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事態の急変

 

 ――◆◇◆◇――


「こっちに来てもう二週間か。早いな」


 ロドウェル領にやって来て、その日の晩にティアリアと話をしたわけだが、それからもう既に一週間が経過していた。

 この間特に問題らしい問題は起こっておらず、城下の観光に出たり、もっと相互理解を深めろってことでそれぞれの過去を話したりもした。


 そんな生活を送っていると、最初はどう過ごすべきか悩んでいたというのに意外と一週間という時間も早く過ぎていたものだ。


「そうですわね。もう夏季休暇の半分が過ぎたと考えれば少し滞在期間が長すぎたかもしれませんわね」

「ですが、王族の方を招くのであれば最低でも一週間はなければ不敬ですもの。一週間という時間も急ぎの旅程といえますし、仕方ありませんわ」


 王族や貴族の間隔では一週間の滞在は急いでいるように思えるらしい。一週間……移動時間を除いて一週間だぞ。それで急ぎだというのだから理解できない世界だな。俺なんて一週間も滞在すれば十分満喫したと言えるのに。

 まあ、慌ただしく動いて一日二日で帰っていく王族ってのも威厳がないか。


「こちらでの滞在は心地好く、存分に休むことが出来ましたが、そろそろ戻らなければならないでしょうね」

「学園が休みとはいえ、貴族達への対応などはありますからね。これ以上滞在を延ばせば、調整が厳しくなることでしょう」

「流石に睡眠時間くらいは確保したいものね」


 なんて笑っているが、そういえばこいつらは……特にティアリアは俺とは違って他の貴族達との繋がりとか気にしないといけないんだったな。ほんとうのいみでの〝休み〟ってわけじゃないんだから、そりゃあゆったりなんてしてられないか。


「改めて、王女ってのも大変なんだな」

「そうですね。でも、その分良い暮らしをさせてもらっていますから。これは王族の義務なのです」

「王族に限らず貴族全体の義務でもありますわね」

「そんなふうに思ってる貴族がどれくらいいるのか分からないけどな」


 全員が全員そんなことを考えてるんだったら、きっとこの国はもっといいものになってるだろうよ。

 なんて思ったが、似たようなことはティアリア達も思っているのだろう。曖昧に誤魔化すような笑みを浮かべている。


 これ以上は言っても無駄、というか困らせるだけか。

 そう判断して肩を竦めてから帰るための準備に取り掛かろうとしたのだが……


「――殿下! 殿下はおられるか!」


 通常であれば絶対にしないような、返事を待たずに王女の部屋のドアを開けるなどという暴挙を成しながら、ロドウェル家当主が部屋に入ってきた。


「ロドウェル侯。どうされたのですか?」


 予想外の出来事に驚きながらも冷静に問いかけたティアリアだったが、その冷静さも次に放たれたロドウェル侯の言葉によって消し飛んだ。そして、それはティアリアだけではなくそばで聞いていた俺達四人も同じだった。


「殿下! 現在我が領に向けて王国軍が進軍しているとの情報が入りましたがこれは一体どういうことですか!」


 言葉の意味が理解できなかった。侯爵の叫びを頭の中で何度も繰り返すが、それでも理解できない。それは俺だけではなく他の四人も同じだったようで、先ほどまでの騒がしさが不思議と消え去って無音の時間が訪れた。


「え……」


 誰が漏らした声だったのか。もしかしたら俺自身かもしれない。

 しばらく無言の空気が流れた後、誰かが漏らした声によってハッと意識が戻った。


「お、王国軍だなんて……お、お父様、それは本当なのですか!?」


 本当なのか。どういう状況なんだ。何かほかに情報はないのか。

 そんなことを聞こうと口を開いたが、俺が何かを言う前にローザリアがロドウェル侯へと問い詰めるように前に出ていったが、ロドウェル侯は首を振りながら答えた。


「私も直接見たわけではないから何とも言えないが、少なくともそう思えるだけのことが起きているのは間違いないだろう」


 実際のところは確認していないのか。……いや、でも王国軍が来ているなんていう状況を間違えるわけがないよな。

 王国軍が動く状況って言ったら……戦争か?


「なぜそのようなことが……」

「旦那様。その王国軍というのは、王都からやって来ているのでしょうか?」

「いや。王都方面ではあるが、厳密には少し方向が異なるようだ」

「ではその方向というのはどちらなのですか?」

「ここから北東寄りの方向だ」


 王国軍が来ている方向なんて聞いて何か変わるのか。そう思ったが、答えを聞いたティアリアは目を見開いて驚いた後、眉を顰めて呟いた。


「王都の東……お兄様の領地……」


 どうやら今聞いた方が国はこの間会った王子の……ティアリアの敵の領地があるようだ。そこから王国軍がやって来たとすると……ティアリアのことを狙っている?


「まさかっ! 姫様。もしや王子殿下がこの件に関与しているとお考えですか?」

「それ以外に考えられないでしょう?」


 ティアリアの呟きを聞いたキリエは、そんなことあるわけがないとティアリアに問いかけたが、ティアリアの中では王子が攻めてきたということで確定しているようだ。


「ですがっ……流石にこれほどのことをしでかせば、いかに姫様を排除することができたとしてもその後がありません。国軍を正当な理由なく動かし、貴族の領地を攻め落としたとなれば、以降貴族達から手を借りることもできなくなります!」

「けれど、それも他に有力な候補がいればの話ではありませんか? 他に王族はいても、お兄様ほどの力を持った候補はいません。強いて言うなら私くらいでしょうけれど、ここで死んでしまえば関係ありません」


 まあ、敵がいなければ自動的に王子がそのまま王になることは出来るか。貴族達だって無理に力のない王族を持ち上げて王を目指すより、王子に媚びを売って気に入られた方が利になるだろうな。


 ただ、それは敵がいなければ順調、という話だ。敵が……ティアリアが生き残っていれば無意味な話であり、むしろ自身の首を絞めるだけなんじゃないだろうか?


「じゃあお前がここで死ななかったら? 今ならまだ逃げようと思えば逃げるくらいはできるだろ」

「その場合でも、この領地……ロドウェルを攻め落とすでしょう。ロドウェルが自身の傘下に入れば、お兄様の勢力はさらに力を付けることができますから」

「そんなっ……」

「そんな強引に攻め落として傘下にしたとして、他の貴族たちは納得するのか?」

「ロドウェルという領地は王国において重要な立場にあります。そんなロドウェルを、無理やりであろうと傘下に加えることができたのであれば、それはそれで王族としての力の証明になります。そうなってしまえば、私が生き延びたところでお兄様の敵がいなくなる、という意味ではさほど大きく変わらないでしょう」


 ロドウェルは王国の食糧庫なんて言われるほどだからな。そこを押さえられたら食料を手に入れる事さえままならなくなるかもしれないんだから、貴族達も言うことを聞くしかないか。


 問題はそんな強引なことをして国王が認めるかってことだが……認めなければその時は病死することになるかもな。王の死に不審な点があったとしても、食料を押さえられていて逆らえないという状況に変わりはないんだ。なら、貴族たちは反感を買う危険を冒してまで逆らったりはしないだろう。


 つまり、どのみち今のバランスが崩れてしまえばティアリアに再起の目はない。そこで終わりってことだ。


 ……いや、どうにかする方法はあるか。解決する方法ってわけじゃなく、勝負を終わらせないように泥仕合に持ち込む方法だけど。

 それが何なのかと言ったら、簡単だ。ここを食糧庫としての役割を果たせないようにすればいい。もっと言うなら、全部燃やせばそれで終わりだ。


 そうなったら、たとえ王子がロドウェルを支配していても関係ない。だって傘下に着いたところで肝心の食料をくれるわけじゃないんだから。


 結局自分でどうにかして食料を集めないといけないんだったら、わざわざ王子の傘下に入る必要はないんだ。貴族たちは各自でやりくりしたり取り引きしたりして、どうにか食料を集めようとするだろう。ロドウェルの価値を無くしてしまえば、ロドウェルを奪われたところで何の問題もない。


 実際にそんなことをしたらロドウェルは敵に回るし、他の貴族達からもうけが悪くなるけど、完全に未来を閉ざされるよりはマシ、かもしれない。

 まあ、そんなことをされたらウルフレックも敵に回るけど。だってうちに入ってくる食料も消えるわけだし。


 あるいは、畑を焼かなくともどうにかする方法はある。単純な話で、できる事ならこれば最も望ましい方法だろう。つまり、勝てばいい。

 戦って王子とその軍を退けることができれば問題は全部解決。それどころか、突然貴族の領地に攻め込んできたとして王子を非難することもできる。王子とティアリアの力関係を逆転させるための最高の方法だな。


 問題なのは、そもそもどうやって勝つんだって話なわけだが。ティアリアだけではまず無理で、今から自分の勢力を呼ぶのも難しい。ロドウェル侯が協力してくれれば何とか可能性は見えるかもしれない……


「……それは、殿下が投降した場合もでしょうか?」


 なんて考えていると、ロドウェル侯が突然そんなことを言い出した。


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