理想と現実
『そもそもあたし達ってなんで戦うんでしたっけ?理由ってありま─』
「魔王を倒すなら、四天王を潰さないと駄目だよ。」
ルマエルとの小競り合いを終え、互いに距離を取ってはこちらを振り返るアミニス。そんなアミニスの言葉を遮るディネリンド。
『ですが』
「黙って戦って」
『……はーい。』
余計な口を効くアミニスを黙らせ、ディネリンドも魔法を用意する。リアもアミニスに並び、ディネリンドを後衛にして援護に集中させる形に。
「…違う…みたいね。」
独り言のような、憐れむようなルマエルの声が耳に入り込んでしまう。
「どういう意味なのかな?」
ディネリンドがルマエルに問いかける。驚きだったのか、一瞬目を見開いたルマエルはすぐに笑みを取り戻し…
「いいえ、わざわざ私が言う必要は無いと思うわよ?」
あえてからかうように、斬りかかるアミニスとリアの2人の刃と拳を合わせ鍔迫り合いをし、鼻で笑いながらディネリンドに言葉を返していくルマエル。
「だって、そうでしょう?」
「──黙れ」
ディネリンドの言葉も、焦りも、全て無視してルマエルは続ける。
「貴女はもうとっくに─」
「黙れぇっ!!フレアストームっ!!」
火炎の嵐が、ルマエルを包み込む。…が、涼しい顔で嵐を掻き消され…そして、ディネリンドに一瞬の隙が生まれる。
「─とっくに、狂っているじゃない。」
顔が、身体が、溶けてしまっているリアとアミニスを前に生まれた隙。それをルマエルが逃がすわけもなく、反撃の魔法を構え…
「黙れ黙れ黙れぇ!リア!!」
「…っ!?」
半身が溶け、不格好な氷人形が刀を振り抜く。ルマエルの魔法を妨害すると同時、憎しみを込めて魔法を放つ。
「ライトニングレイン!!」
氷人形を巻き込んだ光線の雨が、ルマエルを撃ち抜く。
『モう、ディネ リン ド?痛 いジャん か?』
最早原型すら残っていない氷人形は、それでもディネリンドに笑いかける。いや、笑いかけているのかも分からない。顔も体も大半が消えてしまっている氷人形を前にディネリンドは…
「…ふふっ…あははっ…そう、だね、ごめんね、リア。」
ケタケタと笑い出し、魔力を更に溢れ出させる。
『あ アタ しモ い いま まスヨ !!』
巻き込まれたのだろう、もう一つのボロボロな氷人形が来る。
「……独り言はまだ終わらないのかしら?それとも、自覚がないのかしら。なら、現実を見せてあげる。」
風の刃が、一瞬で2つの氷人形を細切れにする。ディネリンドの周りを舞う氷の粉を前に、ルマエルは嗤い…
「貴女の大切なお仲間は、とっくに死んでるのよ。」
現実を突きつけられ、氷人形を打ち砕かれたディネリンド。そんなディネリンドはというと…
「あははっ、そう、ふふっ、だよね?あは、分かったよ?ふふ?」
ルマエルの言葉など聞こえていないかのように上の空、壊れた人形のようにケタケタと嗤い続ける。
「ふふ、アハッ!」
ルマエルの立つ大地が盛り上がり、上へと弾き上げられる。追撃の岩の棘がルマエルを串刺しにしようとするが、すんでのところで躱されて。
「─っ!現実から目を逸らして、貴女に意味はあるのかしら!!」
ルマエルの翼を貫き、飛ぶという手段は潰せた。が、風の刃を無数に飛ばしてくるルマエル。魔力障壁を展開し、受け止めるディネリンド。1度目の戦闘のように障壁が砕け散る様子はなく…
「アハッ!フフフッ!二人とも!ちゃんと見ててね!私が『英雄』になる、その一歩!サンダーカノン!」
杖を振るディネリンド、電気を溜めたレーザーのような魔法でルマエルを狙う。発射というタイミングで─
「…何を言っても、聞く耳を持ちそうにないみたいね?…仕方ないわね。──ラクネ!」
不思議な糸のようなものが、ディネリンドの手に絡みついて方向をずらす。ルマエルの反撃を防ぐため、そして糸を焼き切るため魔法を使用しようとし──
「──改めて、はじめまして…かしら♪」
聞き覚えのある声に、意識を向ける。何か憎悪のような、殺意のような、リアに抱いていた十数年物の憎しみに比べれば小さいものだけれど、確かに憎しみを思い出す。
「もう一度、自己紹介を…♪わたくし、『四天王』が一角…ラクネ、と申しますわ♪以後お見知り置きを♪」
まるで修道着のような、それでいてドレスのような衣装を纏い、スカートの裾を軽くつまんでお嬢様のようにペコリと一礼。…その動きが、あの時のサキュバスの子供と重なって。
「ふふっ…!ラクネ…ラクネ!あの時の!ふふ!あははっ!!」
自己紹介の一言一句、仕草、頭に響いていた声色、全てが数日前のこの森での戦闘と一致する。炎で全身を包み糸を焼き払う間に、ラクネとルマエルは合流していて。




