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どうやら反逆罪に問われるらしい

「あなたが……ですが、それで良いのですか?」

「学園にいる間だけとはいえ、俺はティアリアと友達になると決めた。そして、俺達ウルフレックは友を見捨てない。ほら、俺が戦う理由としては十分だろ?」


 そこに俺のせいでこんなことになったのかもしれないという罪悪感も加われば、むしろ戦わない理由がない。


「ま、待て! 確かにお前は強い。だが、それは王国軍を相手にすることに何の関係がある! いくらお前が強かったとしても、軍を相手に勝ちを確信する理由にはならないだろ!」


 冗談めかすように伝えたが、その言葉が信じられないキリエが苛立ちの混じった様子で怒鳴ってきた。

 でもまあ、そうだよな。普通なら個人が軍を相手にするなんて言ったところで、安心なんてできるわけがない。


「なるさ。俺が暴れるんだ。それだけで勝てる保証としては十分だ。地元じゃ俺が戦うって言っただけでみんな俺に任せて家に帰ろうとするくらい強いんだぞ?」


 実際、俺が『黄金』を試すために森に行くと、その日の狩猟当番だったチームは帰り支度を始めるもんだ。だって、その日の目標討伐数なんてすぐに終わるから。


「お兄様の手勢がどれほどの数かは分かりませんが、侯爵が焦る程の規模の〝国軍〟です。数千はいるでしょう。それを相手に戦うというのですか?」

「数千でも数万でも、俺がやることは変わらねえよ。それに、その国軍ってうちの実家にある〝庭〟の魔物より怖いか?」

「……魔物と人間は違いますよ」


 そこで躊躇ったうえに誤魔化したってことは、魔物達よりは弱いと。なら余裕だろ。これでペンネくらいの力を持った奴が集団で襲ってくるならちょっと考え物だけど、それでも負ける事はまずない。


「王国軍はドラゴンとすら互角に戦う事ができる程の集団ですわよ」


 ドラゴンか。そりゃあ凄い。ドラゴンは空を飛んでるし単純に比較できるもんでもないが、下手をすれば街一つが滅ぶ存在であり、そんな存在を倒せるんだから、そりゃあ確かに実力はあるんだろう。でもさ、それでも俺に勝てる道理にはならないんだよ。


「それって不意の遭遇戦で倒せる感じか?」

「い、いえ。そうではありませんが……」


 だろうな。策を重ね、綿密な準備をし、犠牲を払ってようやくたおすことができる、って感じだろう。

 それでも倒せるんだったら凄いけど……それじゃあ俺には届かない。


「流石にそれは無理だよ。事前に準備をしてようやく同じ舞台に……って、まさかウルフレックではドラゴンすら狩りの対象なの?」

「うちの森の中にはドラゴンなんて出ないから狩りの対象にはならないな」


 まあ、上空を通りかかることはあるし、襲ってくるんだったら迎え撃つけど。……ああ、ついでに姉上は力試しでドラゴン級の魔物を探しに行くことはあるなぁ。いやでも、あの人は特別というか特殊というか……一般人とは別枠のそういう生物って認識だから。


「でもまあ、ドラゴンも魔物も人間も、殺せば死ぬって意味では同じだな。それに、こっちだって何の考えもなしに戦おうとしてるわけじゃないさ。奥の手の一つや二つくらいあるんだからいけるだろ」


 なあ、奥の手その一?


(ああ? なんだ俺様のこと言ってんのか?)

(ったり前だろ。久しぶりに暴れたいんじゃないのか? 頼りにしてるぜ)


 高みの見物でもできると思ったのか? ふざけんなよ。俺が働くんだから、お前もしっかり働いてもらうぞ。


 ――◆◇◆◇――


「――ティアリア・コルト・ルードラ―ド王女は自身が玉座を求めるばかりに使う事の出来ない『黄金』が使えると吹聴してた。これは王国の祖を始め、歴代の王を蔑ろにし、王国の名を貶める行為であり、反逆罪に当たる。ロドウェル侯爵は自身の権力欲を満たすべく王女に加担した。よってバルザック・ドラン・ルートラード第一王子殿下の名の下にティアリア王女、並びにロドウェル侯爵の征伐を行う。抵抗しないのであれば無意味に傷つける事はない! 降伏せよ!」


 王子率いる王国軍がロドウェル領に侵入してきたことが発覚してから三日後。ついに領都から目と鼻の先に王国軍がやって来た。

 俺達はその光景を見るために、街を囲んでいる壁の上にやって来ているのだが、凄い数だな。正確な数は分からないけど、三千はいるんじゃないか?


 これだけいるなら戦争をしようとしていると言われても信じられる。というか、それ以外信じられない。これだけの数を率いてきたのにただの観光だとかただ話に来ただけだ、なんて言われて信じられるわけがない。


 できる事ならこっちから打って出ていき、先制攻撃を仕掛けたかったが、それは侯爵によって止められた。理由? 相手の目的がたった今告げられた言葉を聞くまではっきりしなかったからだ。

 王都に人は送ったが時間的にまだ帰ってこないし、王子率いる王国軍にも使者を送ったが、何の返答もない。返事が来ることも、使者が帰ってくることもなかった。


 領地に軍勢を率いてやってくることは敵対行為であり迎撃しても文句は言われないが、それは貴族同士での場合だ。だが今回は王族。ただ領地に勝手にやって来たという理由では攻撃する理由としては弱い。


 そして、こちらから攻撃しないにしても、軍を差し向けて進路を阻むことは出来ない。だって相手は王族だから。大した理由なく王族の行く手を阻むことはそれだけで反逆罪ととられかねない。


 その為、王国軍を奇襲することも、強引に止めることもできず、領都の目の前までの接近を許すこととなってしまったのだ。


 ……まあ結局、ティアリアに限った話をすればどう進んだところで反逆罪を押し付けられたみたいだけど。


「反逆罪……? 流石にそれは無茶苦茶じゃないか?」


 喧嘩する気満々だってのは分かったけど、それにしても王女相手に反逆罪を押し付けるなんてちょっと強引すぎやしないか?


「ですが、軍を出す理由にはなりますし、何より間違いとも言い切れませんから」

「間違いじゃないって……『黄金』の魔力が使えるって言っただけで軍を出す理由になるのかよ」

「それだけ王国にとって『黄金』というものが重要だということです」


 ……バカみてえ。『黄金』にそんな価値なんてないだろうに。価値があるとしても、それは軍を出して戦争を起こそうと思うほどのもんじゃない。そんなことに労力と頭を使うくらいだったら、もっと他のところに力使えよ。


 そう思うけど、この場にいる俺以外の全員は『黄金』に価値があると信じているんだから何を言っても無駄だ。

 それに、仮にこいつらが『黄金』に価値なんてない、なんて言いだしたとしても、敵がそう信じているんだからこれから起こる事も変わらない。


「それよりも……どうしますか、ローザリア様? 反逆罪となれば、流石に僕達だけでは終わらないと思いますけど……」

「そうですわね……彼らは攻撃はしないと言っていますが、その後に処罰を加えないとは言っていませんものね」


 まあ、領地のトップである貴族が反逆罪を犯したとなれば、流石に領民にも何かしらの罰はあるだろうな。正確には領地に罰則が与えられた結果領民が苦しむことになるわけだが、ただ暮らしているだけの領民からすればどっちでも変わらないだろう。


 ただ、罰則があるって言っても、それはちょっと税が重くなる程度なもので、命にかかわるものではない。少なくとも、直接的に命を取られる何かがあるわけじゃない。

 だから領民たちは大人しくして置いて指示に従うべきなのだが……さて、彼らはどうするんだろうな?

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