――『黄金要塞』
「――〈世界を照らすは我が栄光! 我が身は輝き、その足跡は光を放つ! 大地よ! 生命を育み命を支える偉大なる大地よ! 我らの輝きを曇らせる敵に怒りを示せ! 誇りを示せ、我が光輝! 白銀葬!〉」
砕けた残骸が落下したことで、その残骸をどうしようかと考えていると銀男から魔法の詠唱が聞こえてきた。
魔法は、呪文を唱えれば効力が上がる。というか、本来の力を出すことができると言った方が正しいか。けど、毎回そんなことを口にしていたら時間がかかってしょうがない。それは戦闘中では致命的だ。だから普段はあまりみんな詠唱なんてしない。詠唱をした方の威力に慣れてしまえば、いざ戦闘って時に自身の想定とは違う結果になりかねないから。
そんなことは奴も承知しているだろうに、それでも詠唱をしてきたってことはこれで決めにかかってくるってことかもしれない。
ただちょっと気になったのが、この詠唱って俺が『黄金』を使う時のものによく似た文言だなってこと。
俺の場合は『黄金』を使う時に自然と頭の中に出てくるんだが、『白銀』もそうなんだろうか。
あるいは、『白銀』の成り立ちを考えると、『黄金』が好きすぎてその文言を参考に自前で作ったのかもしれないな。まあ、どっちでもいいか。大事なのはこれから起こる結果。そしてその威力だ。
銀色の粒子がうねり、津波のように迫ってくる。
防ぐべく平面魔法の壁を作ったが――破られた。
「っ!」
とっさに十枚重ねたことでどうにかして防いだが……このままじゃマズいかもしれない。
流石にこれだけの規模となればただの平面では防ぎきれないな。力の強さという意味でもそうだが、範囲的な意味でも足りない。
今は何とか防いでいるけど、銀の砂の波がうねるたびに盾に作った平面が消されていく。相性の有利不利とか関係なく、純粋に強い。
……仕方ない。これは俺の方も使うしかないか。
城壁……の方じゃ足りないか? 多分森の魔物よりも強いだろうしな。ならここは、いつもより一つ上で行くか。
「――〈世界の中心はここにあり。この地は何者にも侵されることのない聖域。星の根源。その輝きは星を満たす命の光。その輝きに陰りを齎すものを遠ざける。我らは輝きを奪うものを許しはしない。打ち破ることは叶わず、触れることすらも叶わない。威容を示せ、我が栄光! 黄金要塞!〉」
詠唱が終わると同時に『黄金』でできた無数の板が宙を舞い、それが重なることでまるで巨大な建物を作るように壁を築いていく。
そうして完成した魔法。俺だけが作ることができる『黄金』に輝く城――要塞。
正面だけを守る『城壁』とは違い、全方位を囲いどんな攻撃をも防ぐことができるこの要塞は、銀色に輝く砂の波が襲い掛かって来ても傷一つできず、衝撃の音さえも中に届かせずに防ぎきった。
「あ……ありえない! 僕の必殺技がっ……!」
詠唱までした自慢の技があっけなく防がれたことで愕然とした表情で俺のことを見つめている銀男。
しばらく呆然としていたが、ハッと思い出したように歯を食いしばって俺のことを睨みつけてきた。
「だ、だが……だが防いだだけでなんになる! 知っているぞ。たとえ『黄金』の魔力を持っていたとしても、貴様の魔法属性は『平面』! 守る事しかできないくせに、結界や障壁にも劣る出来損ないの能力でしかないんだとな!」
まあ、それはそうだな。障壁なら反射などの効果を付与することができるし、結界なら相手に使って閉じ込め、封印や弱体化を施すことができる。
でも、平面にはそんなことは出来ない。ただ薄っぺらな板を作り、ちょっと表面の色を変えることができるだけ。そんなことは俺も分かっているさ。でも……それはこれまでいた俺以外の平面使いの話だろ?
「……はあ。お前はいったい何を見ていたんだか。最初に攻撃しただろ。――こうやってさ」
俺自身は黄金要塞の内側に居ながら、要塞の壁の一部を動かし、黄金の板を飛ばす。
飛ばされた黄金の板は回転しながら銀男の首をめがけて飛んでいく。
「なっ!?」
「防いだか。いや、逸らしただけか。まあ、だとしてもどんな物質にも魔法にも有利をとれる『黄金』の攻撃を逸らすことができたんだから、流石は『白銀』ってところか?」
普通なら今の一撃で終わっていただろう。普段の平面魔法ではそれほど威力が出ない使い方。遅いし威力はそれ程ではないから、知っていれば大抵の場合は防ぐことができるしょぼい攻撃。
でも、それが『黄金』で作られたとなれば話は別だ。通常は脆いだけの板出しかなくても、今の状態なら全てを切断するギロチンになる。
「知ってるか? 要塞っていうのは防いでるだけじゃなく、攻撃もできるものなんだってことをさ」
そして、そんなギロチンの刃は一つだけではない。この要塞を構成している全ての平面が武器となる。
そんなことをしていれば要塞の守りが崩れていくことになるが……大丈夫だ。だってこの要塞を作っているのは『平面魔法』なんだから。使った分だけ補充すればいい。魔力の消費量が少ない平面属性だからこそできる強引な技。強引で単純で、だからこそ対処のしようがない。
「バカな……バカなバカなばかなばかなっ……! なんだそれはっ……なんだそれは! あり得ない! あってたまるものか! なんだその非常識は!」
「一つは防ぐことができた。じゃあ、今度はこれ全部を防いでみろ」
「ふ、ふざけるなああああああ!」
宙に舞う無数の『黄金』。それに対抗する様に銀男は銀の砂を暴れさせたが、そうしてできた砂嵐を切り裂いて『黄金』は銀男へと迫っていく。
銀の砂だけでは足りないと判断したのか、最初に攻撃を仕掛けてきた時のように『白銀』の武具を宙に浮かべて飛ばしてきたが、それさえも金色に輝く刃で迎撃し、そのまま切り裂いて銀男へと突撃させる。
銀男は俺からの攻撃を避けつつも反撃を仕掛けようとしてきたが、全て要塞に阻まれて終わる。
そんなやり取りをしだして十分くらいか。魔力が切れたのか銀男の腕が斬り飛ばされた。
最小限の動きで避けようとするが、片腕を無くしたことでバランスがうまく取れない銀男は全身を切り刻まれ、地に伏した。
「こひゅー……」
手足を切断され、腹も切り裂かれているのにそれでも生きているのは素直にすごいと思う。でも……
「息があるところは素直にすごいな。でも――さよならだ」
「んぺ――」
最後は『黄金』の刃を首に落とし、終わりとなった。




