持ち主の力と血の量を元とする…貴様はどれほどの魔族の血を受け継いでいるのだ…!」
空中に回避した黒鴉。眼前に立つ怪物の威圧感か、はたまた思考阻害の毒か。黒鴉は気づくことができなかった。
「──っ…!?」
初撃と二発目の傷で打ち込まれた毒が思考阻害の毒と信じてやまなかった黒鴉の両腕。それが一瞬、動きを止める。
「フフ」
無防備な黒鴉を尻尾で殴打。地面に叩きつけ、追撃を──というところで、リアの身体がもとに戻る。




