花形の降臨
──身体が揺れる感覚に目が覚める。ガタゴトと音を鳴らしながら揺れる身体に、布張りの天井。
「……馬車…?」
詳しい話を聞いたけれど…玉藻前とルーマが去ってから、おおよそ2日経過したよう。アミニスの頭のケガはそこまで深くはなかったようで、ディネリンドの傷も全力の魔力保護のおかげで軽減されたよう。…リアはというと、黒いアザが右手首を覆っているらしい。包帯が巻かれていて見ることは出来ないけれど…魔族の血に身体が耐えられてない…とかなのだろうか。
「馬車はカーナ村にあったやつなんだろうけど…でも、何処に向かってるの?」
運転はディネリンドがしている様子。どちらかは答えてくれるだろうと思って問いかけるが…
「「ヴァリータウンですよ/だよ。」」息ぴったりで何より。
「あたしの愛刀を探すのもあるんですが…故郷こと西側に落としたので、東側の国々には無いはずなんですよね。…でもまぁ、あたしの大脱走は王国にも伝わってると思うので!一度東に逃げて、西側に配属された兵を引き付けてから撒いて愛刀を獲りに行こうと!」
…何を言ってるのかあんまりわからない。
「それは勝手にすればいいけど…アミニスの話だと、西側にたくさん衛兵がいるから、東側は安全かも、だってさ。」
…よくわかる。ディネリンドは凄い。
「いやはや、久しぶりに戦闘をしてみましたが…Lvリセットにスキルの封印…なんとも弱ってしまったものですよ!昔の状態で威風堂々本気のマジの100%全力ならまだあったかもしれませんが!」
ホラを吹いているのか、アミニスは笑いながらそう語る。……Lvリセット。主に罪人を処刑する際、抵抗できなくするために行われる、教会のみでできる術。
「まぁ、なんでもいいか。……で、そのヴァリータウンってどこにあるの?」
「もうすぐですよ?そろそろ見えてくるかと!」
馬車の窓から2人で顔を出す。風を受けながらも前を見ると…
「わっ…」岩肌…というより、崖に面した街があって。
崖の横壁に家が建てられていたり、崖と崖を橋で渡されていたり。
「崩れちゃいそうだけど、大丈夫なの?」
ふとリアが疑問をこぼす。それに答えたのはディネリンドで…
「あれは…魔石の系譜…かな…?魔石自体、魔力を山程持ってるから…それを加工して…浮かぶようにして、足場にして立ってるのかも…?」
魔石…と言っても、それくらいは知っている。生活の支えとして欠かせないものだから。確か、魔石から魔力を取り出して自分の魔力を補給するのは不可能だー…とか言われてて、代わりに魔石に文字を刻んで、能力を付与するのが定番だったっけ。
「──おや、東側だとこういう魔物もいるんですねぇ!」思い出していると、突然アミニスが馬車から飛び出す。そちらにいたのは…ドラゴン、というより大きなオレンジ色の蜥蜴。アミニスは腰の刀を抜き…
「さぁ、楽しんでいきましょう!」蜥蜴の尻尾を切り落とす。逆上した蜥蜴の前足が振り下ろされ、アミニスを見るも無残に踏み潰し…
「──そんなものではないでしょう?」
そうだった前足の上に、アミニスが立つ。
「あたしがもっと、全力を引き出してあげますよ!『影の立役者』!」
アミニスがそう宣言するや否や、蜥蜴の攻撃の速度が増す。 全てをアミニスは躱してゆき…
「やるじゃないですか!それではこちらも!……『花形降臨』!」アミニスのスピードも増す。回避をしながら…ジワジワと蜥蜴の四肢を切断、大きく上に飛び上がる。蜥蜴が反撃を構えながら…「それでは、閉幕!」刀を上から振り下ろし、斬撃が蜥蜴を一刀両断。蜥蜴が大きく血を吹き上げ、そんな蜥蜴の後ろにアミニスが立ち…ペコリと一礼。