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助けられたのはお姫様

 ――◆◇◆◇――


「あの方はいったい……」


 エルドが足早にその場を立ち去った後、少女は呆然とした様子でエルドの差って言った方角を見つめ続けていた。

 こんな呆けている時間などないと頭の冷静な部分ではしっかりと理解しているはずなのに、どうしてか気になってしまう。それは助けてもらったせいか、あるいはそれ以外の理由か……


「姫様! ……!? これは……!」


 少女が呆けていると、先ほど少女が姿を見せた曲がり角から新たに女性が姿を見せ、少女のことを〝姫様〟と呼びながら駆け寄ってきた。

 だが、その途中で突然足を止め、道の真ん中で地面に倒れ伏している二人の男性のことを見降ろしながら戸惑った声を漏らした。


 彼女は少女の――この国の王女の護衛であり、彼女のことを敵から逃がしたものでもある。だが、逃がしたとは言っても追手がかかっていたことは理解しており、そのために多少の危険を承知で無茶な行動をとってでも急いで王女の許へと駆け付けたのだ。


 だが、護衛の彼女からしても王女に追手を倒すだけの能力があるとは思っていなかったようで、倒れている敵の二人を見て驚き、困惑したのだった。


「あ、レイネ」

「『あ、レイネ』ではありません! なぜまだこんなところに……くっ!」


 どこか気の抜けた声で自身の名前を呼ばれた王女の護衛――レイネは、なぜか足を止めている王女のことを咎めようとしたのだが、その途中で彼女たちのことを狙うように矢が飛んできたことで話は中断させられてしまった。


「不届き者め……この方を狙うことの意味を理解しているのだろうな!」


 飛んできた矢を防いだレイネは、路地裏の奥、そして両脇の建物の上にいる敵を見回し、睨みつけながら叫ぶ。


 実際、敵は王女を狙ったのだ。その結果どうなるかといえば、良くて死刑。悪ければ関係者のしんぞくまで拷問の末に処刑となる。貴族であれば家の取りつぶしもそこに加わるだろう。それほど重い罪だ。いくら犯罪者だとしても、正気であれば決して行わないような所業である。


 気づかずに襲ってきた、というのであれば今の言葉で混乱するか、そのまま逃げただろう。

 だがそれでも逃げないどころか混乱すらしないということは、それだけ確固たる意志を持って『王女』を殺しに来たという事だった。


「クソッ! 先ほどよりも増えているだと? これでは増援が来るまで耐えるのは……」


 レイネ一人では王女を守りながら三人と戦うのは厳しい。そう感じていたにもかかわらず、路地の奥から更に追加の敵が現われた。


 どう考えても自分だけでは敵を倒すことは出来ず、ひいては自身の主である王女を守ることもできない。


 そう判断したレイネは、深く息を吐き出すと正面を見たまま背後にいる王女へと話しかけた。


「姫様。すぐ近くに大通りがございます。流石に奴らも人目のあるところで襲ってきたりはしないでしょう」

「だ、ダメです! 何を言っているのですかレイネ!」

「ですが、私が足止めをするほか姫様の助かる道はありません!」


 そもそも、その足止めすらもどれほど持たせることができるのか分からない。運が良ければそれなりに長い時間を足止めできるかもしれないが、まず間違いなく自分の命はなくなるだろうということは理解していた。

 だがそれでも王女を活かすためにはそれしか道が無いのだ。


「姫様。早く!」


 逃がそうとするレイネの行動を受けて、今度こそ逃がす者かと襲撃者達は一斉に動き出して二人に攻撃を仕掛けた。


 守りたい。守れない。でも守りたい

 どうにかしないと。どうすれば。


 そんな思いが王女の頭の中で渦巻き、そして二人に攻撃が当たる直前で一つの考えが浮かんだ。


「でも……だめ。どうか……助けて!」

「こ、これはっ……!?」


 王女が手で握りしめていた指輪に力を込めながら助けを求めるように叫ぶと、二人と襲撃者を隔てるように『黄金』色の魔力で造られた壁が出現した。


 その壁によって攻撃は全て受け止められてしまう。普通ならばそこで攻撃を止められたからといって諦めることなく追撃が行われるのだろう。


「お、『黄金』の魔力、だと……!?」


 だが、誰も動かない。

 誰もが動きを止め、出現した『黄金』に目を奪われている。だがそれは当然だろう。なにせ今この場にいる全員にとって、『黄金』というのはそれだけ意味があるものなのだから。


「こっちだ! 王女殿下をお守りしろ!」


 誰もが動かず、まるで時間が止まってしまったのではないかと思えるほど静まり返った空間に突然怒鳴り声が響いた。薄暗い路地に『黄金』の輝きが現われたことで王女のいる場所に気が付いたのか、援軍である騎士達が駆けつけてきたようだ。


 襲撃者たちはそれでも王女を殺そうとしたものもいれば、少し迷った後に逃げ出したものもいたが、結果として王女は命の危機から脱することができたのだった。


「ひ、姫様……! 『黄金』に目覚められたのですね!」

「い、いえ。これは……」


 王女の安全を確保することができたことで、レイネも気が緩んだのだろう。まだ一応安全な場所というわけではないにもかかわらず、先ほど見た光景――『黄金』について王女へと話かけた。


 だが、王女としては自分で使ったという意識がなかったため、困惑しながらもなんとなく先ほど渡された指輪へと視線を落とした。


「あ……指輪が……!」


 ぴしりと音を立ててひびが入ってしまう指輪。もし下手に触ればそれだけで壊れてしまうのではないかと思えるほどもろくなった指輪を、大事に大事に両手で包み込み、祈るように目を瞑った。


「この指輪は……あの方はいったい何者なの……」


 その言葉は誰にも届くことなく、誰も答えることはなかった。


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